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投稿したものを読み直したらガブリエルの霊圧が消えていたので少し改稿。
フェイと小猫は正面から向かい合って構える。本格的に拳の修行をするようになってから何度となく行ってきた型稽古。拳を突き、そして引くまでの全身の動かし方を意識する。
本来ならばこの修行を繰り返すことで身体を通る力の流れを理解し、無意識にも気を錬って拳に載せる事が出来るようになるのだが、小猫は一向に気の扱いが向上しなかった。
――それも当然の話だ。小猫は元々気の扱いの素養があり、意識的に気を扱わないように自ら封じていたのだ。
ならば、その意識の封印から解き放たなければならない。
ともすれば敵を圧倒的に破壊する気の力に呑まれる事を恐れているのが封印の原因だが、恐れそのものを取り除くつもりはない。むしろ恐れる事自体は必要だ――それが過剰でなければ。
大きすぎる力を適度に恐れ、制御できる範囲で慎重に取り扱う。その為には――
頭の中では小猫の指導方針を考えながらも、流れるようなフェイの動きは崩れない。長年の修練の賜物である。
だが、考えのほうは纏まらない。拳にしても秘術にしても実践から身に着けていく習うより慣れろがフェイの本分なのだ。理論を固めるのは
「――それならば
「師匠?」
考えを決めたフェイの呟きに、小猫が首を傾げた。
◇◇◇
「……んっ……」
身体を通り抜ける暖かい
小猫の右手は
気は小猫の身体を巡り、小猫のの左手からやはりしっかりと繋がれたフェイの右手へと流れ出ていく。
気そのものに慣れさせる――それがフェイの最初の目的だった。
手と手を密着させて気が流れやすい状態を作り出し、あえて気を流し込み、吸い出す。
そうすることで気が循環し、小猫に気の流れを意識させるのだ。
「どうだ? 俺の気が流れるのは恐ろしいか?」
「……いいえ」
フェイの問いかけに小猫はフルフルと首を振る。
身体を流れるフェイの気を恐ろしいと思うことはなかった。
気が流れ込む高揚感と、気が流れ出る喪失感に小猫は薄く額に汗を浮かべながらも、フェイの行うことを受け入れていた。
「……流れ出る気に、自分の気を加えてみろ」
小猫の様子を窺いながらも、フェイが新たな指示を加える。
本来ならば今まで気を扱えなかった小猫に対して無茶な注文である。しかし、小猫自身が意図して気を抑えこんでいた事と、フェイの気にさらされ続けることで気に対する抵抗感が薄れていた事で、小猫は僅かではあるが、自らの気をフェイへと流し込んでいき――その直後に膝から崩れそうになるのをフェイに支えられる。
「……んんっ……これはっ……」
小猫は驚きと共に溜息を吐く。
自らの気を放出した喪失感ではなく、流した気がフェイの気と交じり合い、循環して自らへ戻ってきたときの快感で力が入らなくなったのだ。
気の混合――フェイがこれを意識していたわけではないが、この世界の道教では一種の房中術と呼ばれるものである。
元々は男女の睦事の中で行われ、互いの気を循環させることで気を高め、身体を健やかな状態へと保つ術であり、気の操作に優れたフェイは手を繋ぐだけでそれを再現させていた。
しばらく気の循環を続け、小猫がある程度気を扱えるようになったと判断したところで、フェイは気の訓練を次の段階へと進める。
フェイの行ったことは、小猫の左手から受け取る筈の気を塞き止める、ただそれだけだった。
しかし変わらずフェイの左手から小猫へは気が流し込まれ、塞き止められた気は小猫から流れ出ることなく溜め込まれていく。
「……っ! し、師匠……、む、無理……ですっ……」
体内で高まる気の圧力に、小猫は悲鳴を上げる。だが、無情にもフェイはそれに答えることなく気の注入を続けていく。
小猫はそれでもしばらく耐え続けたが、膨れ上がる気に中てられ意識が朦朧とし始めた矢先、塞き止められていた気が流れ始める。
破裂寸前ともいえた体内の圧力が抜けていくことに小猫は安堵するが、フェイの課す試練はこれで終わりではなかった。
今度はフェイから小猫に対する気の注入が行われず、ただフェイに気を奪われるだけとなったのだ。
抜け出ていく力に小猫は恐怖を覚えるが、今までの試練を思い返してじっと我慢をする。
今度は小猫自身がそろそろ危ないと思った程度の段階で気の注入が再開された。
しばらく気の循環が続けられ、気の総量が落ち着いた所でフェイが絡めていた手を解き、小猫から一歩離れる。
小猫は離れていく
気がつけば全身に汗をかいていた。小猫と対照的に涼しげな顔のフェイは、地面に座り込み息を整えている小猫に手を差し伸べながら声を掛ける。
「――すこし乱暴な手段になってすまなかった。だが、己がどの程度まで気を扱えるのか、どれだけの気を消費してしまったら危険なのかは実感できたと思う。それに――最初に比べれば気にも慣れたろう?」
小猫はその言葉に恨みがましくフェイを見上げ、無言で頷くとその手を取った。
フェイはそのまま小猫を引き起こすと、優しくその頭を撫でる。
「よく頑張ったな。――あと一つ謝っておこう」
「…………何をですか?」
小猫を頭を撫でられながら嬉しそうに目を細め、続くフェイの言葉に問いを投げかけた。
「気について専門だ――などと偉そうなことは言ったがな。俺の扱うのは『闘気』の類で、『仙気』――つまり気を術に変化させるものではない。基本的な気の操作の後は、そちらしか教えられんということだ」
フェイの言葉に、訝しげだった小猫の顔がなんだそんなことかとばかりに綻び、キッパリと告げる。
「十分です。師匠は拳の師匠なんですから」
「そうか」
