徒然Locus of F   作:よしおか

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違うんや、私は今日の休みでプリプリの方の続きを書かなアカンと思って机に向かったんや。
なのに何故か書きあがっていたのはこっちのお話だったんや。
朝にちょっと気合を入れて濃い目のコーヒーを淹れたのが悪かったんや。

はい。そんなこんなで案外続いてしまった女オリ主もの、4月の絆イベント(マキアス編)です。


女オリ主と副委員長とのあれこれ・4月

(……どうしてこんな状況になっているんだ)

 

 ライノの花も見頃を終えて、舗装された石畳の道へとちらほら花弁を落とし始めた頃。

 近郊都市トリスタの一角にある宿酒場『キルシェ』……その軒先に設置されたオープンテラスで、マキアス・レーグニッツは眉間に大層深いしわを寄せていた。

 週に一度、士官学院の学生たちにも訪れる休息の日。普通の学校と違ってあくまで休日でなく自由行動日という呼び名だが、彼が午前のうちからお気に入りの店でコーヒーを飲める日という事実に大して変わりは無い。

 進学先の街に美味しいコーヒーを出してくれる店があるというのは、父親ともどもコーヒーを数少ない趣味とするマキアスには僥倖だった。

 春のあたたかな日差しを浴びながら勉学に励みつつ、慣れ親しんだ苦みと酸味を味わえるというのは、平民出身の自分にとってはこのうえなく充実した時間である―――と思っていたのだが。

 

「はふぅー……やっぱりここのコーヒー美味しいねぇ。マキアスが気に入るのも分かるな」

「……そうか」

 

 どういうわけだか、おおよそマキアスにとって天敵でしかないはずの貴族出身の女子学生が、目の前で同じものを飲んで幸せそうに頬を緩めていたのであった。

 

(いや、本当にどうしてこうなった)

 

 我に返って内心で頭を抱えるも、どうにも気の抜ける目の前の笑顔が雲散霧消することもなく。

 両手で持ったマグカップの中身をふー、と吹いて冷ましながら堪能するリアラ・シュバルツァーのほほ笑みに、マキアスは数十分前のことを思い返す。

 

 

 

 

 

 自由行動日を迎えたトールズ士官学院の学生たちは、大概が羽を伸ばそうとトリスタの街へと繰り出す。

 そんな中、マキアスが宿酒場の軽食・喫茶コーナーなどという洒落た場所を訪れたのは、純粋に美味しいコーヒーを求める以外にも、落ち着いて宿題に取り組める場所を探してのことだった。

 『キルシェ』の本業は宿泊と食事であるが、有名な学院を擁する街において、商業施設は軒並み学生向けのサービスを何かしら行っている。

 例えば書店であれば教科書や参考書の優先販売や取り寄せサービスを。例えばブティックであれば学生服や体操着といった衣服の手配の他、修繕の受付を。

 そして宿酒場では、混雑や夜間の時間を除いて、学生たちに宿の一部スペースを自習室として提供しているのである。

 

「お、今日も来たなぁコーヒー坊や」

「ははは……その節はどうも」

 

 若い店主のからかい交じりの歓迎に、頬を掻きつつ会釈する。

 初めてこの店を訪れた際、他の客がいなかったこともあってか豆の挽き方からドリップの方法までカウンターをのぞき込みつつ色々と質問してしまったのがきっかけで、マキアスは店主フレッドに妙なあだ名で呼ばれていた。

 普段であればカウンターで二、三、他愛のない世間話をしつつ、フレッドが丁寧にハンドドリップで淹れてくれたコーヒーを待ちながらノートと教科書を広げるのだが、その日の『キルシェ』は珍しく混雑していた。

 

「今日は表のテラス席の方で良いか? つってもお前さんトコの学生さんと相席になっちまうけど……」

「ああ、はい。先客が良いんなら僕は構わないですよ」

「すまないな、この分はサービスさせてもらうぜ」

 

