ハイスクールD&D 転輪世界のバハムート   作:生ハムメロン

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4話

 フェイとサイラオーグ、そしてリアスとシトリーとのゲームが五日後に迫った頃、冥界では魔王主催の親睦パーティーが開催されていた。

 フェイ達は一時的に冥界を離れる事により不参加を表明していた――が、パーティー会場から程近い森の中に、一人佇む小猫の姿があった。

 

「久しぶりじゃない?」

 

 その小猫に声をかけたのは、黒い猫耳を生やした和服の女性――小猫の姉である黒歌だった。

 

「……ええ、そうですね」

 

 この場で姉と出会うことは想定されていた。だが、実際に姉を目の当たりにして生じた動揺は少なくない。

 それでも動揺を押さえ込んで言葉を返す小猫。

 

「やっと悪魔の懐から飛び出したと思えば人間の飼い猫になっている白音が、なんでここにいるのか。お姉ちゃんは不思議だにゃー」

「……そこまで知っていましたか」

 

 言葉の割には訝しむ気配もない黒歌の言葉に、白音という本名を呼ばれた小猫も驚きもせずに返す。

 実際黒歌はヴァーリと行動を共にしている事が判明している為、小猫が人間陣営に居ること、悪魔や他陣営と協調路線をとっていることが伝えられていても不思議ではない。

 黒歌の言った飼い猫という表現は、ある意味では挑発であったのかもしれないが、小猫にはまるで通じていなかった。

 黒歌が知る由も無いが、小猫はむしろ飼い猫でも構わないとすら思っていた。

 

「ふぅん……なんで知っているのかとか聞かないのかにゃー? そこらへんは陰でこそこそ覗いている人の入知恵かにゃ?」

 

 まるで手応えの無い小猫に、黒歌は面白くなさそうに鼻を鳴らすと、右手の二本の指で黒歌の右手側の茂みを指し示し、左手の一本の指でさらに逆側を指し示した。

 その指の指し示した先には――

 

「全く、随分と勘が鋭いようね」

「もしかして私のせいだったり……?」

 

 黒歌が指し示した右手の先の茂みからはナティとイリナが姿を現した。

 見事に潜伏場所と数を指し示されたので、隠れているよりも対処がし易いと判断してのことだ。

 

「ちっ、やっぱり猫は好きませんわ」

 

 左手側からも同様にレイヴェルが姿を現した。

 悪魔としての魔法の素養のお陰か、常人では考えられない速度で不可視化(インヴィジビリティ)の呪文まで覚えたレイヴェルではあるが、折角の呪文が通じていない事に悪態を吐く。

 

「フフン、幾ら魔法で隠蔽しようが、気の流れまでは誤魔化せないにゃ。さてさて、こうなると待ち伏せされてたって考えた方がいいのかしら。 まあ、それはそれで白音を連れて帰るいい機会ね♪ 余分な連中には死んでもらうにゃん♪」

 

 黒歌がそう言った途端、場を取り巻く空気が切り替わる。

 ナティはそれでも落ち着いたまま感想を述べる。

 

「へぇ……ご丁寧に結界なんて張れるのね? でもこの場を隔離するだけ? 敵を弱体化(デバフ)するなり、自分を強化(バフ)するなりすればいいのに。そもそも貴方だけで私達に勝つつもりなの?」

「ハッ、私だけでも負ける気はしないにゃ。とはいえ使えるものは使うにゃん♪」

「――ったく、俺っちも非番なんだがねぃ」

 

 

 ナティの言葉を黒歌が鼻で笑うと、黒歌の背後から一人の男がぼやきながら姿を現す。

 

「ま、喧嘩は嫌いじゃあねぇけど……弱い者虐めしてもつまらんだけだぜぃ」

「その節穴を持った猿は、美猴だったかしら。遊び相手位はしてあげるわよ?」

 

 あくまで気乗りしないように吐き捨てる男――美猴に対し、挑発するように笑うナティ。

 

「おうおうおう、吼えるねぃお嬢ちゃん。じゃあ一つ忠告してくぜぃ。敵を囲んで叩くのは理に叶っちゃいるがな――」

 

 ナティの挑発にもおざなりに返す美猴。指を一つ立てるとナティに話しかけ、次の瞬間その姿が消えた。

 

「後衛まで前に出ちゃいかんで――ぐぁっ!?」

 

