ハイスクールD&D 転輪世界のバハムート   作:生ハムメロン

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8話

 フェイの放った冷気放射(コーン・オヴ・コールド)の吹雪がレイヴェルを襲う。

 だが、レイヴェルの表面が凍てついただけで、燃え上がるレイヴェルの炎で元通りの状態となってしまう。

 

「どうしましたの? その程度の冷気が限界なのでしたら、大人しく降参したら如何でしょうか。先に行った方達には残りの眷属が当たっていますわ。それに――」

 

 そういってレイヴェルは新校舎の上空を見上げる。

 そこには黒い羽根を生やした紅髪の人影と、炎の羽根を生やした人影――リアスとライザーとが対峙していた。

 

「お兄様がリアス様と直接対決するようですしね」

「だったら尚更応援に行かないとな」

 

 レイヴェルの言葉に軽口で応えるフェイ。

 レイヴェルは呆れたかのように、諭す様にフェイに語りかける。

 

「何をやっても無駄だとは思いませんの? この勝負は最初からリアス様には勝ち目はありませんわ。不死身ってそれくらいあなた方にとって絶望的なのですわよ」

「無駄かどうかは――」

 

 その時だった。

 

『リアス・グレモリー様の「女王」一名リタイヤ』

 

 無情な現実を告げるグレイフィアの通達が流れたのは。

 

「あら、あなた方の『女王』は敗退してしまいましたわね。残りはどれだけ減るかしら」

「まずはそちらの戦力が減る事を考えた方がいいんじゃないのか?」

 

 レイヴェルの言葉に挑発で返しながらもフェイは戦力を計算する。

 姫島が倒されたが相手も無傷というわけではないだろう、フェイの所に来るのなら問題はないが、先行組に行かれると困るか。

 先行組と相対しているのは残りの『僧侶』、『騎士』、『兵士』二名。小猫と木場と兵藤ならまだ勝負になる相手だ。しかしそこに『女王』が加わるのは不味い。ここも早く終わらせないと。

 

「ふふ……私たちの『女王』が手負いだと思っていませんか?」

「そう言うってことは何か仕掛けがあるんだろうな」

 

 レイヴェルの言葉に反応すると、大分調子に乗っているのだろう、レイヴェルは懐から小瓶を取り出した。

 

「――フェニックスの涙。聞いた事あります? これはそれ。私たちフェニックスの涙はいかなる傷をも癒やすんですのよ」

「……要は治癒の水薬(ポーション・オヴ・ヒール)ってか。埒外にも程があるな」

 

 レイヴェルの小瓶の説明に、渋面を作るフェイ。フェイの世界でも傷をほぼ完全に癒やす治癒(ヒール)のような高レベルの治療呪文の水薬(ポーション)など存在はしなかった。フェイの常識でもとんでもない代物である。

 

「ルールに記載されている以上、卑怯とは仰らないでくださいまし。もっとも強力すぎてゲームに参加する二名までしか持てないと規制されてしまっておりますが。今回の所持者は私と『女王』ですわよ」

 

 勝ち誇ったように喋るレイヴェル。なるほど、『女王』の疲弊は期待出来ない、と。

 割り込むかのようにグレイフィアの戦況放送が流れる。

 

『ライザー・フェニックス様の「騎士」一名、「僧侶」一名、「兵士」二名リタイヤ』

『リアス・グレモリー様の「騎士」一名、「戦車」一名リタイヤ』

 

「――小猫っ」

「先に行った方々も健闘したようですわね。でも後はあなたの他は『兵士』が残るのみ。『僧侶』の方はほぼ戦力にはならないのでしょう? こちらは万全な『女王』が残っておりますわ」

 

 思わず呟いたフェイに、畳み掛けるようにレイヴェルが話しかけてくる。

 

「もう諦めたら如何ですか?」

「言っただろう。無駄かどうかはやってみなければわからないと。最大火力を叩き込んで、キミをリタイヤさせられれば、それはライザーにも通用するということだ。だから――」

 

 レイヴェルには笑って返しながら、腰のポーチに両手を突っ込む。取り出したのはそれぞれ小瓶。

 

「やれるだけのことはやってみるさ!」

 

 両手の小瓶を握り潰し、両拳が瓶の中身に塗れる。

 

「ま、まさかそれは聖水っ」

「悪魔には人間ならではの対処があるってね」

 

 驚くレイヴェルに不敵に笑うフェイ。

 

「しかし、その拳を当てられるとは思わない事ね」

 

 レイヴェルがそういいながら炎を吹き出し、炎の奔流がフェイを襲う。

 しかし、フェイはその炎のただ中を突っ切ってレイヴェルに直進していく。

 

「なっ、なぜ炎に焼かれないの!?」

 

 レイヴェルは無傷で炎を突き抜けるフェイに驚愕する。

 

 火エネルギーへの完全耐性(エナジー・イミュニティ・ファイア)の呪文を予めかけていたフェイは、炎に焼かれる事が一切なくなっていた。『女王』ユーベルーナの爆撃ですら、ダメージを受けたのは爆炎ではなく、爆風からのみである。それがなければあの時点でリタイヤしていたかもしれない。

