ハイスクールD&D 転輪世界のバハムート   作:生ハムメロン

39 / 45
大変お待たせしました。



8話

「御機嫌よう、現魔王(・・・)のサーゼクス殿」

 

 不敵な物言いで魔方陣から現れた女性――カテレア・レヴィアタンがサーゼクスに挨拶をする。

 フェイもカテレアの事は悪魔界隈の情報を調査した際に名前だけ知っていた。先代――魔王が世襲だった頃のレヴィアタンの血を引く旧魔王(・・・)の一族。

 『赤い龍』『白い龍』との戦いで旧四大魔王が滅び、新たな魔王を打ち立てて今後の悪魔の行く末を決めようとした際に、最後まで徹底抗戦を唱えていたのが旧魔王の一族だった。

 だが、長き戦争により戦力が疲弊し、種の存続すらも危ぶまれた悪魔が選択したのは、サーゼクス達穏健派を魔王とした新政権の樹立と、タカ派の旧魔王軍の一門の左遷――冥界の隅への追放だった。

 穏健派ならばこそ主張が異なるだけの旧魔王派への厳しい処断は出来なかったのだろうし、もしフェイ達が同じ立場でもそれは同じだったろう。だが、旧魔王派の不満は燻り続けていた――そして目の届かぬことをいいことに陰ながら力を蓄え、機を伺っていたのだろう。

 現にカテレア・レヴィアタンは挑戦的な笑みを浮かべてサーゼクスに言い放つ。

 

「旧魔王派の者達はほとんどが『禍の団』に協力することを決めました」

「新旧魔王の確執が本格的になったわけか。悪魔も大変なもんだ」

 

 カテレアの言葉にアザゼルは他人事のように笑う。

 

「それは言葉通りの内容と受け取っていいのだな?」

 

 問いかけるサーゼクスに対して、カテレアは慇懃に頷く。

 

「サーゼクス、その通りです。今回の攻撃も我々が受け持っております」

「――クーデター、か。……カテレア、何故だ?」

 

 カテレアの回答にサーゼクスは呟くと改めて問いかける。

 

「サーゼクス、今日の会談とはまさに逆の結論に至っただけです。神と先代魔王が居ないのならば、この世界を変革すべきだと私たちは結論付けました」

 

 カテレアは理屈をつけて説明しているが、恐らく本音は異なるだろうとフェイは考える。

 旧魔王派のおかれている現状、そこに至ったまでの流れを考えれば、ある程度はフェイにも推測出来た。

 それほどまでにこの世界の悪魔は人間臭く……、そして穏健派の人は良すぎたというだけの話だ。

 

「……どうだかな」

「なんですか、人間」

 

 言葉を口に出したフェイにカテレアが視線を向ける。

 

「神と先代魔王が居なければ……なんてものは建前だろう。変革などと聞こえの良いことを言うが、結局は自分たちの思い通りにならない世界を打ち壊して、自分たちの思い通りにしようというだけだろう――そんな連中をごまんと見てきた」

「なっ、我等の理想を馬鹿にするのかっ」

 

 フェイの言葉にカテレアが気色ばむ。

 

「俺はそれを理想とは呼ばない。――欲望だ。なまじ実権を握っていた旧魔王派が実権を奪われたものだから、本来持っていた正当な権利(・・・・・・・・・・・・)を取り戻そうとする。それだけの話だろう? だが――たとえそれがアンタ達の正義だとしても、暴力を持って征服するそのやり方を、俺は、バハムートは認めない!」

「ちっ、たかが人間が偉そうにっ! 正当なるレヴィアタンの血族である私が魔王となるべきなのですっ! その邪魔をするなっ!」

 

 フェイはカテレアに向かって静かに断言する。

 それを受けたカテレアはフェイを憎々しげに睨み付ける。

 そんなカテレアをセラフォルーは悲しげに見つめ、アザゼルは本音が出たなとニヤリと笑った。

 

「ベヒーモスとバハムートは元は同一……でしたか」

 

 フェイはカテレアを向いたままセラフォルーに話しかける。

 

「え? 確かに前そう言ったけど……」

 

 フェイの発言の意図が掴めず、戸惑いながらセラフォルーは答える。

 

「ならば……レヴィアタンの対となる存在、ベヒーモスの代わりとして、俺が彼女の相手をします。よろしいですね」

 

