Plongez dans le "IS" monde. 作:まーながるむ
束さん登場
「海っ! 見えたぁっ! 代表、わくわくしない!?」
……しません。
海なんて干からびて塩の砂漠になってしまえばいいのです。
母なる海? なに言ってるんですか。海水浴客が溺れて死ぬことだってあるんですよ? そんな母親は児童虐待で家裁に連れて行かれるべきです。
はぁ……こんな時ばかりは快晴が恨めしいです。
あんなにいっぱい逆さ照る照る坊主を吊したのに……ティッシュケース三箱分ですよ? もう少し効き目あってもいいと思います。
……まぁ、鈴ちゃんが変に気を利かせて普通の照る照る坊主に戻したことを考えれば効き目はあったのでしょうけど。
鈴ちゃんの、アリサったら詰めが甘いわよ楽しみにしすぎ、なんて言葉が頭の中で反響します。
確かに結果的にシャルと選ぶことになった水着を着れることは嬉しいですし、それをシャルに見せるのも楽しみですよ?
でも、こんなに晴れてたら水着を着て泳がないっていう選択肢が狭まるじゃないですか。
……やっぱり山にすべきだったんです。水着回が必要なら露天風呂で着ればいいじゃないですか!
「おー。やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ」
「ん? そうかもね」
しっかり隣同士に座ってるシャルと織斑君の存在がさらに私に追い打ちをかけてきます。
ええ、確かにテンションあがりますね! 主に悔しさとか妬ましさで!
しかも織斑君、隣にシャルを座らせておきながらセシぃ、ラウラさん、篠ノ之さんと手当たり次第にアタックかけてますし……私も怒っちゃいますよ!
うぅ~、泳ぎたくないです……ん、今のはちょっと正確ではないですね。私泳げませんし。
だから……海に入りたくない! というのが正解ですか。
分かってますよ? 自分が絶賛逃避中だって事くらい。
「さぁ着いたぞ。ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の方の仕事を増やさないように注意しろ」
「「「よろしくおねがいしまーす」」」
……仮にも三日間、宿を借りるのにその間延びした挨拶はいかがなものでしょう。
おっとっと、私の呆れ顔が気になったのか女将さんに見られていました。皆さんのお手本として丁寧にお辞儀しました。
……なんだか驚かれています。
「まあ、外国の方なのに偉いわねぇ。こちらこそよろしくお願いします」
やっぱり、本職の方のお辞儀は違いますね。ぴんと棒が通っているかと思うくらいまっすぐな姿勢で腰を折ってお辞儀を返されました。
うーん、今後のために覚えておきましょう。
「あら、こちらが噂の……?」
どうやら織斑君のことも知っているようです。
まぁ、ニュースでもやってましたし花月荘は毎年利用しているらしいですから記憶に残りやすかったんでしょうね。
「ええ、まぁ。今年は一人男子がいるせいで浴場分けが難しくなって申し訳ありません」
おお、織斑先生が謝ってます。
「なんだ、不破?」
「いえ、浴場に関しては私は関係ありませんし」
背中の傷がある以上、皆さんと一緒に入るのには抵抗がありますからね。
シャルにはああ言いましたが見せないで済むならやっぱり見せなくないです。
「まったく、一人で大浴場を独占している生徒なんてお前で初めてだぞ」
「えへん」
「誉めてはいない。周りを巻き込む力は認めるがな」
「……その節はご迷惑をおかけしました」
織斑君の大浴場の利用日が決まった影響で、ボイラー点検の日限定とはいえ女子生徒がひとりで大浴場を使っていると利用状況が把握しにくくなって、織斑君と私が鉢合わせするかもしれない、なんて議論が巻き起こったらしいんですよね。
どうも、原因は私と楯無先輩が大浴場で暴れて一週間ほど使えなくしたかららしいんですが……全然覚えてないんですよねぇ。
とにかく、そのとき織斑先生のおかげで今まで通り使えることになったらしいです。
「それではみなさん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから――あらあら、元気があってよろしいですね」
女将さんの言うことを最後まで聞かないで部屋に向かってしまう生徒がちらほら……皆さん、織斑先生にマークされましたよ?
宿泊行事を楽しみたいなら先生の前では大人しくしているべきです。
見られてないときに騒ぐのは自由ですから。
「ね、ね、ねー。おりむ~。おりむーの部屋ってどこ~?」
……織斑君、次は本音(のほほん)さんですか?
