保護した喰種はヤンデレでした   作:警察

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一日更新なんて命削っちゃう


第2話

 気絶したまま目を覚まさない女の子を家に残し、俺はすぐに現場へ戻った。先ほど戦闘の場となった十字路は人が集まっていた。野次馬は一目みようと黄色いテープぎりぎりまで近づきそれを警察が押しとどめている。 どうやら真戸上官達が殺ったようだ。近くにいる警官に話しかける。

 

「CCG20区の青履二等捜査官です。通してもらえますか」

「はっ! 真戸上等捜査官より話は伺っております。……おーいそこの人だかり! 道を開けてください!」

 

警官が人だかりに割って入り道を空けてくれた。お礼を言いながら規制線の中へと入る。

「ところで、大通りを少しいったところに一般人が転がってませんでしたか? 特例措置で手を縛って転がしておいたんですが」

「別の班の者がすでに回収済みです。現在、パトカーに乗せています」

「意識の方は?」

「回復しています」

「ありがとうございます。多分、悪質な輩ではないと思うので優しく対応してください。ワッパもいらないです」

「了解しました」

 

 中に入ると見慣れた惨状が広がっていた。

壁、地面とあたり一面に血液が飛び散り、血溜まりには一人の女性が沈んでいる。少し離れた所には切り落とされた首っ玉が転がっており、

その表情は泣きながら微笑んでいた。

それをチラと見たあと真戸上官のもとへ報告しに行く。

 

「やぁ青履君。どうだったね。捕まえたかい?」

「すみません。見失ってしまいました」

「ふむ。君が取り逃がすとなると相手はそうとう足が速いね」

「もしくは何らか組織が関与しているかもしれません。青履の足は並ではありません。あの子供が独力で逃げ果せるとは考えにくい」

 

(うっ!二人の信頼に胸が痛い……)

 

「じつは、その。一般人に殴り掛かられまして…………その隙に」

「なんだとっ! 喰種を取り逃がしたのか!?」

「まあ落ち着きたまえ、亜門君。こういう事はたまにあるものだ」

「すまん。亜門」

「い、いや。私の方こそすまん。熱くなりすぎた。……なら今からでも探しにいきましょう! そう遠くへは行っていない筈です!」

「いや、その必要はない。

すでに顔、身長、服装を把握している。見つかるの時間の問題だろう」

 

 

「それよりも……」

 

 真戸上官がパトカーの傍に行き、車体に手をのせる。

 

「この子へのお仕置きが先だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはCCG20区支部喰種対策局にある取調室の一室。机と椅子だけの殺風景な風景だ。窓には鉄格子があり、取り調べをうける人間はそちら側に座らされる。取調室は普通対面には警察官が座り、場合によっては他の二人三人がかりで取り調べが行われる。

だが今回は特殊なケースなので、俺と供述調書を記録する係、金木研(さっき聞いた)の三人しかいない。あの二人には先に帰ってもらった。

戦闘をこなしたのでお疲れでしょう後の事はやっときます、とは言ったものの実際は目の前の金木君を真戸上官から助けるためだ。真戸上官は一分一秒あったら現場におもむき喰種を殺し尽くしたい人で、それが尋問するとなったら……この子は生きては帰れまい。精神的に。それを避けるためにわざわざ面倒くさい尋問なんて引き受けたのだ。

あれ。そんな真戸上官と似たような生真面目亜門と同じ班に入れられてる俺って、厄介事押し付けられてね?…………ブラックすぎるよぉ。

 

「あ、あの。大丈夫ですか?」

「ん。何がかな?」

「泣いてらっしゃるみたいですけど……」

「ちょっと同僚と上司に引っ張られる俺の勤務時間について考えてしまってな」

「…………すいません。僕のせいでこんな残業までさせてしまい」

 

うん。

さっきから話してる感じできた子だな。ちゃんと敬語を使ってるし、専門家じゃないけど反省してるようにしか見えない。やっぱあの行動に含みはなさそうだな。

早めに帰してあげるか。

 

「幾つか聞くことがあるから正直に答えてほしい。と言っても緊張しなくていい。

ふざけてあれは故意です。なんて言わない限り君を帰してあげることになっているから。一つ目、なぜ俺に殴り掛かってきた?」

 

「……ちいさな女の子が悪い人に襲われていて、どうにかしなきゃと思ったからです」

 

「二つ目、喰種に同情したり捜査の妨害をしている自覚はあった?」

 

「いえ、知りませんでした」

 

「三つ目、あの子供の喰種と知り合い?」

 

「…………違います」

 

「最後に反省している?」

 

「反省しています」

 

「おっけー。んじゃ帰る前に誓約書を書いて終わりだから。お疲れ様。確か、大学生だったよな。親御さんに連絡いれるから番号教えてくれない? 若しくは祖父方の」

 

「あっ、両親は……あの、物心つく前に亡くなっていて。両方の家にも縁を切られていて……えっと」

 

「まじか……。お前、大変だったんだな……」

 

「え、っと。そう思うこともありましたけど、今は大学にも行けますし大切な親友もいるので幸せです」

 

「……」

 

「青履さん?」

 

「いやっ、何でもない。

俺こいつを車で送ってくるから。調書はまとめて俺のタブレットに送っといて…………ほら金木行くぞ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁぁ、緊張した…。まさか喰種の僕がCCGに居るなんて誰も思わなかっただろうな。この人も。

「どうかしたか?」

「いえ、なにも……」

ヒナミちゃんがこの人に殺されると思って無我夢中で突進したら、あっさりと反撃されて。気を失って、気がついたらパトカーの中で。起きたら窓の外には…………リョーコさんが血の海に倒れていて……僕は……。