 レイヴェルの不意を突くために、あえて炎は避けてきていたのだ。

 驚愕しているレイヴェルに聖水塗れの一撃を叩き込む。

 

「うぐっ、ですがこの程度でっ――」

 

 再生をする前に連打、連打。フェイはモンクとして短時間に素早い連撃を行う修行を積んでいる。

 残り二撃。

 フェイは右手に冷凍光線(ポーラー・レイ)の呪文を準備する。本来ならビームの様に相手に放つ光線呪文だが、そのエネルギーを拳に纏わせ、拳撃と共に解放する。――拳と魔を極めたフェイの奥義『光線拳』。

 そして左手では籠手が機械音を発生させた。

 

 『Charge(チャージ)Cold(コールド)

 

 バハムートの冷気のブレスの力が籠手に装填(チャージ)される。

 

 そしてその両手が、レイヴェルに叩き込まれた。

 

「そ、んな……」

 

 美しい少女の氷像ができあがり、そして光と共に薄まり消滅していく。

 

『ライザー・フェニックス様の「僧侶」一名、リタイヤ』

 

 ただ一人フェイが立つグラウンドに、グレイフィアの通達が響き渡った。

 

 さて、行かなければ。フェイが新校舎へ足を向けた途端、無情なる通告がフェイの耳を貫いた。

 

『リアス・グレモリー様、投了(リザイン)につき、ライザー・フェニックス様の勝利でゲームを終了いたします』

 

 ◇◇◇

 

「……負けましたわ」

 

 レイヴェルがフェイに声をかけてきたのは、ゲーム終了後、校舎裏で落ち込む小猫を宥めていた時の事だった。

 

「キミの勝ちさ。キミは俺を足止めし、俺は足止めされた。その結果部長を助けるのに間に合わなかった」

 

 フェイはレイヴェルの方を見ずに答える。小猫は何かを言いたげに、それでも言えないもどかしさを抱えてフェイを見上げている。

 

「それでも……貴方は私を倒しましたわ。間に合ったならもしかしたら――」

「戦場にもし(if)はない。あるのは結果だけだ」

 

 今度はレイヴェルに向き直って、答える。

 レイヴェルはやや唇を噛み、少しばかり目を閉じた後フェイに訊ねた。

 

「お兄様とリアス様の婚約パーティーにはいらっしゃいますの?」

「……あいにくいけないだろうな」

 

 フェイが答えると、レイヴェルより先に小猫が驚いてフェイに食い掛かる。

 

「な、なんでですか!?」

「落ち着け、小猫。こう見えても俺はただの人間でね。冥界の悪魔の貴族のパーティー会場に乗り込めるような立場じゃないんだよ」

 

 縋り付く小猫にそう言い含めると、小猫は悲しそうに俯き、レイヴェルは呆れたような視線をフェイに送る。

 

「本当に人間なんですの? ゲーム内容からはとても信じられないのですが」

「本当に人間だよ……。だからまあ、パーティーに参加は出来ないが、ちょっとした余興の準備の手伝いはさせて貰うよ」

 

 普段から言われる言葉にうんざりしたように答えた後、悪戯っぽい笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「余興ですが、なんでしょう?」

「……私も聞いてないです」

「まあ、当日のお楽しみということで。それでキミは何しにここに?」

 

 レイヴェルと小猫が訊ねてくるが、内容はぼかすフェイ。逆にレイヴェルの目的を尋ねる。

 

「キミではなく、レイヴェルですわ。レイヴェルと呼んで下さって結構。まあ、私を倒した殿方に挨拶に来ただけです。パーティーで会う事はないようで残念ですわね。それではごきげんよう」

「じゃあレイヴェル。また直接会う事があるかはわかららないが、余興は楽しみに」

 

 レイヴェルは優雅に一礼して立ち去っていく。フェイはその背に声をかけた。

 レイヴェルも振り返らずに声だけでそれに返答する。

 

「ええ、どの様な催しかは知りませんが楽しみにさせて頂きますわ」

 

 レイヴェルが立ち去った後、何故か不満そうな小猫がフェイを睨んでいた。

 

 ◇◇◇

 

 リアスの婚約パーティー当日、フェイは兵藤が目覚めるのを待っていた。

 兵藤の側には何故かグレイフィアの姿もある。

 

「目覚めたみたいですね」

 

 上体を起こした兵藤にグレイフィアが声をかける。

 

「グレイフィアさん! 勝負はどうなったんですか? 部長は!?」

「勝負はライザー様の勝利です。リアスお嬢様が投了されました」

 

 フェイも投了までの流れは聞いていた。兵藤が赤龍帝の籠手の新たな能力『譲渡』を目覚めさせ、木場の力を借りてライザーの眷属を一掃したものの、『女王』の不意討ちで木場と小猫が倒れた。

