――はぐれ悪魔。リアスのような爵位持ちの悪魔の下僕として悪魔になった物が、主を裏切り、または主殺しをすることで自由の身になる事がある。その動機は概ね弱き人間から悪魔となった事で得られた力に酔い、その力を思うが儘に扱いたいといった物。
そして、そうやって自由を得られたはぐれ悪魔の大部分はその力をろくでもない方向へと向ける。
今回大公とやらから来た依頼もまた、そういったはぐれ悪魔がリアスの活動領域内へと逃げ込んだ為、討伐せよ――といった内容。
深夜、オカルト研究部の面々は廃屋となった小屋が遠目に見える茂みに潜んでいた。
誰一人明かりは持っていない。悪魔は暗闇を見通す事が出来るからだ。
「フェイ君は明かりなしでも大丈夫ですか?」
「ああ……生まれつき暗視能力は備わっているからな」
「本当に人間なんですか?」
いつも通りの塔城の辛辣な言葉。
本当に人間だよ。フェイは心の中で何度となく繰り返した突っ込みを入れる。
フェイもまた、
「血の臭い……」
塔城が呟き、制服の袖で鼻を覆う。フェイでも気付かない位なので塔城の嗅覚は相当強いのだろう。
「イッセー、いい機会だから悪魔としての戦いを経験しなさい」
「マ、マジっすか!? お、俺、戦力にならないと思いますけど!」
リアスの振りに狼狽える兵藤。まあ戦闘を経験した事がない一般の若者にいきなり戦闘に向かえといっても、ろくな働きは出来ないだろう。今回の場合リアスが狙っているのは――
「戦力外でも戦闘を体験するだけで経験になる、ですか」
「その通りよ、フェイ。イッセー、今日は私たち悪魔の戦闘をよく見ておきなさい。……そうね、ついでに下僕の特性を説明してあげるわ」
「下僕の特性? 説明?」
怪訝な顔の兵藤。フェイも下僕の特性という物に興味を覚える。
「主となる悪魔は下僕となる存在に特性を授けるの。……そうね、頃合いだし、悪魔の歴史も含めて説明しましょう」
先輩達曰く――大昔、悪魔、堕天使、神率いる天使の軍勢は三つ巴の大戦争を行った。永久と呼べる程長い期間に大量の戦力を注ぎ込んだが決着がつかず、軍勢が疲弊しきった数百年前に、勝利者もいないまま戦争は終結した。
戦争でどの勢力も大半の戦力を失い、当然悪魔側も二十、三十もの軍団を抱えていた爵位持ちの大悪魔すらも、軍団を維持出来なくなるほど大量の部下を喪う事となった。
しかし、戦争が終結しても、堕天使や天使とは未だ睨み合いが続いている為、下手に軍団再編の隙も見せられない。
そこで悪魔が採用したのが、
人間界のボードゲーム『チェス』の特性を下僕となる悪魔に取り入れた。転生して悪魔になるような者は人間が一番多いからという皮肉も込めて。
主となる悪魔を
この制度が悪魔の間で流行し、駒自慢から駒の実力を競うようになり、元の『チェス』のようなゲームを下僕を持った上級悪魔同士で行うように発展していった。それが『レーティングゲーム』と呼ばれている。
また、このゲームが流行したおかげで、駒の強さ、ゲームの強さが悪魔としての地位、爵位につながる程にもなった為に、悪魔の間では『駒集め』と称して優秀な人間を自分の手駒にする事も流行りだした。優秀な手駒は悪魔のステータスになる為に。
この世界の悪魔もまた面倒な事になっているのだな、というのが率直なフェイの感想だった。
また、リアスはまだ成熟していない悪魔の為、公式には『レーティングゲーム』には参加出来ないらしい。その為、リアスや、姫島達古参の眷属もゲームの参加経験はないとのこと。
「部長、俺の駒や特性ってなんですか?」
兵藤が自分に割り当てられた特性について質問しているが……間が悪い。
「そうね――イッセーは」
リアスも気付いて途中で言葉を止める。
「不味そうな臭いがするぞ? でも美味そうな臭いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」
地に底から聞こえてくるような低い声音。
「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅しにきたわ」
リアスが一切臆さず話す。
ケタケタケタケタケタケタケタケタ……。
異様な笑い声が辺りに響く。
姿を現したのは、裸の女性の上半身と巨大な四足獣の下半身、そして自在に動く蛇の尻尾を持った異形の怪物だった。
あの怪物は
「主のもとを逃げ、己の欲求を満たすだけに暴れ回るのは万死に値するわ。グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」
「こざかしぃぃぃ、小娘ごときがぁぁぁ。その紅の髪のように、お前の身を鮮血で染め上げてやるわぁぁぁ!」
理性を失いかけているように見えて案外口が回るようだ。フェイが感心しているとリアスが鼻で笑う。
「雑魚ほど洒落の効いたセリフを吐くものね。祐斗!」
