ハイスクールD&D 転輪世界のバハムート   作:生ハムメロン

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5話

 翌日、フェイ達は分散して街で手がかりを捜索していた。

 探査系の占術呪文が使えれば話は早かったのだが、魂に結びついた呪文しか使えないため、習得呪文のレパートリーに限られるソーサラーのフェイは占術系呪文はほぼ体得していなかった。

 また、なまじ占術呪文に長ける師匠と共に旅をしていた為、自身では呪文の巻物(マジック・スクロール)すらも用意していなかったのが悔やまれる。――あったとしても、現状では補充出来ないので気軽には使えないが。

 

「師匠のあの魔術を纏った拳、私にも出来ますか?」

 

 分散の班決めにおいてフェイとの班を強く希望した小猫がフェイに訊ねる。

 

「そうだな……悪魔として魔力は使えるのだから、いずれは可能になるかもしれないが……その前に基礎(モンク)の修練をもっと積まなければな。基礎の修行はまだまだ続けるぞ。それに――っ」

 

 師匠であるフェイと同じ道(魔術の拳士)を進もうと言い出してくる小猫もなかなか可愛いものだ。ただ、小猫には何か他に秘めている力があるのではないか、などとフェイが考えていると脇腹に一撃を貰う。

 

「どうした? レイヴェル」

 

 見ると不満げなもう一人の同行者――やはり強く班入りを希望したレイヴェルが不満げな顔をしていた。

 師匠との会話を邪魔された小猫がムッとした顔をする。

 

「いいえ、なんでもありませんわ。それよりフェイさまの緻密な魔法のコントロールは見習うべきものがありますわね」

「いや、俺の技は主に体術と組み合わせるのに特化した物だからな、レイヴェルが扱うような魔術にはあまり向かない。緻密な呪文の操作(呪文修正特技)であれば、ソーサラーの俺よりも賢者(ウィザード)がより得意なんだが……そんな都合の良い教師はいないしなぁ」

 

 ウィザード――その身に流れる血の力をもって呪文を扱うソーサラーと異なり、秘術の(ことわり)をひたすら学習し、理論によって呪文を発動することを身につけた魔法使い。呪文の構造をだれよりも理解する彼らならば、容易く呪文を望む形に修正して発動出来る。そのような呪文の操作はフェイ達ソーサラーも不可能ではないが、苦手であった。フェイの技は発動した呪文を無理やり気と織り交ぜて拳に纏わせているようなものなのだ。

 

「まあ、俺の教えられる範囲であれば、レイヴェルに向いた魔術の操作もいくらかは教えるが――っ」

 

 フェイは足を踏まれた。見ると隣を歩いていた小猫だった。普段の無表情ながらも不満が見て取れる。

 

「すみません、人を避けようとしてつい」

 

 人を避けたにしては大分勢いよく足を振り下ろして来た気がするが、フェイはそれ以上深く追求しないことにした。こういった時に追及するのはよくないと身をもって知っていた。

 しかし、小猫とレイヴェルが揃うとこのような諍いが多い。仲が悪いのか……と思えばよく二人で行動を共にしているのを見るからわからない。

 女の事はよくわからないな、フェイは内心肩を竦める。

 その様子を籠手の中から感じていたバハムートは思う。

 これまで修行の邪魔という建前のもとに悪い虫(他の女)を寄せ付けなかった為、女心を解さない現在のフェイを作り上げた師匠の罪は重い、と。

 

「フェイさま、あれを……」

 

 そんな事をしているうちに、レイヴェルがある一点を指し示す。

 そこには――。

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

「どうか、天の父に代わって哀れな私たちにお慈悲をぉぉぉ」

 

 路頭で托鉢を行っている二人の白ローブ。紫藤とゼノヴィアの姿があった。

 彼女らは清貧を旨とする修道僧だったのか、前に会った様子ではとてもそうは思えなかったが。

 

「念の為に聞いておくが、何をやっているんだアンタ達は?」

 

 放っておくのも問題なので、フェイは二人に声をかける。

 

