フェイ達は関係者が揃ったので丁度良いというサーゼクスに請われ、オカルト研究部部室へと場所を移していた。
リアスの父は移動中に出会った兵藤の父母と語る為に案内に木場をつけて行動を別とした。
シトリーは公衆の面前でセラフォルーに構われる羞恥からその場を逃げ出し、セラフォルーはその
「サーゼクス様、まず私からよろしいかしら?」
「ええ、お願いします」
部室に皆が腰を落ち着けた所でフェニックス夫人が口を開き、サーゼクスも鷹揚に頷いた。
「レイヴェルの母でございます。レイヴェルがお世話になっておりますわ。本当は学園を取り仕切っているリアスさん達にはもっと早くにご挨拶に伺う筈でしたが、遅れてしまって申し訳ありませんわね」
「いいえ、そんなことありませんわ、おばさま。本来ならここに来るのも難しかったでしょうに」
フェニックス夫人が恐縮して謝るも、リアスは労わるようにそれをとどめた。
ライザーとの婚約騒ぎはあまり尾を引いていないようだ、とその様子を見てフェイは判断する。
「それからフェイさん」
「――っ! はい、なんでしょう」
余計な事を考えていたのが見抜かれたのか、突然話を振られて慌てるフェイ。
そんなフェイを見ながらフェニックス夫人は微笑みながら言葉を継いだ。
「貴方はレイヴェルと同学年で同じクラスと聞きます。レイヴェルはまだまだ世間知らずです、人間界で変なムシがつかないよう、傍にいることが出来る貴方に守って貰えないでしょうか?」
フェニックス夫人の言葉にナティは、お前の娘が変なムシそのものだと言わんばかりの渋面を作り、小猫も顔を引きつらせる。
そんな二人の心中を知らないフェイは、力強く頷いて答えた。
「俺の力の及ぶ限りは必ず。レイヴェルはお任せ下さい!」
そのフェイの言葉にフェニックス夫人は顔を輝かせ、レイヴェルが顔を赤く染める。その陰でナティと小猫は二人してそっと溜息を漏らす。
「感謝致しますわ。……レイヴェル。あなたのすべきことはわかっていますね? リアスさんを立て、諸先輩方の言うことをよく聞き、同輩――フェイさん達との仲を深めなさい。フェニックス家としてその名を汚さぬよう励むのですよ?」
「もちろんですわ、お母さま!」
滔々と諭すフェニックス夫人の言葉に、レイヴェルは赤面しながらも気合をいれて頷いた。
「最後にフェイさん。私達フェニックス家も駒の研究に資金提供した以上、内情は理解しています。その上でですが――娘はライザーとトレードした為、私の眷属『僧侶』となっておりますわ。実質フリーの立場となっております、そのことをお忘れなく」
フェイでもフェニックス夫人が何を言わんとしているのかは察する事が出来た。フェイがこれから手にする『駒』に関わる話だ。小猫はトレードという単語に一瞬顔を輝かせた後一転して表情を暗く沈める。レイヴェルは頬を紅潮させたままだ。
だが、その空気に冷や水を投げかける者がいた。
「まあ、
ナティは不満げに、だが冷静に問題点を指摘する。
「私の協力で作成した、
ナティの言葉に一同が沈黙する。――いや、真っ先に声を上げたものがいた。
「はい! 私は既にバハムートに改宗したので問題ありません!」
イリナが元気良く手を上げる。ナティは一瞬呆気に取られるも、コイツが居たかと苦々しげな表情を作る。
「たしか貴方はバハムートに改宗して力を失ったパラディンだったわね。後で
ナティの問いかけにしばしの沈黙。そこにバハムートが声をかける。
『ナティントラパよ。汝とフェイはこの次元界における
バハムートの語る『御使い』とは、神格が物質界――一般的に肉体を持った生物が生きる世界――に介入するときに遣わす者を指す。バハムートの場合、一般的には
また、『眷属』とは
「招請呪文に応じた『眷属』は返礼と引き換えに奉仕を提供する契約を行う。返礼が見合わなかったり、望まぬ内容の奉仕をする必要はないわ」
ナティはバハムートの『御使い』と選ばれた事に感動を覚えながらも、『眷属』に必要な説明を行う。
信仰呪文に詳しくなかったフェイはなるほど、と納得する。これはまるで――
「私達の悪魔の契約と変わらないのね」
リアスも感心したかのように声を漏らす。
「わ、私はフェイさまの信じるバハムートさまの教義を尊重できますわ!」
レイヴェルが高らかに声を上げ、もとより純血どころか悪魔ですらない人間への想いを後押ししていたその母も後押しするように頷く。