 自習スペースとして使える部屋が満室と聞いてテイクアウトも考えたが、せっかくならば腰を落ち着けて楽しみたい。

 どうせ鼻持ちならない貴族生徒ならば平民の学生との相席なんて断るだろうし、承諾されたなら相手に心配はないだろう―――マキアスはこの時、無意識の傲慢とも呼べるような考えで以てテーブルへと歩を進めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 それから数分のうちに。

 案内されたテーブルには、数学の教科書に突っ伏してうんうん呻いていたリアラの姿があり。

 貴族としても年頃の女子としてもどうなんだそれ、という姿に絶句しているうちに彼女の頼んだ深煎りコーヒー(フルシティ)を運んできたフレッドが「せっかくだから教えてあげたらどうだ?」といらんことを言い出し。

 あれよあれよという間に、まとめて一皿に盛り付けられたクッキー(相席することになった二人へのサービス)を挟みつつ、気が付いたら勉強会のような催しが始まっており。

 

「終わったーーーっ!! マキアスありがとーーーっ!!」

「お、おお……」

 

 課題をこなした達成感にガッツポーズなんぞ決めるリアラの姿に若干引きつつ、マキアスはすっかり冷めた自分のコーヒーに口を付けた。

 

「あ、私もおかわりしようかな……今度はカフェオレにしてもらおっと」

 

 自分のカップが空になっているのに気づいたリアラが、マキアスのカップから漂う香りに反応してフレッドへと注文を伝えに行く。

 上機嫌に席を立つその背を見つめながら、マキアスはぽつりと呟いた。

 

「……そういえば、紅茶じゃなかったな」

 

 突如として始まったプチ勉強会にすっかり気を取られていたが、リアラは終始マキアスと同じく深煎りのコーヒーを飲んでいた。

 貴族出身の人間というものは、気取った作法やらなにやら必要な紅茶しか飲まないものだと思っていたのだが……思えばリアラは、マキアスのイメージしていた貴族の女性とはどうにもかけ離れたところが多い女子だった。

 

(確か、オリエンテーリングの時もそんな感じだったか)

 

 思い返すのは数週間前。リアラとマキアスを含めた九人が同じクラスに所属すると決定した、あのオリエンテーリングの日のことであった。

 

『その、他意はないんだが……階級を聞いておいてもいいだろうか?』

 

 自分でも若干、ばつの悪い声が出てしまったのを覚えている。

 それまで大貴族の御曹司であるユーシス・アルバレアを相手にぎゃんぎゃんとがなり立てていた自分がそんなことを言えば、彼と同じく尊い血を引く者たちは良い気分はしないだろう。

 しかしながらマキアス・レーグニッツが十数年の間に培った常識や過去の経験というのはそうそう変えられることでもなく、マキアスとて貴族から好かれようなどと思っているわけではない。

 自分にとって蹴落とすべき敵を見極めたい、というマキアスの言葉なき声に、その場にいた者たちはそれぞれうなずいたのであった。

 入試で主席を勝ち取ったという眼鏡に三つ編みの女子と、大人しそうな赤毛の男子は平民出身。長身の留学生は出身地にそもそも階級制度がないらしく、銀髪の小柄な女子は雰囲気からして色々と違っていた。

 そして、青髪の剣士―――ラウラ・S・アルゼイド。帝国正規軍の剣術指南役を務める剣士の血を引く、アルゼイド子爵家の一人娘。会ってまだ間もないが、それでも貴族を忌み嫌うマキアスでさえ納得してしまうほどの善人。

 マキアスがなぜ貴族を嫌うのかは知らないが、と前置きした上で、それでも父も自分も空の女神に顔向けできない生き方はしていない、と断言され、そのまっすぐな瞳に圧倒されてしまった。

 

……問題は、ここからだ。

 

『あ、えっと私は……』

『―――どっちだと思う?』

 

 黒髪の女子……リアラが自己紹介をしようとしたところで、隣に立っていた金髪の女子がその言葉を遮る。

 一歩前へと踏み出したアリサは心持ちリアラを庇うような姿勢で、不躾な質問を投げかけたマキアスを睨んでいた。

 

