「どいつもこいつも……人間をあまり舐めるなよ」
コカビエルの鼻先を殴り飛ばした人間――フェイが獰猛に笑う。
「人間ごときがふざけるなっ!」
コカビエルは激昂し、フェイへの反撃に移る。
右手に光の槍を創り出し、フェイへと投擲するがフェイはそのまま躱してコカビエルの懐に潜り込み、更に一撃を加える。
膂力は明らかにコカビエルの方が上だ、だがそれでも構わずに吹けば飛ぶような人間が接近戦を挑んできている。
何を考えている、コカビエルはフェイの思考を推し量ろうとするが、考えは霞のように靄がかかって上手く纏まらない。
戦闘中に考えることではなかった、相手が正面から来るのならば、正面から叩き潰せばよい。
単純明快な思考。だがその一方でなにかがおかしい――コカビエルの直感はそう叫ぶ。
コカビエルは与り知らぬことだが、紫藤との試合でフェイが使用していた
それを今回もフェイは『光線拳』に織り交ぜて使用していた。
だが、
故にコカビエルは、おかしいと思いつつも本来の能力を奪われたままフェイと拳を交え、地に叩き落される事になる。
◇◇◇
墜ちたコカビエルを追ってフェイが地面に降り立つと、他の戦場もあらかた決着がついているようだった。
小猫とレイヴェルは単独でケルベロスを倒しきり、姫島も兵藤の倍化により強化された雷撃でケルベロスを消し飛ばしていた。
そして、木場もまた新たな力に目覚め、聖と魔が融合した新たな剣を手にしており、ゼノヴィアも新たな
反して相手はケルベロスを全て失い、フリードは倒れ、聖剣もほぼ砕かれ、コカビエルは地に墜とされた。
勝負はほぼついたとも言える。
「まだ、やるのか?」
フェイがコカビエルに問いかける。
「ハハハッ、そうだな。貴様らを少し舐めていたのかもしれん。だが、そうだな。魔王の妹の首くらいは貰っていこうか――そうすれば魔王も動くだろう。わが望みは闘争、戦争の再開だ! 神は死んだ! 四大魔王も死んだ! ならばわれら堕天使が退く理由がどこにある! アザゼルの野郎は戦争で多数の部下を失ったせいか、『戦争は二度と起こさない』などと日和りやがった。あのまま続ければ俺達が勝てていた戦争をだ! 一度振り上げた拳を降ろす等耐え難い、全く持って耐えがたい! だから作ってやるのだよ、戦争の理由をな!」
思考力の低下したコカビエルは、感情のままに激情を吐き出す。
その内容を聞き逃せなかった者たちが居た。
「まてっ、神がどうしたとっ!?」
ゼノヴィアが驚愕しながらもコカビエルに聞き返す。
そしてバルパーが狂喜する。
「そうだ、思った通りだ! 魔王は死んだ! 神も死んでいた! ならば聖魔の象徴のバランスが崩れ、相反する聖魔剣などというものが生まれたのも不思議ではない!」
「嘘よ! 主がもういないだなんて!」
「まさか、そんな……それでは私たちに与えられる愛は……」
自分の推測が正しかったと捲くし立てるバルパー、自らの信仰の拠り所を失って衝撃を受けるアーシアと紫藤。
「そうだ。神の守護も、愛ももはや存在しないのだ。ミカエルは神の代わりとして天使と人間をよくまとめている。神が遺した『システム』が存在しているからこそ、神への祈りも祝福も悪魔祓いもある程度働きはする。
――神が居た頃と比べれば格段に見捨てられる信徒が増えているがな。貴様らこそ、それでもまだ神の為に戦うのか?」
コカビエルの言葉に、涙を流してくずおれるアーシアと紫藤。ゼノヴィアもまた、ギリギリで気を保っている状態である。
神とは無関係――いや敵対状態であった悪魔達ですら、ショックですぐには動けないでいる。
「それがどうした」
だからこそ、そこで声を上げたのはフェイだった。
「神は死んだ――それがどうした。神だって死ぬことはある。神の奇跡に賜れぬこともあるだろう。だが、それがなんだ。お前達は奇跡に縋る為に信仰していたのか? 神は死んでも、神の教えが消えるわけでは――ない!」
