ハイスクールD&D 転輪世界のバハムート   作:生ハムメロン

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2話

「説明」

 

 授業参観が終わり、恐る恐る師匠の元へ近づいたフェイに対し、師匠――黄金竜(ゴールドドラゴン)ナティントラパはただ一言だけを静かに放った。

 表情は穏やかだが、ナティントラパと付き合いの長いフェイは、彼女が今まででも最大限に怒っていることを察している。

 

「ええと――とりあえず場所を変えましょう」

 

 二人のやり取りに教室中の視線が集まっていた。ナティントラパは教室を見回してふむ、と頷きフェイの案内を促す。

 教室を離れていこうとする二人に対して、フェニックス夫人は穏やかに声をかけた。

 

「それではナティさん、また後で(・・・・)

 

 フェイはやはり知り合いになっていたのかと疑問を抱くが、深く考える前に師匠の圧力に圧され、足を速めるのだった。

 

 ◇◇◇

 

 人気のない屋上へと場所を移し、フェイとナティントラパが向かい合う。

 

「さて、何から話しましょうか――」

 

 フェイが切り出す内容を考えていると、ナティントラパは出口の方へとツカツカと歩いていく。

 

「そうね……まずはコレ(・・)についてから聞きましょうか」

 

 ナティントラパが校内へと通じる扉を勢い良く開けると、聞き耳の為に扉に身を寄せていた人物が屋上へとまろび出てくる。

 

「小猫!」

 

 師匠(フェイ)の様子を気にした小猫がフェイ達の様子を伺っていたのだった。

 

「フェイ。この子はアンタにとってどんな関係なの?」

 

 目を離していたうちに案の定悪い虫がついていた、と内心歯噛みしながら小猫を睨むナティントラパ。

 小猫はナティントラパの圧力を受けながらも、怯まずに睨み返している。

 小猫もフェイとの鍛錬や堕天使の幹部との戦闘を通じて、多少の圧力には屈しない胆力を身につけていた。

 

「ああっと。弟子になります――拳術の」

 

 フェイの言葉にナティントラパはピクリと眉を動かすが、そのまま小猫を睨み続ける。

 小猫も正体不明の人物には負けられないとばかりに必死で食い下がる。

 そのままお見合い状態がしばらく続いたところで、ナティントラパは嘆息して表情を和らげた。

 悪い虫はこれだけではない事もナティントラパは知っていた。ここで意地を張っていても仕方が無い、と思い直す。

 

「私はナティントラパ。長ければナティとでも呼べばいい。フェイの師匠という立場になるけど、私は拳は使わない。バハムートの神官(クレリック)で、フェイの宗教での師になるわ」

 

 ナティントラパ――ナティの言葉に小猫は驚きで目を丸くした後、真顔に戻って自己紹介を始めた。

 

「搭城小猫です。師匠――フェイさんに拳技を教わっています」

「そう、ひとまずよろしく。――この世界(ここ)から直ぐに連れ戻そうとまではしないからそこまで警戒しないでもいいわよ」

 

 丁重な態度を取りながらも警戒を崩さない小猫に、ナティは苦笑しながら告げる。

 小猫が緊張を解くのを見届けてからナティはフェイに向き直ると、一転して圧力をフェイにぶつける。

 

空白の心(マインド・ブランク)は欠かしていないようね、フェイ?」

「はい、常在戦場。いつ不意を討たれるとも限りませんから習慣となっています」

 

 空白の心(マインド・ブランク)――精神操作系の呪文からの完全な防護を備える呪文である。精神抵抗力に自信のあるモンクとはいえ、喰らったら一度で無力化されるような精神操作呪文への備えは欠かした事がなかった。

 

「でも『レーティングゲーム』の時は外した?」

「はい、念視系の効果で観戦されるのが事前に判っていましたので。不審に思われないためにも使わないでいました」

 

 なぜナティが『レーティングゲーム』の事を知っているのか。疑問に思いながらもフェイは素直に答える。

 マインド・ブランクには精神操作からの防護の他、もう一つの効力がある。それが念視からの防御。

 遠視の姿見や、水晶球を通して遠隔地からフェイの姿を見ようとしても、マインド・ブランクの効果中にあった場合は、姿が映らないのだ。

 

「改めて聞くけど、『レーティングゲーム』が始まるまで、マインド・ブランクを欠かさなかったのよね?」

「はい――あっ」

 

 念を押すようなナティの質問の意図に気付いたフェイの顔がサッと青褪める。

 

現実の大渦巻(リアリティ・メイルストロム)に呑まれたまま、念視にも映らないアンタを探すのは本っ当に骨が折れたわ」

「……すみません」

 

 裏を返せばそれだけ必死になって探したという事でもあるが、己の失態に恐縮するばかりのフェイはそんなナティの真意に気付くこともなかった。

 

「こちらの『レーティングゲーム』に参加する為にアンタがマインド・ブランクを切ったお陰でようやく手がかりを掴めてこの世界にやって来られたのよ。その時に魔王さん達と知り合いになってね」