『……どういう意味だ』

『言葉通りの意味よ……私とこの子はそれぞれ貴族と平民だけど、そのどっちが正解なのかこの場であなたに教えるつもりは無いわ』

『隠し事をするのは、何かやましいことがあるからなんじゃないのか?』

『やましいことがあったとして、法の番人でも、まして空の女神(エイドス)でもないあなたにそれを責められる謂れはないと思うのだけれど?』

『ちょ、ちょっとアリサっ、落ち着いて……!』

 

 なまじラウラとの会話で相手が終始理性的な応対をしてくれたからか、アリサの言葉に込められた棘はそれはもう分かりやすく神経を逆なでしてきた。

 あからさまな挑発にマキアスは柳眉を逆立てるが、一泊おいて自分に言い聞かせる。

 ここでまた頭に血を上らせれば、アルバレアの次男坊の時と同じくいけ好かない貴族の思うつぼだ、と―――自身にとって敵対的な態度を取る者はみんな貴族だという思い込みに、彼はこの時点では気づいていなかった。

 

『……この場で、ということは後でしっかり説明してくれると思っていいのか』

『何もずっと秘密にしておけるなんて思ってないわよ。ここから出られる頃には教えてあげる……それまでに、背中から撃たれるような理由を増やしたくないだけだもの』

『貴族が相手なら僕がそんな真似をするとでも言うのか……!』

『あなたが階級を聞いたのはそのための相手選びじゃないのかしら?』

『―――アリサっ、いくら何でも言い過ぎだってば!』

 

 親友の暴走を見るに見かねたリアラが止めに入らなければ、マキアスはその場でアリサに殴りかかっていたかもしれない。

 

『ごめんね、友達がいろいろ踏み込んだこと言っちゃって……この話はまた後で良い? たぶん、今は誰も冷静に話せないだろうし』

『あ、ああ……』

 

 アリサを窘めてくれたリアラにまたしても毒気を抜かれたというのもあってか、結局マキアスはその場で二人の正体をそれ以上問い詰めることはなかった。

 それからマキアスは、難題を与えられたのならせいぜい軽くこなして鼻を明かしてやる、とばかりに二人のことをつぶさに観察し、オリエンテーリングが終わった時には彼女たちの隠し事をつまびらかにしてやらんと備えていたのだが……

 

 

『―――リアラ・シュバルツァー。特課クラスⅦ組に参加します』

『アリサ・ラインフォルトも同じく参加します……ARCUSのことについても聞きたいことが山ほどありますから』

『シュバルツァー男爵家の娘さんに、ラインフォルトの社長令嬢は参加、っと……やっぱり一番乗りは貴女たち二人だったわね』

 

 

 なし崩しに全員で共闘することになったガーゴイル戦の後、マキアスの予想は半分近くがひっくり返された。

 自分に対して高圧的な態度をとっていた金髪の少女は貴族の令嬢でなくあくまで平民の出身であり。

 そんな彼女を窘めて自分にも済まなそうに頭を下げた黒髪の少女は忌むべき貴族の令嬢だった。

 

(ラインフォルト……って、この学院の理事の娘じゃないか。いやそれ以前にルーレのラインフォルト社の……それに、あっちの腰の低い女子が男爵家の長女?)

 

 下手な地方貴族よりもよほど規模の大きい大陸一の重工業メーカーの娘が、辺境の小貴族の娘と一体全体どんな縁があったというのか。

 貴族と平民は住む世界を違えるもの、と信じて疑わないマキアスにとっては、今一つ理解の及ばない関係だった。

 

……正確なところを詳しく知るのはだいぶ後になるのだが、平民らしからぬ平民として故郷で浮いていたというアリサは、貴族らしからぬ貴族であるリアラが貴族の価値観に翻弄されていたことを知っていたのもあってか、単純かつ極端に人を区別するようなマキアスの物言いにそれはそれはご立腹だったらしい。

 さすがにそれが判明する頃にはマキアスも自身の不明を素直に謝れるようになっており、二人の少女はマキアスの謝罪を快く受け入れてくれるのだが、それはそれとして。

 

「マキアス? おーいマキアスー」

「うぉ!? ……な、なんだね急に」

 