異教徒であり、また多神の世界において神が死ぬという逸話も幾度となく聞いているフェイだからこそ、そんな言葉を吐いた。
実際にフェイの仕える神バハムートを生み出した竜の創造神イオは、神話において
だがそれで竜の創造神イオに対する畏敬や信仰が失われたわけではない。
「コカビエル! 貴様が戦乱を巻き起こし、弱き人々に害をなそうと言うのならば! 俺は
ふざけるなと叫びたかった。要らぬ戦乱を巻き起こそうとするコカビエルも、研究の名において弱き者を苦しめるバルパー・ガリレイのような者たちも、信仰に殉じていれば人を傷つけても良いと思っている連中も。
激情がフェイの身を焦がす。だが、思考を止めることはない。
『そうだ。想いは神器の力となる。激情を燃やせ。だが、冷静さは失うな。さすれば我は汝の清浄なる両の
バハムートの声が聞こえ、『白金竜の籠手』が輝きを増す。
『
音と共に『白金竜の籠手』の籠手が変質していく。
白金に輝く籠手に、力を持った宝玉がいくつも嵌め込まれている。一つは今までも利用していたバハムートのブレスを
そして神器の新たな使い方が、フェイの脳裏に浮かんでくる。
「小猫、行くぞ!」
フェイはいつの間にか隣に立っていた小猫に声をかけ、コカビエルに
小猫も頷いてフェイに追随する。
フェイは呪文の魔力を拳に纏わせる秘術の打撃で拳を強化、小猫も同様に魔力を拳に纏わせる。
師弟は連携でコカビエルを崩そうとするが、コカビエルも最後の意地を見せて二人を踏み込ませない。
――そこに駄目押しが入った。
「小猫ちゃん! フェイ! 行けぇーっっ!」
『
兵藤の声と共に、限界まで倍化された力がフェイと小猫に譲渡される。
譲渡の力により動きの増した師弟はコカビエルを挟撃し、連打の嵐でコカビエルに膝をつかせた。
「くそっ、こんな所でっ。オレはまだ戦場に立って――」
最後の一撃――。
「止めだっ」
「はいっ」
『
青白く輝く分解の力が籠手に宿る。――それだけではなく。
『
――第二の
コカビエルの両側から止めの一撃として放たれた輝く二つの拳。
その拳を同時に喰らい、一瞬の輝きを放ってコカビエルは消滅した。
「……やりました」
大きく息を吐く小猫。だが、フェイは油断をせずに上空を見上げる。
「……まだだ」
「――フフフ、気付いていたか。面白い」
フェイの見上げた上空から、声が聞こえてくる。
同時に、その上空から白い閃光が地面へと落ち、衝突する直前で停止する。
そこには八枚の光の翼を生やした白き全身鎧に身を包んだ者の姿があった。
「……
その全身鎧を見たバルパーが、そう呟いた。
「コカビエルを消滅させるか。……貴様は何者だ?」
白き全身鎧――『白い龍』はそのバルパーを無視してフェイに問いかける。
「答える義理はなさそうだが?」
「そうか、ならば力ずくでも聞き出そうか……」
フェイが惚けると、なぜか嬉しそうに『白い龍』は構えを見せる。
『やめておけ、白いの』
横から声をかけたのは、兵藤の籠手に宿る
『起きていたのか、赤いの』
その声に応じるように『白い龍』の全身鎧の宝玉が輝き、声を返す。
『まあな。久々に出会ってなんだが、今はやめておけよ、白いの』
『理由を聞こうか? 赤いの』
フェイと『白い龍』を宿す全身鎧が睨み合う中、赤と白の龍は会話を始める。
その会話にバハムートまでもが混じり始めた。
『これがお前の語っていた宿敵か、小僧』
『――っ! コイツは何だ!? ドライグ!』
『クククッ、流石のお前も驚いたか、アルビオン。この白金の親父は昔ヤンチャしていた時に出会った龍の神さ』
口を挟んだバハムートに驚愕する『白い龍』――アルビオン。
