ハイスクールD&D 転輪世界のバハムート   作:生ハムメロン

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7話

「俺にいくつか試せる手段があります」

 

 フェイの言葉に会議室にいる主だった面々が顔を向ける。

 

「どんな手段か聞いてもいいかな?」

 

 サーゼクスが代表して問いかけると、フェイは人差し指を立てながら答える。

 

「まず第一の手段。俺の持つ瞬間移動(テレポート)の呪文。魔方陣を用いた転移とは作用が異なっている為、防御がなされていない可能性があります」

 

 続けてフェイは二本目の指を立てる。

 

「第二の手段。呪文の巻物(スペル・スクロール)から、エーテル化(イセリアルネス)を発動する。――この呪文は対象を不可視かつ実体を持たないエーテル(幽体)状態と化します。壁も床も無視して移動できるので、敵を避けて目的地まで進めるのではないかと」

 

 更に三本目。

 

「第三の手段。魔術による封鎖が『レーティングゲーム』で転移を禁じられているのと似た技術を用いられているという前提での話ですが、『竜戦車』の駒とキャスリングが出来るならばその制限も無視できるはずです。ただ、キャスリングでは俺個人での転移になるだろう事を考えると、挙げた順番に試すのが良いかと思います」

 

 フェイの挙げた三つの提案にサーゼクスは少し考え込むと、フェイに訊ねた。

 

「『竜神の駒』は旧校舎に置いてあるのかい?」

「いえ、俺自身が所持しています。――ですが、オカルト研究部の部室に今すぐ置くことは可能です」

 

 フェイは一旦首を振って否定するものの、不敵な笑みを浮かべて18インチ(約46センチ)程の鉄の輪を取り出して見せた。

 リアスはその鉄の輪を見てアッと声を上げる。

 

「それはフェイが伝令用にって部室に置いていた鉄の輪よね」

 

 フェイはリアスに頷いて答えた。

 

「ええ、これは環状門(リング・ゲーツ)。これと対となる鉄の輪をオカルト研究部の部室に置いてあります。そしてこの鉄の輪にくぐらせた物は、対となる輪から出現する。一日に100ポンド(約45Kg)までの制限はありますが、大きさと重量をクリア出来ればどんなものでも転送できます。これ自身の動作は確認しています」

 

 フェイの説明にアザゼルが感心すると同時に疑問の声を上げる。

 

「おいおい、そんな便利なモンがあるのかよ。神器じゃねぇよな? そんなの聞いた事ないぜ」

「俺の世界のマジック・アイテムですよ。詳細はまた後で。――それで、まずテレポートを試そうと思うのですが」

 

 フェイはアザゼルに答えながらも一旦言葉を切り、悪魔陣営の席を確認する。そちらにはナティとイリナが移動していた。

 そしてイリナの『降魔の聖剣』の魔法解呪の能力によって小猫達の時間停止が解除され、動き出していることを確認する。

 

「テレポートを試みる要員は、グレモリー眷属と師――ナティを除いたバハムート眷属という事で」

 

 思わずナティの事を師匠と言い掛けたが、睨まれたので即座に訂正する。眷属のリーダーたるフェイが公の場で配下を師匠などと呼ぶなというのがナティの主張だ。フェイ自身は恐れ多いと考えているが、ナティは断固としてその主張を曲げない。

 ナティ自身としてもフェイの意識改善に好都合な状況であると考えているという事実は、フェイには与り知らぬ事である。

 フェイ自身の魔力はグレモリー眷属とナティを含めたバハムート眷属を転移させる余裕はあるのだが、あえてナティを外した。その理由は――

 

「ま、それが妥当ね。私はこの外で一仕事してくるわ。――本来の姿でね」

 

 ナティが笑いながらフェイの言葉に答える。

 本来の姿――全長55フィート(16メートル)を超える金竜として外の魔術師の制圧を期待されている事を、ナティは理解していた。

 実際に人間の姿でいるよりも遥かに強く、そして畏怖を与えられる。また、相手の筋力を奪う弱体化のブレスにより、なるべく殺さずに制圧することも出来る。この状況に適した選択であった。

