ハイスクールD&D 転輪世界のバハムート   作:生ハムメロン

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いつもよりやや長め。
ペース配分難しい。


8話

 連続して放たれる火球を小猫は縫うように走りながらかわし、跳躍する。

 まさに火球を放とうとしたケルベロスの中央の頭の顎をアッパー気味に突き上げて無理やり口を閉じさせると、出口を閉ざされた火球が口内で爆発を起こす。

 そのまま空中で体を回転させ顳顬(こめかみ)に回し蹴りを叩き込み、その反動で勢いを付けて右の頭へと襲い掛かる小猫。

 小猫が地上に着地したときには、右の頭が力を失って首を垂れていた。

 僅かな時間で右と中央の頭を殺されたケルベロスは、それでも残る左頭で唸りを上げて小猫を威嚇する。

 小胆な者ならばそれだけで竦みあがりそうな地獄の番犬の威嚇を受けて、小猫はそれでも表情を変えずにケルベロスを見返す。

 

「……この程度の相手に時間をかけていたら、師匠に申し訳が立たないです。――それに」

 

 小猫は隣の戦場を一瞬だけ確認する。焼き鳥姫(レイヴェル)とケルベロスの戦い。

 同じ魔獣を相手取っている彼女(レイヴェル)には負けたくなかった。

 故に小猫は突き進む。目の前の魔獣(ケルベロス)を倒すために。

 

 ――そして、レイヴェルもまた同じ想いを抱えていた。

 ケルベロスの複数の頭から連続して放たれる火球。避ける素振りさえ見せずにレイヴェルはそのまま受ける。

 しかし、微動たりともしない。

 

「温い……この程度の温さで地獄の番犬とは笑わせてくれますわ。――本物の悪魔の炎、喰らわせて差し上げましょう」

 

 レイヴェルの全身から炎が吹き上がり、ケルベロスを包み込んでいく。

 ケルベロスは怯んで後ずさっていくが、炎は逃がすことなくケルベロスを焦がしていく。

 そう、こんな程度の敵にてこずっている様では、到底あの人(・・・)を見返す事など出来やしない。

 ――いや、違う。見返すのではなく、レイヴェルは同じ位置に立ちたいのだ。隣の戦場で拳を振るっているあの猫又(小猫)のように。

 最初はただの人間だと思っていた。不死身のフェニックスが負ける筈がないと。だが、あの時完全に負けた――負けてしまったのだ。その後の赤龍帝と兄との戦闘でも、彼が影で何かをしていたのがレイヴェルには判った。気になっていくばかりだった。

 だから、あの人の隣に立つのだ。誰よりも先に。

 想いで炎がより強く燃え盛る。ケルベロスを燃やし尽くして隣を見たレイヴェルの目に映ったのは、ケルベロスを打ち倒した小猫の姿だった。――勝負はまだ終わらない。

 

 ◇◇◇

 

 儀式を強制的に解除されたバルパーが紫藤に叫ぶ。

 

「おいっ、貴様っ。一体何をしたっ!? その剣は何だっ!? まさか私の見知らぬ聖剣だとでも言うのかっ!」

「これは『降魔の聖剣』よ。私も知らなかったけど、貴方も知らなかったのね。この聖剣は魔術を打ち消す力を秘めているみたいよ? さっきのもソレ」

 

 焦りすら見せるバルパーの叫びに、紫藤はあっけらかんと答えた。

 バルパーはその答えにますますヒートアップする。

 

「バカなっ。そんな未知の聖剣の資質など持っている者がいる筈がないっ!」

「残念! この聖剣は資質など関係ないの! ただ神を愛し、深く信仰する神の戦士であれば誰だって使える! そんな聖剣みたいよ? ああ! 神の愛は深く、そして広いのよ! アーメン!」

「何……だと……!?」

 

 喚くバルパーにフェイが聞いていたら突っ込みどころの満載の言葉を並べる紫藤。

 しかし、その言葉でバルパーは衝撃を受けて押し黙る。

 そのバルパーに向かって進み出る者がいた。――木場だった。

 

