「聖剣計画……ですか」
フェイはリアスの言葉を反駁する。
「そう、祐斗はその計画の生き残りなの」
リアスはフェイの言葉に頷く。
木場が出て行った後、残ったメンバーにリアスは木場の事情について説明を始めるのだった。
聖剣計画――数年前までキリスト教内で聖剣エクスカリバーを扱える者を育成する計画が存在していた。
聖剣は対悪魔としては最大の武器であり、神器ですら並ぶ物は存在しない。
ただし、聖剣にはそれを扱う為の特別な素養を必要としていた。
そして木場は聖剣――なかでもエクスカリバーに適応する為の人為的な養成を受けていた者の一人だった。
しかし、木場を含めて同時期に養成された者達は誰一人としてエクスカリバーに適応する事が出来なかった。
聖剣計画を主導していた教会関係者は木場を含めて聖剣に適応出来なかった物達を『不良品』として処分する事を決定、養成を受けていた者達の大部分は『聖剣に適応出来なかった』ただそれだけの理由で殺されていった。
木場も当然殺されかけたが、瀕死の所で偶然リアスに助けられ悪魔に転生して生き延びたのだった。
「あの子は瀕死の状態でも強烈な復讐を誓っていたわ。せっかく転生したのだから悪魔としての生を有意義に使って貰いたかったのだけどね。祐斗の持つ剣の才能は、聖剣だけにこだわるのはもったいないわ」
皆が押し黙った部屋に、リアスの声が響く。
「あの子は忘れられなかったのね。聖剣を、聖剣に関わった者達を、教会の者達を――」
嘆息するようにリアスは言う。
だがそれも仕方がないだろう。自分だけではなく、仲間までもが
事情を聞いてしまえば、教会や神父に対する嫌悪も、聖剣に対する憎悪も納得がいくものだった。
今まで抑えていた感情が、写真越しの『聖剣』を見ることで噴出したのであろう。
「このままにしておくのですか?」
フェイはリアスに訊ねる。
「しばらくは見守るわ。いまはぶり返した聖剣への思いで頭が一杯でしょうから。普段のあの子に戻ってくれるといいんだけど」
「それでは手遅れになると思いますがね」
額を抑えながらも答えるリアスに、フェイは現実を叩き付ける。
「今の木場先輩は既に冷静な状態ではありません。復讐心に目が曇っているとも言えます。皆を巻き込みたくないという感情もあるのでしょうが、復讐者は得てして自分の力で復讐しようと望む物です。感情に捕らわれすぎた復讐者の行き先は――返り討ちという自爆。少なくとも聖剣は単身でどうこうなる代物ではないのでしょう?」
「そんなまさか!」
フェイの指摘にリアスは頭を振って否定する。
「木場先輩がまだリアス部長達を頼っていれば話は別だったのですが、先ほどの様子を見る限りでは単独で動くとしか思えません。――見守るが見殺すになりかねない段階ですよ、今は」
「ならどうすればいいというの!」
フェイの淡々とした説明に、リアスは声を荒げて問う。
「グレモリーとしての姿勢を見せるべきだと思いますよ。木場先輩がやろうとしている事に、グレモリー、及びグレモリー眷属としてどう対応するのか。対応次第では木場先輩が『はぐれ』になりかねない選択でもありますが、少なくとも傍観は悪手だと思います」
「……わかったわ。ごめんなさいね、フェイ。私も少し頭を冷やさなければならないわね」
頭に血が上っていたリアスも少し落ち着いてフェイに答えた。そしてリアスが更に問いを重ねる。
「ねぇ、フェイ。グレモリー眷属ではない、貴方はどう思うの?」
「異教徒の俺が言うのもなんですが、殉教ではなく犠牲を強いるようなものが『聖』剣である筈もなし、木場先輩に協力して破壊してしまえばいいんじゃないですか?」
「本当に軽く言うわね、そんな事をすれば大きくみれば悪魔の世界に影響を与えるかもしれないのよ?」
フェイの回答に、呆れながらも答えるリアス。
「その悪魔の世界の影響を恐れて眷属を見捨てるのがグレモリーというのならばそれで構いませんよ。俺は無関係なので勝手に手伝いますが」
リアスの言葉に挑発的に返すフェイ。
そのフェイの言葉にリアスは深く深く溜息をついて漏らす。
「……私の負けね。どうせフェイだけでなくイッセー達も勝手に動いたんでしょうし、そういう子よね? あなた達は。ならまずは祐斗とも話をしないといけないわ」
そういえば、と兵藤が一枚の写真を取り出しリアスに差し出す。それは例の『聖剣』が写っている写真だった。
「木場がおかしくなった切っ掛けってこの写真っぽいんですけど」
リアスはその写真を受け取り、一目見ると眉をひそめる。
どうやら兵藤の家での一幕は、兵藤の過去の写真に夢中になっていたリアスとアーシアは気付いていなかったようだ。
「イッセー、あなたは親族に教会と関わりがある人が居るの?」
「いえ、身内にはいません。ただ、俺が幼い頃に近所に住んでいた子がクリスチャンだったみたいです」
