ハイスクールD&D 転輪世界のバハムート   作:生ハムメロン

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月光校庭のエクスカリバー
プロローグ


 カキーン。

 晴れ渡る青空に響く快音。金属バットでボールを打つ音だ。

 旧校舎裏手に存在する広々とした空き地にて、オカルト研究部の面々は野球の練習をしていた。

 レクリエーションという理由でもなく、ただ野球技術の向上を目的として。

 

「来週は駒王学園球技大会よ。部活対抗戦で負けるわけにはいかないわ」

 

 リアスの言葉が何故野球かを物語っていた。

 もっとも、球技大会ではどの種目を行うのは開催当日に決定される。

 競技に人数が足りない場合は開催側(生徒会)から補充要員まで用意されるのだ。

 その為、オカルト研究部は日替わりでメジャーな球技の練習を一通り行っていた。

 勿論どの球技も一朝一夕で身につくものでもないが、基本的なルールを体で覚える分には悪魔達ならば充分だった。

 ただ一人を除いて。

 

「はわっ! あぅあぅあぅああぁぁぁ……」

 

 イレギュラーバウンドでもなんでもないただのゴロを慌てて処理しようとしてトンネルしたアーシア(右翼八番)が悲鳴を上げる。

 残念ながらアーシアは運動神経には恵まれていなかった。

 素早くアーシアの後ろに回っていたフェイ(二番中堅)がボールを拾い小猫(四番捕手)へと投げ返す。

 フェイはその足の速さから外野のほぼ全域を担当させられていた。小猫は強肩と物理的守備力により不動の捕手である。

 

「ショート!」

 

 ショートフライを打ち上げたリアス(五番投手)の鋭い声が響く。

 しかし呼びかけられた木場(一番遊撃)は棒立ちのまま反応を見せず、打ち上げられたボールはその頭部に直撃する。

 

「木場! シャキッとしろよ!」

 

 兵藤(六番一塁)が怒鳴りつけてからようやく反応を見せた木場が兵藤に顔を向ける。その顔はいかにも覇気のないものだった。

 

「……ああ、すみません。ボーっとしてました」

 

 それだけ言うと緩慢に下に落ちたボールを拾いリアスへ投げ返し、リアスも溜息をつきながらボールを受ける。

 

「祐斗、どうしたの? 最近ずっと気が抜けた様子であなたらしくないわよ?」

「すみません」

 

 リアスの指摘に素直に謝る木場だったが、その顔は曇ったままだった。

 結局野球の練習が終わる頃になっても、木場が元に戻る事はなかった。

 

「木場さまはどうしてしまったのでしょうか。あの時からですわよね」

 

 旧校舎へ戻る途中、フェイの隣に並んで歩くレイヴェル(九番三塁)が気遣わしげに漏らす。

 あの時――旧校舎の大掛かりな清掃の為、部室ではなく兵藤の部屋で活動を行った時の事である。

 その時は兵藤の母親が兵藤が幼い頃のアルバムを持ち出してきて皆に披露したのだった。

 フェイも写真という物の珍しさもあって最初は混じっていたが、リアスとアーシアの食い付きッぷりに引いて、部屋の隅で他の物が見終わった写真を眺めているだけだった。同じように小猫やレイヴェルも他の者よりは興味が薄かったのだろう、メインの輪からはあぶれてフェイの隣で流れてきた写真を眺めていた。

 喧嘩をする割にはよく一緒に居る二人は、やはりフェイを挟んで悪態を吐き合っていたが、フェイがそれを宥めて居る時にそれは起こった。

 

 ◇◇◇

 

「――これ、見覚えは?」

 

 普段とは違う低い声音で兵藤に尋ねる木場。その指さす先には一枚の写真があった。

 

「ううん、何分ガキの時過ぎて覚えてねぇんだよなぁ。多分これ昔引っ越した幼馴染みの親御さんだと思うんだけど」

 

 あとからフェイが見たその写真には、兵藤と、その幼馴染みらしき少年と、その父親が写っている。

 

「こんな事もあるんだね、思いもかけない場所で見かけるなんて……」

 

 苦笑する木場。だがその目は一点を憎々しげに見つめていた。

 それは父親の抱えた一本の古ぼけた西洋剣。しかし写真越しでもフェイにはその聖性が判別できた。

 それは――

 

「これは聖剣だよ」

 

 吐き捨てるように呟く木場。そして、その時から木場の様子がおかしくなったのであった。

 

 ◇◇◇

 

「今までの教会や聖職者、特に聖剣に対する態度を考えれば、聖剣絡みで何かあったんだろうけどな……」

 

 写真越しとはいえ本物の『聖剣』を見た事で抑えていた思いが噴出したのであろう。しかし――

 

「当人から事情を話し出さない限りはまだ詮索するべきじゃないな」

 