「はい!」
リアスの指示で木場が飛び出していく。
なるほど、これが
「イッセー、さっきの続きをレクチャーするわ」
リアスが兵藤に向かって言う。
「祐斗の役割は『騎士』特性はスピード。『騎士』となった者は速度が増すの」
やはりそうか。
バイサーが両手の槍で木場を狙うが、あの程度の腕では木場の動きは捉えられない。
「そして祐斗の最大の武器は剣」
木場が一度足を止めると手にした長剣を抜き、木場の動きを捉えられないバイサーの右腕、左腕、と切り離していく。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ」
腕を切り離されたバイサーがおぞましい悲鳴を上げ、傷口から血が噴き出す。
「これが祐斗の力。目では捉えきれない速力と、達人級の剣捌き。ふたつが合わさる事で、あの子は最速のナイトとなれるの」
悲鳴を上げ続けるバイサーの足元に塔城が入り込んでいく。
「次は小猫。あの子は『戦車』。戦車の特性は――」
「小虫めぇぇぇぇぇ」
バイサーの巨大な足が塔城を踏みつけようとするが……なるほど、体格に見合わぬ筋力を持たせているわけか。
フェイは沈みきっていないバイサーの足を見て判断する。
「『戦車』の特性はシンプル。バカげた力。そして、屈強なまでの防御力。あんな悪魔の踏みつけ程度では無駄よ。小猫を沈められないわ」
塔城はバイサーの足を完全に押しのけると、跳躍して腹の辺りに鋭く拳を打ち込む。
ドドンッ!
バイサーの巨体が大きく後ろへと弾かれる。
フェイはその様子を見て、惜しいな、と考えていた。『戦車』の特性による強化は確かに強力だ。だが、同じ素手格闘を武器とする
「最後に朱乃ね」
「はい、部長。あらあら、どうしようかしら」
姫島がうふふと笑いながら、塔城の一撃で倒れ込んでいるバイサーの元へと歩み出す。
「朱乃は|『女王』。私の次に強い最強の者。『兵士』、『騎士』、『僧侶』、『戦車』、全ての力を兼ね備えた無敵の副部長よ」
大盤振る舞いだな。おい。フェイが内心で突っ込みを入れている間に、姫島はバイサーに向け不敵な笑みを浮かべる。
「あらあら。まだ元気みたいですね? それなら、これはどうでしょうか?」
姫島が天に向かって手をかざすと、天空が光り輝き、バイサーへと雷が落ちる。
「ガガガッガガガッガガガガガッッ!」
バイサーは所々炭化し、煙を上げている。
「あらあら。まだ元気そうね? まだまだいけそうですわね」
再び雷がバイサーを襲う。
「ギャァァァァァァァッ!」
バイサーが断末魔に近い悲鳴を上げるにも関わらず、姫島は三度雷を落とす。バイサーに嘲笑を浴びせながら。
「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。雷や氷、炎などの自然現象を魔力で起こす力ね。そして何よりも彼女は究極のSよ」
つまり自らの趣味でいたぶっているということか。
「普段、あんなに優しいけれど、一旦戦闘となれば相手が敗北を認めても自分の興奮が収まるまで決して手を止めないわ」
「いや、止めてもらう」
フェイは口を挟む。
「フェイ!?」
「いかに敵といえど、殺さずに嬲るというのは見ていられない。倒すなら一思いに倒せ」
例え無力な民を襲う怪物だからといって、さらに力を持つ者が嬲ってよい道理はない。
その信念の元に口を挟んだフェイに対し、リアスと姫島が睨み付けてくる。
「悪魔の戦い方は判った。こんどは俺の戦いを見せる」
それを無視してフェイは自らに
「速いっ!」
木場が叫ぶ。機動力では追随を許さないモンクがヘイストで強化をしたのだ。悪魔相手といえど容易く速度で負ける気は無い。
瞬時にバイサーの元へとたどり着き、拳を連続で突き入れる。右、左、右、左、右、
「……人間……ですか?」
何度となく繰り返された塔城の呟き。しかしフェイは内心でもそれに突っ込む余裕はない。それ程にフェイは頭に来ていた。人間臭い悪魔だからと油断をしていた。元の世界の
そして、フェイは神器を発動した。
『
左手の籠手が青い光の輝きを帯び、フェイはその輝く籠手を瀕死のバイサーへと突き入れた。
『
青い光の輝きがバイサーを包み、塵よりも細かく分解していく。間もなくバイサーはこの世から塵も残さず消滅した。
「フェイ、あなた……その力は……」
青ざめた顔で問いかけてくるリアスにフェイは答える。
「これがバハムートの
場合によってはこれをお前に向けるぞ、そんな警告も含めて。
やや朱乃(の性癖)に対するアンチと受け取られかねない表現が入ってしまっていると思います。
作者もどちらかといえばSなのですが、白金竜の教えと真っ向からかち合う形になったので、今回のようになりました。
アンチタグつけた方がいいかな?
感想・指摘などありましたらよろしくお願いします。