 思案に耽っていたところに話しかけられて、マキアスは思わず椅子を揺らして振り返る。

 するとそこには、湯気の立つカップを二つ、それぞれ両手に持ったリアラが立っていた。

 

「フレッドさんが、新作のテイスティングしてほしいって。これもサービスらしいし、せっかくだから一緒に飲まない?」

 

 見れば、リアラが手にしたコーヒーの中身は真っ黒なコーヒーではなく、たっぷりと牛乳が入った液面から甘い香りを漂わせる別の飲み物だった。砂糖を入れることは想定していないのか、ソーサーに添えられていたのはスプーンでなくシナモンスティックだ。

 なかなか見る機会のない珍しい代物だが、『キルシェ』の新メニューならば外れはないだろう。自分の分まで運んできてくれたリアラへ素直に礼を述べつつ、席に着いたリアラと一緒にカップを口に運ぶ。

 

「む、バニラか何か入ってるのか。美味いけどさすがに甘いな……」

「そうだねぇ……でも良い香り。あ、そういえばちょっとだけ塩が入ってるんだって」

「塩!? カフェオレとバニラにか!?」

「そうそう、確かに後味はあんまり甘さが後引かないような気がする」

「言われてみれば……これはなかなか興味深い。コーヒーに塩なんてベタな間違いでしか入れないもんだとばかり思っていたが……」

 

 しばしそうしてやいのやいのと未知のドリンクで喉を潤しつつ講評を交わしていた二人であったが、そろそろ飲み干すという頃に、不意にリアラが笑い声を漏らす。何かと思って見てみれば、マキアスに視線を向けるリアラがにこやかに笑っていた。

 

「ど、どうした、何かおかしなところでもあったのか?」

「いや、私マキアスには嫌われてるかと思ってたんだけど、コーヒーの話だとこうして普通に話せるんだなって思って」

 

 言われてはたと我に返ると、塩とバニラの入った新作カフェオレを受け取ってからこちら、マキアスはリアラと普通に共通の話題で盛り上がっていた。

 

「アリサのこともあったし、当然私も避けられるかなって。さすがに同じクラスで全然話さない人がいるって、ちょっと寂しかったから」

「……その、シュバルツァーは、一体何がきっかけでラインフォルトとあんなに仲良くなったんだ?」

 

 オリエンテーリングの日以来、いまだアリサとマキアスとの冷戦は続いたまま……というか、流石にあの状態からすぐに「平民同士仲良くしようぜ」などとほざけるほど、マキアスは恥を知らないわけではなかった(却って意固地になっているのは自覚しているので目を瞑ってほしい)。

 しかしリアラも同じかというと、生徒手帳を部屋に届けられた時もそうだったがそうそうつっけんどんな態度を取られるようなこともない。

 なんとなく、気になっていたことを聞くのは今だと思った。

 

「あれからいろいろ考えてみたんだが、なんで君たちが……同じ町に住んでいるわけでもない貴族と平民が、どうしてあんな風に、本当の姉妹のようになれるんだろうと思って……」

 

 マキアスの問いに、リアラは懐かしそうに過去を振り返る。

 

「んっとね、小さいころにアリサが家族と一緒にうちの郷に湯治に来たんだ。そうしたら途中でアリサが迷子になっちゃって、家族の人たちが大慌てで探してたから私の両親も放っておけないって言って手伝って。父さんが裏山の方を馬で見に行った辺りで、入れ違いになるように郷の入り口でぐったりしてたアリサを私が見つけて……それから私の家で手当てしたのがきっかけで、家族ぐるみで付き合うようになったの」

「い、意外とお転婆だったんだな、あいつ……」

 

 リアラの故郷―――シュバルツァー男爵領といえば温泉で有名な観光地としての一方で、北方の山奥ゆえに雪害の危険も広く知られている場所である。

 そんな場所で幼い娘が姿を消したとあっては、アリサの家族はさぞかし肝を冷やしたであろう。

 

