駒王学園を目と鼻の先にした公園。そこでシトリーはリアスたちを待ち受けていた。
シトリー以外の眷属は学園の周囲で結界の維持に努めているという。匙もまたその応援へと向かった。
「この結果は被害を最小限に食い止めるためのものです。正直に言って、コカビエルが本気を出せば、学園はおろかこの街そのものが崩壊します。更に言えば、すでにコカビエルはその準備に入っている模様です。校庭で力を解放しつつあるコカビエルの姿を私の下僕が捉えています」
シトリーは淡々と状況を説明する。
「攻撃を少しでも抑えるために、私と眷属はそれぞれの位置について結界の維持に専念します。――学園が傷つくのは耐え難いものですが、堕天使の幹部を相手取る以上、覚悟しなければならないでしょうね」
そう言うとシトリーはコカビエルが居るであろう学園の方を睨みつける。
「ありがとう、ソーナ。後は私達がなんとかするわ――少なくともお兄様には増援を要請しています」
「――リアス! その決断に感謝するわ。私のお姉さまは増援を要請するにはちょっと……ね」
リアスの言葉に驚きながらも感謝の言葉を述べ、転じて申し訳なさそうな表情を作るシトリー。
リアスは全てわかっているとばかりに同情の表情を浮かべ、シトリーの肩を叩いた。
「朱乃、お兄様の増援が来るまではどれ位かかるの?」
「部長、ソーナ様。サーゼクス様の加勢が到着するのは一時間後だそうですわ」
リアスの確認を受けて姫島が報告する。
リアスとシトリーはその報告を聞いてそれぞれ頷いた。
「わかりました。私達生徒会は一時間の間はシトリー眷属の名にかけて結界を張り続けてみせます」
「皆聞いたわね。私達はオフェンスよ。結界内の学園に飛び込んでコカビエルの注意を引くわ。倒せればそれで良し、無理でも一時間の時間を稼ぐのよ。これは
『はい!』
シトリーの決意、リアスの鼓舞を聞いて一同は力強く返事をした。
◇◇◇
フェイ達は正門から学園へと侵入していく。――フェイの
「本当に大丈夫なんだろうな、これは?」
「他の連中からは姿が見えなくなっている。それよりもあまり大声はだすなよ、隠すのは姿だけだ」
呪文を受けている者同士は互いの姿が視えている為か、なお疑わしげなゼノヴィアにフェイは念を押す。
「それと、あまり俺から離れすぎるな。効果範囲から離れれば姿が見えるようになってしまうからな」
そんなフェイの言葉に好都合と身を寄せ、よりフェイとの距離を縮める小猫とレイヴェルだった。
フェイとしては正直動き辛くなるだけだったが、戦闘状態に入るまでは半ば諦めていた。
そうして校庭に差し掛かったときに、異常な光景が現れた。
校庭の中央に四本の聖剣が神々しい光を放ち中に浮いている。またその聖剣を中心として校庭全体に魔方陣が描かれている。
また、魔方陣の中には初老の男の姿。
「バルパー・ガリレイ……っ」
木場が憎しみを込めて小さくはき捨てる。
バルパー・ガリレイ――聖剣計画の責任者。今回の聖剣を集めて『何か』を行おうとしているのもこのバルパーでよいのだろう。
魔方陣が発動している様子はなく、聖剣から少しずつ力が流れている様子から、聖剣に『何か』をする魔方陣ではなく、聖剣の力で発動する魔方陣だとフェイは推察する。
ならば――その前に潰すのみ。決断したフェイは前準備として周囲の戦力を確認する。
奥に
更に上空には宙に浮かせた椅子に腰掛け下界を見下ろす黒い十枚羽根の堕天使――コカビエルの姿があった。
「あの魔獣は?」
フェイが小声で確認する。
「ケルベロス――地獄の番犬の異名を持つ有名な魔物よ。その首はそれぞれの判断で動き、地獄の業火を吐き出すわ」
「――なるほど」
ならば――とフェイはまず小猫を見る。
