Plongez dans le "IS" monde.   作:まーながるむ

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「転校生は中華美人」


10. La nouvelle venue est beauté chinoise.

「はぁ~~……やっぱりお風呂は最高ですね」

「日本人の心よね~」

「……楯無先輩って国籍上は日本人じゃないですよね」

 

 4月も終わりが見えた頃、ようやく大浴場使用の許可がおりました。

 というか先輩がいなければもっとのんびりできるんですけど……まぁ、私も本気で嫌なわけではないので、2人での入浴はいいとしましょう。

 でも……

 

「先輩……なんでわざわざ後ろに回るんですか?」

「うん? アリサちゃんの背中は綺麗だから、触りたくなるのも仕方ないじゃない」

「嫌味ですか? 嫌味ですよね?」

 

 先輩の背中の方が白くて、綺麗じゃないですか。って返事に困ったからって抱きしめないでください!

 ……うーん、それにしても楯無先輩の体つきってエロいですね。出るとこ出てて、腰もキュッとしてますし。だから胸を当てないでくださいって言ってるじゃないですか! イラッとします!

 

「でも残念だったわね」

「なにがですか?」

「お風呂。結局、ボイラー点検がある日だけになっちゃったじゃない」

 

 結局、1人の生徒のためだけにお風呂を開放する訳にもいかないという結論が出たのですが、その後の更なる山田先生の奮闘と、楯無先輩の謎の権力で本来誰も使えないことになっているボイラー点検の日だけは使っていいよ、ということになりました。

 学園の責任者はなかなか柔軟な思考をしているようで……私としては有り難いものの、少し不安になります。

 

「使えるだけで嬉しいですよ。時間をずらすだけじゃ不安だったから日を分けることになったんですし。何はともあれ先輩のおかげです。ありがとうございました……先輩?」

 

 素直な気持ちでお礼を言うと楯無先輩が目を丸くして私を見ました。

 ……確かに私はあまり素直ではないという自覚はありますが、お礼を言うべきときはちゃんと言いますよ? というかあんまり見つめられても困ります。一対一なら怖くはないとは言えお互い全裸なんですし、恥ずかしさはあるんですから。

 反応がない先輩を心配しましたが、やがてニマーという感じの笑みを浮かべて、私の手を取りました。

 彼女にとって楽しいことを思いついたのは分かりましたが……悲しいかな、それが私にとっても楽しいこととは限らないのをこの数日間で思い知りました。

 

「アリサちゃん、髪洗ったげる」

「え、あ、はい」

 

 有無を言わせない様子の先輩に連れられて鏡の前に座ります。こうやって客観的に見てみると戦力の差は歴然ですね……バスト的に。ばいーんとちょーんって感じで。泣いてないです。

 楯無先輩は、湯船につかるために纏めていた私の髪を解いて、手際良くシャンプーで泡立てていきます。

 

「アリサちゃんの髪の毛って綺麗だよねー。こういうのストロベリーブロンドっていうんだっけ?」

「染めてるだけですよ? 生え際も目立たないようにしてるだけなので茶色い場所とかないですか?」

「あ、ホントだ。でもなんでわざわざ?」

「秘密です」

 

 転校してくるシャルロットに正体が気付かれないためなので、言えることではないですよね。

 まぁ、半分習慣化しているというのもありますが、基本的には写真に残されても大丈夫なようにでしょうか。

 

「そういう意地悪する子にはお仕置きが必要よね★」

「えっ!? ってひゃぁっ!? 先輩!?」

 

 先輩のいわゆる白魚のような指による背中つーっ攻撃。というか背中は敏感なんですけど! 初めて会った時の一件でも十分わかってますよね!?

