こうしてスカイリムを訪れてからはや1年が経つ。
魔術の探求のため、そしてうわさに聞くドラゴンを一目見るため、この北の大地に来てから、すでに一年が経ったのだ。
かの娘に出会ってから様々な出来事があった。
彼女こそが私の運命の訪れであったのだと、今となっては思う。
ここらで一度、今までの記録を付けようと思い、こうして筆を執っている。
彼女に出会ったのはそう、まだ肌寒い、春が目覚めようとしている季節だった―――
魔術師と竜の娘 第一話
ごとん、ごとんと馬車の車輪が音を立てて進んでいる。
ここはホワイトラン。スカイリムの中心であり、交易の中心地。
偉大なるバルグルーフが治めるスカイリム最大の貿易都市、様々な異種族が暮らす寛容な地、ホワイトランだ。
私の名前はトラバエオス・エルディキニ・ホルン。
長ったらしいので親しい人たちからはトランと呼ばれている。
ここタムリエル大陸の南西にある島、サマーセット島で育った由緒あるアルトマーだ。こちらのマー(人間)にはハイエルフとも呼ばれる。
これでも由緒ある魔術の大家に生まれた魔術師で、自分でもそれなり以上の魔術の腕を持っていると自認している。
そんな私がこのアルトマーを嫌うノルドたちの地に訪れたのは---
「……客さん。お客さん! 起きてください! 着きましたよ!」
前からそんな御者の声が聞こえ、私は考えることをやめ、声のする方を向いた。
「おっと、失礼。気づかなかった。もう着いたんだね。ここがホワイトランか……」
目の前には、広い平地に大きくそびえたつ城塞の姿があった。
全体的に白く、段々状になっている。一番上の大きな建物は英雄オラフが竜を捕らえたという逸話で有名なドラゴンリーチだろうか。
要塞の周囲には川が流れ、様々な建物が立ち並び、馬車が通るためか、通路も広く整っている。
戦争やドラゴン騒ぎの影響か、人の通りはあまり多くないが、ここがスカイリムの中心地、交易都市ホワイトランであることがよくわかるような光景だった。
「えっと、150セプティムだ。これで足りるかな?」
御者に金貨の入った袋を渡す。セプティムとはここタムリエルに流通している貨幣の名前で、1枚で一食以上賄うことができる。
150セプティムともなるとなかなかに大金だが、これまでの馬車の旅の長さを考えると、妥当な代金のようにも思える。
「はい、ありがとうございます。ちょうどですね。お忘れ物などないように注意してくださいね。では、よい旅を。あなたの旅路にキナレスの風が吹きますように」
「ああ、ありがとう。あなたの旅路にも、ジュリアノスの知恵がお守りくださることを」
御者に会釈をして、馬車から一歩踏み出す。少し肌寒いが、思っていたほど寒くはなかった。
ここがスカイリムでも南の方だからだろうか。
辺りに雪の気配もなく、緑の芽が少しずつ顔を出し始めている。何かの始まりを感じさせるような、そんな気持ちのいい空気を感じる。
そう思いながら足を進めていると、少しして
川を渡るための橋と、その向かい側にある大きな木製の門にまでたどり着いた。
時刻は3時を回ったぐらいだろうか。
夜にたどり着いた場合、街に入るための処理がいろいろと面倒だっただろうことを考えたら幸運だったように思える。
そうしていると、道から少し離れた草むらの上に何か黒いものを見つけた。
気になって少し目を凝らすと、どうやらそれは人のようだった。
「……うん? 人?」
あわてて駆け寄ってみると、そこにいたのは人の年で16,7ぐらいの美しい少女だった。
長い黒髪に初雪のように白い肌。まだ育ちきっていないが、端正で美しい顔立ち。
それはまるで人間でないかのような美しさを持つ、乙女であった。
「大丈夫か!?」
そういいながら彼女の首に指を当て、脈を取る。
「良かった。息はあるか…… 見た限り顔色も特に悪くないし、発熱しているようにも見えない。意識がないことだけは気になるが、そこまで問題ない、かな……?」
彼女をここに放ってはおけないので、ひとまず彼女をどこか休ませられるところにまで連れて行こうと思う。
ここから一番近い休めるところというと、
「さっき途中で見かけた宿屋か。よし。とりあえずそこまで行こう」
彼女を背負い、宿に向かう。
幸い彼女は軽く、そこまで力があるとはいえない私でも十分運ぶことが可能だった。
「ふぅ。さて、運んできたのはいいとして、このあとどうするか……」
宿に着いた後、女将に訳を話して部屋を取ってもらってから数時間。
彼女はいまだに目覚めない。
寝ているわけではないのだろうし、容態を見る限り頭のほうにダメージがいっているわけでもなさそうなのでもうしばらくしたら目覚めると思うのだが……
そう考えていると、ベッドの上に横たわっていた彼女が小さく声を漏らしながら起き上がった。どうやら目が覚めたようだ。
「……ん、うん…… あれ……? ここは……?」
「良かった。目が覚めたかな。ここはホワイトランの外にある「白馬の蹄」って名前の宿屋だよ。君が道のはずれで倒れているのを見かけてここまで連れてきたんだ。どう? 大丈夫? どこか痛いところはない?」
私がそう言うと、彼女のぼやけていた目の焦点が合い、そして―――
「ここは、どこ? あなたは、だれ? 私は……なに?」
私と彼女の長い冒険は、こうして始まったのだった。