「聖剣一本にバカみたいに取り乱して……滑稽だね。――それは僕も同じか。だが、喪われた同志たちは滑稽では終わらせない」

 

 そう自嘲しながら、木場がバルパーに魔剣を突きつける。その瞳に憎悪を宿しながら。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は『聖剣計画』の生き残り――いや、実際はあの時死に、悪魔となって生き延びている」

「……あの計画の生き残りか。数奇なものだな、このような極東で顔を合わせることになるとは。縁があるのかもな、くくく」

 

 淡々と告げる木場の言葉を聞き、落ち着きを取り戻したバルパーが薄く笑いながら答えた。

 

「――私はな、聖剣が好きなのだよ。聖剣を愛している――夢に見るほどに。幼少の頃、エクスカリバーの伝記に心を躍らせたからなのだろうな。だからこそ、自分に聖剣使いの適性が無いと知ったときは――絶望だった」

 

 突如バルパーが語りだす。木場は訝しげにそれに耳を傾ける。

 

「自分では使えないからこそ、使えるものに憧れを抱いた。そしてその思いは高まり――人工的にでも聖剣を扱えるものを創り出す研究に没頭する程にまでなった。そして完成した。――キミ達のお陰でね」

「なに? 完成? 失敗作だと断じて僕達を処分したのはお前じゃないか!」

 

 バルパーの語る内容に木場は詰るように反発した。

 しかし、バルパーは首を横に振って言葉を続ける。

 

「聖剣を扱うのに必要な因子があることを発見した私は、その因子の数値で適性を調べたのだ。案の定被験者の少年少女、ほぼ全員に因子はあったが、どれもこれもエクスカリバーを扱う数値には満たなかった。そこで私は一つの結論に至った。『数値が足りないのならば、因子だけを抽出して集めることはできないものか?』――とな」

「――なるほど」

「まさか、聖剣使いの祝福を受けた時に入れられたのは」

 

 バルパーの言葉で真相に気付き、忌々しそうに歯噛みするゼノヴィアと青ざめる紫藤。

 

「そうだ、聖剣使い達よ。持っている者から因子を抜き取り、結晶を創り出したのだ。こんな風にな」

 

 バルパーは光り輝く球体を懐から取り出す。その輝きはエクスカリバーのどことなく輝きに似ていた。

 

「これにより聖剣使いの研究は飛躍的に向上した。だというのに教会の連中は私だけを異端として排除したのだ。研究資料はきちんと奪ってな。貴殿らを見るに私の研究は誰かに引き継がれているのだな。ミカエルめ! あれだけ私を断罪しておきながら結局私の研究を使うのではないか! まあ、あの天使のことだ。被験者を殺してまで因子を抜き出すようなことまではしておるまい。そこだけは私よりも人道的と言えるかもな。くくくっ」

 

 バルパーは愉快そうに笑う。対照的に木場の表情が怒りに染まっていく。

 

「――同志達を殺して因子を抜き出したのか?」

 

 木場が殺気の篭もった声音で静かに訊ねた。

 

「そうだ。この球体はそのときのものだぞ? 他にも三つ程あったのだがフリード達に使ってしまってな。これが最後の一つだ」

「ヒャハハハ! 俺以外の奴らは体が因子に呑まれて死んじまったけどなぁっ! うーん、そう考えると俺ってやっぱりスペシャルだねぃ」

 

 バルパーが答えるとフリードが嗤う。

 

「……バルパー・ガリレイ。自分の研究、その欲望のためにどれだけの命をもてあそんだんだ……」

 

 木場は静かに怒りを燃やす。その怒りが魔力となって、全身を覆うまでになっていた。

 

「ふん、それだけ言うのならば、この因子の結晶なんぞ貴様にくれてやる。環境が整えばあとは量産できる段階まで研究は進んでいるのだ」

 

 そう言ってバルパーは因子の結晶を放り投げる。結晶はコロコロと地面を転がり、木場の足に当たって止まった。

 その間にもバルパーは語り続けていた。

 

「まずはこの街をコカビエルと共に破壊しよう。その後は世界中の伝説の聖剣をかき集めようではないか。そうしたら、ミカエルとヴァチカンに戦争を仕掛けてくれる。私を断罪した愚かな天使と信徒どもに、私の研究の成果を見せ付けてくれる!」

