フェイはアザゼルへと向き直り質問を投げかける。
「堕天使は、神器を研究していると聞いています。そして、神器を持つ人間を危険視して後顧の憂いを断とうと殺している場面にも私は出くわしています。これについては堕天使総督から何か意見はありますか?」
「まあ、事実だな。俺たち堕天使は、害悪になるかもしれない神器保有者を始末しているのは確かだ。組織としては当然の判断だと思っている。将来、外敵となるかもしれない者を事前に察知できたら始末したくなるものだ」
アザゼルはフェイの問いかけにやや真剣な態度で答えた。
「つまり……人間を潜在的な敵とみなしているわけですね。我々もみすみす同胞を殺されるわけにはいかない。このままなら将来確実に外敵になりますが、始末しに来ますか?」
「クハハッやっぱり面白ぇな、お前さん。だが神器を扱いきれない者はどうする? 例えば『停止世界の邪眼』のような力を持つ者を放置は出来ないだろう?」
アザゼルの答えにフェイは更に問いかけを重ねるが、アザゼルは笑いを漏らし別の問いをもって返す。
フェイは真っ向からその問いに答える。
「扱う知識が足りないなら教えれば良い、力が足りないのならば鍛えれば良い。暴走するのならば神器を封じるという手段もあります。少なくとも、事前に始末するという選択は我々にはない。勿論神器を用いて悪事を働くというのならば、罪には罰を与えて然るべきだとも考えていますが」
「そりゃそうだな、秩序がなければ暴走するだけだ。無論そんなものがなくても高潔な奴は居るだろう、だがそうでない者も大勢居る。そういった連中をどう御するかだが……しばらくはお手並み拝見といかせてもらうぜ。配下の連中にもよく言っておく――俺ら堕天使は人間陣営の代表を認めよう!」
フェイの答えにアザゼルはニヤリと笑うと、高らかに宣言した。
「私達の問題は『はぐれ悪魔』……かな?」
フェイとアザゼルのやりとりを黙って聞いていたサーゼクスが口を開いた。
サーゼクスの言葉にフェイは頷きながらも言葉を加える。
「そうですね……ただ、他の陣営もそうですが、それに加えてあまりにも人間を
「舐めすぎている……か」
フェイの言葉を反芻するサーゼクス。
「『人間風情』という言葉を俺はここに来てから何度となく耳にしました。堕天使からも、悪魔からも」
続けてフェイが言った内容に心当たりがあったグレイフィアは気まずげに視線を外し、まさに兄がそのような言動をしていたレイヴェルはフェイの後ろで小さくなる。
「つまり、その程度の存在としか思われていないという事でしょう。グレモリーやシトリーは人間の生活に混じり比較的友好な立場でいますが、全ての悪魔が同じようには見えません。だからまず、見下している顔を同じ高さに向けさせます。――そのように貴方は画策しているのでしょう?」
「さて、どうだろうね」
続けてフェイが確認するようにサーゼクスに問いかけると、サーゼクスは微笑みながらはぐらかす。
「ともあれ『はぐれ悪魔』については我々としても問題視している。この先も対策を講じていくと約束しよう。人間陣営の代表は我々から持ちかけた話だから、否やはないね」
「天使側も人間陣営の代表を認めましょう。彼を信じようと思います」
サーゼクスの言葉に続けて、ミカエルが頷き追従する。
「さて、最初の議題である人間陣営の話については皆の理解を得られたと思う。今後の話にはその前提で会話に加わってもらう。それでは次の議題だが――」
サーゼクスが司会役として議題の進展をコントロールする。ミカエルはあえて口を挟むことも無く、アザゼルは元より進行を任せている部分もある。そしてフェイにも特別に口を出すような理由はなかった為、順調に議題が進んでいく。
そして議題の焦点がコカビエルの顛末へと移り、リアスが立ち上がり一部始終の説明を行った。
「――以上が私、リアス・グレモリーとその眷属悪魔、そして協力者が関与した事件の報告となります」
「事件の協力者としてその内容を保証します」
リアスが全てを言い終えると、フェイもそこに一言を加える。
サーゼクスはリアスに頷くと着席するよう促し、リアスもそれを受けて着席した。
「さて、アザゼル。堕天使総督としてこの報告に対する意見を聞きたいのだが」
サーゼクスがアザゼルに問いかけると、アザゼルは不敵な笑みを漏らして答える。
「先日の事件は堕天使の中枢組織
アザゼルの言葉を受けて、サーゼクスが再び問いかける。
「ひとつ訊きたいのだがね、アザゼル。ここ数十年で神器の所有者をかき集めているのはなぜだ? 最初は人間達を集めて戦力増強を図っているのだと思っていたのだが……」
「ええ、天界か悪魔に戦争を仕掛けるのではと危惧していました。『白い龍』を手に入れたと聞いた時は警戒したものですが、戦争を仕掛ける素振りすら見せなかった」
