ハイスクールD&D 転輪世界のバハムート   作:生ハムメロン

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相変わらずお待たせしています。


エピローグ

 タラスクの鋭い牙が並んだ顎が、フェイの身体を捉えて噛み砕く――かに見えた。

 だが、その身体は血を流すこともなく霧散する。――フェイの鏡像(ミラー・イメージ)の呪文により作り出された虚像である。

 実体を持たぬ虚像を攻撃させることで、タラスクの噛み付きをやり過ごそうとするフェイだったが、その狙い通りにはいかなかった。

 タラスクは虚像を噛み砕いた勢いのまま、ガチガチと歯を鳴らしながらも他の虚像へと喰らいついて行く。

 勢いの止まらぬ(薙ぎ払い強化を持つ)タラスクは虚像を次々に消滅させながらついにはフェイを捉えた。

 

「ちっ、ミラー・イメージの効果は低いか。だがっ」

 

 タラスクがフェイの身体をしっかりと捉え、浅くはない噛み傷を残す。本来ならばここで食い千切られるか、そのまま丸呑みにされる所であるが、フェイもまたこのような巨大な敵――主に悪のドラゴンだが――との戦闘経験が豊富な歴戦の戦士である。普段から準備している水の心(ハート・オヴ・ウォーター)の呪文の特殊効果を起動し、強靭な顎からするりと抜け出す(フリーダム・オヴ・ムーヴメント効果を得る)

 だが、タラスクの攻撃は終わらない。続けざまに鋭い槍のような角がフェイを突き刺さんと振るわれる。フェイは身体を捻り、辛うじて回避をするが、体勢が崩れたところに轟音を立てながらタラスクの巨大な腕が振り下ろされる。

 タラスクの爪はそれでも躱そうとしたフェイの身体を掠め、深い爪痕を残していく。

 身体を切り裂かれて一瞬動きの止まったフェイを打ち据える為、タラスクの太い尾がうなりを上げてフェイに襲い掛かる。

 端から見ればフェイの身体はタラスクの尾に吹き飛ばされたかに見えたが、その尾はフェイの身体をすり抜けるように通過していった。

 ――上級明滅(グレーター・ブリンク)。タラスクとの戦闘に入る際にフェイが発動しておいた呪文である。その効果として、フェイの身体は物質界とエーテル界を行き来して明滅しているように見える。攻撃を受けたときにその身体が幽体化している(エーテル界にある)時は通常の物理攻撃を無効化出来るのだ。グレーター・ブリンクならば意識をすれば明滅のタイミングを操作出来る為、防御に徹すればタラスクの攻撃を完全に躱す事も出来たのだがフェイはあえてそれをしなかった。タラスクの攻撃の隙を窺う為だ。

 同時にフェイがタラスクの注意を引く形になり、後方からはそれぞれナティとアザゼルが攻撃を始めていた。

 神代の(エピック級)英雄にも並ぶ金竜の神官と堕天使の総督はタラスクに傷を与えぬまでも攻撃を無効化させずにダメージを蓄積させている。フェイもそれに続いて攻撃を仕掛ける。

 

「シッ!」

 

 一呼吸でタラスクの懐へと潜り込むと、フェイは連続で拳を叩き込む。その拳はタラスクの強靭な外皮が存在しないものかのようにゾブリと沈み込むと、タラスクの身体を直接殴りつけていった。

 いかに強靭な外皮に包まれようとも幽鬼の打撃(レイス・ストライク)――武器を幽鬼(レイス)の如く幽体化させて相手の纏う鎧や外皮を無視して直接相手に攻撃を加える呪文――を用いれば、その巨体は良い的となるだけである。

 長期戦は明らかに不利……そう悟っていたフェイは持てる力(リソース)――各種呪文や白金竜の篭手や光線拳などの技――を総動員して全力でタラスクの体力を奪いにいく。

 そして、それはフェイだけではなくナティやアザゼルも同じであった。

 三人の全力攻撃の末にタラスクは地に倒れ付す。だが、これで終わりではないことをフェイは知っていた。

 

「師匠!」

 

 フェイは鋭くナティに声をかける。

 

「わかってるわよ! それから師匠と呼ぶなっ! アタシがまだ奇跡(ミラクル)を使える程熟達してないのは知ってるわよね?」

 