「最初は同年代の女の子ってことでちょっと話した程度だったんだけどね。その後アリサの家があのラインフォルト社だってわかってから最新の導力家電のこととかいろいろ話を聞いてるうちに、いくつか郷で必要なものを買ってみようって話になったの。それで、今度は私達一家が観光がてらルーレまで行って、宿屋に置く業務用の冷蔵庫とかを買って……それから一年に何回かお互いの家を行き来するようになったって感じかな」

「……それ、顧客(カモ)として目をつけられたって言わないか?」

「あー……そう言われるとそうなんだけど……郷の懐事情とか、あと私も家族もそんなに機械は詳しくないから安くて分かりやすくて頑丈な型落ち品いくつか見繕ってもらったりで、結構お世話になったんだよねぇ……」

 

 ノルティア州の貴族の中でもうちは特に貧乏な方だし、と、やおら遠い目をし始めたリアラを眺めつつ、マキアスはぼそりと呟いた。

 

「なんというか……君よりもラインフォルトの方がよっぽど“お嬢様”って感じなんだな」

 

 この数十分の間に、マキアスの中ではリアラという少女に対して、ずいぶんと警戒心が薄れていた。

 紅茶よりもコーヒーを好んだり、実家の経済事情を思って悟ったような表情を浮かべたりと、彼のイメージの中にあった“良家の子女”という高飛車なイメージが木っ端微塵に粉砕されたというのもある。

 話してみればずいぶんと気さくで、親しみがわく人柄だというのもあった。

 ゆえにマキアスとしては、貴族にしては随分ととっつきやすいクラスメイトに向かって深い意味もなく放った一言だったのだが……

 

 

 

 

「……あの、いくら私が女らしくないって言っても、真正面から言われるとさすがに傷つくんだけど」

 

 あにはからんや、リアラの方はどえらい眉をしかめて明後日の方角にへそを曲げてしまった。

 

 

 

 

「……そ、そうは言ってないだろう!?」

「いーですよー。どうせ淑女のマナーもなってないし剣の稽古と薪割りで手だってごついし、初対面のアリサには男の子に間違えられましたしー」

「ええい不貞腐れてないで人の話を聞きたまえ!」

 

 本格的に拗ね始めたリアラに、さしものマキアスも泡を食って釈明を試みる。

 貴族に媚を売るつもりは毛頭ないが、だからといって公明正大なる帝国男子としては女性を不当に貶めたいわけでも、ましてそんな奴だと誤解を受けたいわけでもないのだ。

 

「僕はあくまで君が、貴族にしては身構えなくても話せる相手だという意味で言ったんであってだな! 決して女性らしさについて言及したつもりはない!」

「あ、うん」

「淑女のマナーなんぞあったところで宮廷に近づかなきゃ意味のないものだし、手だってほら、ごつかろうがなんだろうがサイズは僕の方が大きいだろう」

「うん……あ、ほんとだマキアス意外と手ぇ大きいね」

 

 何とはなしに向けられたマキアスの手のひらに、これまた深く考えるでもなく、リアラは自分のそれをぴたりと重ねる。

 

「……え。」

 

 突如として起きたお肌の触れ合いに、今度こそマキアスの思考回路はショートした。

 

「………きっ、き、ききき君なぁ!? そ、そういうことを平然とっ……! 平然とする奴があるかぁあっ!?」

「へ?……うそ、もしかして私の手、汗とか着いてた!? ごめん全然気が付かなかった」

「だぁああっ!? そうじゃなくて……はっ!?」

 

 ノルティア州原産のド天然鈍感少女の破壊力をこれでもかと味わったマキアスは、遅れてそこがオープンテラスの一角であったことを思い出す。

 向かいの公園では休日を満喫していた若夫婦とその息子がこちらを生暖かい目で見ていたし、斜向かいの花屋のお姉さんはあらあらうふふとほほ笑んでいた。

 げに恐ろしきはご近所ネットワークが実現してのけたARCUS要らずの連携戦術。どれもこれも、堅物のマキアスにはオーバーキルである。

 

「~~~~~~~っ、し、失礼するっ!!」

「あ、ちょっとマキアスー!?」

 

