「ただいまっと」
声と共に、オカルト研究部部室に顕われるフェイ、そしてアーシア。
リアスを初めとしたグレモリー眷属は驚きの表情で迎える。
「お、おかえり、なさい」
「ああ、ついでだったのでシスター・アーシアも連れてきましたが構わないですか?」
ようやく言葉を発したリアスに、事後承認を迫るフェイ。
「構うわけないじゃないか! ねぇ、部長!」
喜色満面の兵藤。しかし、他の面々はあまり良い顔をしていない。それもそうだろう、とフェイは考える。
堕天使の勢力の一員と思われる
ならばあのまま残していても、彼女の為にはならなかったと思われる。これで悪魔連中が彼女を厭い放り出すならば、一緒に出て行けば良い、と判断していた。彼女を見捨てる選択はない。
「……そうね。まずは彼女の事情を聞きましょうか。あなたはあそこに何をしに来ていたの?」
「フリード神父に連れられて、あの場所に結界を張るからと……」
頭を抱えながらも気を取り直したリアスの問いに小さく縮こまりながら答えるアーシア。
「なるほど……、あなたは堕天使の庇護下にあるって認識はあるわよね? そもそもなぜ教会から外れて堕天使の庇護を……」
「いててっ、あっすみません」
「あらあら。どうやらあの神父に力を与えた堕天使の光力が濃いのでしょうね。なかなか取りきれませんわ」
リアスが問い詰めていた途中で、悪魔祓いの拳銃から受けた傷の治療を姫島にされていた兵藤が呻きを漏らして謝罪する。
それを見たアーシアが一瞬唇を噛むと、決意した表情で兵藤の元へと近付いた。
「すみません、少しよろしいですか」
そう言うと、屈み込んで兵藤の銃創に手のひらを当てる。暖かみを感じる緑色の光が兵藤の足を照らしていく。
「これでどうでしょうか」
「お、おお! すげぇ、もう治った!」
アーシアが確認を取ると、兵藤は足を動かし問題ない事をアピールする。
それを見たリアスが愕然として呟く。
「『
「はい……、私が教会から追放されたのも、この力が切っ掛けです」
生まれてすぐに両親に捨てられ教会兼孤児院で育てられた信仰篤き少女。
その少女が8つの頃に癒やしの力に目覚め、負傷した子犬の怪我を癒やしたところをカトリック教会の関係にみつけられた所で少女の運命が変わる。
少女はカトリック教会の本部へと連れて行かれ、治癒の力を宿した「聖女」として担ぎ上げられる。
訪れた信者に対して加護と称して癒やしの力を振るう、それは教会の利益はもちろん、少女としても人の役に立つという喜びがあり、不満はなかった。
ある時少女はたまたま自分の近くに現れた傷ついた悪魔を治療してしまう。
悪魔といえども怪我をして苦しんでいる存在を見過ごせなかったから。
彼女はそれだけ心優しい少女だったのだろう。
しかし、それを見た教会関係者、そしてその報告を見た司祭は驚愕した。
治癒の力を持つ者は少なくない。しかし、悪魔を治療するような力は規格外だった。治癒の力は神の加護を受けた者の特権で、悪魔と堕天使には効果の無いのが常識だったのだ。
過去にもそのような者が居なかった訳ではない。しかし、その力は「魔女」として恐れられていた。
聖女として崇められた少女は、今度は魔女として恐れられ、異端として追放された。
行き場を無くした少女は極東にある「はぐれ悪魔祓い」の組織に拾われた。それが今までに至る事。
アーシアは、過去を語る内に涙を流しながら、時折嗚咽に詰まりながらも語り続けた。
聖女として居る時も孤独だった。皆がやさしく、大事にしてくれるがそれだけだった。
心許せる友達も居なかった。皆が大事にしていたのは「治癒」という力。有り体に言えば
魔女とされた時も孤独だった。誰も助けてはくれなかった。神は助けてくれなかった。教会で庇ってくれる人は一人もいなかった。味方は誰も居なかった。
経歴とは関係のない、そんな感情まで絞り出すように語った。
「……きっと、私の祈りが足りなかったんです。ほら、私抜けている所がありますから」
アーシアはそう言って笑いながら涙を拭った。
「これも主の試練なんです。私が全然駄目なシスターなので、こうやって修行を与えてくれているんです。いまは我慢の時なんです」
笑いながら、それでも自分に言い聞かせるようにアーシアは言う。
フェイは心の中で舌打ちをする。今までの内容で既に怒り心頭であった。だが、その怒りのぶつけどころがなかった。
彼女を追放した司祭を、組織を殴って回ればいいのか? そんな訳はない。なにより復讐などを望むような少女ではないだろう。「魔女」認定を訂正させればいいのか? それも難しい。ただ訂正された所で、民衆に刷り込まれた負の認識を変えるのは大抵の事ではない。無論、将来的にそうなるようにしなければならないが。
ならば、今の彼女の助けとなるべきだ。
フェイが見回すと大なり小なり他の面々も思うところはあるようだ。
特に木場がかなりの憎悪の感情を押し殺しているのを感じる。教会絡みでなにかあったのだろうか。
「お友達もいつかたくさん出来ると思ってますよ。私、夢があるんです。お友達と一緒にお花を買ったり、本を買ったりして……お喋りして……」
アーシアは涙を溢れさせていた。普通の少女ならば当たり前にしているような事を夢に掲げて。
「アーシア、俺が友達になってやる」
兵藤がアーシアの手を取って宣言する。
「あ、悪魔だけど大丈夫。アーシアの命なんて取らないし、代価もいらない! 気軽に遊びたいだけ俺を呼べばいい! あー、携帯の番号も教えてやるからさ」
「……どうしてですか?」
携帯を取り出した兵藤にアーシアが問いかける。
「どうしてもこうしてもあるもんか! 友達になりたいってのに理由なんているかよ! あ、アーシアが嫌だっていうなら……仕方ない……けど……」
途中で勢いが萎む兵藤。そこはもうちょっと頑張れ。
「……それは悪魔としての契約ですか?」
「そんなんじゃない! 俺とアーシアは本当の友達になるんだ! 契約とかそんなのは抜きで、話したいときに話して、遊びたい時に遊んで! そうだ、買い物にも付き合うよ! 花だろうが本だろうが何度でも買いに行こう! な?」
真っ直ぐに訴えかける兵藤に、口元を抑えながら再び涙を溢れ出させるアーシア。しかし、今度は哀しみの涙ではない。
「……花や本は兵藤先輩じゃない方がいいと思いますけど」
塔城が空気を読まない。
「小猫ちゃんそりゃないぜ」
「……私なら付き合いますので」
「あらあら、私もお付き合いしますわよ」
情けない声を上げる兵藤に塔城が返し、姫島がそれに乗る。
「兵藤君だけが友達になるわけじゃないってことだよ」
「そういうことですね」
更に木場とフェイが続くと、アーシアは戸惑いながら問いかける。
「……私と、友達になってくれるんですか?」
「ああ、これからもよろしくな、アーシア」
兵藤が代表して答えると、他の面子も頷き、アーシアは泣き笑いの表情を浮かべた。
そこにリアスの言葉が響く。
「さて、事情はわかったけれど、これからどうするかね。堕天使はアーシアの治癒の力が目当てだったのでしょう。だとしたら今後も狙われる恐れはあるわ」
「だったらどうするっていうんですか?」
尋ねる兵藤にリアスは笑みを浮かべて答える。
「アーシアさん。あなた、
まさに、悪魔の誘いだった。
悪魔でもなんでも
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