 ナティはそう苦笑――竜の姿では判別し辛いが――しながらも、懐から一つの指輪を取り出して指輪に願いを込める。

 

三つの願いの指輪(リング・オヴ・スリー・ウィッシュズ)よ! 我が願い(ウィッシュ)を叶え給え! かの魔獣に永遠の死を!」

 

 倒れ伏しても僅かに身動ぎをしていたタラスクの動きが完全に止まる。

 御伽噺に出てくる魔神(ジン)が扱う願いを叶える秘術の力、あるいはナティのようなクレリックが修行を積んだ末に扱えるようになる奇跡の力のみがあのタラスクに真の死をもたらすという。そして、その願いの力を行使する魔法の指輪の力により、ナティはタラスクに永遠の死を与えたのだった。

 

「ば、馬鹿なっ」

「さあ、次は何を出すんだ?」

 

 切り札とも言えたタラスクを破られた為か、呆然と声を発するカテレア。

 フェイはタラスクから負った決して浅くはない傷を表面だけでも癒しながら不敵に笑う――が。

 

「なら、こんなのはどうだ」

「何っ!? ぐぁっ!」

 

 唐突にフェイの背後から魔力弾が襲い掛かる。不意を衝かれた形のフェイはまともにその攻撃を喰らってしまう。

 その魔力弾の主は――ヴァーリ。

 受けた衝撃に朦朧としながらも、フェイは納得していた。――そういえばこの場に駆けつけていながらもタラスク戦には参加していなかったな、と。

 

「……この状況下で叛旗かよ、ヴァーリ」

「ああ、そうだよアザゼル」

 

 アザゼルが苦々しく吐き捨てると、ヴァーリは微かに笑いながらも答える。

 だが、そこにカテレアが苛立たしげにヴァーリに声をかけた。

 

「白龍皇! もう少し早く動けなかったのですか! お陰で私のタラスクが!」

「悪いな、カテレア。連中の戦い方を観ておきたかったんでね。その代わりと言ってはなんだが、一人は戦闘不能だ」

 

 タラスクと協調しなかったのは――例えタラスクの側が協調するほどの知性がなくとも――戦略としては明らかに悪手、にもかかわらず傍観に徹したのはひとえにそれで終わってはつまらないというヴァーリの性格故だった。

 

「……お前がそれほどまでだったとはな。何時からだ? 何時からそちら側になった?」

「別に『禍の団』の一員にまでなったつもりはない、あくまで協力者さ。――誘いを受けたのはコカビエルの件でバルパーやフリードを回収した帰りさ、こちらの方が面白そうだったんでな。『アースガルズと戦ってみないか?』なんて魅力的なオファーだろう? お前は戦争嫌いだからそんな場を用意すらしないだろうしな」

 

 アザゼルはヴァーリの答えに溜息を吐く。

 

「俺はお前に『強くなれ』とは言った。だが、それと同時に『世界を滅ぼす要因は作るな』とも言ったはずだ」

「俺は永遠に戦い続けられればいいだけだ、そんなのは関係ない」

 

 永遠に戦いが繰り広げられるといわれる英雄界イスガルドや、地獄の戦場アケロンの存在を知ったら真っ先に喰い付きそうな発言である。――否、話を聞く限りでは『アースガルズ』の存在がイスガルドに程近いのかもしれない。そんな事をフェイは考える。

 

「――そうか。確かにお前は出会った時から今日まで強い者との戦いを求めていたからな」

「今回の下準備と情報提供は白龍皇からですからね。彼の本質を理解していながら放置するからこのような事になるのですよ。――こうして自分の首を絞めることになりましたね」

 

 カテレアが諭すような形で勝ち誇りながらアザゼルを嘲笑する。

 

「まあ、仕方ねぇよな。自分のケツは自分で拭くとしますかね」

「ええ、それでお願いしますよ。――俺はアレ(・・)の事を頼まれたのでね」

 

 ぼやくアザゼルにフェイが横から声を掛ける。

 

「おいおい、もう大丈夫なのかよ?」

「何っ、あの攻撃が直撃すれば浅手では済まないはずだっ」

 