 目にも留まらぬ速さでレイヴェルに襲い掛かった美猴だったが、突然殴られたかのようにナティの方に弾き飛ばされる。

 そして何もなかった筈の空間から、フェイの姿が現れた。

 

「こちらも一つ忠告だ。油断大敵、とな」

「んなっ、おかしな気の流れなんて全く感じなかったにゃ!?」

 

 フェイが殴り飛ばした美猴に声をかけるが、反応したのは黒歌だった。

 黒歌が自信を持っていた気の流れを読む力でも、フェイの存在は認識出来ていなかった為だ。

 フェイはそんな黒歌を見て不敵に笑う。

 

「仙術を使う小猫の姉だったな。生憎と気を扱うのはお前等の専売特許ではない。気を止めれば不自然な気の空白で気付かれる。だから――自然の気の流れと一体化しただけだ」

「ば、馬鹿にゃ!? そこまで綻びもなく自然と一体化するなんて私でも出来ない高等技術だにゃん。それこそ仙人でなければ……」

「っつぅ、痛てて、なかなかキッツイ一発貰っちまったぜぃ」

 

 黒歌の言葉は、美猴の上げた声で遮られる。

 

「だが貰った感じ、仙人とよく似ているが違う。なにもんだ、お前ぇ?」

「ヴァーリから聞いていないのか?」

 

 美猴の誰何にフェイは質問で返した。どこまでヴァーリから情報を得ているのかを探る為だ。

 

「お前さん、性格悪いって言われない? まっ、聞いてるがねぃ……人間を代表してる魔術師だろ?」

「ふーん、となるとコイツが白音の飼い主か。じゃあコイツを殺せば白音を連れて帰れるにゃん♪」

 

 あくまで軽いノリの美猴と黒歌だったが、師匠(フェイ)を殺すとまでの発言が出てくるに至って、小猫の我慢も限界に達した。――早い話がブチ切れた。

 

「師匠を殺すだなんてさせません! 貴方は私が倒します!」

「ハッ、どこまでも人間に尻尾を振ろうっての? 使えそうだから連れ帰る気で居たけど、いい加減自分の立場をわからせてやる必要がありそうね!」

「悪いが――小猫一人で戦わせるつもりもないぞ」

 

 黒歌に相対する小猫。更にフェイとレイヴェルまでもが小猫に加勢する。

 

「やれやれ、俺っちもあっちに参加していいかい?」

「冗談! 見逃すわけないでしょう?」

 

 黒歌を取り巻く三人を横目に見ながら軽口を叩く美猴に、ナティがピシャリと言い放つ。

 

「だってあっちの方が面白そうだぜぃ」

「あっ、そんなこと言ったら……」

「あら、だったらこっちも面白くしてあげるわよ」

「あちゃー、天界山(セレスティア)におわすバハムート様。どうか竜神が僕にご加護を。本当にお願いします!」

 

 懲りずに言い募る美猴に対してイリナが咎めるように言いかけるが、それよりも早くナティが底意地の悪い笑みを浮かべた。

 それを見たイリナが思わず天を仰ぎ祈りを捧げる。

 その祈りが届いたのか否か、ナティの姿が変化していく。

 

「こっちも本気で相手をしてあげるから、根性みせなさいよ!」

「へっ、ドラゴンだったか! 面白れぇっ!」

 

 山をも越える大きさの竜と化したナティの姿に、美猴もまた深く笑みを浮かべた。

 大きく翼を広げて上空へと飛び立つ金竜と、それを追う形で美猴も――

 

「觔斗雲っ」

 

 足元から金色の雲を出現させ、ナティを追う。

 そして、イリナもナティが唱えた飛行(フライ)の呪文の影響下にあることに気付くに至って、祈りが届かなかったことを認識する。

 

「イリナ、貴方は私の手伝い(フォロー)よ!」

「うぇぇ、やっぱりー」

 

 信心深く、そして方向性に問題はあれど正義感の強いイリナの後ろ向きな姿勢には深い理由があった。

 ――主にナティに連れられて強制修行をさせられた時の心的外傷(トラウマ)にも近いものであるのだが……。

 

 ◇◇◇

 

「私も舐められたものにゃん。たった三人で私をどうこうできるとでも思ってるのかしら」

 

