機動武闘伝Gガンダムクロスアンジュ   作: ノーリ

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おはようございます。

さて今回は、オリジナルで言うところの第七話の後半。俗に言うBパートです。

本編とは違い、ゾーラは死んでおらず、アンジュは健康です。そして何より、シュバルツという大きすぎるイレギュラーがいます。

それが物語にどういう変化をもたらすのか、どうぞ御覧になってください。



NO.19 予兆

サリアの秘密がシュバルツにバレてから数日後。その日もアルゼナルは平常運転。出撃もないことで訓練やら整備やら、あるいは余暇を過ごしたりと皆思い思いの日常を送っていた。

そんな、一応平和な一日は警報と共に終わりを告げる。シンギュラーの向こうからまた現れたのだ、ドラゴンたちが。

 

「総員機乗!」

 

集合した第一中隊がゾーラの号令と共に各々の機体に乗る。

 

『隊長より各機へ。現時点では奴さんの兵力は不明。取り敢えずは様子見だ。編隊や連携を崩すんじゃないよ!』

『イエス、マム!』

 

最初の指示を出すと、第一中隊の面々は目前に迫った発進に備える。

 

「全機、発進準備完了!」

 

メイの報告の後、進路クリアの表示が出て発進準備が整う。

 

『ゾーラ』

 

そんなとき、シュバルツからゾーラに通信が入った。

 

「シュバルツか、何だい?」

 

モニターに目をやるとゾーラが尋ねた。

 

『私は今回は待機だ。助力は出来んが気をつけてな』

「了解。のんびりしててくれよ」

『わかった』

 

発進直前の立て込んでいた時間ということもあり、そこで通信が切れる。

 

「ゾーラ隊、発進!」

 

号令と共にパラメイル八機が空へと飛び出した。そんな戦場へと向かう彼女たちを、シュピーゲルに乗り込んだシュバルツが見送ると、いつものように腕を組んで待機した。

 

 

 

 

 

『シンギュラーまで2800』

 

現場へ向かって飛行中の第一中隊に司令部からの情報が入る。

 

「了解。全機、セーフティ解除」

 

ゾーラの指示で全パラメイルが各自の武装のセーフティを解除する。そうしている間にも彼我の距離は詰まり、どんどんと目標地点へと近づいていく。

 

「ドアが開くぞ! 全機、戦闘体勢!」

『イエス、マム!』

 

号令と、シンギュラーが開いたのはほぼ同時だった。シンギュラーが開いた瞬間に口が下を向き、そこからいつものようにドラゴンの群れが出てくる。そしてその中に、超巨大な巨体のドラゴンが一体おり、着地と同時に咆哮した。

 

「デカッ!」

「あらあら大きいわ…」

 

その巨体に驚くヴィヴィアンと呆れるエルシャ。

 

「副長、あいつ記憶にあるかい?」

 

そんな二人を尻目に、ゾーラは副長であるサリアに尋ねた。

 

「ちょっと待ってください…いえ、ありません」

 

少し考え、そしてサリアが答えた。

 

「サリアが見たことない!?」

「じゃあ、まさか、まさか!」

「初物か!」

 

その事実にロザリー、クリス、そしてヒルダの三人が色めきたった。

 

 

 

「初物!?」

「嘘、私初めて!」

 

ざわついているのは司令部も同様だった。

 

「初物?」

 

聞き慣れない言葉なのだろうか、エマが何それといった感じで呟いた。

 

「監察官は初めてでしたか。過去に遭遇例のないドラゴンのことですよ」

 

ジルが戸惑っているエマにそう説明した。

 

 

 

「こいつの情報持って帰るだけで、大金持ちだぜ!」

「どうせなら、初物食いして札束風呂で祝杯といこうじゃないか!」

「いいねぇ!」

 

他方、戦闘宙域。初物の発見にテンションの上がったヒルダとロザリーが囃し立てる。

 

「その辺にしときな」

 

が、そんな二人をゾーラが嗜める。バツが悪いのか、二人とも軽口を閉じた。しっかり釘を刺すあたりはさすがに隊長である。そして隊員へ向けて通信を開く。

 