「そのようなことなどさせるものか!」

 

 ゼノヴィアが聖剣を構えてバルパーに向かって叫ぶ。

 だがゼノヴィアの前にフリードが立ちはだかる。

 

「まーったく。せっかく聖剣が統合されてスゥパーエックスなカリバーちゃんになる予定だったのにさぁ。なんで邪魔しちゃうわけ? ってかキミ達教会の人でしょ? なんで悪魔と一緒に行動してんの? もっしかしてアーシアたんみたいに追放されちゃったの? ねぇねぇ、どんな気持ち?」

 

 小馬鹿にするような態度のフリードに、ゼノヴィアと紫藤は無言で構えを取る。

 木場は足元に転がってきていた結晶を拾い上げていた。

 哀しそうな顔で、懐かしい思いを込めて、愛おしいモノのように結晶を撫でていた。

 

「……皆……」

 

 喪われた仲間への想いで、木場は涙を流す。

 その時に、結晶が淡く光り始め、その光が徐々に広がっていく。

 光に照らされた校庭の地面から、次々と光が浮き上がり人のカタチを作り始める。

 そして人のカタチはいつしか木場を囲み、青白い光で出来た少年少女の姿となった。

 ――それは木場がかつて喪った同志たちの魂。

 

「皆! 僕は……僕は! ずっと……ずっと思っていたんだ。僕だけが生きていていいのかって。僕よりも夢を持った子がいて、僕よりもずっと生きたがっていた子がいて、その中で僕だけがのうのうと平和な暮らしをしていていいのかって……」

 

 木場の慟哭に答えるように一人の少年の魂が木場に近寄り、微笑みながら何かを語りかける。

 それは音として言葉になることはなかったが、木場には伝わっていた。

 

『僕達のことはもういい。キミだけでも生きてくれ』

 

 木場は双眸から涙を流し続ける。

 

 のこりの少年少女も木場を囲みながら、口を開く。リズミカルに、歌うように。

 木場もまたそれに合わせて涙を流しながら声を出して歌い始めた。

 

「――聖歌」

 

 それを聞いた紫藤が呟く。

 木場と魂の少年少女は聖歌を歌いながら、まるで幼子のように無垢な笑顔に包まれていた。

 

 一人では駄目だった。誰一人として聖剣を扱う因子が足りなかった。それでも皆が集まれば。

 たとえ神がいなくとも僕達の心は――

 

「――ひとつだ」 

 

 木場は同志達を想いを共にする。

 淡く光る少年少女の魂たちが、それぞれ天へと昇っていき、ひとつの大きな輝く光となって木場のもとへと舞い降りる。

 

「――僕は剣になる。部長や仲間達の剣となる! 同志達の力と共に! 魔剣創造ッ!」

 

 魔剣を創り出す魔力と、輝く光が渾然一体となり、融合していく。

 聖なる力と魔なる力が交じり合い、一体となった剣が創り出される。

 この時木場は、禁手へと至った。

 ――禁手(バランス・ブレイカー)『双覇の聖魔剣』(ソード・オブ・ビトレイヤー)。聖と魔を有する剣。

 木場が目にも止まらぬ速度でフリードめがけて駆け出し、斬り付ける。

 フリードも『天閃の聖剣』(エクスカリバー・ラピッドリィ)で強化された速度で対応し、聖魔剣の一撃を受け止める。

 だが――

 

「本家本元の聖剣を凌駕するってのかよ! その駄剣が!」

 

 聖魔剣は聖なる力で『天閃の聖剣』に食い込み、魔なる力でその聖性を相殺して打ち砕く。

 本家本元といえど、砕かれ打ち直された聖剣(エクスカリバー)だったからこそ、である。

 しかし、聖剣一本を破壊するために注ぎ込んだ力も尋常ではなく、木場も消耗している。

 

「くそっくそっ、くっそっ! ふざけんじゃぁねぇよぉ! だがこっちにはまだ聖剣は三本残ってるぜぇ、一本破壊するだけで随分大変そうだけど、全部行けるのかなぁ?」

 