 黒歌がそう言うと同時、黒歌の全身から薄い霧が立ち上る。

 視界を遮る覆い隠す霧(オブスキュアリングミスト)の呪文ほどの濃い霧ではないが、それは一瞬でフェイと小猫を包み込んだ。

 フェイはその一瞬で霧の正体を看破する。

 

「……毒か」

「ご名答♪ 悪魔や妖怪にだけ効く毒霧にゃん。アンタが平気なのは人間だから? でもアンタが平気でも白音は――」

 

 フェイの指摘にも楽しそうに笑う黒歌。

 その黒歌が指差す先に居るはずの小猫は――表情を変えることなく構えを黒歌に向けたままだった。

 

「……私がどうかしましたか?」

「!? なんで白音にも効いてないにゃん!?」

 

 その姿に初めて動揺を見せる黒歌。その黒歌に向けてフェイは笑う。

 

「お前と別れた頃の小猫は知らないが……いつまでもそのままの小猫だと思うなよ」

 

 フェイの故郷(オアース)での修行の間、フェイは小猫に拳技と供に気の扱い方を叩き込んできた。

 小猫は気と身体操作を極める事による毒に対する完全抵抗(金剛身)も当然身に付けている。

 しかしながら後衛であるレイヴェルはそのような技を修めてはいなかったが――

 

「フェニックスの一族である私にちゃちな毒が効くとは思いませんが、念のため」

 

 レイヴェルが呪文を唱えると、突風が吹き出し霧を吹き散らしていく。

 魔術師修行で得た成果の一つである、爆風(ガスト・オヴ・ウィンド)の呪文だ。

 レイヴェルは魔法による火力は悪魔生来の魔法で満たされる分、新たに覚える呪文は戦場に影響を与える呪文や、その対抗呪文を中心に選んできた。

 その選択が功を奏した形となったのだ。

 

「ちっ、ちょっとまずいにゃん」

 

 ガスト・オヴ・ウィンドの風により霧が吹き散らされると、そこには()()の黒歌がそれぞれフェイ達を睨み付けた。

 

「フェイさま! 鏡像(ミラー・イメージ)上級幻像(メジャー・イメージ)の類の虚像ですわ!」

 

 レイヴェルはその姿を見ただけで、効果を判断してフェイに進言する。

 あちらで預けていただけあって、レイヴェルも大分魔術に対する知識が深くなってきたな。

 自身が優れたソーサラーであるフェイも同様の判断はしていたのだが、レイヴェルの成長に思わず笑みを浮かべた。

 

「何を笑っているにゃん!」

 

 様々な黒歌が異口同音にフェイを詰る。

 それに対するフェイの返答は、近づいて殴る。ただそれだけだった。

 

「ぐっ、なっ、なんで!?」

 

 朦朧化打撃(急所を打つ一撃)により黒歌の意識が遠のいた隙に、小猫が黒歌を完全に押さえ込んで捕らえていた。

 フェイは身動きの取れない黒歌の耳元に囁く。

 

「――なんで本体がわかったのか、か? 生憎、どんな幻術も竜の眼はごまかせんよ」

 

 微妙に嘘である。ナティなどの真竜(トゥルードラゴン)は確かに60フィート(18.2メートル)以内の存在を感知する非視覚的感知能力を備えているが、人間であるフェイの力ではない。

 あくまで神器と化した『白金竜の籠手』により与えられている力である。

 その上あくまで位置が判るだけで姿が見えるわけではないのだが――、正確な情報を与えてやる必要もなかった。

 

「あとは大師匠達ですね」

 

 小猫は姉を捕らえたというのに、無表情でナティ達の動向を伺う。

 いや――無表情は姉を捕らえたからこそか。

 

「よくやったな」

 

 フェイは黒歌を拘束すると、それまで黒歌を押さえ込んでいた小猫の頭を撫でた。

 小猫は嬉しそうに目を細める。その様子をジト目で見ていたレイヴェルの頭も同様に撫でてやる。

 

「レイヴェルもちゃんと学んだ成果が出ていたな」

「もうっ、フェイさまったら折角整えたのにっ」

 

 レイヴェルは乱暴に撫でられて髪が乱れる事に口では文句を言うが、その表情は口に出した言葉とは相反するものだった。

 

 ◇◇◇

 

「てぇぇぇいっ!」

 

 気合と共に空中を突進するイリナ。

 

「はっ、甘い甘いっ」

 