「おお、神の思し召しか!」

「この際異教徒でもなんでもいいわ! どうかお慈悲を!」

 

 フェイに声をかけられると顔を輝かせて反応する二人。

 よくよく話を聞いてみると、紫藤がフェイの目からもあからさまな偽物であろう宗教画を手に入れるために活動資金を全て注ぎ込んでしまい、一日の糧すらもままならなくなってしまったらしい。

 フェイの世界の神官(クレリック)は当たり前の様に水と食料の創造(クリエイト・フード・アンド・ウォーター)や、英雄達の饗宴(ヒーローズ・フィースト)といった呪文で食料を用意出来るが、ここではそうでもないようだ。それとも単純に修練(レベル)が足りないだけなのか。

 試しに食事を奢ろうかと提案したら、アッサリとついてきた。悪魔や異教徒に対する感情よりも食欲を優先したようだ。

 同行していた小猫とレイヴェルはとても不満げではあったが、神の教え以前にフェイの性格として、困窮しているものを無視することは出来ない。

 

 ◇◇◇

 

「うまい! 日本の食事は美味いぞ!」

「うんうん! これよ! これが故郷の味なのよ!」

 

 宗教画の飾られているチェーン店のファミリーレストランで、小猫もかくやというほど勢いよく食事を掻き込んでいく聖職者二人。

 これを日本の食事と言っていいのだろうか、それにしても悪魔でなくともよく食べるな、とフェイは呆れて見ていた。

 

「師匠、お金……大丈夫ですか?」

「ああ、食事代程度なら心配いらんよ」

 

 小猫が心配そうに訊ねてくるが、気にするなと手を振る。そもそも小猫も普段は食事をたかりに来る側だった筈なのだが。

 フェイは金銭的には不自由していない。元の世界では人助けの旅が主で、遺跡探索などはほぼしなかった為、通常の冒険者と比べても資産は少ないほうではある。しかし装備の更新に金をかける必要もなく、本人も清貧とは言わずとも無駄金を使わない性質であり、多少の資産の蓄積はある。

 もっとも余剰な資産を寄付するという行いもあまりせずに貯めていたのは、財宝を貯めこむ本能を持つ真竜(ドラゴン)である師匠の影響も大きい。

 

「ふぅー、落ち着いた。異教徒に救われるとは世も末だな」

 

 一息ついたゼノヴィアが漏らす。

 フェイとしても恩を着せるつもりはないが、奢られておきながらここまで言われるといっそ清々しい。

 

「はふぅー、ご馳走様でした。ああ、主よ。心優しき異教徒達に感謝を」

 

 紫藤はそう言って胸で十字を切る。彼女の祈りによって小猫とレイヴェルが顔をしかめ頭痛を抑えるように頭に手を当てる。

 どうやら聖印を掲げられるに近いダメージを受けたようだ。

 

「あー、ごめんなさい。つい十字を切ってしまったわ。あなたは平気なのね?」

「そりゃ人間だからな」

 

 軽いノリで紫藤が謝ってくる。

 悪魔と行動を共にしては居るが人間であるフェイにはなんのダメージもない。

 

「で、私たちと接触した理由は?」

 

 先ほどとは一転して真顔になった紫藤が切り出してくる。

 

「アンタ達を見つけたのは偶然で、探していたわけでなく、食事を奢ったのも単にみかねただけだ。だが――」

 

 フェイはまず彼女達に対して特に含む所のないことを示す。実際に偶然であったのは事実だ。

 

「食事の恩を、というなら協力する気はないか? 悪魔とではなく、人間である俺個人とで」

「なんだと? ……ふむ」

 

 フェイの提案にゼノヴィアは一蹴せずに少し考え込む。

 

「ちょっと、ゼノヴィア。まさか異教徒と共闘する気?」

 

 そんなゼノヴィアに対して紫藤が咎めるように問いただす。

 

「私としては、アリと思っているよ。正直言えば私たちだけで聖剣三本の回収とコカビエルの戦闘まで行うのは辛いものがある。なにも悪魔と手を組むわけじゃなし、異教徒と言うならば私とイリナも異教徒みたいなものだろう?」

