徒然Locus of F   作:よしおか

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以前にふと考えた小ネタです。


単発ネタ
もしもリィンがキレる若者だったら


 リィン・シュバルツァーにはある悩みがあった。それは、自身の気質の問題だ。

 

 

 きっかけはなんだったか……そう、数年前のあの雪の日のことだ。

 

『兄様っ、血が……!』

『大丈夫、大丈夫だから……』

 

 故郷の野山で起こった急激な天候の変化と、それに妹のエリゼと二人で巻き込まれたのだ。

 乱雑に生える樹木を切り払う為の鉈しか持っていない、そもそも幼いリィンとエリゼの二人だけで雪山に取り残されるという状況が既に危険さを物語っていると言うのに、よりにもよって二人は野山にいる筈の無い熊型の魔獣に出くわしてしまった。

 飢えた獣の爪は幼い二人にも容赦なく振るわれ……気が付けば、妹だけは守らねばと奮闘したリィンは、あちこち打撲と切り傷でぼろぼろだった。

 

『うぁあっ!?』

『兄様っ!』

 

 それでも倒れてはならぬ、と鉈を振るったリィンだったが、ついにその剛腕の前に倒れ伏してしまう。血の池に沈む……と言うのは多少大袈裟だが、少なくとも嬲るように痛めつけられるリィンを間近に見ていたエリゼには、そう見えてもおかしくなかった。

 

『兄様っ、兄様! いや、目を開けてっ、兄様ぁ……!』

 

 雪の上に倒れ伏したリィンに縋り付き、エリゼは必死にリィンを揺さぶる。怪我人に乱暴な、と彼女を咎めることは出来ないであろう。それだけ彼女は混乱し、リィンを案じていたのだから。

 

『グルルルル……!』

『ひっ、あ……!?』

 

 唸り声を上げてのそのそと歩み寄る魔獣を前にして、エリゼは恐怖に押しつぶされそうになりながらもリィンの身体に覆い被さり、兄をこれ以上傷つけさせてなるものか、と彼女なりに守ろうとする。

 

(あ……エリ、ゼ……)

 

 痛みと、血を失う脱力感の中で段々と意識を失いつつあったリィンは、その時確かに見た。自分よりも幼い妹が瞼をきつく閉じ、口元をきゅっと引き結んで恐怖に耐えるその姿を。そしてその妹に襲い掛かろうとしている獣の、獲物にあり付く瞬間の狂喜の表情を。

 

(……ふざけるな……)

 

 それを、見過ごしてはならぬと思った。血の繋がらない自分を家族として愛してくれた大切な人達を守るために、今立ち上がらなければと思った。

 怪我が何だ、今動かねばエリゼは自分よりも痛い思いをするんだぞ!

 恐さが何だ、自分が立たねば父上と母上に家族を失う痛みと悲しみを味わわせてしまうのだぞ!

 

『こ、のっ……エリゼに、それ以上近づいたら……!』

 

 エリゼを押し退けて立ち上がり……幼いリィンは己に喝を入れる。

 短い人生の中で、地元の子供の喧嘩や、猟師たちの会話で耳にしたことはあっても口にしたことなどついぞ無かったその言葉は……

 

 

『掻っ捌いて鍋にしてやるぞ、この毛玉野郎ぉっ!!』

 

 

 自分でも驚くほど、するりと口から滑り出た。

 

 

 

 

 

 

 

(……居心地が悪い……)

 

 時は過ぎて、現在。リィンは好奇と恐れの入り混じった視線に晒され、心持ち背中を丸くしていた。

 彼が今年から入学することになった、帝都近郊にある有名高等学校『トールズ士官学院』の旧校舎でリィンを始めとする九名は何故か、ある特別なオリエンテーリングに参加していた。

 最初に落とし穴に叩き込まれた時点で一人の女子生徒とトラブルになってしまい、誠心誠意謝罪したものの怒り心頭の彼女には視線を合わせることすらしてもらえず―――実際には、はじめて超至近距離で家族以外の男性に触れた気恥ずかしさによるものだったらしいのだが―――ひとまず、男子生徒達からの同情にすこしだけ持ち直したリィンは、その場に居た男子生徒達と共に旧校舎の奥へと進んでいたのだが。

 進んだその先で、一行はとんでもない物と遭遇した。旧時代の遺構の片鱗、石の守護獣ガーゴイルだ。

 

『なななな、なんでこんなものが学校の地下にぃっ!?』

『帝国というのはこんな怪物がごろごろ居るのか…!?』

『そんなわけがあるかっ! 流石に古い伝承の中だけだ!』

『とにかく構えろっ! 全員でかかれば何とかなる筈だ!』

 

 途中、彼らからしばし遅れて駆け付けた女子チームや、頭を冷やすと言って一人離脱していた眼鏡の男子生徒、更にものぐさそうな小柄の女子生徒なども援軍として参加したことで、彼らは何とかガーゴイルを退けた……誰もが確信した、その瞬間。

 

『え……』

『危ないっ!』

 

 金髪の女子生徒……アリサに向かって、ガーゴイルは風の魔法で生み出した圧力弾を放ち、気が付いた時には彼女を庇うようにしてリィンは飛び出していた。

 間一髪、風の魔法はアリサにぶつかる前に、その間に割り込んだリィンに炸裂する。腹を殴打されるような痛みに、堪らずリィンは膝を着いた。

 さすがに照れている場合ではないと思ったのか、アリサは自分を庇って崩れ落ちたリィンに駆け寄り……痛みに悶えつつも身体を起こした彼の眼差しを見て、びくりと身を竦ませた。

 

