『ライザー・フェニックス様の「兵士」一名リタイヤ』
フェイ達が移動している間に木場が倒したのだろう、グレイフィアによる校内放送が流れる。
木場の待つ運動場に到着すると、木場は体育用具の倉庫の物陰に潜んでいた。
「状況はどうですか?」
木場と同様に陰に身を隠しフェイが訊ねる。
「既に知っていると思うけど見回りの『兵士』を一人。ここを仕切っているのは『騎士』『戦車』『僧侶』が一名ずつの合計三名。体育館側が潰されたから厳重なのはわかるけど、残りの戦力がどこに居るかだね」
「引き出せませんでしたか」
木場の言葉にフェイが頷く。
「まだ他にも近くにいるとは思うんだけどね、『兵士』に仕掛けた時もなにもしてこなかった。むしろ『兵士』を使って僕の攻撃を見ている感じだったかな。
木場は軽く笑いながら言うが、目は笑っていない。
「どうする? こっちだって四人いるんだ。……行くか?」
兵藤が硬い表情で訊ねてくる。それを察した木場がにこやかに訊ねる。
「緊張しているかい?」
「あ、当たり前だ! こちとら戦闘経験なんか無いに等しいんだぞ。それでいきなり本番なんだ。戦闘経験豊富なお前らと比べたら雑魚も同然だろ」
そう声を荒げる兵藤に、木場は片手を上げてみせる。
「ほら」
――その手は微かに震えていた。
「イッセーくんは僕を戦闘経験豊富だと言ってくれる。確かにそれは事実だ。でもそれははぐれ悪魔狩りでのこと。本気の悪魔同士の戦い――レーティングゲームに参加するのは初めてなんだ。特例といっても、僕らも相手も本気で戦う。いずれ正式なゲームにも参加していく、今日はそのファーストゲームなんだ。身内のみとはいえ観客もいる。これは部長の眷属悪魔としてのすべてをぶつける勝負なんだ。無様な真似は見せられないと、歓喜と共に恐怖も感じている。僕はこの手の震えを忘れたくない。この戦場の張り詰めた空気も、この手を震わせる緊張も、恐怖も、すべて感じ取って自分の糧にするんだ。お互いに強くなろう、イッセーくん」
「んじゃ、女子が見て興奮するようなコンビネーションでも展開してやるか!」
木場の覚悟を感じ取った兵藤が、茶化すように言う。
「ハハハ! 僕が『攻め』でいいのかな?」
「バカ! 『攻め』なら俺だ! って違う! 死ねイケメン!」
木場と兵藤が軽口を叩き合う、兵藤の緊張も大分ほぐれたようだ。
その様子を横から見ていたフェイは、呆れたような顔をして見ている小猫に気付き、髪をくしゃくしゃと乱すように頭を撫でてやった。
乱れた髪を慌てて直しながら不満げに、しかし若干嬉しそうに小猫はフェイを見上げた。
その時、大音声の女性の叫びが運動場に響き渡る。
「私はライザー様に使える『騎士』カーラマイン! こそこそと腹の探り合いをするのも飽きた! リアス・グレモリーの『騎士』よ、いざ尋常に剣を交えようではないか!」
フェイ達が見ると、野球部のグラウンドのただ中に甲冑を着た女性の騎士だ堂々と立っている。
まさに脳筋、だが好ましい、とフェイは笑う。
同様に木場もまた笑みを浮かべる。
「名乗られてしまったら、『騎士』として、剣士として、隠れているわけにもいかないね」
そう呟いて木場は物陰から出ると、騎士の待つ野球部のグラウンドへと歩みを進める。
「では、正面突破といきましょうか」
フェイもまた兵藤と小猫に声をかけて木場に続いていく。
「僕はリアス・グレモリーの眷属、『騎士』木場祐斗」
「俺は『戦車』フェイ」
木場とフェイが名乗りを上げた。遅れてやってきた兵藤と小猫もまたそれに習う。
「俺は『兵士』の兵藤一誠だ!」
「……『戦車』塔城小猫」
女騎士――カーラマインはそれを聞いて嬉しそうに笑った。
「リアス・グレモリーの眷属悪魔にお前達のような戦士がいることを嬉しく思うぞ。堂々と真正面から出てくるなど正気の沙汰ではないからな! だが私はお前達のようなバカが大好きだ。 ――さて、やるか」