 イリナの剣を手にした棒で迎え撃つ美猴。

 二合、三合と降魔の聖剣と如意棒とが打ち合わされていく。

 全力を込めて切りかかっているイリナに対し、まだまだ余裕を見せる美猴。

 

「やばっ、このぉっ」

「おおっと、残念!」

 

 そのうちに焦ったのか、イリナが力任せに剣を振り上げる。

 美猴は余裕たっぷりにそれを避けると、如意棒を打ち下ろしてイリナを下方へと叩き落すのだった。

 ――だが次の瞬間、美猴達が打ち合っていた空間を巨大な尻尾が薙いでいき、見事に美猴を打ち付ける。

 

「がっ、味方ごとっ!?」

「ギリギリセーフッ!」

 

 イリナは剣を振り上げてその反動により距離を取ろうとしたのだが、結果オーライである。

 ふと、イリナの脳裏に修行中で似たような状況になった時の会話が頭を過ぎった。

 その時もギリギリ躱す事に成功したのだったが――

 

 ◇◇◇

 

「導師ナティ、私まで巻き添えにする気ですか!」

「あの程度避けられない未熟者だったらタイミングを身体で覚えなさい。死んでも治してあげるから!」

 

 ギリギリでナティ尾の一掃を避けたイリナが抗議の声を上げるも、ナティは取り合わずに次の戦場へと突入する。

 修行中の戦場においては、ナティは頼もしい味方でありながら最も油断ならぬ敵でもあった。

 勿論そのお陰で色々身に付いたこともある。――主に竜種(ナティ)の攻撃に対する対処だが。

 死地においてイリナは急速に、そして着実にバハムートの戦士としての経験を積んでいった。

 

 ◇◇◇

 

 美猴を打ち付けたナティの攻撃は修行時と比べればまだまだ手緩いことを思い返して身震いする。

 修行だからこそ、撤退しても構わないギリギリの難易度で攻めてきたのである。

 修行中に命を落とさずに済んだのはひとえにバハムートの加護があったのだといえよう。

 イリナの焦り、そして当初の消極的な姿勢はこのナティの超絶スパルタが原因だった。

 

「こうなったら残りのお休みはマスターのご褒美がないと割に合わないわ」

 

 イリナはそう呟くと、美猴へ追撃する為に飛翔した。

 

 




感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。

D&D知らない人向けムダ知識


究極の魔道師(アルティメット・メイガス)
 呪文をあらかじめ準備する必要のあるウィザード系の秘術呪文使いと、呪文を臨機応変に使用できるソーサラー系の秘術呪文使いの複合職。
 高レベル呪文の習得速度は専門の各職に劣るが、ウィザードの呪文選択の幅広さとソーサラーの対応能力を兼ね備え、同レベルの呪文の威力そのものは専門職にも見劣りしない。
 当作品では悪魔生来の魔法はソーサラーに似た呪文発動能力と見做して、レイヴェルをウィザードと悪魔双方の魔法を扱える究極の魔道師として扱っている。

飛行(フライ)
 持続時間が分単位の短時間飛行呪文。
 その分、時間単位で持続する長距離飛行呪文と比べて飛行速度が速い。

覆い隠す霧(オブスキュアリングミスト)
 魔法的に視線を隠す濃密な霧を発生させる呪文。
 5フィート(1.5メートル)も離れるとハッキリと視認する事が出来ず、それより遠いと完全に霧に視線を遮られてしまう。

 この呪文により発生した霧は強い風により吹き散らされる。
 また霧は炎により焼き尽くす事も出来るが、レイヴェルがそれをしなかったのは呪文を使ってみせる為である。

爆風(ガスト・オヴ・ウィンド)
 強風を作り出す呪文。小型以下の生物は風に飛ばされるし、人間サイズでも風に逆らって移動することは困難となる。

鏡像(ミラー・イメージ)
 術者とそっくりな幻を作り出す呪文。
 範囲攻撃を受けてもそっくりなリアクションをする為、見破られないが直接攻撃を受けると幻は霧散する。
 自分の傍にしか幻を置けない為、敵の攻撃逸らし用のダミーとして使用される。

上級幻像(メジャー・イメージ)
 音、匂い、温度すら発する幻を作り出す呪文。
 ミラー・イメージと異なり、効果範囲内であれば術者の思ったとおりに幻を動かせ、範囲自体も広い。
 直接攻撃を受けた場合、術者が適切なリアクションを取らせないと、現実との矛盾により幻は霧散する。




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