「アーシアさん。あなた、
「すみません、私は……信仰を捨てる事は出来ません」
悪魔からの誘いに、アーシアはノーと答えた。
信仰する神が違えど、フェイも同じ事を答えたのだ。当然と言えば当然である。
もっとも、アーシアがイエスと答えたとしても、フェイはそれを否定する気はなかった。
己を害する者に抗う力を持つ事自体は、一概に否定は出来ない。
フェイは既に力を持ち、アーシアが力を持たざる者だった。それが悪に抗する為に力を望む事の何を非難できようか。非難するとしたら、力を得た後の振る舞いが間違っている時のみだ。
「とはいえ、このまま放っておいてもまた堕天使に狙われるだけでしょうね」
「俺が護ります!」
リアスの懸念に兵藤が威勢の良い事を言う。悪魔になってから日が浅いためか、本来の性質であるのか、種族に囚われずにこういった事が言えるのは好ましいと考え、フェイも手助けをする。
「兵藤先輩が悪魔である事が問題なら、シスター・アーシアと同じ人間の俺もつきますが」
「ハァ……まったく貴方達は」
そんなフェイ達を見てリアスは苦笑する。
「まあいいわ。そうしたらフェイと同じようにこの学園に入って貰って、オカルト研究部に所属して貰いましょうか。それなら何かあっても眷属かフェイが近くに居るでしょう。教会には戻せないし当面の住むところは……」
と今後の予定を考えていたリアスが悪戯っぽい表情を浮かべる。フェイの経験上これは碌な事を考えていないと察しが付いた。
「アーシアさん、あなたはどこに住みたい? イッセーの家? フェイの家?」
だからと言ってフェイが止める術を覚えているわけではない。しかし男の家の二択とは悪趣味な。
「あ、わ、私はご迷惑でなければどこでも」
兵藤の顔をチラリと見てから顔を少し赤くして答えるアーシア。リアスの表情を見なくとも決まったような物だとフェイは察した。
「決まりね。イッセー、ちゃんと送り迎えするようにね。必要だったらご両親もまた
「ええっ!? 俺んチに決まったんすか!?」
察してなかった兵藤は驚きの声を上げるが、それよりも説得と言った時の言葉の響きと、またという単語が気になるが触れないほうがいいのだろうか。
「そういえば
それよりも見えている障害を放置している事が気になったフェイは、この機会に質問をする。
「堕天使全体を敵には回せないわ、下手に殺せば戦争再発だもの。
「では連中の裏を取ってくればいいんですね? なら取ってきます」
リアスの回答からフェイは迅速に行動に移した。
◇◇◇
駒王町の廃教会、その地下に堕天使達が儀式に用いる為に作り出した空間があった。そこではアーシアから神器を抜き出す儀式の為の準備をしている。あとは
レイナーレも見覚えのある、黒髪の若い人間が突然はぐれ悪魔祓い達が待機している場所の中心に出現する。
人間が呪文を唱えると、人間を中心に炎の爆発が巻き起こり、周囲にいた悪魔祓いが吹き飛ばされる。自爆かと思えば人間は無傷で立っており、対峙した中で無事だった悪魔祓い達が恐怖に怯え、恐慌を起こしているものまで現れている。
そんな馬鹿な。はぐれ悪魔祓い達は堕天使から見れば雑魚に過ぎないといえど、戦闘経験は豊富な者達。
あの程度で怯む筈はない。一体何が起こっているのか。レイナーレが判断に迷っている内に、致命的な魔方陣が儀式の間に描かれようとしていた。
◇◇◇
堕天使達は
相手が行動を起こす直前に鼻面を叩く、と決められた作戦。正面からは兵藤、木場、塔城が向かい出口を抑える。リアスと姫島はアーシアの護衛と同時に、別働隊の堕天使がいればそれを叩く。そしてフェイはテレポートを利用して敵本陣への強襲。
全てが順調に進んでいる。フェイは儀式の間に出現すると同時に
あとは残りを潰すのみといった所で、魔方陣が描かれ、リアス・グレモリーが登場する。
「早かったですね」
「ええ、潰すだけだったし、アーシアは朱乃に任せているわ。それに、うちの
問いかけるフェイに、どす黒いオーラを出して答えるリアス。
「温情ではないですが、精々苦しめずにお願いします」
それだけを言い残してフェイは残存戦力の掃討に移る。
その段階になって初めて愕然としてたレイナーレが口を開いた。
「ば、馬鹿な……。たかが人間風情がここまで。……でも甘いわね。私に協調する堕天使はいくらでも居るのよ。彼らが来れば――」
「来ないわよ」