そう言ってカーラマインは剣を鞘から抜き放つ。木場もまた剣を抜き身にしていく。
「『騎士』同士の戦い――待ち望んでいたよ。じゃあ始めようか、尋常じゃ無い斬り合いを!」
「ハハハッ、よく言った! グレモリーの騎士よっ!」
高速で激突する両者。剣と剣とが踊り合い、ぶつかり合う。
速度を強化された『騎士』同士の高速の剣戟が始まった。
フェイはそれを横目にみながら、あらぬ方へと声をかける。
「それじゃ、俺らもやろうか」
そこには顔を半分仮面で隠した女性と貴族が着るようなドレスを纏った少女――ライザーの『戦車』と『僧侶』が居た。
「元からそのつもり、だけどさ。 私一人で相手をするからそっちの『兵士』と『戦車』のお嬢さんの三人で来ればいいよ」
「そっちの『僧侶』は参加しないのか?」
仮面の『戦車』の言葉に疑問を持ち、フェイが問いかける。
『戦車』も自分の腕を恃みにしているのだろうが、『僧侶』は見ているだけなのか。
フェイの問いかけに仮面の『戦車』は困り顔になって答えた。
「あー、気にしないでくれ。あの子は特殊だから。今回の戦いもほとんど観戦してるだけだ」
「な、なんだ、そりゃ!」
『戦車』の言葉に兵藤が困惑の声を上げる。
「彼女は――いや、あの方はレイヴェル・フェニックス。ライザー様の実の妹君だ。特別な方法でライザーさまの眷属悪魔とされているが、ね」
悪魔は妹まで下僕にするのか、いやデヴィルならそれもあり得るだろうが。
『戦車』の説明に困惑するフェイに、当の『僧侶』――レイヴェルがにこやかに手を振る。
「ライザーさま曰く、『妹をハーレムに入れるのは世間的にも意義がある。ほら、近親相姦っての? 憧れたり羨ましがる奴多いじゃん? まあ、俺は妹萌えじゃないからカタチとしての眷属悪魔ってことで』だそうだ」
『戦車』の言葉にフェイは呆れる。
種族によっては近親婚による血の強化もないではないが、この言い振りでは悪魔としても一般的ではない類いの行いなのだろう。フェイは妹であるレイヴェルに問いかける。
「君はそれでいいのか?」
「――私としても不本意ですが仕方ありませんの。だから積極的に参戦する気はありませんわ」
溜息をつくレイヴェルに、この妹はまだまともかと安心するフェイ。
しかしそれならば対応は――
「兵藤先輩、小猫。『戦車』は抑えるから先に」
二人にそう告げるとフェイは『戦車』に攻撃を仕掛けた。
フェイの意を汲んだ兵藤と小猫が新校舎へと向かうが、レイヴェルに止める様子は無い。
「ハハハッ、ああ説明されたらそう来るだろうね。だが『戦車』と名乗っているがキミは人間だろう? 『戦車』のお嬢さんじゃなくて良かったのかい?」
「俺の方が足が速いのでね、それに侮っていたから負けたは言い訳にならないぞ?」
『戦車』の挑発にフェイは不敵に笑って返す。
「――上等! 私は『戦車』イザベラ。痛い目にあって泣くなよ!」
イザベラはそう言うと、フェイから少し距離を取り身体を揺らしながら怪しげな動きをする。
折り曲げ、横に振っていた腕が鞭のようにしなりながらフェイの死角から打撃を加える。
「……面白い拳技だな」
フェイは薄く笑いながらその攻撃を捌いていた。不意に混ぜられた蹴りを防ぎながら反撃を試みるが、躱される。
この世界の格闘の技術も面白い進化を遂げているものだ、そう思いながらもこの奇妙な戦型への対策を考える。
フェイも先ほどの爆発の影響で、僅かに動きが鈍っていた。
拳と拳の応酬は互いに捌き、防ぎあい決定打にかけるままに展開していく。
「防御してもこれほど響く拳撃とはね、キミは本当に人間かい?」
「最初から言っているだろう、人間と思って侮ったら痛い目を見ると」
フェイが攻めあぐねている原因は先ほどの爆発による怪我もあるが、大きくは観客の存在である。
もはや多少目立つことは仕方が無いが、完全に味方と言えない悪魔にまだ