 フェイの言葉にアザゼルに加え、ヴァーリまでもが驚きを見せた。

 五体満足(・・・・)のフェイは言葉も軽くアザゼルに答えた。

 

「ええ、お陰さまで暫くは黙っていましたが、戦えるまで戻りました」

 

 全ては陰ながら大治癒(ヒール)の呪文をかけてくれていたナティのお陰である。その治療呪文により、深手を負っていたフェイが無傷にまで回復していた。

 

「アンタ達がこちらから目を離して会話に夢中になっていたからね」

 

 ナティが悪戯っぽく――竜の姿では判別し辛いが――笑う。

 

「下手すりゃ『聖母の微笑』よりもやばい回復力だな」

「なんてこと。あの竜は回復の魔術まで使えるのですか!?」

 

 アザゼルもカテレアも驚きを隠せない。そんななか、笑い出したのが一名。

 

「フハハハッ、やはりお前らを相手にした方が面白いなっ! こっちに来て正解だったよ!」

 

 ヴァーリである。だが、フェイはそんなヴァーリを意にも介さずにアザゼルに話しかける。

 

「先ほども言ったように、俺がレヴィアタンの相手をします。自分の部下の責任はご自分で」

「ああ、わかってるさ! ヴァーリ! 聞いての通りだ。お前の相手は俺だ!」

「フフッ、アンタの人工神器ともやりあってみたかったんだ! 丁度良い!」

 

 フェイの言葉にアザゼルが頷きを返し、アザゼルはヴァーリの方へと向かっていく。

 黄金の鎧に包まれたアザゼルと白銀の鎧に包まれたヴァーリは、高速で移動しながらの空中戦へと移っていった。

 残るはフェイとナティ、そして敵方であるカテレア・レヴィアタン。

 

「さて、俺も約束(・・)通り、バハムートの信徒としてレヴィアタン、アンタの相手をしよう。……師匠は見ていて下さい」

「……仕方ないわね」

 

 フェイの言葉に、ナティは非常に気に入らない展開が頭を過ぎりつつも不承不承頷くしかなかった。

 

「……数人がかりとはいえ、あのタラスクを倒す力は侮るわけにはいきませんね。ですが私も無限の力を有するドラゴンから力を借りているのです。今の私ならたとえミカエルだろうとサーゼクスだろうと相手に出来る! そう、私は偉大なる真のレヴィアタンの血を引く者! カテレア・レヴィアタン! 貴方ごとき人間などに遅れは取らない!」

『ならばこの者はバハムートの血を引く者だ。木っ端悪魔になど引けは取るまいよ』

 

 フェイ達の様子にカテレアが吼え、バハムートが茶々を入れる。

 バハムートの言葉にフェイもカテレアも一瞬驚くが、そのまま互いに向かって突進し、激突した。

 決着は一瞬。――フェイは無傷で、カテレアは攻撃してきた腕が千切れ飛んでいた。

 歴然とした実力差。だが――

 

「――ただではやられません」

 

 カテレアが自身に魔術の文様を浮かび上がらせながらも残る腕を触手のように変化させて、フェイの腕に巻きつけようとする――が、触手はフェイの腕を捉えられず、スルリと滑るだけだった。――まだ、あらゆる拘束から身を守る移動の自由(フリーダム・オヴ・ムーヴメント)の効果時間内だったのだ。

 

「そ、そんなっ」

 

 魔術文様からすれば、拘束と同時に自爆する心算だったのだろう。その目論見が外れて驚くカテレア。

 その隙にフェイがカテレアの懐に潜り込むと、一撃を加えた。

 分解(ディスインテグレイト)の力が籠もった白金竜の篭手の一撃。

 自爆をする前に、カテレアは消滅した。

 

 かくして反乱の首謀者は死に、協力者であった白竜皇もアザゼル及びギャスパーを救出した兵藤により撃退された。

 その際、兵藤は新たな力に覚醒したらしい――その切欠がリアスの胸の話というのは非常に彼らしいというべきか、フェイは苦笑するしかなかったが。

 そして襲撃によって中断された会談が再開され、悪魔、天使、堕天使、そして人間の四陣営による和平協定が成されるのであった。

 この協定は舞台となった学園の名を取り、『駒王協定』と称させることとなる。

 

 ◇◇◇

 