 聖剣を破壊され、悪態をつきながらも次の聖剣を抜き出すフリード。今は両手にそれぞれ『擬態の聖剣』と刀身の見えない『透明の聖剣』(エクスカリバー・トランスペアレンシー)を携えていた。

 

「ふむ、ならば『先輩』達に敬意を表して、私も奥の手を抜くとしよう」

 

 ゼノヴィアがそう言うと、右手に構えていた『破壊の聖剣』を左手に持ち替え、空いた右手を宙に広げる。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ、わが声に耳を傾けてくれ」

 

 ゼノヴィアが唱えると右手の先の空間が歪み出す。ゼノヴィアは躊躇うことなくその空間に右手を突き入れる。

 空間の先を無造作に探り、そして手ごたえを感じるとソレを掴み、次元の狭間から一気に引き出す。

 フェイが見ていれば影界に物を隠す影界の物入れ(シャドウ・キャッシュ)の呪文か、類似した魔法効果だと判断したであろう。

 引き出されたのは一本の強力な聖なるオーラを纏った聖剣。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する――デュランダル!」

「デュランダルだって!?」

「そんなバカな! 私の研究でもデュランダルを扱える段階まではまだ達していないというのに!」

 

 ゼノヴィアが抜き出した聖剣に驚く木場とバルパー。

 

「それはそうだろう。ヴァチカンの研究もまだ人工のデュランダル使いを生み出すには至っていない」

「では何故だ!」

「人工でなければ天然というだけだ。私は生まれつきデュランダルを扱えるのさ」

 

 ゼノヴィアの言葉にバルパーは絶句する。

 

「さて、デュランダルは触れた物はなんでも切り刻む私の言うこともろくに聞かない暴君でね。危険だから普段は異空間に隔離している程だ。――フリード・セルゼン。お前のお陰で久々に本気でデュランダルが振るえそうだ。一太刀で死んでくれるなよ?」

 

 そう言ってゼノヴィアはエクスカリバーとデュランダルを構える。聖剣の二刀流。

 同じく聖剣を二刀流にしているフリードは叫ぶ。

 

「そんなのアリかよぉぉ! そんな設定いらねぇんだよ、くそビッチがぁっっ!」

 

 フリードの振るう『擬態の聖剣』が形をかえてうねり、ゼノヴィアに襲い掛かる。

 だが、ゼノヴィアの振るうデュランダルの一撃で、聖剣は粉々に打ち砕かれる。

 

「ふっ、所詮は折れた聖剣か。デュランダルには役不足だったようだな」

 

 ゼノヴィアはつまらなそうに嘆息する。

 フリードが次の聖剣を抜く間を与えず、木場が距離を詰めて追撃を放つ。

 咄嗟に残った『透明の聖剣』を掲げて防御するフリードだったが――。

 バキン。

 音を立てて見えない聖剣が砕け散り、そのままの勢いで木場はフリードを斬り払った。

 

「せ、聖魔剣だと……。あり得ない、相反する二つの属性が交じり合う事などある筈がないのだ……」

 

 フリードが斃れ、後がないというのにバルパーは驚愕の表情でブツブツと呟く。

 木場がバルパーに歩み寄り、剣を向けようとした時に、ハッしたように顔を上げてバルパーは叫ぶ。

 

「そうか! わかったぞ! 相反する属性の象徴。それらを司る存在のバランスが崩れているならば! つまり魔王だけでなく――」

 

 バルパーがそう言いかけた時、大きな音を立て――コカビエルが墜落した。




そういえば『降魔の聖剣』(ホーリィ・アヴェンジャー)ですが、呪文の打ち消し(ディスペル・マジック)や、呪文抵抗などの能力、そして直訳すると聖なる復讐者である英名を考えると、『抗魔の聖剣』の変換ミスじゃないかなぁとか思う今日この頃。
魔を降ろすのとホーリィがイメージとして直結しないのですよね。
4版でも『降魔の聖剣』だからやっぱ違うかな?

追記:指摘を受けたので訂正。『降魔』は魔を降すとか魔を降伏させるという意のようですね。

感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。
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