そのことが、フェイが大規模な呪文を使う事を躊躇わせている。
フェイとイザベラが拳を交わしている隣では、木場とカーラマインの決闘が続いていた。
カーラマインの炎を纏った剣の一撃に、木場の神器――
「残念だが、貴様の
武器を失った木場。だが臆す様子もなく、逆に不敵な笑みを見せる。
「では、僕もこう返そうかな。残念だね。僕の神器はこれで全てではないんだ」
「戯れ言を。グレモリー家の『騎士』よ、剣士として無様な真似を――」
「――凍えよ」
木場は低く唸ると、刀身をなくした木場の剣に冷気が纏わり付いていき、ついには氷の刀身と化した。
「
闇の剣のみではなく属性剣使いか。イザベラと戦いながら木場の様子も見ていたフェイは推察する。
おそらくは、特定の剣を持っているのではなく属性を持った剣を創り出す能力。何種類の属性まで扱えるのかは不明だが。
「バカな! 神器を二つ有するとでもいうのか!」
焦りから炎の剣を横薙ぎに放つカーラマイン。しかし木場が剣で受けた途端その炎は凍てつき刀身が粉々に砕け散った。
カーラマインは刀身を失った剣を投げ捨てると、腰に差していた短剣を抜き、天にかざして叫ぶ。
「我ら誇り高きフェニックス眷属は炎と風と命を司る! 炎の旋風、受けてみよ!」
カーラマインと木場を中心とした炎の嵐が巻き起こる。
「くっ、場所を考えろっ! カーラマイン!」
炎の旋風の余波を受けて、イザベラは顔を守りながら騎士に叫ぶ。
熱風を受けて、木場の氷の刀身が次第に融け落ちていく。
「それで僕らを蒸し焼きにでもするつもりか……。だけど」
木場は刀身を失った剣を再び突き出す。
「――止まれ」
円状の特殊な刃もった刀身を持つ木場の剣。その円の中心に旋風が吸い込まれていく。
「
木場がそう言い捨てる。
属性剣使い――フェイの推察は当たらずとも遠からずだった。木場の正しき神器の名前は『
木場が手のひらを向けると、グラウンドから様々な形状、刀身を持った剣が飛び出してくる。
木場は勝負に臨もうとしていた。それを見てフェイも覚悟を決める。
「イザベラ。あんたの所の『騎士』の考え、俺は嫌いじゃない。だから俺も謳おう」
フェイはそうイザベラに宣言する。
「誇り高きバハムートは、冷気と風と智恵を司る。フェニックスの眷属よ、北風の主の暴風、受けてみよ!」
フェイは
突き出された右腕から強烈な冷気が放射され、冷気の暴風がイザベラを呑み込んでいく。
「ぐっ、こっこれは!? こんな能力を隠し持っていたのかっ!」
放射された冷気に凍り付いたイザベラの体が、光に包まれて透き通り消えていった。
フェイが隣の戦場を見やると、木場もまたカーラマインを倒した所だった。
『ライザー・フェニックス様の『戦車』一名、『騎士』一名リタイヤ』
間もなくグレイフィアの事務的な音声が戦場に響く。
「これで俺たちは通して貰えるのかな?」
フェイはレイヴェルに声をかけるが――
「ええ――と、言いたい所でしたが、そうもいかなくなりましたわ。氷結使い」
レイヴェルはフェイを睨み付ける。
「フェニックス家の誇りにかけて、氷結使いが怖いから見逃したと思われては困るのです」
やらかした――フェイが気付いたのはそのレイヴェルの言葉を聞いた時だった。
貴族とは誇り高いものである。そして逃げる事は手段であれど、恐ろしいから逃げ出すという選択は真っ当な貴族にはないのだ。
イザベラを倒すときに冷気の呪文を使用したのが、フェイの失策であった。
「フェニックスは炎の不死鳥。貴方程度の氷結魔法では私を凍てつかせることなど出来ない事を証明してみせます!」
レイヴェルの全身から炎が吹き上がる。
フェイならば彼女一人なら置き去りにして先に進む事も出来た。しかしフェイはその相手をする事を決めた。
木場に先に進むよう目配せをして、構えを取る。
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