フェイもその言葉に笑みを漏らしながら頷いた。
◇◇◇
冥界へはひとまずレヴィアタンの案内で魔王領へと赴くこととなった。
駒王町の駅に密かに作られている秘密の階層から、レヴィアタンの実家であるシトリー家の所有する列車に便乗する形で魔王領へと向かう。
グレモリー家の列車を有するグレモリー眷族は同席しておらず、シトリー領を通る際にシトリー眷族とも別れるが、交流の為に同じ車両で過ごしていた。
フェイ、ナティ、セラフォルー、ガブリエル、そしてシトリーという上位陣は固まってボックス席の一角に位置取り、眷族同士の交流を後押しする。
フェイはこの世界のに来たばかりの時も馬車よりもずっと速く大量に物を運ぶ自動車や列車といった代物にも驚いていたが、それが次元界すらも移動出来るという悪魔の技術に内心舌を巻いていた。
もしフェイの世界のデヴィル達がこのような技術を持っていて、大量に出現するようなことがあったらと考えると恐ろしい。
そんなフェイの考えをよそに、セラフォルーが明るく告げる。
「私とガブリエルちゃんとフェイくんは魔王領についたらサーゼクスちゃん達と、打ち合わせだからね☆」
「ええ、よろしくお願いします」
ガブリエルが穏やかに頷く。
勢力間のバランス調整、及びレーティングゲームの仕組みを学ぶ為にシトリー眷属と行動を共にしているガブリエルも、一旦は会合の為にフェイ達と同行することとなっていた。
また、同様の理由でグレモリー眷属についてるアザゼルもリアス達と別れて魔王領へと移動する手筈となっている。
会合の内容は今後の勢力間の調整、及び『禍の団』への対応だ。
『禍の団』のヴァーリ達への対応を宣言しているフェイ達もそこで色々と話すことがある。
その中でナティが当然のようにセラフォルーに告げる。
「当然私も同席するわよ、セラフォルーとサーゼクスがいるなら各陣営一人である必要もないでしょうし」
「むむむ」
睨み合う二人を横目に見ながら、シトリーが溜息をつく。
「それにしても、魔王様達と打ち合わせですか……リアスが眷族にもしていない人間をオカルト研究部に引き入れた時は心配しましたが、コカビエルの時といい、あの会談の時といい、貴方には驚かされてばかりです。——私の夢の励みにもなりました」
「夢、ですか。差し支えなければどのような?」
フェイは自分の事が励みになるというシトリーの夢に興味を覚えて質問した。
シトリーはフェイの質問に困ったような笑みを浮かべながら口を開く。
「これはフェイ、貴方にも少し関わる話ですが——恐らく貴方が参加するレーティングゲームは一筋縄ではいかないでしょう」
「それは、俺が人間だからですね?」
シトリーはフェイの確認に頷き、言葉を続ける。
「貴方も少しは聞いているかも知れませんが、今やレーティングゲームは悪魔間の力関係や立場を定める重要な指標となっています。しかし、その門戸が開かれているのは、実質上級悪魔のみ。レーティングゲームに必要な教育をする学校がありますが、そこに入れるのは上級悪魔の子弟のみなんです。レーティングゲームという制度がありながらも、下級悪魔や転生悪魔にはその立場を覆す力も機会も与えられていないのが現状です」
憂いを帯びたシトリーの語り口に、フェイにもその夢が見えてきた。
確認するように尋ねる。
「……それを、変えたいと?」
「その通りです。私の夢は下級悪魔や転生悪魔でも通えるレーティングゲームの学校を作ること。力があっても生まれの為に不遇な環境にある者に機会を与えたいのです」
シトリーの夢は相当困難なものだとフェイは推測する。
ある意味で既得権益がある状態で、それを失う事を恐れるものは多い。また、フェニックスの一件が示すように、純血の悪魔は保守的な者も多いようだ。そんな状態であえて事を為すというのは、元々持っている益が少なく冒険に走ることが容易い者か、体制が変化しようが確固たる地位を保てる実力がある者か……。
だが、名門の
ならば、純粋に立場の弱きものに機会を与えたいという無私の精神といえよう。
そう考えるとフェイは自然と笑みを浮かべていた。
「個人的に言えば、とても好ましい夢です。……いや、俺個人の考えだけではなく――」
「
フェイに続けてセラフォルーと睨み合っていた筈のナティが口を挟む。その相手のセラフォルーは誇らしげにうんうんと頷いていた。
ガブリエルは少し困ったような微笑を浮かべているが特に口を挟むことはなかった。
「バハムートの教義は悪を倒すことともう一つ、力なき民に強力な悪と立ち向かう知恵と力を
「俺達で力になれる事があれば言ってください」
フェイとナティのその言葉に、シトリーは一瞬呆気に取られながらも、すぐに微笑みながら首肯した。
「ええ、そのときはお願いしますね……ってお姉さま! 急に抱きつかないでください!」
セラフォルーは満面の笑みでシトリーに抱きつき、妹の抗議を受けながらも放そうとしない。
そのまま抱きしめ続け、諦めたシトリーが大人しくなったところでフェイ達に語りかけた。
「照れなくてもいいじゃない☆ ……ありがとうね、フェイくん、ナティちゃん。貴方達がそう言ってくれるだけでも助かる」
「……お姉さま」
普段はあまりないセラフォルーの真面目な語り口にシトリーも感極まった様子で呟く。
だが――
「でもでも、いくらフェイくんでもソーナちゃんはあげないんだからねっ☆」
「お姉さまっ! いきなり何を言い出すんですかっ!?」
続くセラフォルーの言葉に、シトリーは顔を真っ赤にして姉を怒鳴りつけるのだった。
感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。
対ヴァーリの話は次回に少しだけ触れます。