 フェイがそう言ってレイヴェルの肩を叩くと、レイヴェルは不承不承ながらも頷いた。

 それに、とフェイは考える。その視線の先にはいつの間にか近くに来ていた小猫がいた。

 恐らく木場の事情を知っているであろう、しかし軽々と話せない葛藤を抱えている姿にフェイも思案を深める。

 

 ◇◇◇

 

 翌日、昼休みになってフェイは小猫とレイヴェルを伴って旧校舎の部室へと向かう。

 部室には一年生以外の全員が既に揃っていた。それに加えて二人の男女。

 女はフェイにも見覚えがあった。駒王学園の生徒会長、三年生の支取蒼那。

 もう一人の付添らしい男には見覚えがなかったが、宿す魔力で二人とも悪魔だと判断する。

 

「生徒会長がなぜここに? 部長の実家絡みの話ですか?」

 

 婉曲的に悪魔絡みの話かとリアスに訊ねる。それに口を挟んできたのは訪問者の男だった。

 

「あれ、お前人間っぽいのに悪魔だってわかるんだな? 兵藤とは大違いだ」

「サジ、リアスから聞いているけど彼はちょっと事情が違うのよ。……フェイくんでしたね。この学園の生徒会長を務めています、支取蒼那です。本来の名前はソーナ・シトリー、リアスと同じくシトリー家の次期当主になります」

 

 サジと呼ばれた男を窘めて、支取蒼那――シトリーが挨拶をしてくる。グレモリーの息がかかっている学園の生徒会長の為か、フェイの事情はどこまでかは不明だが伝わっているようだった。

 

「フェイです。どこまで部長から話が伝わっているかわかりませんが、一応ただの人間です」

「魔法使いの、がつくけどね」

 

 フェイの挨拶にリアスが補足してくる。この程度しか話していないということか。

 

「へぇ、魔法使いなんて本当にいるんだな! 悪魔もいるんだからおかしくないか。俺は匙元士郎。二年生で会長の『兵士』だ。兵藤達にはもう言ったが、平和な学園生活を送れているのは、会長や俺たちシトリー眷属が日中動き回っているからこそなんだ。感謝を強要するつもりもないけど、覚えていてくれてもバチは当たらないぜ」

 

 匙の言い振りから、恐らくはオカルト研究部と同じように、生徒会はシトリーの眷属で固められており、学園内での悪魔絡みの問題も生徒会が対処している、という事だろうとフェイは判断し、匙に頭を下げる。

 

「いえ、人々の為に尽力してくれている方々に感謝を示すのは当然のことです。ありがとうございます。」

「おお、お前いい奴だな!」

 

 そんなフェイの態度に屈託なく笑う匙。煩悩が絡まない時の兵藤と同じく匙もまた気の良い男のようだ、とその時のフェイは思っていた。――後で本質は兵藤と同類と知るまでは。

 

「ルーキー紹介はこんな所かしらね。もっともアーシアとフェイは勿論、レイヴェルも私の眷属になった訳ではないのだけれど」

 

 そうリアスが切り出すと、シトリーも出されていた茶を一口飲んでから訥々と語り出した。

 

「さて、と。ではそちらも揃ったようですので言っておく事があります。私はこの学園を愛しています。生徒会の活動もやり甲斐のあるものだと思っています。ですから、学園の平和を乱す者は人間であろうと悪魔であろうと許しません。それはフェイくんやアーシアさん、サジであっても、この場にいる者でも、リアスでも同様のことです」

 

 人間であるフェイ達や生徒会である匙が特別に名前を挙げられただけで、新しく学園に入った者全てに向けられる言葉だったのだろう。

 それだけシトリーがこの学園を愛しているということか。フェイは神妙に頷いた。

 

「それでは私たちはこれで失礼します。お昼休みに片付けたい書類がありますから」

 

 そう言ってシトリーは立ち上がり、場を離れようとする。

 

「会長――いえ、ソーナ・シトリーさん……さま。これからもよろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」

 

 兵藤が改めてシトリーに挨拶をする。グレモリー眷属として主と同等の上級悪魔への礼節というものだろう。

 続いたアーシアはただそれに釣られただけか。

 フェイとレイヴェルもそれぞれ新参者として挨拶を行うと、シトリーも微笑みそれに返した。

 

「リアス、球技大会が楽しみね」

「えぇ、本当に」

 

 シトリーとリアスが笑顔で言葉を交わし、シトリーと匙は足早に部室を後にした。

 

「イッセー、レイヴェル。匙くんと仲良くね。他の生徒会メンバーともいずれは改めて悪魔として出会うでしょうけど、同じ学舎で過ごす者同士、ケンカはだめよ?」

「はい!」

 

 シトリー達を見送ったリアスが微笑みながら言うと、勢いよく返事をする兵藤。

 なぜ兵藤とレイヴェルだけが注意されたのかは考えるまでもなかった。

 




朱乃さんは三番打者で二塁手です。

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