まったく、この人のナンパぶりに磨きが掛かっている気がします。
「いや、俺も知らな、」
「織斑先生と同室のはずですよ? 個室だと女子が押し掛けるから、とかで」
そんなことを山田先生が呟いていました。
まぁ、織斑先生の部屋に押し掛けてまで織斑君と遊ぼうという気合いの入った人はあまりいませんよね。
虎穴に入らずんば虎児を得ず、ってことでしょうね。
織斑君はどう転んでも夜は楽しめない、ということです。
ざまぁ見ろ、です。
「あ、ふわわーだ~。海行こ~?」
「う、その……えと、はい……」
どう頑張っても、本音さんには逆らえません。押しが強いわけでもないんですけど……
「でも、本音さん、私は背中の傷が……」
「大丈夫だよ~。皆で隠してあげるからー」
「……絶対、ですよ?」
本音さんは生徒会に所属しているので私の傷のことも知っています。というかもう十人も私の傷のこと知ってるんですね。
でも……こうもにこにこされては断れませんよ。もとから水着に着替えるつもりではあったわけですし、まぁ、いいでしょう。
「では、荷物だけ置いてきちゃうので、別館で会いましょう」
「あ~いあ~いさ~」
「私は女なのでサーじゃないです……」
正解はマム、と言うべきですね。
まぁ、ノリと流れで生きている本音さんに言っても意味はないでしょうけど。私にだって拘りがあるわけでもないですし。
……私の部屋はここですか。
んと、部屋のメンバーは……一松さんたち三人と原田さん、それに四人の共通の友達三人ですか。四人も知り合いがいるなんてラッキーですね。
「あ、代表」
「原田さんも海ですか?」
「ま、そんなところ。ところで夜の代返は任せてね?」
「え?」
代返って、見回りの先生にいない人の代わりに返事することですよね?
私、夜に抜け出す予定はないですよ?
「とぼけちゃってー……ちょっとこっち来て」
「えぇ……?」
他の方の視線から逃れるように二人して部屋の角へ行きます。
私と原田さんの間にこそこそ話さないといけない事なんてないと思うんですけど……
「……代表ってデュノアさんのことマジラブなんでしょ? だったら夜這いするしかないじゃん!」
「な、なななな!? なんで!?」
鈴ちゃんやセシぃとか、普段私と一緒に行動している人たちならまだしも、なんで原田さんが!?
「ほら、あのときのノート……えっと、シャルロットに逢いたいなぁとか、いろいろ……」
「あっ!」
そういえば、あの時の原因ってそもそも原田さんだったじゃないですか!
何で今まで気付かなかったんでしょう。私が逆上してしまったのだって原田さんがバラしかけたからですし。
「ま、そういうわけで頑張って!」
ぐっと拳を向けられても……
そもそもシャルはもう織斑君と……
「恋せよ乙女、命短し!」
「順番、逆じゃないですか?」
「細かいことはいいんだって。今日の夜は部屋に入れないからね!」
え、えー!?
それは困りますよ……シャルの部屋は廊下の向こうでしたっけ?
今のうちにお泊まりセットを作っておかないと本当に追い出されたとき困りますね。
べ、別にその気になってるわけじゃ……
い、いいじゃないですか! ちょっとくらい気にしたって!
「それじゃ、海行ってきます!」
早いところ原田さんから距離をとらないと墓穴を掘る気がします!
部屋を出てダッシュ! は他のお客さんに迷惑なので静かに早歩きです。
私の早歩き、競歩の大会にでても恥ずかしくないくらいのスピードがでますよ?
「っと、織斑君に篠ノ之さんじゃないですか。そんなところに立ち止まって、何してるんですか?」
「いや、地面を見てくれれば分かる」
「地面、ですか?」
辺りを見回してみてもウサミミが生えているくらいでどこもおかしく……ウサミミ?
「あの、あれは日本特有の植物ですか?」
「ああ、篠ノ之束という傍迷惑なものだ」
あー……これが。
いえ、植物ではないのは分かっていましたけどね。だって『引っ張ってください』なんてふざけた張り紙がしてありますし。
篠ノ之さんが嫌そうな顔をしているのも納得です。
でも、二人はこれをどうする気なんでしょう?