 フェイはグレモリー眷属とナティを除くバハムートを集め、互いに触れさせる。

 フェイ自身もレイヴェルとイリナの手を取って、テレポートの呪文を発動する。しかし――

 

「――失敗ね」

 

 ナティの言葉が結果を語っていた。

 テレポートの呪文自体が発動しなかったのだ。フェイの予想に反して、テレポートの呪文に対する防御も作用していたらしい。

 

「仕方ありませんね、では第二の手段を――」

「いや、キャスリングによる転移にしよう」

 

 フェイが速やかに次の手段に切り替えようとしたところで、サーゼクスが提案する。

 

「呪文の巻物は補充が難しいのだろう? 確かにキャスリングで単身乗り込むのは無謀だが、私の魔力方式でキャスリングを複数人転移可能に出来るはずだ。どうかな、グレイフィア?」

「そうですね。この場では簡易術式でしか補正出来ないので、王であるフェイ様ともうお一方なら……」

「ならば私が!」

 

 サーゼクスの言葉にグレイフィアも補足をする。それを受けてリアスが声を上げた。

 だが、サーゼクスが静かに嗜める。

 

「リアス、フェイ君もキミも王だ。眷属を放って王だけが二人で行くのはあまり薦められないね」

「でもギャスパーは私の眷属なんです!」

 

 兄であるサーゼクスの言葉にも、リアスは強く反発する。

 

「だったら俺が――」

「リアス様! サーゼクス様!」

 

 兵藤が声を上げようとしたところで、小猫の叫びがそれに被さる。

 

「お願いがあります!」

 

 これまでになく強い語調で真剣な小猫の言葉に、サーゼクスもリアスも小猫の方に向き直る。

 

「リアス様、サーゼクス様。私はサーゼクス様に命を救われ、リアス様に心を救われました。その恩に背くことになることを承知でお願いします。私を……トレードして下さい」

 

 その小猫の言葉に、グレモリー眷属の面々は一様に驚く――深く溜息をついたリアスを除いて。

 リアスは小猫がいつかこの言葉を言い出すことを薄々感じ取っていた。レイヴェルがトレードをしたという話を聞いたときの反応、そして常々見せるフェイへの態度。まだ先の事だと思ってはいたが、このタイミングで切り出すとは――いや、このタイミングだからこそなのかもしれない。少なくとも今トレードをすることで、リアスにとって利はあるのだ。

 リアスは逡巡するが、意を決して小猫に語りかける。

 

「いい、小猫。グレモリーの一族は眷属を愛し大事にする一族なのよ。だから、眷属の心を殺したまま主人面をして君臨などしていられないわ。私はあなたの想いを尊重する……でもあなたは私の大事な家族のままよ。辛くなったらいつでも戻ってきなさい」

 

 優しく抱きしめながら語りかけるリアスの言葉に、小猫はポロポロと涙を流しながら頷く。

 感動的ともいえる場面に、水を差すものが一名。

 

受け入れ側(フェイ)の確認もなしで話を進めないでよ! ――まあ、どうせ結果は見えてるけど」

 

 投げやりに吐き捨てたナティの言葉に、リアスと小猫は慌ててフェイの方を伺う。

 

「本当にいいんだな?」

 

 フェイが小猫に問いかけると小猫は無言のまま頷き、リアスもまた頷きながらその判断を肯定する答えを返す。

 

「ええ、小猫自身が望み、その相手にも問題がないのならば、私は主として小猫の判断を尊重するわ。……ただ、小猫を泣かすような扱いをしたら許さないわよ」

「――承知しました」

 

 リアスの脅しともとれる言葉にフェイは真摯な態度で首肯した。

 

 ◇◇◇

 

「ではキャスリングするのは私と――」

「はい! 今度こそ俺が!」

 