『各機へ。メインディッシュの前にオードブルを片付けるよ。ヒルダ、ロザリー、クリスはあたしと右から。アンジュ、エルシャ、ヴィヴィアンは副長と左から。副長、そっちの指揮は任せるよ』

「イエス、マム。了解しました」

 

サリアが通信に返答した。

 

「よし。各機、攻撃開始!」

『イエス、マム!』

 

ゾーラの号令と共に部隊が二つに分かれ、左右からドラゴンの群れへと突撃していった。

 

 

 

 

 

「さて…」

 

ゾーラが宙域を旋回しながら呟く。流石に何度も対峙しているスクーナー級やガレオン級のドラゴンたちには遅れをとることもなく、戦力の充実ぶりもあって第一中隊は短時間で初物を除くすべてのドラゴンを撃墜していた。残るはこのデカブツの初物一体のみ。

 

『隊長、どうします?』

 

同じように旋回している第一中隊。副長のサリアが通信を入れてきた。

 

「そうだねぇ…」

 

ドラゴンを確認しながらゾーラが呟く。

 

(視認が出来る箇所はあらかた重装甲っぽいね。となれば、まずは残りの部分を確認するか)

 

そう判断すると、ゾーラは各機に通信を入れる。

 

『隊長より各機へ。ヴィヴィアンを除く各機はこのまま旋回しつつ遠距離攻撃を行ってヤツの注意を引く。ヴィヴィアン?』

『ほいほーい!』

 

ヴィヴィアンがモニターに顔を出した。

 

『あたしらがヤツの注意を引いてる間、あんた死角からヤツの懐に潜り込みな。で、視認出来ない部分がどうなってるか確かめておいで』

『りょーかい!』

 

ビシッと敬礼をすると、そこで通信は途切れた。

 

「作戦開始!」

『イエス、マム!』

 

号令と共に七機のパラメイルがドラゴンから一定の距離を保って旋回しながら砲撃を開始する。砲撃を受けたドラゴンは咆哮を上げながらパラメイルたちを墜とそうと腕を振り上げるものの、動きは鈍重なのか当たりはしない。

 

「よしよし♪」

 

すっかり陽動作戦に引っかかったドラゴンに、しめしめとばかりにヴィヴィアンが近づいて死角から潜り込んだ。

 

「背中はガッチガチだったけど、お腹はどうかな~?」

 

四足歩行タイプの為に一番確認しにくい腹部の状況を観察する。と、剥き出しの背中側とは違っていかにも柔らかそうな腹部が現れた。

 

「ビンゴ!」

 

それを確認したヴィヴィアンがパチンと指を打った。

 

「お腹はポヨポヨだ。まるでエルシャのおっぱいみたい!」

 

本人が聞いていたらまずお仕置き確定と思われる不穏当な発言をしてヴィヴィアンが離脱する。だが、

 

「…でもなんだろう、何か、髪の毛がピリピリする」

 

得体の知れない一抹の不安も感じていたのだった。

 

 

 

「全機、後退!」

『イエス、マム!』

 

ヴィヴィアンが離脱したのを確認したゾーラが後退を命じる。と、第一中隊は編隊を組んで後退し、ドラゴンから距離を取った。

 

「偵察ご苦労。で、どうだった、ヴィヴィアン?」

 

ゾーラが報告を求めた。

 

『ビンゴ! お腹は背中と違ってポヨポヨで柔らかそうだったよ! まるで…』

「まるで?」

『っとと、何でもない』

 

余計なことを言いそうになったヴィヴィアンが慌てて口を閉じた。そのことに、ゾーラ始め全員が怪訝な顔になったものの、今そんな場合ではないことにすぐに思い至って思考を切り替える。

 

「つまり、付け入る隙はあるってことだね」

『うん。あ、でも…』

 

そこで始めてヴィヴィアンが言葉を濁した。

 

「何だい?」

『…何か、変な感じだった。髪の毛がピリピリした』

「へぇ?」

 

ゾーラの表情が少し曇った。独特の言い回しだがよく当たるのだ、ヴィヴィアンのこういった感覚は。現にこれまでも何度もその神がかり的な感覚に救われてきたこともある。そのヴィヴィアンの感覚が発動したため、ゾーラは表情を曇らせたのだ。

 

『おいおいゾーラ、まさか退いたりしないよなぁ?』

 