「私は行くぞ」
「お、おう」
あらら、篠ノ之さんは行ってしまいました。織斑君も仕方ないみたいな顔をしていますし、いつものことなんでしょうね。
まぁ今回ばかりは篠ノ之さんは関わりたくないからではなくて、たんに恥ずかしいからでしょうけど。
「織斑君も放置したらどうです?」
「いや、放置したら束さん拗ねるから……」
「じゃ、抜きますか」
軽く引くとすぽっと抜けました。
一瞬、篠ノ之博士が抜けるかとも期待したのですが……まぁ、あり得ないですよね。地面の中じゃ呼吸も大変ですし。
キィィィィィン……
ん、なんか、飛んできてますね?
ハイパーセンサーによると……ブーストで飛来してくる……巨大にんじん?
「って、きゃっ!?」
「ぬお!?」
「い、一夏さん!?」
ドカ――――ン!
すごい衝撃とともにイラストチックなにんじんが地面に突き刺さりました。
私は踏ん張りましたが、織斑君は吹っ飛んで……たまたま後ろにいたセシぃのスカートの中にダイブ。
押し倒す形でセシぃの下半身に顔を押しつけています。
うわー。さすがですね。幼稚園生が見ても今の織斑君を正しく変態と呼ぶでしょう。
「あっはっはっ! 引っかかったね、いっくん! ……あれ? 君誰?」
「この間の不破アリサです。そこで変態行為をしているのが織斑君です」
「わわわわ!? いっくんが獣さんに……うわー、すご」
篠ノ之博士……顔が真っ赤です。今現在顔を大事なところに押しつけられているセシぃより真っ赤です。
というかセシぃ、反射的な行動なのは分かりますけど、スカートと一緒に織斑君の頭を自分で押しつけてますよ?
「ね、ねえ、最近のいっくん、あんな感じなの?」
「いえ、あれは不幸な事故だと思います」
「でもでも、女の子の方の顔も嫌そうじゃないよ? えっと、ああいうのを合意の上っていうのかな?」
「し、知りませんよ!」
でも、最近セシぃも怪しいと思ってたんですよ。
私がいなくても織斑君と一緒にいますし、この前の買い物の時も織斑君を皆で尾行してたみたいですし。
「そ、その、私、お邪魔かな?」
「見られた方が燃え上がる、というのを聞いたことがあります……」
「こ、こんな人目に付くところでやってるってことは……そういうことなのかな?」
「えと、篠ノ之さん……箒さんのところ行きましょうか?」
「そ、そだね」
篠ノ之博士……ややこしいですね。束さんはおもむろに私の持っていたウサミミを取ろうとして。
ひょい
「あっ!?」
ひょいひょい
「とうっ!」
ひょひょいのひょい
「たぁー! って渡してよ!?」
「ごめんなさい。やけに可愛らしかったので……」
「まぁ、そういうことなら許すよ! じゃあ箒ちゃん探知機スイッチオン! むむむむむむ……あっちだ!」
あ、ウサミミを付けたかっただけじゃなくて、ちゃんと意味はあったんですね。
でも、何でウサミミなんでしょう?
「って、置いてかないでください!」
会話をするのは二度目ですが分からない人です。
初めて話したのは……ちょうどシャルが男装をやめたときですね。
◆
「――。……姉さん」
ん? 篠ノ之さんが電話してますね。これはまた珍しい。彼女が電話してるところなんて初めて見ましたよ。
しかも、電話の相手は篠ノ之博士のようです。不仲だと思ってたんですけど……
私も篠ノ之博士と話したいことありますし、変わってもらえませんかね……?
確か、織斑君と織斑先生と篠ノ之さん以外に対しては興味がないなんて聞きましたけど……でも、どうしても話さないといけないんですよね。
「姉さん、感謝はしている――ん? 不破か?」
(ちょっと、かわってください!)
(いや、多分、相手にされないぞ?)
電話の邪魔をしてはいけないので口パクでなんとか意志疎通を図ります。でも感触は悪いですね。
「あ、いや、私の友人が姉さんと話したいとか……名前? 不破アリサだ。え? いいのか? いつもみたいに冷たくしないな? 私の、えっと、友人だからな? 何かしたら今度は本当に嫌いになるぞ?」
むむむ?
どうやら篠ノ之博士の方からコンタクトをとろうとしてきているみたいです。まぁ、思い浮かぶ理由としてはあの件でしょうね。
だから私も話したいわけですし。
それにしても、篠ノ之さん、篠ノ之博士の事嫌いなんじゃなくて心配だけどどう関わっていいのか分からないだけなんじゃないでしょうか?
