「いち、に。いち、に」
兵藤の声にあわせてバタバタと足を動かすアーシア。兵藤がアーシアの手を持ってバタ足を練習させている。
現在地は、駒王学園のプール。オカルト研究部の面々はプール掃除と引き換えに、プール開きの最初の利用者となる権利を得たのであった。
そしてリアスは兵藤とフェイに泳げない部員の練習相手を命じた。
対象者は今兵藤が練習相手をしているアーシア。
そして今フェイが相手をしているのが――
「よし、端についたぞ――おっと」
フェイに手を引かれてバタ足でプールの端まで泳ぎきった小猫が、勢い余ってフェイに抱きつくような体勢となる。
「とりあえずは最初の目標達成だな」
そう言ってフェイが小猫の頭を撫でると満更でもなさそうに小猫は目を細める。
しかし、小猫にとっての幸せの時間が長く続くことは無かった。
「いつまでやってるんですか! 交代ですわよ!」
三人目の金槌である所のレイヴェルが横から割り込んできた。
「焼き鳥が水に入ってどうするの、邪魔をしないで」
「猫だって泳ぐ必要ないでしょうに!」
フェイが相変わらずの仲な二人に苦笑していると、レイヴェルの相手をしていたイリナが声をかけて来た。
「
改宗を宣言してからイリナはフェイの事をマスターと呼ぶようになっていた。小猫のような拳技の師ではなくバハムートの信徒としての
ただ、フェイとしてはイリナにそう呼ばれる事には心苦しい想いもあった。
バハムートに改宗をするという意思は尊重し、一度は返された『降魔の聖剣』を再びイリナに託しはした。
だが、再びイリナが手にした『降魔の聖剣』が聖なる輝きを放つことは無かった。
事実イリナは改宗をすることで、本来持つパラディンとしての神の恩寵を全て失っていた。その為に『降魔の聖剣』が輝きを見せることも無い。
本来であれば、バハムートのクレリックが
イリナはそれでも構わないと笑ってはいるが、フェイとしてはバハムートの教義を教える事しか出来ずにマスターと呼ばれる事には心苦しさを覚えている。
だが、そんなフェイだからこそイリナはあっけらかんと笑ってフェイをマスターと呼ぶのだった。
「はーい、じゃあ小猫ちゃん交代ねー」
考え込むフェイをよそに、鳥猫の争いにグイグイと入り込んで小猫を連れ出すイリナ。
憮然とした表情をしながらも、小猫はおとなしくイリナに引かれていった。
フェイはその光景を微笑しながら見送り、レイヴェルに向き直る。
「よし、じゃあ今度は俺が相手をしようか」
「絶対にあの猫又より早く泳げるようになってやりますわ!」
「その意気だ、じゃあ始めよう」
レイヴェルの意気込みにフェイは頷き、レイヴェルの手をとった。
フェイは相変わらずの
◇◇◇
プールから校庭へと歩きながら、うぼぁーと疲れ果てたように兵藤は溜息にならない溜息をついていた。
その原因となった兵藤を巡るリアスと姫島の争い。さらにはゼノヴィアやアーシアにまで迫られる兵藤を思い出しながら笑っていたフェイだったが、その脇で他人の事言えないよねとイリナが笑っていたのは気付いていなかった。
とぼとぼと歩く兵藤が足を止める。その視線の先には、校門の付近に佇む人影があった。
銀髪の少年が学園の校舎を見上げている。顔立ちの整った少年が校舎を見上げ、夏の日差しに銀髪が輝く光景は幻想的な絵画のようだと兵藤は感じていた。
だが、フェイは兵藤のそれとは違う感想と態度を示す。
フェイの竜の感知能力は少年が持っているモノを感知していた。
白金竜の籠手を出現させ、構えを取る。
「
フェイが発した言葉の内容に驚き、身構える兵藤達。
そしてヴァーリは笑みを浮かべてその言葉に返す。