ドライグは楽しそうな声音でバハムートを紹介する。
『神だと!? ――
『バハムートだ』
『バハムートか、覚えたぞ。――ヴァーリ、今はいたずらに戦うときではない、お前の仕事を忘れるなよ?』
ヴァーリと呼びかけられた『白い龍』の全身鎧は舌打ちして構えを解き、リアスに語りかけた。
「チッ、仕方が無いな。俺は堕天使総督の使いでコカビエルらを回収しに来た。――コカビエルはお前達が消滅させてしまったがな。バルパーとフリードは回収させてもらうぞ」
ヴァーリはそう言うと同時にバルパーの腹に拳を突き入れる。バルパーはアッサリと気絶した。
「待て、ソイツをどうするつもりだ?」
そのまま担いで行こうとするヴァーリを、フェイは呼び止める。
「コイツらは堕天使の管理下だったからな、色々と話を聞いたあと然るべき処罰を設ける。異論はあるか?」
「……いや」
筋の通った話ではあった。フェイはリアスの方も確認するが、仕方が無いといった表情で首を縦に振ったので、そのまま回収させる事にする。
フリードとバルパーを両肩に担いだヴァーリは、立ち去る前に兵藤の方に声をかける。
「よぉ、宿敵くん。今のままだとまだまだ俺の相手にはならない。もう少し強くなっておけよ」
「! どういうことだ!?」
「そのうちに嫌でもわかるさ」
戸惑う兵藤にそれだけを言い残し、ヴァーリは白き閃光となってこの場を去って行った。
◇◇◇
コカビエルの撃破から数日。いつものように三人で部室に顔をだす一年生組。
そこに見慣れぬ二人の姿があった。
「やあ」
「お邪魔してまーす」
駒王学園の制服を身に纏ったゼノヴィアと紫藤だった。
「どういうことですか?」
おそらく
「教会を追放されてしまってね。神が死んだとも聞いていた事だし破れかぶれで悪魔に転生した。私は素早さよりも一撃の破壊力が身上だからな、『戦車』だそうだ。リアス・グレモリーの眷属となったことで、駒王学園の二年生に編入してオカルト研究部の所属になった。エクスカリバーは全部まとめてヴァチカンへと送り返している。他に質問は?」
既に話を聞いていたらしい兵藤が溜息をつく。何かあったのだろうか。――と思えば兵藤の隣にいるアーシアの気配が違っていることに気付く。
――まさか。
「アーシアも悪魔に転生したのよ。ちなみに『僧侶』よ」
驚くフェイにリアスが説明する。
「私もまだ主の事は信仰はしていますが、主が既にお亡くなりになっているのなら、悪魔になってイッセーさんの力になりたいと思いまして」
アーシアの言葉にフェイも納得する。確かに人間のままでは兵藤の力となれる機会は少ない。前の『レーティングゲーム』も事情が事情だったので特例として参加出来ただけだ。
眷属悪魔ともなれば大手を振って世話になっている兵藤やリアスの力となれる、そう考えたのだろう。
フェイはゼノヴィアの隣にいる紫藤にも目を向ける。
「……紫藤さんも同じですか?」
「私は……ちょっと違うかな。悪魔にはならなかったの」
確かに紫藤からは悪魔の気配はしなかった。だがフェイはどことなく嫌な予感がする。
見ればゼノヴィアも苦笑している。
「教会を追放されたのはゼノヴィアと同じなんだけどね。――だから」
紫藤が言葉を連ねる度に、フェイの嫌な予感はますます強くなって行く。
――そして、その予感は的中する。
「私、紫藤イリナは
手はきれいに、心は熱く、頭は冷静に的なアレ。
神話周りの設定はD&Dの3.5版に4版を少し混ぜています。
活動報告にフェイの設定の話をちょっとだけ書いてます。
設定そのままというよりは設定の裏話的なものなので、読まなくても全く問題ないです。
感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。
命中すると相手の知力を減衰させる光線を放つ呪文。