「一言に異教徒と言っても主を信じる者とそうでない者じゃ意味が変わってくるでしょ!」

 

 多神教――というよりも、実際に多数の神が明確に存在することを知るフェイとしては唯一神を信奉するゼノヴィア達の心情を完全に推し量ることはできない。だが明確に敵対しないまでも味方ともいえないような神の信徒との協力すると考えれば紫藤の意見もわからないでもない。

 

「まあイリナの意見ももっともだ。そうだな――」

 

 ゼノヴィアはそういって手帳を取り出すとペンを走らせ、ページを千切ってよこした。

 

「表立って共闘というわけにもいかないが情報交換程度はかまわないだろう? 連絡先は教えておく、何かあったら連絡をくれ」

 

 そのページにはゼノヴィアの携帯番号らしき数字が書かれていた。

 

「わかった。こちらも連絡先は渡しておこう」

「ではそういうことで、食事の礼はいつかしよう」

「食事ありがとうね、フェイくん。また奢ってね! 異教徒でもフェイくんの奢りならアリだと主もお許しくださるはずだわ! そう、ご飯までならOKなのよ!」

 フェイの連絡先を受け取り、ゼノヴィアと相変わらずな調子の紫藤は去っていった。

 

「師匠、なんで協力しようなんていいだしたんですか?」

「そうですわ、あの教会が悪魔と協力するだなんてありえませんわ」

 

 小猫とレイヴェルが口々に不満を漏らす。

 

「まあ、あの姿を見て放っておくわけにもいかなかったしな。それはそれとして考えがなかったわけじゃない。少し疑問に思っていたことがあってね」

「……疑問ですか?」

 

 フェイの言葉に小猫が首を傾げる。

 

「聖剣を奪った堕天使たちは、聖剣三本で足りるのかなってことさ」

「フェイさまは堕天使があの二人を標的にすると言いたいのですか?」

 

 小猫に対するフェイの答えにレイヴェルが確認を行い、フェイがそれに頷く。

 

「恐らくは、だけどな。教会がわざわざエクスカリバー使いの二人を派遣したのも、実力だけでなく炙り出す事も含めて決めた……というのは考えすぎかな?」

「フェイさまのお考えはわかりましたが、それでしたらあのまま二人を行かせたのはよろしくなかったのでは?」

「……ああ、だから」

 

 フェイの言葉にさらに質問を重ねるレイヴェルと、納得したように頷く小猫。

 

「小猫さんはなにかご存知なのですか?」

「……焼き鳥姫には関係ないです」

「ぐぬぬ」

「こらこら」

 

 隙あらば険悪な雰囲気をかもし出す二人を軽く小突くと、フェイはレイヴェルに言った。

 

「あの二人が食事している間に、小猫には部長や木場先輩に居場所を連絡しておいて貰ったんだよ。今頃どちらかの班がついているはず」

 

 捜索班はフェイ達一年生組の他、木場、兵藤、匙の二年男子組、リアス、姫島、アーシアの女子組にそれぞれわかれている。フェイがゼノヴィア達を相手にしている間に、小猫に各班のまとめ役に連絡をして貰っていた。

 それを聞いたレイヴェルはなぜ自分に頼らなかったとばかりにフェイを睨んで言う。

 

「抜け目がありませんこと」

「見つけた手がかりは有効に活用しないとな。――しかし、俺もまだまだ未熟だ」

 

 師匠の占術に頼りきりにならず、占術も自分の力として磨いていれば既に堕天使の拠点も暴けていただろうに。

 フェイが反省の想いを口にすると、小猫とレイヴェルは驚愕の表情を浮かべていた。

 




冒険者において相手の居場所や現在の様子まで見通してしまう占術はマジチート。
なお、フェイが占術を磨こうとするとその分戦闘力が落ちるので、役割分担としては本来はこれで良かったのです。

イリナはプロテスタント側ですが、一般のプロテスタントは行わないらしい十字を切る動作、イギリスに渡ったという情報から、英国国教会(英国聖公会)のロウ・チャーチ系かなーと判断してます。

感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。
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