 瞬時に顔を赤く染めたマキアスはあわただしく教科書の入ったカバンをまとめ、にやにやと笑うフレッドに代金を支払って店を辞した。

 結局当初の目的であった自分の宿題は一ページたりとも進んでいなかったことを彼が思い出すのは昼食の後であったが……午後から自室の机で猛烈な勢いでノートに向かい始めたマキアスは、リアラとの接触にドキリとしたこと……すなわち、自身が彼女のことを“貴族の女性”でなく完全に“同年代の女子”として認識していたことには、ついぞ気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 塩とカフェオレ、貴族と平民―――そして、リアラとマキアス。交わるはずも無いと言われるものが、互いを尊重することで全く新たな光が生まれると理解した時。

 狭く、凝り固まっていた少年の目に映る世界は、加速度的に広がっていくことになる。

 




マキアス(閃Ⅳ)「大概の問題は、コーヒー一杯飲んでいる間に心の中で解決するものだ。あとはそれを実行出来るかどうかだ」

 ドクターテクスの名台詞はホント至言だと思う。年がバレるぞよしおかです。
 私自身がマキアス推しでなおかつここ数年父から受け継いだコーヒー用品をがちゃがちゃいじり倒していたためか、この話は比較的簡単に書けました。やっぱ勢いって大事だね。
 あとマキアスはウルスラ医大病院を訪ねた際にシロンさん特製のコーティー(例によってコーヒー淹れようとしたらいつの間にか出来上がってたアレ)飲んでユーシスと一緒に微妙な顔でほっこりしてれば良いんじゃねえかな。


〇皇室ゆかりの温泉保養地を管理する男爵家が貧乏ってどういうこと?

 この作品においてシュバルツァー家の懐事情は原作よりも若干厳しくなっています。領地と鳳翼館を維持する他にリアラとエリゼの学費こそ賄えていますが、自分の屋敷をはじめとして削れるところは削ってる。
 詳しく述べるとルシア夫人の実家(原作では地方貴族だったか)との結びつきが薄れており、そちらとの経済的な連携が取れなくなっているのが原因。
 テオ男爵がロクな根回しをしていない(する時間もない)状態で公的には身元の知れない少女(リアラ)を引き取ったことでルシア夫人の実家から「正妻であるルシアとの間に男児が生まれなかったことで、若い妾を囲ってそちらに生まれた男児に後を継がせるつもりなのではないか、妾とその息子が実権を握ってしまったら我が家は蔑ろにされるのではないか」と邪推されたため。
 当然、実際には友人の忘れ形見としてリアラを託されたルシア夫人は実家からのいちゃもんに夫以上に激怒したし、記憶を失った女児を臆面もなく槍玉に挙げる一部の親戚達があまりにも情けなくて性質の悪い連中とは縁を切ってしまった。ところがその性質の悪い連中こそノルティア州の経済に結構な影響力を持っていたという感じ。
(原作でもおそらくそういった言いがかりはあっただろうけど「エリゼを将来シュバルツァー家の女当主としてリィンを家令としてその補佐に就ける予定だ」と言ってうやむやにしていたんで無かろうか。もちろん男爵夫妻にとってのベストはリィンとエリゼが夫婦になることだけども)
 さすがに申し訳なく思ったのか某軍部出身の宰相の懐から匿名の寄付金が毎年届けられるようになったが、領地に広く土着した一族全体からの支援総額には及ばなかった。パパン’sのやらかしポイント①。


〇この作品のアリサさん、女オリ主にちょっと過保護過ぎやしない?

 父親が怪死した時期に支えあったかけがえのない親友に危害が及ぶと思い、言動だけ見ると危険人物でしかないマキアスを超警戒していた。
 経済的に恵まれた環境にありつつも、平民からは成功者として羨望の目を向けられ貴族からは成り上がりとして疎まれてとそれなりに孤独な状況だったアリサにとっては、貴族の娘でありながら貴族として認められず、本人何も悪くないのに悪評を立てられていたリアラは自身と悩みを共有できる得難き存在である。
 そんな自分とリアラを貴族か平民かのどちらかでしか見ようとしていなかったこの時期のマキアスは、アリサからすれば「こっちの事情を何も知らないくせしてふざけんな!」以外の印象を持てなかったというのがことの真相です。
 後にマキアスの過去を聞いた際に自分とシャロンの関係に照らし合わせて考えてしまい、“マキアスの事情”を無視して敵視していたことを反省してからは(以降はマキアスがすっかり丸くなることもあって)普通に友人として接することに。結局なんだかんだ肝心なところで身内と認めた相手には甘い。