通信を開いて揶揄してきたのはヒルダである。

 

『こんなおいしい獲物、みすみす逃す手はねえぜ?』

『私も同意見ね』

 

さらに新しく通信が入る。発信元は何とアンジュだった。

 

『アンジュ、貴方…』

 

まさかこんな展開になるとは思っていなかったサリアが驚いて絶句する。

 

『付け入る隙があるなら叩くべきよ』

『へぇ? がめつくなったもんじゃないか、痛姫様?』

 

ここぞとばかりにヒルダが揶揄した。が、アンジュがそんなものに怯むわけはない。

 

『何とでも言いなさいよ。こっちは借金返さなきゃいけないし、一人養わなきゃいけない人員がいるの。あんたとは違うのよ、わかる?』

『チッ、ふざけたこと言いやがって』

「その辺にしときな」

 

喧嘩が始まりそうな感じの雰囲気を察したのだろうか、ゾーラがピシャリと締めた。

 

「あんたら二人だけこのまま帰してもいいんだよ?」

『チッ』

『フン』

 

不承不承といった感じで、二人とも渋々矛を収めた。

 

「いい機会だ。全員の意見を聞こう。賛成なのは?」

 

反応を示したのはアンジュ、ヒルダ、ロザリー、クリス、エルシャだった。

 

「クリスとロザリーは予想できたけど、あんたもとはね、エルシャ」

 

恐らく反対に回るであろうと思ったエルシャが賛成したことに、ゾーラは驚きを隠せなかった。

 

『個人的には反対なんですけど、もうすぐフェスタですし、その、色々と入用なものですから…』

「成る程ね。消極的賛成ってやつかい」

『まあ、そんなところです』

 

困ったように苦笑するエルシャに、実にエルシャらしいとゾーラはいつものシニカルな笑みを浮かべた。

 

「反対は副長とヴィヴィアンか」

 

そして今度はゾーラがモニター越しに反対の二人に目を向けた。

 

『はい。初物だけに敵の手の内は不明です。どんな奥の手を隠しているかもわかりません。せめて攻めるのならば、アルゼナルに増援を要請してからにすべきかと』

『はぁ!? 増援なんて呼んだら、取り分減んだろうが!』

『金と生命天秤にかけて、それでも金が欲しいなら勝手に突っ込みなさいよ』

『い、いや、そういうわけじゃ…』

 

サリアの提案に噛み付くロザリー。しかし、サリアが冷静にいなすと途端に尻すぼみになった。

 

「…あんたが反対なのは、何か変な感じがするからかい? ヴィヴィアン」

 

そんな二人を尻目に、ゾーラがヴィヴィアンに尋ねる。

 

『うん。突っ込めって言うんならやるけど、あんまりやりたくない』

「そうか。皆の意見はわかった。それじゃあ決を伝えるよ」

 

その言葉に、全員が黙った。

 

「ヒルダ、アンジュ、お前たちはあたしと一緒に奴さんの懐に飛び込んでヤツの腹を攻める。エルシャ、クリス、ロザリーは副長の指揮下に入って遠距離から援護と陽動を兼ねた後方支援だ。ヴィヴィアン、お前は遊撃としてまずは副長たちと後方支援に回りな。大勢がついたら、あるいは変な感じがしなくなったら突っ込んできてあたしたちと下から攻撃。いいね?」

『イエス、マム!』

 

ゾーラの指示に全員が答える。その内容に喜色を見せたのはヒルダたちで、逆に表情が曇ったのがサリアだった。

 

『よっしゃあ!』

『さっすがお姉さま。わかってる!』

『うんうん』

 

ヒルダたちいつもの三人がやる気満々と言った感じになる。声にこそ出さないものの、アンジュもその表情を見るに早くも戦闘モードに突入していた。そんな様子を見て、エルシャがいつものようにあらあらと苦笑をしている。

が、そんなやる気に満ち満ちた彼女たちとは対照的に、ゾーラの表情は今一つ優れなかった。そして、

 

「副長」

 

秘匿回線を使ってサリアにだけ通信を入れる。

 

『は、はい』

 

サリアは自分の意見が通らなかったことにやっぱりと思いながらも沈んでいたのだが、ゾーラの通信に慌てて返事をした。

 