そう、とリアスは真顔になって頷く。
「十年以上前にはこの街にも聖剣があったのね――では、この男性が聖剣使い。なるほど、私の前任悪魔が消滅させられたと聞くけど、これなら説明も……でも――」
リアスがそのまま深く考え込むが、すぐに頭を振って皆に向き直る。
「フェイ、貴方の言う通りね。この街にはすでに聖剣との縁が出来ている。いつ新たな聖剣が現われるとも限らない。祐斗を放っておいたら目も当てられないことになったかもしれないわ。ありがとう」
「その言葉は木場先輩の件が一段落してから頂きますよ」
リアスの感謝にフェイは笑いながら答える。
――新たな聖剣が現われたのは、その翌日であった。
◇◇◇
放課後、旧校舎のオカルト研究部部室に部員達が集まる。――加えてシトリーが同席する。
「さて、今日の活動でソーナが来ているのには理由があるの。昨日、解散した後にソーナから連絡があってね。球技大会中に、教会関係者から接触があったらしいの。それで――」
「先方の話では、この街を縄張りとしているリアス・グレモリーと交渉がしたいとのことです。教会関係者は女性の二人組。そして――彼女達は『聖剣』を所持しているようです」
リアスの言葉をシトリーが引き継ぐようにして説明する。聖剣の話を木場としようとした矢先にこれである。
案の定、木場の目に暗い炎が宿り、感情を抑えつけるような声でリアスに訊ねる。
「――部長はその話を受けるのですか? 教会関係者はいつ来るのですか?」
最近の事情を知らぬシトリーは木場の態度に驚き、リアスは溜息をついて木場に答えた。
「来るのはこの後よ――その前に祐斗にも話しておく事があるわ。祐斗、常々言っている事だけれど、グレモリーは愛情深い一族なのよ。私は決して眷属を見捨てたりはしないわ。――たとえ
「っ――部長、それは……」
リアスの言葉に、戸惑う木場。
「ふふっ、人に言われて改めて気付く有様だけれどね。祐斗、貴方は私たちを信じなさい、頼りなさい。私たちは巻き込まれる事を苦にはしないわ。だから勝手に一人で抱え込まないで頂戴。貴方は私の下僕なのだから」
「リアス、あなたは……」
リアスの言葉に、木場よりもシトリーが衝撃を受けて呆れていた。悪魔の世界の事情はそれなりに複雑なのだろう。
しかしリアスはその事情よりも木場を優先した。
「祐斗、貴方の望む事を主として叶える努力はするわ。だから祐斗も私に協力して欲しいの、お願い出来るかしら」
「ずるいですね、部長。そう言われたら僕には何も言えませんよ」
リアスの訴えに木場は苦笑して答える。その目の奥の復讐心は消えては居ないが、最近の顔に出ていた険は薄まったようだ。
「ソーナ、ごめんなさいね。身内の話にまで付き合わせちゃって」
「いいのよ、リアス。聞かなかった事にしてあげるから小西屋のトッピング全部盛りね」
「うっ、それとこれとは……はぁ、仕方ないわね。それで手を打ちましょう」
内輪事情を謝るリアスに、対価としてうどん屋を奢りを要求するシトリー。リアスは躊躇したものの、溜息をつきながら了承するのだった。
友人同士の微笑ましいやりとりに見えなくもないが、残念な感じが伴うのはなぜだろう。などと傍観していたフェイが視線を感じて下を向くとやはりフェイの右隣に座っていた小猫がフェイを見上げていた。
「……私も小西屋の全部盛り食べたいです」
「わ、私もっ」
「……焼き鳥娘は真似しないで」
連れて行けということか。
小猫のストレートな要求にフェイの左隣に座っていたレイヴェルまで続き、フェイを挟んで二人は睨み合う。
後でな、という意味を込めてフェイが二人の頭を手の平でポンと軽く叩くと二人は一端矛を収めた。
そんな三人のやり取りを微笑みながら見ていたリアスに、シトリーは席を立ち上がりながら声をかける。
「それじゃ、リアス。『お客様』を連れてくるわね」
「ええ、お願いねソーナ。――祐斗もね」
「はい、もう大丈夫です」
リアスが部屋を立ち去るシトリー、そして木場に声をかけると木場もまた、もう落ち着いたとばかりに頷いた。
それからしばらくして兵藤が思い出したかのようにリアスに言い出す。
「そうだった。部長に言っとかなきゃいけない事があったんだった」
「あっ、そうでしたね」
「それは今話さないといけないこと?」
アーシアもそれに同意するが、『来客』が近い事を思い出させるように確認するリアス。
「その教会関係者なんですけど――」
そう兵藤が言いかけたときに、『来客』を伴いシトリーが入ってくる。
「リアス、『お客様』をお連れしました」
「失礼します。あっ、イッセー君
入ってきた
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