 『竜戦車』(ドラゴン・ルーク)の駒とのトレードで手にした未使用の『戦車』の駒を手にしながらリアスがグレモリー眷属の方を向くと、兵藤が威勢よく手を上げた。

 サーゼクスは兵藤に目を向けるが、そのままアザゼルに向き直る。

 

「アザゼル。神器の力を一定時間自由に扱える研究をしているという噂だったが、『赤龍帝の籠手』の制御は可能か?」

「ほう……」

 

 アザゼルはサーゼクスの言葉に感嘆を漏らすと考え込む。そしてすぐさま懐を探ると、腕輪を二つ取り出して兵藤に放った。

 

「おい、赤龍帝。こいつを持っていけ」

「俺は兵藤一誠だ! ――これはなんだよ?」

 

 兵藤は腕輪を受け取るとアザゼルに問いかける。

 

「そいつは神器の力をある程度抑え、制御しやすくする腕輪だ。ひとつは例のハーフヴァンパイアに付けてやれ、少しは制御しやすくなるだろう。もうひとつはおまえ自身がはめろ。短時間なら対価を支払わずに禁手化できるはずだ」

「すげぇ、こんなモノまであるのかよ……」

 

 アザゼルの説明に驚く兵藤。アザゼルは更に説明を続ける。

 

「実際に禁手化するのは最後の手段にしておけよ。禁手化したら体力か魔力を激しく消耗させるはずだが、ソイツはその消耗までは調整してくれん。……よく覚えておけよ、今のお前は普通の人間(・・・・・)に毛が生えた程度の悪魔だ。いかに神器が強大でも宿主が役立たずなら弱点となる。――その自覚を持って神器を真に使いこなせるようになれ」

「ああ、わかってる」

 

 アザゼルの言葉を受けて、兵藤は神妙な顔をして頷いた。

 

「さて、キャスリングの調整にはもう少しかかりそうだし、私はそろそろ出て陽動でもしておきましょうか」

「ヴァーリ、お前も行ってこい」

 

 キャスリングの拡張術式の調整を行っているリアス達を横目にナティが陽動を申し出ると、アザゼルもまたヴァーリに陽動を命じた。

 

「問題になっている神器持ちとテロリストを旧校舎ごとまとめて吹き飛ばしたほうが早いんじゃないのか?」

 

 だが、ヴァーリは事も無げに危険な発言を行う。

 

「相手は魔王の身内なんだ、和平を結ぼうって時にそれはやめろ。どうしようも無くなったときの最後の手段として考えてはおくがな」

「やれやれ、了解」

 

 嗜める様でいてその手段自体は放棄していないアザゼルの言葉に、ヴァーリは溜息を吐きながらも同意すると、背中に光の翼を展開させた。

 

「――禁手化(バランス・ブレイク)

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!』

 

 ヴァーリが呟くと、音声と共にヴァーリの体を真っ白なオーラが覆う。白い光がやんだとき、ヴァーリの体は白い輝きを放つ全身鎧(フル・プレート)に包まれていた。

 

「それが話に聞いていた『白い龍』の禁手化ね。――じゃあ私も行きましょうか。『白い龍』や『赤い龍』にとっては小娘にしか過ぎないでしょうけどね」

 

 ナティはそう言い置くと会議室の窓際に近づくと窓を開放し、一気に外に飛び出した。

 ナティの全身が見る見ると変化していき、巨大な竜の姿へと変貌する。

 真の姿を既に知っていたフェイと、ある程度見抜いていた上層部を除き、残った面々はその変貌に呆気にとられれ、ヴァーリは笑い出す。

 

「ハハハッ、やっぱり面白いな。あのドラゴンも、それを従えるアンタも。今のところ宿命のライバルくんよりもよっぽど興味深い存在だぜ」

 