「……私もそれなら構わないわ」
仕方ないとばかりにナティが頷いたところで、サーゼクスが小ぶりのケースを差し出し、中を開けてみせる。
「話が纏まったようで良かった。丁度『竜神の駒』の現物が出来上がって届いた所なんだよ」
ケースの中には白金に輝くチェスの駒が一揃い並べられていた。
「それじゃあ、フェイが
「ちょっと待って下さい、師匠は俺より強いのだから、配下になど出来ないのでは?」
ナティが仕切りだした所で、慌ててフェイが口を挟む。師匠を配下にするなど畏れ多いことだ。
「バカね、フェイ。その為にわざわざ私が開発に協力したんでしょうが。それに『人間』勢力の代表となるには、アンタじゃなきゃ駄目なのよ。他に異論は?」
「「あります!」」
フェイが『竜王』は当然だが、『竜女王』はお前じゃないとばかりにレイヴェルとイリナが口を挟んだ。
その結果、実力でお互いの座を争うことになり――ナティが『竜女王』、イリナが
イリナはもとより、火に完全耐性を持つ
その間、小猫はずっと浮かない顔をしており、リアスもそれをみて悩ましげに思案していた。
◇◇◇
翌日の放課後、オカルト研究部の部員にナティを加えた面々は、旧校舎一階にある「開かずの教室」とされていた部屋の前に集まっていた。
厳重に封鎖されており、内側も覗くことも適わぬこの部屋の中に、グレモリー眷属のもう一人の『僧侶』が居るらしい。
これまで能力が危険視されてリアス・グレモリーには御しきれぬとこの部屋に封印されていたのだが、先日のライザー・フェニックスとの『ゲーム』や、コカビエルの撃破といった実績が評価されて封印を解く事が許されたのだ。
「一日中ここに住んでいるのよ。一応深夜には外に出ることも許されているんだけど……中にいる子自身が拒否しているのよ」
魔術による刻印の施された扉に向かって腕を突き出し、魔方陣を展開しながら――魔術による封印を解いているのだろう――リアスが説明する。
「引きこもりなんすか?」
兵藤が驚いたように問い返すと、リアスは溜息を吐きながら頷いた。
「そんな状態では封印が解けても外に出ようとしないのでは?」
「だからといって、ずっとこのままという訳にもいかないわ」
疑問に思ったフェイがリアスに訊ねるが、リアスは困り顔をしながら首を横に振った。
「それに外に出ないとはいえ、パソコンを通じて外の人と接して眷属一番の稼ぎ頭にまでなっているのだから、なんとかなるとは思いますわ」
姫島もそれに補足をする。そんな事を話しているうちに、リアスは扉の封印を解いたようだ。刻印の消えた扉に手をかけた。
「さあ、扉を開けるわよ」
そういってリアスが扉を開けると――。
「イヤァァァァァッ!」
扉の奥から絶叫が響く。リアスと姫島は全く動じずに溜息を吐くと、二人で部屋へと入っていった。
「ごきげんよう、元気そうでなによりだわ」
「ななな、何事ですかぁ?」
部屋の奥の会話がフェイ達の耳に届く。
「あらあら、封印が解けたのですよ。お外に出ても良いのです。さあ、私達と一緒にお外に出ましょう?」
「やぁでぇすぅぅ! ここがいいですぅぅぅ! お外になんか出たくありませぇぇん!」
優しく語り掛ける姫島の声。だが、『僧侶』の反応は拒絶だった。
兵藤とアーシアが顔を見合わせて、部屋の中へと入っていく。木場や小猫達もそれに続いたので、フェイも同じく部屋に入ることにした。
部屋の内装は女性らしく装飾されていて、部屋の隅にはひとつの棺桶。寝具が見当たらないので
「
「アンデッドには見えませんが」
「眷属なんだから悪魔に転生してるんじゃないの?」
「なるほど」
リアスや姫島と共に居る、金髪をした駒王学園の女性徒を見ながら、フェイとナティは小声で会話する。
「おおっ、うちの『僧侶』はまたしても外国の女の子ですかっ!」
フェイ達をよそに、兵藤が興奮して喝采を上げた。だが、リアスは兵藤に向かって首を横に振る。
「イッセー。この子は見た目は女の子だけれど、紛れも無く男の子よ」
リアスの言葉に兵藤は固まる。『僧侶』は女装趣味があるらしい。
『僧侶』曰く――女の子の服の方がかわいいから。部屋の内装といい、大分少女趣味を持った少年のようだ。
見た目も美少女に見えていたため、仲間に美少女が増えたと歓喜していた兵藤の落胆は凄まじかった。
『僧侶』はそんな兵藤やフェイ達を指してリアスに訊ねる。