 

 そう語るナティの言葉で、だからフェニックス夫人と共に来たのかとフェイは半ば納得した。

 そのフェイにバハムートが内から『白金竜の籠手』を現出させろと指示を出してくる。

 フェイはその指示に従い、『白金竜の籠手』を現出させる。

 

『久しいな、ナティントラパよ』

 

 バハムートの化身(アヴァタール)に直接救われたこともあるナティは、直ぐに籠手の中に眠る力の正体に気付き跪く。

 

「バハムート様、そのようなモノに化身をお封じに?」

『意図して封じたわけではない、この世界に来ることにより我に纏わる聖遺物が複数融合した結果、集められた神力の中で覚醒した意識よ。思考は限りなく本体に近いが、本体と同期(リンク)はされておらぬ故に化身とも呼べぬ』

 

 しかしナティはバハムートの言葉に感動して涙すら流していた。

 

「フェイ。教義の体現(正義の味方)はまだしも、拳術と魔術にかまけて信仰の秘蹟には熱心でなかったアンタがよくぞここまで!」

 

 なにやら誤解されている気もするが、フェイが口を挟める雰囲気でもなかった。

 

『ナティントラパよ。我の宿る籠手を焦点具として、交神(コミューン)を発動するのだ』

「はっ」

 

 ナティはバハムートの言葉に即座に頷き、コミューンの呪文の準備を始める。

 聖水を『白金竜の籠手』へと振りかけ、香を焚き、時間をかけて詠唱を行う。

 10分ほどの儀式の時間が過ぎた後に、ナティが『白金竜の籠手』に触れて呪文を完成させると、籠手が一際輝き始めた。

 輝きが収まった時、バハムートが再び籠手から声を発する。

 

交神(コミューン)により本体との経路(パス)が繋がれ、我と本体の情報が共有された。フェイ、そしてナティントラパよ。これよりこの世界において、我が言葉はバハムート自身の言葉と思え」

「はい!」

 

 フェイとナティは深々と頭を下げる。小猫は横でその光景を興味深そうに眺めていた。

 

 ◇◇◇

 

 折角だから学園を案内しろとのナティの言葉により、フェイと小猫はナティに学園を案内していた。

 その途中の廊下で随分と人の流れが滞っている。丁度人垣の外側に兵藤やリアス達といったオカルト研究部の上級生組が居たので、フェイはそちらに近づいた。

 リアスはなぜだか無表情で固まっているので、兵藤に声を掛ける。

 

「兵藤先輩、どうしたんです? これは」

「おお、フェイか。あれをどう思う?」

 

 声を掛けられた兵藤は、フェイに視線を向けることなく人だかりの中心を指し示す。

 人垣の向こうには魔法の王笏(マジック・ロッド)と思わしき意匠の杖を器用に振り回し、臍が出んばかりに丈が短い上衣(チュニック)や、下着が見えそうな程短いスカートといった華やかな衣装でポーズを決めている少女がいた。

 

「魔法使い……ですかね?」

「あら、あれは……。まあ、魔法使いね」

 

 意匠としては変わってはいるが、フェイの世界ではあのような格好もそう珍しくは無い。特に鎧を身に着けない魔術師達ならば。

 見て感じた通りを口にしたフェイにナティもなにやら含みは見せるが同意する。

 

「あれ? 普通に見えるのか……ってかその美少女誰だよ!?」

「人間ではあまり見ませんが、エルフの魔術師などは割とあんな感じに露出した衣装が多いですよ? あとこちらは俺の師匠のナティントラパ様です」

 

 フェイとナティの会話でやっとフェイの方に目を向けた兵藤が、ナティを見て驚く。

 フェイは簡潔にナティを紹介した。

 

「ファンタジーすげぇーっ! ってかフェイの師匠ってどういうことだ? どう見てもフェイより年下だろ!?」

「いや、師匠は実際は俺よりもよんっ!! ……まあ少々(・・)年上です」

 

 兵藤の言葉に、フェイが真実を告げようとしたが、直前に悪寒が発したので、慌てて言葉を言い換える。

 言い換えた言葉は許容範囲(セーフ)だったようだ。

 

「ナティントラパよ。フェイが世話になっているわね。長ければナティって呼んでくれていいわよ」

「あっハイ。俺は兵藤一誠っす」

 

 フェイすらも怯えさせる程の殺気を出した元のナティは澄ました顔で自己紹介する。兵藤も驚きながらもそれに応じる。

 そんな事をしているうちに、生徒会の一員である匙が現れ、人だかりを散らし始めた。

 

「オラオラ、解散だ、解散! 通行の邪魔だし、公開授業の日にこんな所で騒ぎを起こすんじゃねぇよ!」

 

 匙やその仲間の生徒会役員達に人垣は散らされ、残ったのは匙たち生徒会とオカルト研究部とその関係者、そして謎の魔術師のみであった。

 

