「あの~、雅さま?」
すると、腰帯に蛇二匹を巻いている、おっとりとした鬼の女性が雅に声をかけてきた。
「はじめまして、私衆合地獄に勤めている、お香と言います」
「ん、あぁ。わざわざどうも」
ぺこりと会釈し、なぜかお香は雅の顔をじっと見詰めていた。
「・・・・・あの、私の顔に何かついてる?」
「あら、ごめんなさい。今日のお昼ごろ衆合の歓楽街で一騒動あったでしょう?あのとき治めてくれた雅様のこと、男の人かと思ってて」
「お香ちゃん、雅ちゃんはれっきとした女の子だよ?僕は絶対見間違えない自信あるね」
「あなた女性なら手当たり次第でしょう、いっそ一線越えて自滅すればいい」
「するか!!僕は女性オンリーなんだ!!」
「あら、また始まっちゃった…ごめんなさい、気に障りましたか?」
「この二人はもう放っておいたほうがいいと思う。それに気にしなくていいよ。よくあることだから、…大体羅刹も男や女もたいした比じゃない、ただ威厳と力量の畏怖が強いだけ」
「そんなことありませんわ!凛々しくていかにも大和撫子といった感じで、女性の極卒として申し分ないと思いますわ」
ニコニコと笑顔を振りまくお香を見て、なんだかこそばゆく感じた。
「!そ、そうか?そんな率直に言われると困るんだが・・・」
少し言葉をかみ、ちびちびとお酒を口に含む。
「あ!今の顔、とっても可愛かったよ♪やっぱり女の子だ…」
ゴリッ!!
「ねぇえ"え"え”っ!!?」
雅は白澤の言葉にすかさず反撃した。立てかけて座っていた白澤の脛に強烈な手刀を喰らわせた。
桃太郎「これは完全にアンタが悪い…」
「ったく、いい加減二人とも、私を挟んでの口喧嘩はよしてくれないか」
「だからってなんで僕だけ暴力を振るうの…!」
床に倒れ、脛を押さえる白澤であった。
「自覚なしか」
「無駄ですよ、この珍獣は報復に対しての耐性がついてないんです」
「ここまでガードが固いとはね、誘いがいがありそうだよ♪」
「アンタの言うとおりだな」
三人そろっての険悪ムードに、お香は話を切り出した。
「ま、まぁ皆さんその辺にしておきましょう。せっかくの歓迎会なのですから、お鍋でもつつきながら話を…!」
「そ、そうっすよ…!あ、俺よそいますよ…!」
桃太郎はいそいそと鍋をつつき始めた。
「謝謝、ありがとね~♪」
「はぁ、そうだな。ただ飯だし食べるにこしたことは無いか」
「そうですね、申し訳ありませんでした。大人気なかったです」
ほっと胸をなでおろす桃太郎は、よそった小皿を雅に渡した。
「どうぞ」
「ありがとう。って、これなんか赤いな…」
「そりゃキムチ鍋だからね~、発汗作用もあって新陳代謝もよくなるよ」
「さすがは漢方の神獣、色欲以外はまともな知識はあるんだな」
「それって褒めてるの?」
「あんたを褒めるくらいなら舌を抜いた方がマシ」
毒を吐きつつよそってくれた具材を食す雅。ふと隣を見てみると、鬼灯の皿には何もよそっていなかった。
「おい、鬼灯にはないのか?」
「いえ、私は結構です」
「何、まださっきのこと根に持ってるのか?」
「違いますよ、遠慮なさらず」
「あ、鬼灯様はいいんです…別の鍋がありますから(この展開、デジャブ…!)」
少し顔を曇らせる桃太郎に打って変わり、白澤は間髪いれず、
「辛いのが苦手なんだよね~、こいつは」
ニヤニヤと悪意をこめた笑みを鬼灯に向けた。
「え?そうなのか、意外」
鬼灯は舌打ちをうち、眉間に皺をよせた。
「あーもう!前にもこんなことがあったから、触れないでほしかったのに…!!」
と落胆する桃太郎の前でへらへらと笑う白澤に苛立ちを覚えた。
「ふん、私は対したことないな。この辛さなら食べれなくもないし、一度食べてみたら?」
と鬼灯によそった小皿を差し出す。
「別にいいです。私は別のを頂きますので」
すっといやみな顔をして小皿を戻す。
「食わず嫌いはよくないぞ、一口だけでいいから」グイッ…
「ですから、結構ですといっているでしょう!」グイッ
「他の奴が食えるんだったら食えると思うのが常識だろ!」グググ…
「それは常識ではなくあなたのルールというものでしょう!」グググ…!
食わせる食わせまいとする、どうでもいい意地の張り合いが勃発した。