「悪いね。損な役回りを押し付けてさ」

『い、いえ。隊長の判断ですから』

 

その言葉にふっと一瞬だけゾーラが微笑んだ。が、すぐに表情を戻して続ける。

 

「副長」

『はい』

「これから伝えるのは隊長としての命令だよ。よくお聞き」

『はい』

 

いつもとは雰囲気が違うのに気付き、サリアも表情を引き締めて頷いた。

 

「もしあたしらに何かあったら、その時は構わない、あたしらを見捨てて直ちに撤退するんだ。いいね?」

『隊長!?』

 

予想もしていなかったのか、サリアが驚き目を剥いた。

 

「普通にかかれば現有戦力でも撃破できると踏んだから攻撃の判断を下した。だが副長、あんたもさっき言っただろう? 相手は初物だけにどんな奥の手を隠しているかわからない。それに、ヴィヴィアンのこともある。次善の手は打っておいても無駄にはならないからね」

『し、しかし!』

 

尚も食い下がろうとするサリアに、ゾーラは手の平を向けて制止した。

 

「命令だよ、副長」

 

その言葉に、それ以上の反論は出来なくなってしまう。そして、

 

『わかり…ました…』

 

サリアは搾り出すようにそう答えることしか出来なかった。不承不承とはいえサリアからの言質を取ったゾーラはそこで秘匿回線を切る。

 

「作戦開始!」

『イエス、マム!』

 

号令一下、パラメイルたちが各々の与えられた役割を果たすべく行動を開始する。サリアを初めとする後方支援組の砲撃が始まり弾幕が張られ、それを威嚇するかのようにドラゴンが咆哮した。

 

「行くよ、お前たち!」

「OK!」

「了解!」

 

パラメイルをアサルトモードに変形させ、ゾーラがヒルダとアンジュを引き連れて突撃した。狙いは先刻の通信でも伝えていたようにその腹部である。と、新型ドラゴンがこれまでよりも一層の咆哮をし、そしてその頭の両側に生えている長く大きな角が不気味に発光した。

 

「! ゾーラ、戻れ!」

 

直感で危険を察知したヴィヴィアンが叫ぶ。が、遅かった。角が発光したのがスイッチのように地面に魔方陣が浮かび上がると、突っ込んでいた三機が突如バランスを崩して地上に降りた。いや、叩きつけられと言う方が正しいかもしれない。

 

「なっ!」

 

異変に気付いたゾーラだったが後の祭り。力なく地面に引きずられるように叩きつけられた三機のパラメイルは何とか体勢を整えて着地したのが精一杯だった。

 

「チッ!」

「ちょっと、何よこれ!」

 

ヒルダとアンジュも口々に悪態をつくものの、状況は似たり寄ったりで三機はまともに動くことも出来なくなっていた。

 

『新型ドラゴンの周囲に、高重力反応!』

「重力!?」

 

アルゼナルからの通信に、サリアは驚きを隠せなかった。

 

『副長!』

 

そんなサリアにゾーラから通信が入る。それを聞いた瞬間、先ほどのことを思い出したサリアは慌てて自分の指揮下の各機へと通信を開いた。

 

「後方支援の各機へ。わたした…きゃあっ!」

 

指示を出そうとしたが、ドラゴンのほうが打つ手が早かった。重力結界がサリアたちにまで及び、サリア以下後方支援の五機も飛ぶ力を失い始めていたのだ。

 

「各自、駆逐形態! 防御体制を取れ!」

 

地面に墜落するのを防ぐために駆逐形態に変形し、何とか着地には成功するものの、状況は突撃した三機と変わらなくなってしまう。

 

「う、動けねぇ…」

「く、苦しい…」

(っ! 私の指示が遅れたばっかりに!)