 怒ってみせてもニヤニヤ笑うだけなので諦めてますけどね。最近、先輩はスルーするのが一番いいと気付きました。

 ……まぁ、スルーすらさせてもらえないのが常ですけど。

 

「それにしても先輩手慣れてますね。昔、髪の毛長かったんですか?」

 

 長い髪を洗うのは慣れていないと難しいと思うのですが、先輩は苦労している様子もなしに手際良く洗ってくれています。

 フランスでシャルロットに気付かれないようにとバッサリ切った髪の毛ですが、それから一度も切っていないので今は背中まで伸びています。ここまで長いと確かに人に洗ってもらった方が楽なのですが、慣れていない人に洗ってもらうと髪が引っ張られたりして痛かったりするんですよ。

 

「うん? ずっと今ぐらいのままよ。気持ちいい?」

「えぇ、まぁ」

 

 んー、それなら才能なんですかね。いえ、人の髪を上手に洗う才能なんてものがあるのか疑問ではありますが。

 

「……昔はよく妹の髪をこうやって洗ってたのよ。それでじゃないかしら」

「妹さんですか」

「そ、4組の更識(さらしき)(かんざし)。機会があれば仲良くしてあげて」

 

 他の組なら織斑君が拾わない限り関わることもないでしょう。先輩のお願いとは言え関わりたいとも思いませんし。

 それよりも若干寂しそうな顔をしている楯無先輩の方が心配です。暗部のこともあるので簡単に自分の感情を見せる人でもないはずなんですけどね。

 

「先輩? 妹さんとはうまくいってないんですか?」

「……流すから、目瞑ってね」

 

 先輩はそう言うなりシャワーヘッドを掴んでお湯を出した……んですけど先輩!? まだお湯にもなってない、というかそれ完全に水なんですけど!? もしかして私地雷踏みましたか!?

 

「先輩、待ってくだヒャンっ!」

「え? あ、ごめーん。ぼーっとしてた★」

 

 てへぺろって具合に舌を出す先輩。

 可愛いは可愛いんですけど――

 

「……まさか、わ、わざと?」

「あら、ばれた」

 

 じゃあもしかしてさっきの寂しそうな顔も演技ですか!? いえ、分かってましたよ? 先輩があんな顔する訳ないですもんね。えぇ、分かって当然です。

 

「じゃ、流すね」

「まったくもう怒っちゃいますよ? ……って水! 先輩これ水のままぁぁぁああ!!」

「あはっ♪」

 

 ……このあとも背中をつーっとされたり、くすぐられたりと入学して最初の大浴場をゆっくり満喫することはできませんでした。というか本当に背中は敏感なので勘弁して下さい……

 

「はぁ~、いいお湯だった」

「私は冷たかった記憶しか残りそうにないです……」

「ごめんごめん」

 

 反省していない謝罪はタチが悪いだけですよ……

 その後もなんやかんやと話して、寮の階段の前で先輩と別れました。なんだかお風呂に入る前よりも疲れた気がします。

 これは早く寝るに限りますね。暖かい布団で寝ることを考えると少しウキウキします。

 食事・入浴・睡眠は私のモチベーションを保つ重要な習慣です。

 

「重要な、習慣なのに……」

 

 意気揚々と寮での私の部屋まで歩けば、その扉の前に立つ1人の少女。その傍らにはボストンバッグ。見た目は家出少女そのものですが……楯無先輩との絡みで一時的に鋭敏になった感覚がひっきりなしに警戒音(アラート)を鳴らしています。

 

 これ、面倒ごとだ! という具合に。

 

 そうと分かれば、まずは状況把握のための情報収集です。

 まずは本当にあの部屋が私の部屋かどうかですが、階段の2階という表示を信じれば間違い無さそうです。むしろあの表示が間違っていたら何を信用して生きていけばいいのか分かりません。すこし言い過ぎましたね。

 なら、実はあの女生徒は私の部屋に用があるのではなく寄りかかっているだけなのではないでしょうか? あ、扉をノックしているので、その可能性も消えました。

 では、私に用事があるならば誰なのか、です。もちろん私の知っている人ではないです。アジア圏、特に日本人にも見える相貌。肩ほどまで伸びた髪の毛を高い位置で結っているツインテール。その金色の留め金がよく映える黒髪。背は私より大きいですが、どちらかと言えば小柄。そして、貧乳。

 知らない人ですが、心当たりはありすぎて困ります。しかも一方的に知っているだけですし、当然初対面です。

 

「はぁ……気が重いですね」

 

 あんまり待たせるのも悪いので覚悟を決めましょう。いつから待っていたのかは分かりませんが、あまり苛立っていないようなので長時間待たせたということもないでしょうし、申し訳なさより疑問に思っていることを前面に出していきましょう。