『し、しっかりしなさい! 傷は……』

『あいっててて……て、めえっ!』

『って、え?』

 

 あえて音にするならば、“ぎろり”とかそんな擬音が付くだろうか。鋭く、荒々しい視線でガーゴイルを睨みつけたリィンは、刀を構え直すと腰を落として重心を低く取り、足のばねで以てガーゴイルに躍り掛かった―――

 

 

『くたばりやがれトカゲ野郎ぉおおっ!』

―――凄まじく口汚い叫びと共に。

 

 

 で、その後。人の変わったような狂態を晒しつつも僅か一太刀でガーゴイルの首を刎ね飛ばしたリィンは、Ⅶ組のほぼ全員から少しばかり距離を取られていたのである。

 アリサは未だにリィンの豹変に理解が追い付いておらず、同じチームだったエリオットからはカツアゲしてきた不良を見るような怯えの視線を向けられている。ラウラとマキアスもまた、決して上品とは言えないリィンの先ほどの様子を思い出して眉を顰め、ユーシスとフィーは知ったことかとばかりに明後日の方向を向いている。

 恐がりつつも必死にフォローしてくれたエマの優しさと、全く気にせず健闘を讃えてくれたガイウスの器の広さにちょっと涙が出た。

 

(やってしまった……こ、高等学生になったらもうあんな風にはならないと決めたのにぃぃぃ……!)

 

 妹を守ろうと立ち上がった、幼いあの日。自分を奮い立たせるために敢えて乱暴な言葉で相手を罵り立てたことで、リィンには予想の斜め上を行く悪癖が付いてしまった……即ち。

 

 

 頭に血が上ると、滅茶苦茶口が悪くなる。

 

 

 馬鹿、阿呆、などの子供のような悪口であればまだ良い方。

 酷い時など、果たしてこれは自分の言葉なのだろうかとリィン本人ですら後々になって疑問に感じるような罵詈雑言の嵐が口から飛び出すのである。

 自分でも直そう直そうと常日頃から心がけてはいるのだが、どうにも改善の兆しはない。ふとした時についつい出てしまう困った癖だ。

 成人の前ならともかく、いずれ社会に出た時に難儀するのは自分。ましてリィンは、養子とはいえ由緒正しき帝国貴族の名を背負っているのだ。下手に誰かに噛み付いたりすれば、いつ何時「シュバルツァー男爵家は長男の躾もなっていない」という誹りを受けるか分かったものではない。自分だけならともかく、家族までもが要らぬ中傷に晒されるのだけは我慢できなかった。

 

(これは、下手したらクラスに馴染むどころの話では無いかもしれない……)

 

 士官学校という体育会系なイメージの学校であれば、自分より荒っぽい人間も居るかもしれないと思っていたのは確かだ。そういった者達の中に居れば、自然と自分の癖も目立たなくなって鳴りを潜めるかという打算もあった。

 が、しかし。サラ教官の言によると、順当に行けばこの場に居る九人で二年間を過ごすことになる。ここまでで一番素行が悪そうなのは誰かと言えば、言うまでも無くリィンであった。

 果たして実に行儀のよさそうなこのメンバーの中に自分が入り込んだとして、無事に平和で健全な学生生活を送れるのかというと―――

 

(駄目だ、どうあがいても遠巻きにされる未来しか思い浮かばない)

 

 がっくりと肩を落としたリィンに、更なる死刑宣告が下される。

 

「……あー、それと。リィン・シュバルツァー君」

「は、はいっ!」

 

 名前を呼ばれ、声の主に目を向ける。すると、苦笑するサラ教官が、何か大事なことを伝えねばならないのに、非常に言い辛そう、といった表情で頬を掻いていた。

 

「さっきあたしは“Ⅶ組への参加は自由”って言ったけど、君に関しては話が別よ。君の親御さんから、断るようなら退学させて構わないと言われてるわ」

「へ?」

「『厳しい環境での修練によって、息子の癖が矯正できるかもしれないので』とのこと。学院長や他の先生方も了承しているから、君の場合はⅦ組に参加するか荷物纏めて実家に帰るかの二択なんだけど……どうする?」

「……リィン・シュバルツァー、特課クラスⅦ組に参加させて頂きます」

 

 実質選択肢無えんじゃねえかコンチクショウ―――言葉にしなかっただけ成長していると思いたい。

 もう一度周囲を見てみると、まあ痛いほどに突き刺さる戸惑いと否定の視線。先程いざこざになった二人の男子も含めて、明らかに歓迎されていない。

 自身のこれからに抱いていた期待は綺麗に消え失せ、残ったのは倍に膨れ上がる不安。

 やっぱり今日は厄日だ、と改めて呟くリィンであった。

 

 

 

 

 

 




熊「来いよリィン、鉈なんて捨ててかかって来い」
リィン「てめーなんか怖かねぇ! 野郎ォオブックラッシャアアアアアアアアア!!」
 熊の敗因:捨てろっつったのにリィンが鉈を捨てなかったこと。

 某RPGに「穏やかで物腰柔らかい黒髪の刀使い」というキャラクターが出て来たのですが、こやつが「キレると髪が銀色になり、滅茶苦茶言葉が汚くなる」という特徴がありまして。
 そしてその続編で、彼の本名が“リイン”であったことが明かされました。
 翌年発売された閃の軌跡をプレイしつつ友人と話していて「リィンの過去の恥ずかしい時期ってのが中二病じゃなくて元ヤンだったらどうなっただろうね」とふざけてネタを練ったのがこれだったりします。
 多分このリィンの「人には言えない衣装」は特攻服なんじゃないでしょーか。国士無双とか暴走天使とか仏血斬とか背中に刺繍してあるような。
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