 

「ほら早く乗れ。この車に乗れるやつは少ないぞ。俺の知り合いでも真戸上官と亜門位だしな」

仮に、僕じゃなくてあの場所にいたのがトーカちゃんだったら………。

のそりと助手席に座る。すると唐突に頭に重みを感じた。僕は重みを乗せた主へと視線を向ける。

 

「シケたツラすんなって。大丈夫。経歴には残らないようにするから。丸出さんのせいにしとけばいい」

 

そうなったら、青履さんは死んでしまっただろうか。

青履さんはヒトの平和のために”喰種”を退治している。

世間的に排除されるべきは”喰種”の方なんだ。

悪いのはヒトを殺して喰らう”喰種”じゃないか……。

喰種捜査官は何一つ間違っていない。

間違ってなんか………。

……………僕は……僕は 何もできなかった……。

 

「青履さん…」

 

「うん?」

 

「喰種は生きていてはいけないんでしょうか……?」

 

 

 

 

「そうだな」

 

「っ!!」

 

 

 

 

「俺は喰種捜査官で、人々を守るのが仕事だ。奴らは人を喰う。それだけで殺す理由になる」

 

「……」

 

「金木はどう思う」

 

「僕は……命を奪われて怒るのは当然だと思います。確かに多くの喰種が数えきれないほどの悲しみを生み出してきたんだ思います。でも、喰種にだって感情はありま……あるんじゃないでしょうか。悲しみの連鎖を止めるにはお互いを理解しあ…………っ!! 僕だけ……?」

 

「何を驚いてるのか知らないが、人間しか喰えない生物を認める訳にはいかない。逆に言えば、何か一つでも人間以外の主食を見つければいいという事だ。既存の物が無理なら新たに作ればいいと思うんだが。ま、当分の時代は殺し合うしかないだろうな」

 

僕だけなんだ。

それに気付けるのも、それを伝えられるのも……

”喰種”の僕だけだ。

人間の僕だけだ。

多くの喰種は道を誤った。

僕も喰種が正しいなんて思わない。だけど、相手のことを知らないまま間違ってるって決めつけてしまうなんて、そんなのが正しいなんて僕には思えない。

……もっと…知るべきなんだ。みんな。

僕が伝えなきゃ。

そのためにもっと強くならないといけない……。誰も寄せ付けないくらい。

喰種も人間にも分からせるくらい……。

僕にしかできないんだ。

 

「おい! 金木!」

 

青履さんの声に意識が現実に戻る。青履さんは僕に向かってなにか丸いものを投げた。

 

「それ、俺の連絡先だから。何か困ったことがあれば相談してくれて構わない」

 

 

ーーー今は正体を打ち明けることは出来ないけど、

ーーー何時か青履さんとも分かり合いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は金木を送ったあと家に帰った。時刻は夜の9時をすぎた頃だ。いつもは8時くらいには終わる。

さて

 

「ただいま」

返事はない。返事を期待はしていなかったのでそのままドアを閉める。運動性に優れた支給品の皮靴を脱ぎ、コート掛けに白服をかける。ネクタイを緩め廊下の途中にある浴室の洗濯機に靴下を投げ入れる。リビングについた俺はそのまま冷蔵庫へ向かい酒をボトルで2本と賞味期限の切れた枝豆を手にテレビの前へ座る。目の前のテレビの前にある小さなテーブルにそれらを置き、元からのってあった煙草に火をつけ咥える。酒も飲む。

 

ーーーーお母さん……お母さん……お母さん……お母さん……お母さん……お母さん……お母さん……お母さん

 

「はぁ~……」

まだ声変わりも終えていない、幼い声が聞こえてくる。お母さんと一回聞くたびに俺の人間としての良心がガリガリ削れていくような感覚に陥る。忘れていたかったが今更事態はどうこうできない。覚悟を決めて一応横に置いていたクインケを持たず、リビングの奥にある和室へと歩みをすすめる。さすがにこれでクインケ持っていったら人としてどうかと思ったのだ。

 

 襖を開けるとそこには小さな女の子が三角座りしていた。連れてきた時と寸分も動かずに。俺が入っても顔を上げない。それはまるで自分の世界は意識の中にあるんだと言わんばかりに抗議しているように思えた。手も足も目も拘束はしていない。喰種相手にそれごときの拘束は無意味だ。赫子を持っていたら背中のどの部分から出てくるか分からずに手を打ちようがないから。背中全面に甲赫でできた特殊金属でも張り付ければ話は変わるが。

 何が言いたいかというと、この子はいつでも俺を殺すことができるにもかかわらず全くその気配がないという事だ。さっきの金木の話…………喰種にも感情はあるのか。きっとあるんだろうな。これが何よりの証拠なんじゃないだろうか。

 

「起きてくれ。聞きたいことがある。どうやってお嬢ちゃんは人を殺さずに生きてきた?何を食べていた?

私たち、と言うことは母も殺しはしていなかったんだろ?

俺はそれが知りたい」

 

「お母さん……お母さん………お母さん」

 

はぁ。女の子に近づき顎を掴み、強引に上を向かせる。まるで汚染しまくった東京湾のようなドロリとした暗い瞳をしていた。光が二度と出てこれないような。この顔はよく見たことがある。局に保護されてきた子は大なり小なりこんな顔をしていた。

……感情をなくした顔か。

こんな顔にさせた原因の一端が自分である業の深さを知り、恐ろしくなって顎を掴んでいた手を離す。

どうするかなと呟いた後、また明日来るからと言っておいた。

俺はその部屋から立ち去った。

 

 

 


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