今の篠ノ之さんの言葉を聞いていると、どうもそんな気がします。
「不破、姉さんが話したいそうだ。できればだが、怒らないでくれると嬉しい」
やっぱり問題のある姉を心配しているだけにしか思えません。
「……お電話代わりました、不破アリサです。いやぁ、愛されてますねぇ」
「そんなことはどうでもいいよ。君、アレどうしたの?」
「まま、そう言わずに。私は箒さんのお友達なんですから少しくらいは仲良くしましょうよ」
「やだよ。私には関係ないことだもん」
……まさに難攻不落ですね。
ですが!
私には引きこもり生活から脱却したというキャリアがあります。
その経験を生かして篠ノ之博士も真人間にしてみせましょう。
篠ノ之さんにも頼まれましたし!
「関係ないことないですよ? だって私の友達である箒さんがあなたのこと心配してるんですから」
「だっ、誰がむぐぅ!?」
はーい、篠ノ之さんは静かにしててくださーい。
「箒ちゃんが……?」
「そです。ね、箒さん?」
「あ、ああ、うむ。一応、姉妹だからな」
携帯を篠ノ之さんに向けて話させます。
うん、篠ノ之さんが空気読める人で助かりました。
そんなわけがあるか! とか言うかもと思ってたんですよ。
「嘘だよ。だって箒ちゃんは私のせいでいっくんと離れ離れになって、引っ越しも多かったから友達も作れなかったんだよ? 私を恨んでないわけないよ」
「そうですね……でも、結局ISがあったおかげで同じ学校に入れたじゃないですか。それに、同じ組にして、最初の内だけとはいえ同じ寮の部屋で生活させたのも篠ノ之博士の思惑ですよね?」
「それは……箒ちゃんに謝りたかったから……」
……うん、普通に会話できてますね。
やっぱり、引きこもり相手と話すには相手の話を聞いてあげるのが大切みたいです。
いつかのセシぃもそんな感じでしたし。
「今の話を聞いて、箒さんもきっと許してくれますよ。それに家族じゃないですか。いつまでも嫌ってることなんてできませんよ」
「そう、かな?」
「そうですよ。ね、箒さん?」
「う、む……姉さん。いろいろあったけど、ありがとう……」
「私も、いっぱいごめんね、箒ちゃん」
一件落着。
これであとは本題に入るだけですね。
「それで、本題なんですけど……」
「あ、待って待って! その前に箒ちゃんと仲直りさせてくれてありがとう! お礼は思いつかないんだけど……そうだ、第四世代型ISとか興味ある?」
「……いえ、お礼は気にしないでください。その、自分のISに愛着もあるので」
「そっか、それだったら今度素敵改良してあげる!」
……なるほど。
篠ノ之博士って自己中なように見えてただのツンデレだったんですね。ツン999、デレ1くらいの……
「ありがとうございます。それで、本題なんですけど――」
◆
「ねぇ、あーちゃん」
「……わ、私のことですか?」
「もちろん。それで、何であのとき口だしてきたのかな?」
あの時……まぁ、この前の電話のことですよね。
あれの理由と言われましても……篠ノ之さんにいい顔したかったからですかね。
あとは……
「それはほら……理由もなく嫌そうな声されるのもイラッとするので」
「わ、自分勝手だ」
「束さんに言われたくないですね」
まったく、どうせ今までのことは全部自分と自分の周りの為の行動でしょう?
って、なんで鳩が豆鉄砲な顔してるんですか?
もしかして自分勝手だと思ってなかったとか……?
「ううん、そういえばいっくん以外に私を名前で呼んでくれる年下の子っていないなぁって思って」
「そうですか」
目の付け所が子供みたいですね。
天才は得てして変人だって言いますけど、束さんも当てはまるんですね。
いえ、ウサミミの時点で気付いてましたけどね?
「あっ! 箒ちゃんいた!」
「それじゃあ私は着替えて来ちゃいます」
「ばいばーい」
束さんを篠ノ之さんに託して私は別館の中に入ります。
人は……いませんね。ラッキーです。
早いところ着替えちゃいましょう。
ふぅ……束さん、意外と元気な人でした。
私のイメージだとずっと椅子に座ってものを考えてるような虚弱体質の……あんなスタイルの良い人だとは思いませんでした。
「……私の胸、あれくらいまで大きくなりますか?」
私も牛乳飲むので頑張って下さいね?