 

ロザリーとクリスの苦しむ声に歯噛みするサリアだったが今更どうしようもない。

 

「その角だなぁ!」

 

ヴィヴィアンが怪しく発光する角を眼光鋭く睨みつける。

 

「皆を、放せ!」

 

そして高重力の結界の中で何とか立ち上がると、以前ジャスミン・モールで購入した超鋼クロム製ブーメランブレードを振りかぶってドラゴンに向かって投げた。が、途中までは何とか飛ぶもののやはり重力には逆らえずに、角に命中することなく力なく地面に突き刺さる結果となった。

 

「あっ!」

 

ヴィヴィアンが驚くのと同時に、重力結界の重力がその威力を増したのか寸断されたかのように円状に地面が沈下した。

 

「う、動け…ない…」

「くそっ、動けよ! いくら金掛けたと思ってんだ! どうにかしてくれよ、ゾーラ!」

「……」

 

突撃組のアンジュは未だ身動きが出来ず、ヒルダは先程までの威勢は何処へやら、隊長のゾーラに助けを求める。が、ゾーラも状況は同じなのでどうすることも出来ない。

 

(こんな奥の手を隠してるとは、迂闊だった。やはりここは副長たちだけでも何とか脱出してもらうしかないか)

 

重力に苦しみながらもドラゴンの間近での威圧感や咆哮に耐え、冷静に現状を分析する頭脳と判断力は流石と言えるだろう。ゾーラはモニターの端にちらっと映るサリアの機体に目を向けた。

 

(頼んだよ、副長。くれぐれも判断を間違えるんじゃないよ?)

 

 

 

同じ頃、サリアも現状分析に勤しんでいた。

 

(部隊の全滅だけは避けなければいけない。先程隊長が仰ったように、我々だけでも機体を捨てて脱出…)

 

そう考えていたサリアの耳にパラメイルの駆動音が入り、驚きに息を呑んだ。

 

「ヴィヴィちゃん!?」

 

エルシャが呟いた通り、ヴィヴィアンが再び立ち上がると膝を着きながらも一歩ずつ一歩ずつ歩みを進める。目標は先程力なく地面に突き刺さった超鋼クロム製ブーメランブレードのところだ。

 

「皆を、放せ…!」

 

気合か根性か、遂にその場まで辿り着いたヴィヴィアンがブレードに手を掛けると振りかぶる。

 

「皆を、放せーっ!」

 

そして再び投げつけようとするがその瞬間、ドラゴンの目が光ってより一層の重力がかかった。その結果、投擲する前にヴィヴィアンのレイザーの腕部が粉砕されてしまった。

 

「っ!」

「ヴィヴィアン!」

 

声にならない驚きにヴィヴィアンが悔しそうな表情をする。そんな中、ドラゴンが勝利の雄叫びとでも言うのだろうか、また一つ大きな咆哮をあげて目の前のパラメイルたちに向かって鎌首をもたげた。

 

「このままでは…」

 

全滅…最悪の考えが頭をよぎる。先程の重力の更なる加重により、後方部隊とはいえもはや脱出も容易ではなくなってしまっていた。

 

 

 

(っ! 副長、判断を誤ったね! あれほど何かあったらあたしらを見捨てて逃げろって言ったのに!)

 

後方部隊の状況を見ていたゾーラは最悪の状況下に思わず歯噛みする。だが後の祭り。最早どうすることも出来ない。

 

(けど、どうにかしなきゃ)

 

これまでの経緯からあの角さえどうにか出来ればこの重力結界は瓦解する。それはわかっているのだが、禄に身動きできない今の状況ではどうにも出来ないのは火を見るより明らかだった。

 

(くそっ! このままここで終わるしかないのかよ!)

 

思ったことが二転三転するが、それもこの状況下では仕方のないことだろう。そんな彼女たちにトドメを差そうかと、初物ドラゴンがまた一つ咆哮をあげ、近づこうとしたときだった。不意に、その動きが止まった。

 

(???)

「動きが…止まった?」

 

その不可解な行動にゾーラが眉を顰める。ゾーラ以外でそれに唯一気付いたエルシャの呟きに、他の全員もモニター越しに視線をドラゴンに向けた。

動きを止めたドラゴンはある方向にその首を向ける。そしてあろうことか、そのまま一歩・二歩と後退し始めた。

 

「後退りしてる?」

「みてえだな」

 

重力に苦しみながらもクリスとロザリーも現状を判断する。すると後退し始めたドラゴンはなんと重力結界を解除してしまったのだ。

 

「ゴホッ…ゴホッ…」

「動ける。動けるぜ!」

 

加重が解かれ、咳き込みながらも立ち上がるアンジュ。ヒルダも獰猛な目つきになりながら機体を立て直した。

 