サーゼクスの言葉を継いでミカエルもまた補足した。
その二人の言葉を聞いてアザゼルは苦笑して答える。
「神器研究のためさ。なんだったら一部研究資料をお前ら――特に人間陣営に送ろうか? 少しは暴走するような神器も減るだろう。それに今更戦争をしようだなんて思わねぇよ、俺は今の世界に十分満足している。部下にも『人間の政治に手を出すな』と強く言い渡しているんだ。――まあ、一部の部下が暴走した事についてはなにも言い訳できないがね」
アザゼルは一旦言葉を区切ると周囲を見渡した。
「それにこれ以上こそこそ研究するのも性に合わないとも思っていたんだ。わざわざ人間陣営なんてのも立てる位だ、お前らも最初からそのつもりなんだろう? だったら手っ取り早く和平の話を進めようぜ」
アザゼルのその言葉に一同――特に悪魔と天使の面々が驚きに包まれる。
「私も最初からその予定でしたが、あなたから言い出すとは思いませんでしたよ」
驚きから立ち直ったミカエルが微笑みながら言う。
「我々も同意見だ。戦争は我らも望むべきものではない。――次の戦争を行おうものなら悪魔は滅びるだろうね」
サーゼクスの言葉にアザゼルも頷く。
「そう、戦争なんて始まった日には三陣営は共倒れに終わる。人間陣営だって今の戦力では巻き込まれて散々な影響を受けて、世界ごと終わりに向かうだろう。だから俺らはもう戦争を起こせない」
アザゼルの言葉に、フェイはしばし思案をしてから口を開いた。
「それでもコカビエルは戦争を起こそうとしていた。彼が特別だとは思いたいが、全員が全員上層部の意向に従うわけでもないでしょう。その危険性はないのですか?」
「……まあ、正直全くないとは言えねぇよ。これは堕天使陣営に限らず、全ての陣営で起こりうる問題だ。現状に不満を抱えている連中はどこにだっている、人間だって例外じゃない――お前は俺らが人間を舐めていると言ったがな、俺らにとっても
フェイはアザゼルの返した言葉に引っかかりを覚え、更に問い詰めようとしたその時――時間が停止されかけたのを感じた。
だが、呪文抵抗によりフェイに対する効果は打ち消される。
フェイは即座に周囲を確認する。ナティはフェイと同様に呪文抵抗能力がある為に無事、イリナは咄嗟に『降魔の聖剣』を構えた為、隣にいたレイヴェル共々聖剣の呪文抵抗能力に護られた。他の陣営も首脳陣は無事だが、グレモリー眷属のうち小猫、アーシア、姫島、加えてシトリーは時間停止の巻き添えを喰らったようであった。
上位存在は当たり前のように呪文抵抗を持っているモノであるため、この結果も概ね納得出来る。
それ以外の者も動ける者はなんらかの要因で抵抗能力を得ているのだろう。
フェイは停止した小猫の様子を確認しながらリアスに訊ねる。
「これは『停止世界の邪眼』の暴走ですかね?」
「ええ、そうだと思うけどここまで広範囲に発動するなんて……」
「おそらく禁手化したのさ。力を譲渡できる神器か魔術なりを使ってな」
会議室の窓から外を確認していたアザゼルが口を挟んでくる。
「魔術?」
「見ろよ、あの連中を」
フェイがアザゼルの示す方角を確認すると、黒いローブを来た魔術師然とした連中が校庭や空中を埋め尽くし、フェイ達の方へも魔術による攻撃を加えようとしているが、全て結界で防がれている。
「いわゆる魔法使いって連中だな。ま、お前さんには今更魔法を解説する必要もないだろうが、一人一人が中級悪魔クラスの実力は持ってそうな連中だ」
「アレが人間側で不満を抱えた者ということですか……」
先ほど訊ねようとした事が、現実として襲い掛かって来てしまったことに軽い頭痛を覚えながらも、フェイは襲撃者について考える。
だが、現状として奇襲に近い形で襲ってきているのならば、その前に暴発を叩く必要はあるだろう。
人間の力を示す必要はあるが、それが無秩序な存在であってはいけない。
そこまで考えて、フェイはナティに提案する。
「あれが人間の暴動だというのならば、俺らで抑える必要があります。まずは時間停止の神器を抑えに行きましょう」
ナティはフェイの言葉に少し考え込むと、頷いて指示を出そうとするが、そこにリアスが横から口を挟んできた。
「待って。ギャスパーの救出には私が行くわ。ギャスパーは私の下僕、私が責任を持って奪い返します」
そのリアスの言葉にサーゼクスがふっと笑う。
「リアスならそう言うと思っていたよ。――しかし、どうやって旧校舎まで行く? この新校舎の外は魔術師だらけで、魔方陣による転移も魔術で抑えられているだろう」
「――っ!」
サーゼクスの冷静な指摘にリアスが口ごもる。
そこでフェイが口を開いた。
「俺にいくつか試せる手段があります」。
「私にいい考えがある」は自重しました。
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