 続くフェイの言葉はセラフォルーのみならず、首脳陣全員に向けたものだった。

 同時に構えを取り、白金竜の篭手を顕現させる。

 

「フェイ君……」

「おお、そいつが噂の神器か。後でじっくり見せてもらいたいもんだぜ」

 

 セラフォルーはフェイの言葉に涙ぐみ、アザゼルは顕現された白金竜の篭手を見て軽口を叩く。

 

「……カテレア、降るつもりはないのだな?」

 

 サーゼクスが最後の確認といった風情でカテレアにたずねると、カテレアは首を横に振って答える。

 

「ええ、サーゼクス。あなたは良い魔王でしたが、最高の魔王ではありませんでした。私達は最高の魔王を目指します」

「……残念だ」

 

 カテレアの答えに、サーゼクスは本当に残念そうな表情を浮かべる。

 その様子を横目に、突如アザゼルが会議室の窓に手を向けると、窓際全域を吹き飛ばした。

 

「お前ら、こんな中でやる気か? 外でやれ、外で。それとも俺ら全員相手にして勝てる自信があるのかね?」

 

 挑発するようなアザゼルの言葉に、カテレアは舌打ちすると上空へと飛び出していく。

 

「小猫、イリナ、レイヴェル。お前達は外の魔術師を無力化してくれ。自らの安全を第一にな」

 

 フェイは残る仲間にそれだけ指示を出すと、カテレアの後を追って上空へと飛び出そうとするが、そこに声がかかる。

 

「フェイ君、カテレアちゃんをお願い……」

 

 普段と異なり力なく消え入りそうなセラフォルーの言葉に、フェイはセラフォルーを安心させるように頷くとナティから譲り受けた不死鳥の外套(ポイニクス・クローク)を纏い上空へと飛び出していく。

 カテレアは上空でフェイを待ち受けていた。

 

「人間の魔術師風情が私に勝てるとでも?」

「やってみなければわからないさ。それに――俺は人間の魔術師で、バハムートの拳士だ!」

 

 強敵に対するフェイの戦術は大抵同じである。弱体化(デバフ)の光線呪文を拳に込めて、攻撃と同時に相手の力を着実に削いでいく。

 代わり映えしないと言えばそれまでだが、それだけ有効な戦術でもある。この時もまた同様の戦術を取っていた。

 モンクの機動力をもってカテレアの攻撃を躱しながら肉薄して、何度目かの連打を叩き込む。

 カテレアは全周囲に魔力攻撃を放ちながら距離を取り、苦痛に顔をゆがめる。

 

「攻撃と共に相手の力を削ぐ……白龍皇と似たような技を使うのですね。人間と侮っている余裕はないようです。――ならば」

 

 カテレアは懐から魔法の水薬(ポーション)のような小瓶を取り出す。――だが、その小瓶の中身はポーションなどではなく、小さな黒い蛇のようなものだった。カテレアはそのまま小さな蛇を呑み込むと――カテレアに秘められた魔力が極大に膨れ上がっていった。

 

「――っ! 何をしたっ」

「ふふっ、世界変革の為に無限の力を有するドラゴン――オーフィスの力を借りただけです。これで現魔王――忌々しいセラフォルー達とも、ミカエルやアザゼルとも戦える。――それに」

 

 カテレアは膨れ上がった魔力を使って巨大な魔方陣を描き出した。

 

「私達旧魔王派は、惰弱な悪魔とは違って『悪魔の駒』などに頼ってはいません。『女王』や『騎士』などといった下僕も存在しません――ですが、眷属は存在するのですよ」

 

 カテレアの描いた魔方陣から、徐々に巨大な生物が姿を現そうとしている。

 ――まずい。フェイはそう直観する。その生物に見覚えがあるわけではない。だが、現れようとしている姿、それはフェイは知識としては知っているものだった。

 

「所詮肩書きではないセラフォルーは持たない、レヴィアタンの血族だからこそ持つレヴィアタンの仔。さあ、暴れなさい――タラスク!」

 

 タラスク――フェイの世界では唯一無二の怪物。頑丈かつ反射性が高く、あらゆる遠隔攻撃呪文を反射する甲羅を持ち、生半可な攻撃ではそもそもダメージすらも与える事が出来ず、それが通じても傷を負わすことは出来ない(非致傷ダメージとなる)、更には即死呪文や分解呪文ですらも息の根を止めることが出来ない再生能力。一度出現すれば巣に帰り休眠するまで街や国ごと喰らい尽くすと言われる最悪の魔獣。