「あんたもこんな所でそんな格好しないでくれよ。もしかして生徒の家族ですか? だとしても場所にあった格好をして下さいよ」

「だってこれが私の正装だもーん☆」

 

 匙が疲れたように魔術師の少女に告げるが、馬耳東風の少女。

 匙は悔しげに奥歯を軋ませる。

 

「いい加減にしなさいよ、セラフォルー」

「あら、ナティちゃんも来てたのね☆」

 

 少女と既に知り合いであったらしいナティが少女――セラフォルーに声をかける。セラフォルー? 聞き覚えのある名前にフェイは首を傾げた。

 

「現四大魔王のお一人、レヴィアタン様よ」

 

 フェイの疑問に補足するように、硬直から再起動したリアスが説明した。

 

「セラフォルーさま、お久しぶりです」

「あら、リアスちゃん☆ 元気にしてましたか?」

 

 リアスの挨拶にセラフォルーは可愛らしく問いかける。

 

「は、はい。お陰さまで。今日はソーナの授業参観ですか?」

「そうだよ☆ ソーナちゃんったら、酷いのよ。今日の事を黙ってて! サーゼクスちゃんから聞かないで今日を逃したら、ショックで天界に攻め込むところだったんだから☆」

 

 どうやら魔王サーゼクスは影で戦争の危機を回避したらしい。

 

「イッセー、ご挨拶なさい」

「フェイ、挨拶」

 

 リアスとナティがそれぞれに挨拶を促す。

 

「は、はじめまして。兵藤一誠です。リアス・グレモリー様の下僕で『兵士』をやってます!」

「フェイです。ナティントラパ様の弟子になります」

「はじめまして☆ 私は魔王セラフォルー・レヴィアタンです☆ 気軽に『レヴィアたん』って呼んでね☆」

 

 どう反応したものか。軽すぎる魔王にフェイと兵藤は揃って乾いた笑いを漏らした。

 するとセラフォルーはフェイとの距離を僅かに縮めて笑いかける。

 

「貴方がフェイくんよね。フェニックスを倒す程の氷結魔法の使い手」

 

 フェイは緊張で生唾を飲み込む。確かセラフォルーは強力な氷結魔法の使い手だという話だ。

 それで競争意識を持たれていたとすれば……。

 

「それにバハムートの信徒。……知ってる? こちらではバハムートは深海の光魚と言われる神獣だってこと☆」

「ええ……サーゼクス様の眷属だとか」

 

 セラフォルーの話の意図が読めず、ただ頷くフェイ。

 

「バハムートはね、こちらの神話ではベヒーモスと同一視される事があってね、ベヒーモスはレヴィアタンと一対の関係といわれることもあるんだよ☆」

 

 そう言いながらもセラフォルーはさらに距離を縮めてフェイの腕を取り、フェイの耳元で囁く。

 

「私、同じ氷結使いのバハムート君に興味出てきちゃたな☆」

「いいかげんにっ」

「離れて下さいっ」

 

 そんなフェイとセラフォルーの間にナティと小猫が入り込み、力ずくで引き剥がした。

 『戦車』と竜の怪力の前には魔王といえども抵抗は出来ない。

 

「何事ですか? サジ、問題は速やかに解決しなさいといつも――!?」

 

 シトリーが現れたのはそんな時だった。匙に説教を始めようとしたが、セラフォルーを目にして絶句する。

 

「ソーナちゃん見ーつけた☆」

 

 セラフォルーがアッサリとフェイから離れ、嬉しそうにシトリーに抱きついていく。

 シトリーの後からやってきたサーゼクスが暢気にセラフォルーに声を掛けた。

 

「ああ、セラフォルーか。キミもここに来ていたんだな」

 

 その更に後ろにはサーゼクスと似たような紅毛の男性――おそらくはリアスの父と、フェニックス夫人、レイヴェルの姿があった。

 

「ふむ、ナティ君はフェイ君ともう会ったんだね。丁度良いから紹介しようか。キミの扱う駒を作成した時の協力者(・・・)スポンサー(・・・・・)だよ」

 

 サーゼクスはそう言って、ナティ(協力者)フェニックス夫人(スポンサー)をそれぞれ示した。

 




気がついたら日間ランキングに入っていました。
いつも読んで下さっている方、評価を下さった方ありがとうございます!

初めて読んで下さった方は気に入って下さったらこれからよろしくお願いします。

感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。


D&D知らない人向けムダ知識

交神(コミューン)
 本来は神格あるいはその代理人と交信してYes/Noで答えられる質問をする呪文。
 神の力の及ぶ限りで正しい回答を貰える。
 質問できる回数は術者レベル回。


現実の大渦巻(リアリティ・メイルストロム)
 現実そのものに一時的な穴を穿ち、その中に固定されていない物や生きているクリーチャーを吸い込んで、外の次元へと送ってしまう呪文。
 この作品の冒頭でドラゴンプリーストが命を賭して使った呪文。秘術呪文のはずなのに。
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