「な、何だかわからないが、奴さんがくれたチャンスだ。行くよ、お前たち!」

『イエス、マム!』

 

ゾーラの号令と共にゾーラたち三人とヴィヴィアンが下に潜り込み、サリアたちは遠距離から砲撃をかける。重力の結界を解除したドラゴンには最早なす術もなく、第一中隊の総攻撃の前に程なく沈むことになったのであった。

 

 

 

 

 

「やったぜ!」

「よっしゃあ、初物食いだ!」

「嘘みたい…まだ信じられないよ…」

 

戦い終わり、ヒルダたち三人は本日の戦果にこれ以上ないほどの喜びを爆発させていた。その傍らで、

 

「大丈夫、ヴィヴィちゃん?」

「うー、エルシャ、あんがと」

 

損傷を負ったヴィヴィアン機にエルシャ機が肩を貸している。

 

「あぁ、早く帰って汗流したい…」

 

アンジュは一人マイペースにアサルトモードを解除してに髪を掻き揚げて風になびかせていた。そんな面々の中、ゾーラの元にサリアから通信が入る。

 

『隊長、申し訳ありませんでした』

「副長、さっきの判断の遅さについてのことは後回しにしよう」

『はい』

「それより副長、さっきのあのドラゴンの行動。どう見る?」

 

一番気になっていたことについてサリアの見解を聞くゾーラ。

 

『不可解としか言いようがありませんね。圧倒的有利な状況を自分から放棄したのですから』

「そうだね」

『あくまで私見ですが、何となく何かに怯えていたような感じがします』

「怯え…か」

 

ゾーラも先程のことを思い出して考えていた。確かにある方向に首を向けて、それからだ、ドラゴンの行動がおかしくなったのは。

そしてゾーラもまた、その方向に首を向けたのだった。

 

(あっちにあるのはアルゼナル…アルゼナルで何かあったのか?)

 

ゾーラは鋭い目で、遥か向こうにあるアルゼナルを睨んだのだった。

 

 

 

 

 

「お帰りー!」

 

戦い済んで帰投する第一中隊。そんな第一中隊をいつものようにメイが出迎えた。

 

「ああ」

 

これもいつものように、ゾーラ以下第一中隊が勢揃いしてメイの出迎えを受ける。

 

「一時はどうなることかと思ったけど、皆無事で良かったよ」

「そうだね」

 

パッと見、メイの様子はいつもと変わらないように見えた。だが、長い付き合いであるゾーラ、そしてサリアには微妙に無理しているぎこちなさが手に取るようにわかった。なので、単刀直入に聞くことにする。

 

「おい、メイ」

「な、何?」

 

親しい人間にしかわからないが、笑顔のぎこちなさに拍車がかかった。

 

「シュバルツはどうした?」

「あ、あはは、な、何のことかなー?」

「すっとぼけるんじゃないよ」

 

ゾーラが威圧するかのように腕を組んでメイを見下ろした。サリア以下第一中隊の面々も多かれ少なかれ気にはかかっているのだろう、ジッとメイに視線を合わせている。

 

「着陸する前にしっかり見えたよ。あのシュピーゲルの周辺を固めている警備班の物々しさはなんだい。あたしらが出る前にはあんなものはついていなかった。第一、あんなことシュバルツが許さないだろうさ。もう一度聞くよ、シュバルツはどうした?」

「…ふぅ……」

 

メイが疲れたように溜め息をついた。もっとも、本人もこんなことで誤魔化せるなどとはハナっから思ってもいなかったようだが。

 

「気付いちゃうよねえ、やっぱり」

「当たり前だ」

「わかったなら隊長の質問に答えて。シュバルツはどうしたの?」

 

今度はサリアが口を開いた。

 

「いいよ、教えてあげる。どうせ遅かれ早かれ知ることになっちゃうからね」

 

そして知らされた事実に、第一中隊は固まることになる。

 

「拘束されたよ。今は独房で軟禁されてる。そしてシュピーゲルはこちらの用意が済み次第、調査・分析することに決まった」

「なっ!」

「えっ!」

「そんな…」

「嘘でしょ!?」

 

口々に発せられた驚きの声に、メイは黙って首を左右に振ることしか出来なかった。

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