 ヴァーリはフェイにそれだけを言うと、ナティに続いて上空へと飛び出していった。

 外に出た二人の行動は対照的ともいえるものだった。

 ナティは高速で上空を過ぎ去りざまの弱体化ブレスや呪文により殺すことなく戦力を着実に削いでいき、周囲を囲まれた際には尾による一掃攻撃により敵を打ち払っていく。

 ヴァーリはナティとは正反対に集中砲火にも構わずに敵の群れへと突っ込んで行き、大質量の波動弾を放って敵を消滅させていく。

 まさに人間に対する姿勢(スタンス)の違いが如実に現れた二人の戦闘の姿であった。

 だが、二人がどれだけ敵を無力化し、消滅させていっても次から次へと魔方陣が展開して増援が送り込まれてきていた。

 

「アザゼル。もしやとは思うが連中に心当たりは?」

 

 その光景を見ていたサーゼクスがアザゼルに問いかける。

 

「――ない、とは言えねぇな。さっきも言っただろう? 俺たちは戦争を望まない。だが、そうでない連中もいるんだ」

「では?」

 

 アザゼルの答えにミカエルが先を促す。

 

「――『禍の団』(カオス・ブリゲード)。この名前がわかったのは最近だが、うちの副総督シェムハザがそれ以前からも不審な動きをする集団として目をつけていたのさ。そいつらは三大勢力の危険分子を集めている。さらに――」

 

 アザゼルは一旦言葉を区切ってフェイを見る。

 

「禁手に至った神器持ちの人間もな。『神滅具』持ちも何人か確認している」

「その者達の目的は?」

 

 ミカエルがアザゼルに訊ねる。

 

「破壊と混乱。連中はこの世界の平和が気に入らないのさ。単純な話だろう? ――要は最大限に性質の悪いテロリストだ。組織の頭は『赤い龍』と『白い龍』の他に強大で凶悪なドラゴンだよ」

 

 そのアザゼルの言葉に、三陣営の上層部の面々が息を呑む。

 

「……そうか、彼が動いたというのか。『無限の龍神』(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス。この世界が出来上がった時から最強の座に君臨し続ける、神が恐れたドラゴン……」

 

 サーゼクスが表情を硬くする。だが、フェイにとってはその言葉は他とは異なる意味としてもたらされた。

 『無限の龍神』オーフィスがアザゼルやサーゼクスの言う通りの存在なのならば、フェイ――いや、バハムートの信徒にとって、宿敵とも呼べる存在である。

 世界に混沌と破壊をもたらす、ティアマトと同類の存在なのならば――。

 

『そう、オーフィスが「禍の団」のトップです』

 

 突如割り込んできた声と共に、会議室の中央に魔方陣が展開される。

 

「そうか、今回の黒幕は――」

「そんな、まさか――」

 

 サーゼクスはその文様を見て舌打ちし、セラフォルーは驚きに動きを固めた。

 

「グレイフィア、リアスとイッセーくんを早く飛ばせ」

 

 サーゼクスがそう指示をすると、グレイフィアは兵藤とリアスの二人を部屋の隅へと移動させ、『キャスリング』の魔方陣を展開させた。

 

「お嬢様、ご武運を」

「ちょっと、お兄様、グレイフィア――」

 

 リアスは全ての言葉を発しきる前に、魔方陣の光に包まれ消えていく。

 そして会議室中央の魔方陣からは一人の女性が現れていた。

 

「――カテレア・レヴィアタン」

 

 サーゼクスが女性の名を苦々しげに吐き捨てた。

 




感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。

D&D知らない人向けムダ知識

環状門(リング・ゲーツ)
 二つ一組の鉄の輪。
 使用するにはどちらも同じ次元界にあって、互いに100マイル(約160Km)以内の距離にある必要がある。
 一方の輪に入れたものはもう一方の輪から出てくるが、一日に100ポンド(約45Kg)までの制限がある。
 ただし、一部を出してまた戻す分は制限重量に入らない。
 この道具を使うと、アイテムはおろか、伝言や攻撃ですら瞬時に転送出来る。
 頭だけ出して周囲を見回したり、輪に向けて呪文をぶっ放して転送させたりと幅広い使い方が出来る。
 わかる人だけわかる説明をすれば出現しっぱなしで持ち運びが出来るスキマ。
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