「へぇ、神器も出していないのに気付くとはね。改めて自己紹介をしておこうか。俺はヴァーリ。白龍皇――『白い龍』だ。今度は何者なのか聞かせて貰ってもいいかな?」
「ああ、俺はフェイだ。バハムートの信徒。そうだな、そちらの言い方にあわせるなら
ヴァーリの自己紹介にあわせて、フェイも名乗りを上げながらもヴァーリの目的を訊ねる。
「そうだな。例えば――いや、やめておこう。残念ながら今日は戦いに来たわけじゃないんだ」
ヴァーリは噴出したフェイの殺気に肩を竦めると、言い訳のように並べ立てた。
「アザゼルの付き添いでこちらに来ていてね、退屈しのぎに先日訪れた学び舎を見に来ただけさ。まあ、俺もやることが多いからこの辺りで去っておくよ」
ヴァーリはそう言って踵を返して立ち去ろうとするが、ふと足を止めてリアスに向かって言葉を放った。
「そうだ、リアス・グレモリー。――
「――っ。そうね……でも今回は未知の『白金の龍』もいるから、どうなるかはわからないわよ?」
ヴァーリの言葉に一瞬言葉を詰まらせるリアスだったが、すぐさま立ち直って不敵に笑う。
「なるほど、確かにね。コカビエルの事といい本当に興味は尽きないな、フェイよ。赤龍帝――兵藤一誠もまだまだ弱いが貴重な存在だ。せいぜい大事に育てることだな、リアス・グレモリー」
それだけを言い残して、ヴァーリは去っていく。後にはただ、緊張が残されていた。
◇◇◇
授業参観――学園の生徒が授業を受ける姿をその保護者が観に来るというリアスが心底嫌がっていた学園の行事。
兵藤もあまり良い反応はしていなかったが、オカルト研究部の一年生組は参観に来るような保護者もいない為か、平穏無事でそのときを迎えようとしていた――レイヴェルを除いて。
「もう、気乗りしませんわ」
母親が参観に来るらしいレイヴェルだけが憂鬱そうに溜息をついている。
さすがの小猫もこの時にまでからかうことはしていない。
「まあ、観に来てくれるだけいいじゃないか、子を想う証拠さ」
気楽に言ってのけるフェイを、レイヴェルは恨みがましい目で見上げる。
「自分は関係ないからってそんな他人事のように。フェイさまも一遍私の立場におかれればよいのですわ」
無茶なことをいうな、と笑って宥めたところでいよいよ授業が始まろうとしていた。
開け放たれた教室後方の扉から、続々と保護者が入ってくる。
一際目立つ高貴な雰囲気を纏った金髪の若き女性。顔立ちがどことなくレイヴェルと似ており、恐らくレイヴェルの母親なのだろう、と教室の誰もが推測出来た。
レイヴェルの母親には同行者がいた。
やはり高貴な雰囲気を纏い、煌く金髪をツインテールに纏めて勝気な表情をした、中学生程度の年齢であろう少女。やはり教室の誰もがレイヴェルの妹なのだろうと推測した。――二人を除いて。
「……お母様――と?」
「げぇっ」
母親に同行する見覚えの無い少女に首を傾げるレイヴェルと、ここに居る筈のない存在を目にして慄くフェイ。
レイヴェルと小猫は目を疑った。
今までどのような存在を相手にしてきても、フェイがここまで狼狽える事などなかったのだ。
なぜ、こんな授業参観などで――。
「し、師匠――なぜ、ここに……」
フェイはただ、小さく呻くのみだった。
フェイの元居た世界にはこのような言葉がある。
『見た目に騙されるな。力強い老人や幼女がいたら、そいつはドラゴンだ』。
幼女か老人の姿を好むのは概ね金竜か銀竜ですが、弱き者の姿で人を試しているのでしょうね。
D&Dからのキャラ二人目です。
色々改変してほぼオリキャラと化していますが、一応は公式に出ているNPCです。
(ドラコノミコンのサンプルドラゴンを公式NPCと呼ぶならば)
感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。