「ところで、この方達は誰ですか?」
「あなたがここに居る間に増えた眷属――と協力者の部員よ。『兵士』の兵藤一誠、『戦車』のゼノヴィア、あなたと同じ『僧侶』のアーシア・アルジェント。それから『竜王』のフェイ、『竜女王』のナティントラパ、『竜騎士』の紫藤イリナ、『竜僧侶』のレイヴェル・フェニックス。フェイ達は悪魔ではなく竜神の眷属という形になるわ」
それぞれがよろしくと挨拶をするが、『僧侶』はパニックに陥るだけだった。
「ひぃぃぃっ! 人増えすぎぃぃぃっ!」
リアスはそんな『僧侶』を落ち着かせるように優しく肩に手を置き、言い含める。
「お願いだから外に出ましょう? ね? もう封印されている必要はないのよ?」
「嫌ですぅ! お外怖い! 僕なんか外に出て行っても迷惑かけるだけなんだぁぁぁ!」
だが、リアスの言葉もむなしく『僧侶』は泣き喚くだけだった。
兵藤がそんな『僧侶』にツカツカと歩み寄り、強引に腕を引こうとする。
「ほら、部長も外に出ろって言ってるだろ――」
その時だった。『僧侶』が悲鳴と共に輝きを放ち、兵藤――のみならずフェイとナティ、そして『僧侶』自身を除く全員が静止した。
「
「はい」
呪文抵抗――ドラゴンが種族として保有しており、モンクが修行の末に手に入れる呪文に対する防御能力により『僧侶』の何らかの能力を防いだのだ。
「
「単純な麻痺にも見えないわね。範囲型の
指定した条件を満たすまで人を麻痺状態にするトランスフィクスに似た擬似呪文能力か、相手の時間を停止させるテンポラル・ステイシスに似た擬似呪文能力なのか。
フェイとナティがそのように確認しあっていると、『僧侶』が怯えたように悲鳴を上げて棺桶の中に逃げ込む。
「なんで停まらないんですかぁぁぁぁ」
「なんでと言われてもねぇ」
ナティが困ったように声をかけるが、『僧侶』は怯えるばかりで外に出てこようともしない。
どうしたものか、
「あれ?」
「おかしいです、何か今……」
「……何かされたのは確かみたいだね」
「あれっ、あの子がいないよ?」
「瞬間移動能力でしょうか?」
兵藤やアーシア、ゼノヴィア、イリナ、レイヴェルが驚きの声を上げるが、それ以外の昔からリアスの眷属で居たものは驚いていない。
やはり、今のモノが制御できずに封印されたという『僧侶』の能力なのだろうとフェイは考える。
持続時間があるようだが範囲型の時間停止――確かに恐ろしい能力である。
「あの子はそこの棺桶の中ですよ」
「そう、貴方の感知能力は凄いわね」
フェイが『僧侶』の居場所を教えると、リアスは溜息を吐きながら棺桶を開けようとする。
「いやだぁぁぁ。停まらないその人達怖いですぅぅぅ」
棺桶の中から聞こえてくる声にリアスは首をかしげながらフェイの方を見る。
「俺と師匠は呪文抵抗能力でその子の能力を防ぎました。時間停止能力に見えましたが実際はどのような能力なんです?」
フェイの言葉にリアスを含めて
「――その子は興奮すると、視界に映した全ての物体の時間を一定の間停止することが出来る神器を持っているのですわ」
姫島が補足する。対象、視界内の全て。思った以上の威力にフェイ達も驚く。
「なんでもありね、神器ってのは」
「私としてはあなた達の方が驚きだわ」
ナティの言葉には溜息をもって返すリアス。
「つまり神器を制御出来ない為に今まで封印されていたと?」
フェイが確認をするとリアスは『僧侶』が隠れる棺桶を優しく撫でながら頷くと、フェイ達全員に向けて言った。
「この子はギャスパー・ヴラディ。私の眷属『僧侶』で、一応は駒王学園の一年生なの。――それから、転生する前は人間とヴァンパイアとのハーフよ」。
Q.なんでわざわざ『竜~』ってつけたの?
A.
感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。
D&D知らない人向けムダ知識
精神的に相手の体を麻痺させる場を作りだす呪文。
発動時に場の中にいても、後から場に入っても作用する。
効果を受けた者は術者が指定した条件を満たすか呪文の持続時間が終了するまで麻痺して動くことが出来ない。
条件は「夜中に日の光がさすまでここにいる」などあり得ない条件でもよい。
接触した相手の時間を停止させ、活動停止状態にする呪文。
停止したものは歳も取らず、いかなる外的要因からの被害をうけることもない。
持続時間は永続で、