フェイの愛弟子はその意図を察して、一人で一匹を担当できると無言で頷いた。ケルベロスの能力から判断して、今の自分なら優勢に戦えると判断していた。
フェイは続いてレイヴェルに視線を移す。
レイヴェルもまた頷く。レイヴェルにとってその首が吐く炎は脅威ですらない。鋭い牙や爪すらも、不死身のフェニックスを滅ぼすには程遠い。倒せるかはともかくとして、負ける筈のない相手だった。
「では、小猫、レイヴェル、姫島先輩がそれぞれケルベロスを一体ずつ、部長は遠距離攻撃による三人のフォロー。アーシア先輩は負傷を負ったメンバーの回復。兵藤先輩は手筈通りに――」
事前に決めた手筈通り、兵藤は倍化を譲渡することによる
兵藤の現在可能な譲渡の回数は最大限まで倍化した状態を三度。その後は直接支援に入って貰うことになる。
バルパーとフリードには木場とゼノヴィアが担当する。
「――コカビエルはまず俺で足止めをします。担当が終わり次第加勢に」
最後にフェイは口早にそれだけを伝えながら、
「子鼠どもが潜んできているようだな。いい加減姿を見せたらどうだ?」
コカビエルに気づかれた事に、フェイが気づいたからだ。
「では手筈通りにいくわよっ」
リアスの号令と共に全員が一斉に駆け出して、姿を現す。――いや、フェイのみは気付かれているのは承知で姿を隠したまま、
そして最初に行動を起こすのは――紫藤だった。
イリナが『降魔の聖剣』を頭上高く掲げて叫ぶ。
「主よお力をお貸しください。聖剣よ、邪悪な儀式を鎮めたまえ!」
紫藤は『降魔の聖剣』の特性――魔方陣の中心への魔法解呪を祈りによって発動させる。
生憎と魔方陣の儀式を解呪するには至らなかったが、宙に浮いていた四本の聖剣が次々に地面へと落ちる。
聖剣に対して行われていた何らかの儀式――魔方陣とは別のものを強制終了させることが出来たようだ。
「ばっ、バカなっ!? これは一体!?」
バルパーが困惑して叫びをあげる。
「バルパー! どうなっている!?」
見下ろしていた下界に起きた状況にコカビエルも驚き、バルパーに意識をそらした次の瞬間――
フェイはコカビエルの鼻面に拳を叩き込んだ。
「ぐぉぉぉぉっ」
腰掛けていた椅子から盛大に吹き飛ぶコカビエル。
「どうした、堕天使。下界の光景は呻くほど眩しかったか?」
そんなコカビエルに、空中に静止するフェイが挑発する。
「き、貴様っ人間かっ。こそこそと隠れた人間風情が、俺を直接殴るだとっ!?」
殴られたことよりも、その相手が人間であった事に驚くコカビエル。
「どいつもこいつも……人間をあまり舐めるなよ」
フェイはそれに対して獰猛な笑いで答えた。
元の世界は幻想に溢れていて、それに対抗する人型生物も大勢居た。
この世界も幻想に溢れている。ならば――対抗出来る人間も居ないはずはない。
現に人間のままで聖剣を扱う紫藤やゼノヴィアのような者もいる。
特殊な『神器』を扱うアーシアのような者もいる。
だからフェイは思う。この世界の幻想は、人間を舐めすぎていると。
ならばフェイがこの世界に現れた意味は――使命は人間の力をこの世界の幻想に示す事だと、今この時は確信していた。
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D&D知らない人向けムダ知識
呪文の受け手を中心に半径
ただし音や匂いまでは隠すことは出来ない。
不可視になったクリーチャーが効果範囲から出るか攻撃を行うと目に見えるようになる。
効果範囲は受け手と共に移動し、受け手自身が攻撃を行った場合は不可視になった全員が目に見えるようになる。
呪文が発動した後や一度見えるようになってから効果範囲に入っても不可視にはならない。
また呪文が作用している者同士はお互いの姿は見える。