おまけ「その後のとうへんぼくちゃんとセ〇ムな幼馴染」


リアラ「あ、ちょっとマキアスー!? ……あーあ行っちゃった。無神経にいろいろ話過ぎたかなぁ……」
アリサ「そうじゃないでしょこのおバカ……」
リアラ「あれ、アリサ。ずいぶん遅かったね」
アリサ「貴女とレーグニッツが話してる途中で着いたけど、私が入っていったら空気悪くなるかと思って隅っこに居たのよ……っていうか、私が迷子になった下りとかわざわざあいつに言わなくても良かったじゃないの」
リアラ「うぐ……や、やっぱり? でもマキアスも話してみたら悪い人じゃなかったし、私たちの小さい頃の話するぐらいだったら良いかなって……」
アリサ「今回ネタにされたの私の話だけだったじゃない。そろそろ本気で貴女は危機管理意識(リスクマネジメント)とかその辺に気をつけてちょうだい」
リアラ「あうぅ……あ、じゃああれなら私も一緒だったから良いかな? ほら、マジカル―――」
アリサ「危機管理ーーーっ!!(ハリセン)」
リアラ「あいったぁーーーっ!?」




おまけ2「珈紅議論とⅦ組の面々」

アリサ「私は紅茶派ね。コーヒーも嫌いじゃないけど、うちのメイドが淹れてくれるお茶がおいしくてそっちの方が好きだわ」
リアラ「どっちも飲むけどコーヒーの方が良いなぁ。インスタントなら紅茶よりも淹れるの簡単で、私でも出来るから」
エリオット「僕もどちらかといえばコーヒー派だなぁ。でも気分によって変える時もあるし……ラウラは?」
ラウラ「紅茶の方が馴染み深いな。貴族の子女としての嗜みというのもあるが、コーヒーは飲み過ぎると背が伸びなくなると言って父上があまり家に置こうとしなかったのだ」

アリサ「ですってよ貴族の子女(不器用)」
リアラ「うっさいやい」

エマ「どちらでもないですね。故郷では普通の紅茶やコーヒーよりも、それぞれの家の自家製ハーブティーが一般的でしたから」
ユーシス「断然紅茶派だ。輸入の割合が多いコーヒーよりも、自領で生産された紅茶の出来をチェックすることで農作物の状態を確認せねばならなかったしな」
マキアス「むっ……」
リアラ「はいはい突っかからない。でも背が伸びなくなるなんて言われる割にはマキアスは背ぇ高いよね」
マキアス「ふふん、コーヒーはカフェインだけでなく各種ミネラルや栄養素が含まれる。紅茶よりも栄養価は高いぐらいだ」
ユーシス「ぬ……」
アリサ「あなた達いいかげんにしなさいっての……サラ教官はどっち派ですか?」
サラ「コーヒーにはオレンジリキュール、紅茶にはブランデーね。あ、ジンならどっちにも合うわねー」
アリサ「聞いた私が馬鹿だった」

フィー「身長……」
ガイウス「うん? どうしたフィー、俺をじっと見て」
↑(ハーブティー(ノンカフェイン)派、さらに牛や羊の乳で栄養価アップ=成長ホルモン倍プッシュ)
フィー「……カフェインは、悪……根絶しなければいけない毒劇物……っ」
↑(西風の面々の影響で幼い頃からコーヒー派、更に子どもは甘いもの好きだろうと言ってちょいちょいチョコレート貰ってた)



おまけ3「現れた第3勢力」

トワ「実家からお抹茶が届いたから、みんなにもお裾分けするね」
リアラ「あーこれユン老師に頂いたことあったなぁ」



あまりの苦さにリアラ以外全員悶絶した。

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