レイナーレの言葉に、懐から3枚の黒い羽根を出しながら否定するリアス。レイナーレはその羽根をみて驚愕する。
「そ、それはっ!」
「アーシアを探させていたんでしょ? 私はコレを片付けてから来たの。ああ、それとあなたが上に内緒で動いてるのも全て判っているから、安心して消えて頂戴」
何処までも逃げ道を塞いでいくリアス。
「くっ、こんな所で殺される訳にはっ。私は力を得てあの方に愛されるのよ!」
レイナーレが隙をついて部屋の出口へ逃げようとするが、出口は既に塞がっていた――兵藤によって。
「……夕麻ちゃん」
「イッセーくん! 助けて! あの悪魔に殺されてしまうの!」
兵藤に懇願をするレイナーレ。あれが恋人としての貌だったのだろうか。だが、無駄だ。
「そんな顔やめろよ……。夕麻ちゃんの顔で、そんな事いうのやめろよ」
「くっ、下級悪魔の分際でっ!」
レイナーレが光の槍を作り出す。
「……初めての彼女だったんだ」
「えぇ、見ていてとても初々しかったわ。女を知らない男はからかいがいがあったわ」
「……大事にしようと思ったんだ」
「うふふ、大事にしてくれたわね。私が困ったら即座にフォローしてくれて。でも、わざとやっていたのよ?」
「……初デート、念入りにプラン考えたよ。絶対にいいデートにしようと思ったから」
「そうね! とても王道なデートだったわ! おかげでとっても退屈だった!」
「……夕麻ちゃん」
「あなたを夕暮れに殺そうと思ったからその名前にしたのよ、素敵でしょ?」
「……俺を殺したのはまだいいんだ。よくないけど」
「あら、だったら恨まれる筋合いはないんじゃないの?」
「……だけど、アーシアを殺そうとした! 神器を抜かれたら、そいつは死ぬんだろ!?」
「そうね、神器を持っていたのが不幸でしかないわね」
兵藤の感情がだんだんと高まっていくのを感じる。リアスはこの問答を敢えてさせているのは何故か。
フェイは残りの悪魔祓いを掃除しながら考える。
「……あんなに優しくていい子が! なんで神器を持っているだけで狙われなくちゃいけないんだ!」
「『聖母の微笑み』は至高の癒しの力なのよ! あれを手に入れれば、私はあの方達に愛して頂ける資格を手に入れられるのよ!」
「それだけの為にあの子を犠牲にしようとしたのかっ!」
「私にはそれが全てよ! さあ、黙ってそこを通しなさい!」
「ふざけるなぁっっっ!」
兵藤の咆哮に、その左腕の
『
甲に嵌められた宝玉が輝きを放ち、籠手に紋様が浮かぶ。フェイは兵藤の神器の奥底に眠る竜の力が引き出されつつあるのを感じる。リアスはこれを狙っていたのか。
『
「ああ……神様……じゃないな。魔王様かな、俺悪魔だし」
兵藤の神器に力が集まっていく。レイナーレはそれを阻止するべく光の槍を投げようとするが。
「た、たかが『
フェイが攻撃の隙に放った
神でも魔王でもなくて悪いが竜の同胞として少しばかりの手助けを。
『
「俺にあのクソ堕天使をぶん殴らせてくれよっ」
さらに力が倍加し、兵藤はレイナーレへと歩み寄る。
「くっ、さっきのは気のせいのようね、下級悪魔如きがっ」
「ぐぅぅぅっっっ」
レイナーレの光の槍が兵藤の足へと突き刺さる、だが兵藤の足は止まらない。
「なぁ、神器さん。目の前のコイツを殴り飛ばす力はあるんだろうな? じゃあ、ぶっ飛ばそうぜ」
『
兵藤が神器に語りかけると、その籠手の宝玉がより一層と輝きを増し、兵藤の力が増していく。
「……ありえない。何よ、これ。どうして、こんなことが。その神器は持ち主の力を倍にする『龍の手』でしょ? ……なんで。あ、ありえないわ。どうして私の力を超えているの? この魔力の波動は上級クラス、さっきのは見間違いじゃ……?」
ヘジテイトの呪文の効果とは違う、本当に発揮されている力でレイナーレは気圧されている。
あのような存在が眠る神器がありふれた存在である筈がないのだ。それを見抜けていない時点で、レイナーレの実力は嵩がしれている。
「吹き飛べっ、クソ天使っ」
「私は、至高のっ」
籠手の力が収束された兵藤の拳が、レイナーレの顔面へと突き刺さる。レイナーレは拳の一撃で吹き飛び、壁に叩き付けられた。
「ざまーみろ…………さよなら、夕麻ちゃん」
兵藤が倒れたレイナーレに吐き捨てた後、ポツリ、と呟いた。
行殺堕天使組。
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