 兵藤は『女王』を倒し、ライザーとの直接戦闘に入るが、力及ばずながらも無茶をする兵藤の命と引き替えにするような形でリアスが投了をする結果となったのだ。

 兵藤は責任を人一倍感じている事だろう。

 

「現在、お嬢様とライザー様の婚約パーティーが行われています。グレモリー家が用意した冥界の会場です」

「……木場たちは?」

 

 グレイフィアの説明に質問を返しながら周囲を見回す兵藤と目が合ったので、フェイは片手を上げて挨拶する。

 

「お嬢様にお付き添いになられております。会場にいない関係者は一誠様だけです」

「え? フェイもここにいるだろ?」

 

 兵藤は戸惑いながらグレイフィアに問いかける。

 

「フェイ様、アーシア様は人間であるため、元より招待はされておりません。……冥界の空気は人間には毒ですから」

「そういう事です。アーシア先輩もここに居るんですが、今は替えのタオルを取りにいっています」

 

 本来の事情を多少誤魔化して説明するグレイフィアにフェイが補足する。

 

「……納得されていませんか?」

 

 グレイフィアが兵藤に尋ねる。

 

「ええ。勝負が着いたとしても俺は納得できません」

「リアスお嬢様はお家の決定に従いました。勝負の結果を反故にするのはただの我儘ですよ?」

「わかってます! わかってはいるんです! それでも――」

 

 グレイフィアも意地が悪い。判っていながらもあえてこんな質問をするのだから。

 葛藤する兵藤を見て、グレイフィアは小さく笑った。

 

「あなたは本当に面白い方ですね。長年色々な悪魔を見てきましたが、あなたのように感情を丸出しにして、思った通りに駆け抜ける方は初めてです。私の主、サーゼクス様もあなたの活躍を他の場所で見ていて、『面白い』と仰っていました」

 

 グレイフィアはそう言うと懐から一枚の札を取り出して兵藤に差し出した。

 

「この魔方陣は、リアスお嬢様の婚約パーティー会場へ転移できるものです」

 

 戸惑う兵藤にさらにグレイフィアは言葉を続ける。

 

「『妹を助けたいのなら、会場に殴り込んできなさい』、サーゼクス様のお言葉です。その紙の裏側にも魔方陣があります。お嬢様を奪還した際にお使い下さい。必ずお役に立つと思います」

 

 グレイフィアは札を兵藤に手渡すと部屋を後にした。

 入れ替わりにアーシアが部屋へと飛び込んでくる。

 

「イッセーさん!」

 

 アーシアが兵藤の胸に飛びつく。

 

「よかった、本当に良かったです。治療をしても二日間も眠ったままで……もう目を覚ましてくれないんじゃないかって……」

 

 そう言ってアーシアは兵藤の胸で泣き出した。

 

「アーシア、聞いてくれ。俺はこれから部長のもとへ行く」

 

 アーシアは覚悟していたかのように兵藤の次の言葉を待つ。

 

「部長を取り戻しに行く。問題ないよ、会場に行くルートは手に入れたから」

「私も――」

「アーシア先輩」

 

 アーシアの発言に被せて、釘を刺すようにフェイが呼びかける。

 フェイはアーシアにこの事(・・・)を事前に予測して話をしていた。その場合にどうするのかも。

 残念ながら人間であるアーシアは、今回の場において足手まといにしかならない。

 この時程、アーシアは自分が人間である事を悔やんだ事はなかった。

 フェイの呼びかけで落ち着きを取り戻したアーシアが兵藤に言う。

 

「一つだけ、約束して下さい」

「約束?」

「必ず、部長さんと帰ってきて下さい」

 

 アーシアは笑顔で兵藤に約束を求めた。

 

「ああ、もちろんだ」

 

 兵藤が頷くと、アーシアはうれしそうに微笑んだ。

 

「そうだ、アーシア。頼みがあるんだけど――」

 

 兵藤がアーシアに頼み事をして、アーシアは自室へと戻っていく。

 その段階でフェイが兵藤に声をかける。

 

「それじゃあ、俺の番ですかね」

「ああ、フェイもありがとうな。フェイの話はなんだ?」

 

 訊ねる兵藤に笑顔で返すフェイ。

 

「一つ目は、先輩が部長を連れ戻さないと死ぬ呪いをかけようかと」

「おいおい、物騒だな。まぁ、死なねぇけどな!」

 

 フェイの軽口に驚きながらもニヤリと笑う兵藤。

 そしてフェイは兵藤に呪文を発動する。

 

「それからもう一つ、これは俺からじゃないんですが――」

『目覚めているのだろう? 赤い小僧』

 

 出現させたフェイの籠手からバハムートの声が発せられた。

 

「! これは!?」

 

 驚く兵藤をよそに、赤龍帝の籠手も出現し言葉を返した。

 

『白金のオヤジか……アンタなんでこの世界の神器に納まっているんだ?』

 




ドライグさんは大戦よりはるか昔の若龍だった頃にヤンチャしてて痛い目にあったとかそんな過去。


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