 殺すためには、神の奇跡に等しい力が必要となる。

 なぜ、そのタラスクがこんな所にいるのか、なぜカテレアが自由に操れているのか、疑問は尽きないがフェイが理解出来ることはただ一つだった。

 今のフェイだけでは奴を倒すことは適わないということ。――だが、希望もある。

 確かにフェイだけでは適わない――だが人間は本来単独で戦うものではない。

 

「よう、バハムート。大変そうだな」

 

 気づくとフェイの脇にはアザゼルがやって来ていた。

 堕天使総督――タラスクの防御を貫く可能性を持った神話級の存在。

 そして、異変を察知したナティやヴァーリがこちらへ向かってくるのも感じる。

 この事態に対処するため、フェイはアザゼルに声をかけた。

 

「ええ、大変ですよ、本当に。このままでは結界の外にまで戦火が広がります。力を貸して頂ければ助かりますが」

 

 フェイの言葉にアザゼルは鷹揚に頷く。

 

「ま、言っただろう? これでも俺は平和を望んでいるんだぜ? 早速の陣営を超えた協力体制と行こうじゃないか――ま、そうだな。見返りはお前さんの神器をじっくり研究させて貰えればいいぜ?」

 

 アザゼルはそう笑うと、懐から短剣(ダガー)を抜き出し切っ先をカテレアとタラスクに向ける。

 

「それは?」

 

 フェイの問いかけにアザゼルは笑みを深めながら答える。

 

「俺は神器マニア過ぎてな、こうして自分で制作することもある。レプリカを作ったりもしてな。ほとんどは役に立たない屑モノだが、たまにこうして使えるモンが出来上がるんだよ。こうしてみると神器を開発した神は凄いもんだ。俺が唯一尊敬出来る所だ。――だが、まだ『神滅具』だの『禁手』だのといった世界の均衡を崩すほどの『バグ』を残したまま死んじまうんだから甘いもんだぜ」

 

 アザゼルの口ぶりからすれば、手にした短剣はアザゼル自身が開発した神器なのだろう。フェイが密かに感嘆していると、横から声がかかる。

 

「安心なさい。私達の造る新世界では、神器なんてものは存在しない。そんな物がなくても世界は機能します。――いずれは北欧のオーディンにも動いてもらい、世界を変動させなくてはなりません」

 

 カテレアだった。その言葉にアザゼルは苦々しげに笑うと、吐き捨てるように言う。

 

「ますます反吐が出るような目的だな。余所の神話体系にまでちょっかいを出させて、全てをオーディンに掻っ攫われるつもりかよ。馬鹿かてめぇら!? ――だが、それよりもな。俺の楽しみの邪魔を、するんじゃねぇよっ!」

 

 アザゼルの持つダガーが形を変えて、分解しながら光を噴き出していく。

 

禁手化(バランス・ブレイク)……ッ!」

 

 アザゼルの言葉と共に一瞬の閃光が迸り、光が収まった時にはアザゼルの全身は黄金に輝くフル・プレート(全身鎧)に包まれていた。

 ヴァーリと同じようにどこかドラゴンを彷彿させるようなデザインの黄金の鎧。その背から十二枚の黒翼が展開されている。

 

「『白い龍』や他のドラゴン系神器を研究して造った、俺の傑作人工神器だ。『堕天龍の閃光槍』(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)、それの擬似的な禁手状態――『堕天龍(ダウン・フォール・ドラゴン)の鎧』(・アナザー・アーマー)だ」

 

 フェイとアザゼルは頷きあい、白金と黄金、二人の龍はタラスクへと突進していった。

 




感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。


D&D知らない人向け無駄知識

不死鳥の外套(ポイニクス・クローク)
 不死鳥の王権(レガリア・オブ・ザ・ポイニクス)と呼ばれる一連の宝具の一つ。
 良質な黄金の鎖で編まれた外套で、黄金製の羽と極小のルビーで装飾されている。
 だが、黄金製でありながら布のように軽く感じ、絹のように風に流れる。
 これを装着していると完璧な飛行機動性かつ地上移動速度で飛行出来る。
 高レベルモンクが装着するととても酷い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。