 

「えっと、あの、何か用ですか?」

 

 私が声を掛けたのに反応して女生徒――(ファン)鈴音(リンイン)がこちらを向きました。立っているのが彼女という時点でどうなるかの予想は付いています。

 最近、学校でも私の周りが騒がしくなってきましたし……自分の部屋くらい、ゆっくりさせてほしかったです。

 

「あ、ここの部屋の人? よかった、寝ちゃってるのかと思った。私、鳳鈴音、ルームメイトになるんだから鈴でいいわ。もー待ってたのよ。寮の部屋聞いたはいいんだけど鍵受け取り忘れちゃってさ。あぁ、名前で分かると思うけど中国人、とは言っても日本も第二の故郷みたいなものだけどね。これでも代表候補生なんだから。それで、えっと、あなた何組?」

 

 おぉ……なんか矢継ぎ早に話されて何がなんだか分かりません。とりあえず何とか聞き取った最後の質問だけでも答えておきましょう。

 

「えっと、1組、です」

「あ、ホントに? 残念、私は2組だから別々のクラスね……って1組!? じゃあ一夏、織斑一夏って知ってる?」

「えぇ、まぁ……クラス対抗戦にも彼が出るみたいですよ?」

 

 さっきからすごい早口ですけど……もしかして緊張してたんでしょうか? それで、待っている間に考えていたことをとりあえず言っている、とか。

 

「じゃあ、やっぱり1組のクラス代表は一夏なんだ……うん、やっぱり明日変わってもらおう。でもどうやって、」

「あの、とりあえず部屋入りませんか?」

「そ、そうね」

 

 あれ、考え事の邪魔しちゃいましたかね?

 でもルームメイトになる以上は決めていかなきゃいけないかともありますし、仕方ないです。

 というのは建前で、私の部屋の前を通る生徒達が物珍しそうに見ていくのが気になるだけです。未だに学校以外での個人的な時間で私と話すのは一松さん達三人娘とセシぃ、楯無先輩にたまに織斑君という程度ですからね。それ以外の誰か、しかも美少女が私と話していたら普段の私を知っている人に注目されるのも当然です。

 扉を開けて、彼女を招きますが……部屋もまだ汚くしていませんし中に入れても大丈夫なはずです。

 というかルームメイトが来るなら山田先生や織斑先生を通すなりして知らせてほしいです。教えてもらっていたなら待たせないようにもう少し早くお風呂を済ませるよう努力したでしょう。先輩がいたので実際に早くすむかは甚だ謎ですが。

 

「へぇ、綺麗にしてあるのね……もう住み始めてから1カ月は経ってるのよね?」

「え? あぁ、3月の終わりから使わせてもらっているので、ちょうどそのくらいですね」

「その割には生活感ないというか……あ、誉めてるのよ?」

 

 言ってから気付いたのでしょう。受け取り方によって失礼な感想を謝られました。

 私自身、面白味のない部屋だと思っているので気にしませんけどね。

 

「えっと、鈴音さん、ベッドはどっちがいいとかありますか? 私は普段寝たい方で寝ているので、希望があれば言ってください」

「んー、私もどっちでもいいんだけど……今日、先に寝る方が決めればいいんじゃない?」

「それもそうですね。あ、クローゼットの中の服は適当に押しやっちゃって結構ですよ」

「そ? 悪いわね」

「いえ、これから一緒に生活するんですし気を遣いすぎて困ることはないですよ」

 

 まぁ、逆に言えば私にも気を遣うことを暗に求めているのですが。できれば織斑君を連れ込むときは事前に言ってほしいですし。

 そうなったら三人娘の誰かの部屋に……一松さんと二木さんの邪魔になりますし、三好さんの部屋に泊まりましょうかね。

 

「不破さんって男の子みたいな服ばっか着てるのね。正直、もっと女の子っぽい方が似合うと思うわよ?」

「あー、まぁスカートみたいなフリフリしたのが落ち着かない……ということにしておいてください」

「なにそれ」

 