「てなわけで、今日からこのオカルト研究部の顧問をすることとなった。アザゼル先生もしくは総督と呼べ」

「同じくオカルト研究部の副顧問だよ☆ レヴィアたんって呼んでね☆」

 

 着崩したスーツ姿のアザゼル、そしていつもの格好(魔法少女)のセラフォルーがオカルト研究部の部室にいた。

 

「あのセラフォルー様……どうしてここに……?」

 

 額を押さえながら問いかけるリアスに、セラフォルーはにこやかに笑いながら答えた。

 

「聞いての通りだよ☆ ソーナちゃんにお願いしたんだっ☆」

「ま、補足するとだな、サーゼクスに頼んだんだよ。『禍の団』の対策だとか、赤龍帝だとか、未成熟な神器使いだとかが見てらんなくてな。ついでにレーティングゲーム周りの監督もしてやる」

 

 セラフォルーの言葉を継いで語るアザゼルに、リアスが重ねて問いかける。

 

「……セラフォルー様もですか?」

「そうだよっ☆ それに生徒会にはガブリエルちゃんも来てるんだよ、平和協定とかレーティングゲームの研究の一環でねっ☆ それでリアスちゃんの所だけ監督がつくのもなんだから、私はフェイ君のチームの監督だよっ☆」

 

 その言葉にナティと同じように頭を抱えながら、リアスは三度目の質問を行う。

 

「それならソーナの所の顧問にはならなかったのですか?」

「ソーナちゃんが必死になって断るんだから、お姉ちゃん悲しいなっ☆ まあ、天使側で男が来てたらなんとしてもソーナちゃんの方に行ったけどね☆ ……それにガブリエルちゃんをこっちに来させるのも危険だし」

 

 リアスの問いにセラフォルーは陽気に答えるが、最後の言葉だけは小さくボソリと呟いただけだった。

 その言葉を聞き逃さなかったナティはますます頭を抱え、小猫やレイヴェルも複雑な表情を浮かべる。

 そんな仲間達の内心に気付く事はなく、フェイは束の間の平和を噛み締めていた。

 




次からは一応合宿編。
中身はそれなりに変わる予定。

感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。


D&D知らない人向け無駄知識

鏡像(ミラー・イメージ)
 術者と見分けがつかず全く同じ動きをする虚像を作り出す呪文。
 攻撃の矛先を逸らす為の防御呪文だが、タラスクのように《薙ぎ払い強化》(攻撃した相手を倒したら、即座に間合い内の別の目標に攻撃できる特技)を持っているような相手だと、結局本体に当たるまで攻撃を続けられる。

上級明滅(グレーター・ブリンク)
 明滅(ブリンク)の上級呪文。
 ブリンクは肉体を物質界とエーテル界にランダムなタイミングで交互に移動させ、物理的な攻撃を回避させたり、攻撃のタイミングを悟らせないようにする呪文。
 ただし術者が移動のタイミングを選べないので、攻撃が来た時に丁度当たってしまうこともある。
 上級版は集中さえすれば、タイミングを自由に操れる。

水の心(ハート・オヴ・ウォーター)
 本来は術者に水中呼吸能力と水中移動速度を与える長時間持続呪文。
 それに加えて持続時間を極端に短くする特殊能力を起動することにより、移動の自由(フリーダム・オヴ・ムーヴメント)の効果を得ることが出来る。
 また、シリーズ呪文として土の心(ハート・オヴ・アース)風の心(ハート・オヴ・エア)火の心(ハート・オヴ・ファイアー)があり、それらの呪文の効果を同時に受けていると、クリティカルヒット、及び急所攻撃に対する防御能力を得る。
 なお名前は似ているが石の心臓(ハート・オヴ・ストーン)は全く別系統の呪文である。

移動の自由(フリーダム・オヴ・ムーヴメント)
 通常なら移動を阻害するような呪文や効果の影響下(減速の呪文や、麻痺などを含む)でも通常通りに移動が出来るようになる。
 また、組み付きへの抵抗の試みや、抑え込みや組み付きから逃れようとする場合、拘束から逃れる時の<脱出術>判定が自動成功するようになる。
 水中呼吸を与えることはないが、水中でも自在に動けるようになる。

 

 
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