 鈴音さんは私の言い回しに深く突っ込むこともなく可笑しそうに薄く笑いながら服をクローゼットの中にかけていきます。

 というかあのボストンバッグの中にどうやってあれだけの量のものを詰め込んでいたんでしょうか。四次元ポケットの亜種に違いありません。中国には超多目的スコップて便利道具あるらしいですし

 なんて、下らないことを考えていると、いつの間にか鈴音さんは手を止めて私を見ていました、聞きたいことがあるというような表情です。どうせ織斑君のことでしょう。

 

「ねぇ、一夏……じゃなくて、えっと織斑君ってどういう人?」

「呼びやすい呼び方でいいですよ。変に勘ぐったりはしないので」

 

 つい、呼び慣れている名前で言ってしまったというように照れる鈴音さんは私的にもアリですけど……最近、二木さんの性癖に引っ張られてシャルのことを考えなくても女性に惹かれているような気がしないでもないです。

 ……勘違いということにしておきましょう。

 

「そう? なら一夏って学園でモテてるの?」

 

 いきなりストレートになりましたね。まぁ、そういう性格なんでしょうね。

 それにしても織斑君がモテているか、ですか……微妙に難しい問いかけですね。彼と付き合ってもいいという女子は確かにたくさんいるでしょうが、彼とじゃないと付き合う気がしないという程、彼のことを好きな人はそう多くもないんじゃないでしょうか。彼、人の名前と顔を覚えるのが苦手らしいので付き合いもクラス内に限られてますし、その中で彼が仲良くしゃべる相手というのは更に限られていますし。

 今現在、鈴音さんのライバルになりそうな人と言えば……篠ノ乃さんくらいでしょうかね。彼女、暴力的ですから接し方を間違えなければ鈴音さんの圧勝でしょう。

 まぁ、とは言えそういうことを言って篠ノ乃さんに睨まれるのも怖いので適当に答えておきましょう。

 

「モテてるか、といえばそうですね。微妙に珍獣扱いなような気もしますが……一応は自分の考えを持っているので私としても高評価ではありますよ」

「ふ、ふーん。アイツの考えとか聞いちゃうくらいには仲いいんだ?」

 

 幼なじみを誉められていい気分になるかと思えば、むしろ鈴音さんは不満顔……というよりは心配顔ですね。

 ……あ、私も織斑君を狙っているんじゃないかって思ってるんですね。

 

「心配しなくても織斑君に惚れたりはしていませんよ。私は鈴音さんのライバルではないです」

 

 今のところ私はいずれ転入してくるシャルロット以外に興味はありませんから……でもそれまでの間に鈴音さんと仲良くなっておくのもいいかもしれませんね。胸とか身長とか見てみても気の合う同志(なかま)になれる気がします。

 

「ら、らら、ライバルって誰が!? 私は一夏が変な女に付きまとわれてたりしないかが……そう! 幼なじみとして心配なだけで、」

「鈴音さんって朝強い方ですか? もしそうなら私のこと起こしてくれると嬉しいです」

「え!? う、うん。分かった」

 

 照れ隠しはスルーするに限りますよね。そうした方がお互い被害が抑えられますし、さっきのに突っ込むと私も変な女に含まれることになりそうですし……いえ、あながち間違っていないとは思いますけど、さすがに初対面の人にまでいわれるほど逸般的ではないつもりです。

 もし一般常識に欠けるというなら……私の両親の影響でしょう。諦めるほかありません。

 そしてありがたいことに私の目覚まし時計もお役御免になりました。実は機械音で起きるのって苦手なんですよ。やっぱり人の声で起こされたいと思うのはわがままなんでしょうかね?

 

「それじゃ、明日も学校あるので寝ませんか? 個人的に今日はいろいろあって……」

 

 今日は学校でも楯無先輩に絡まれていたので、お風呂をあがった時点でライフは尽きかけていたんですよ。

 うぅ、思い出したら余計に眠たくなってきました。

 

「それじゃ、鈴音さん……おやすみなさい……」

「私はもう少し荷物解いちゃうから先に寝てて。あと鈴でいいってば」

「そですか……なら、鈴ちゃん……おやすみ……」

「鈴ちゃん!? ……ってもう寝てるし。あぁもう、ちゃんと布団かぶらないと風邪引くわよ」




鈴はたぶんオカン属性持ち
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