紅の牙と黒提灯   作:雅音かぐや

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羅刹(らせつ)
 羅刹とは、阿修羅や夜叉と同様、古来から人々に災厄をなす鬼神の一種とされ、とくに人を喰らう魔物と伝えられてきた。
 それが仏法に帰依(神仏や高僧などの優れたもにつく)したものが『羅刹天』と呼ばれる。


十二天が西南、羅刹天補佐【雅】

「『十二天の中で羅刹天は西南を守護する女神鬼とされ、白い獅子にまたがった武将の姿で表されることが多い』と、何故かこの推薦状八割が、びっしりと羅刹の由来のことについて書かれていましたが」

「あの目立ちたがりのババァが、私に関する情報もろもろ、まともなこと一つも書いてねぇ!!」

 サダコ3D事件を無事納めた後、鬼灯と羅刹天の補佐と名乗る雅は閻魔殿にいた。例の赤い巻物はやはり天の所有物で、天の使いの証印を押さなければ見られない推薦状だと判明した。

「貴女の上司、ここに書いてある女神鬼のことですか?」

「そうだ」

「だとすると、彼女の娘の一人ですか」

「ん…まぁ一応そうだな」

「答えが曖昧ですね」

「話すと長くなるけど」

「それなら遠慮しておきます」

「あそう」

「あの~、お二人とも。ワシに対して怒ってるのはわかってるんだけど、ワシ挟んで両サイドに立たないでもらえないかなぁ…?」

 閻魔大王は二人の間に正座をさせられ、険悪な雰囲気に耐え切れぬ思いを押し殺していた。

「あなたが独断で補佐官の推薦を呑んだから、こういうことになったんでしょうが」

 鬼灯は閻魔大王を一瞥してから雅に目を向けた。

「雅さん、貴女が羅刹天に推薦されたのはいつからですか?」

「一、二週間前だ。だけど正式に知ったのは昨日だ」

「は?」

「なんというか、お宅の上司とおんなじでね。ずるずると引っ張り続けたらこの結果だ。ああ、別にけなしているわけじゃないですよ、閻魔大王。こんな私を推薦してくれて感謝しきれないくらいです」

(声に抑揚が感じないんだけど…)

「で、どうするんだ?」

「どうというと?」

「正式に雇うか、または雇わないか。一応上司の命令でここに来た。断られたとしても、責任は上司にいくだけだから」

 この子性格的に鬼灯君とあわなさそう、と心の中で閻魔大王は思っていた。そして案の定、鬼灯は怪訝な面持ちになっていた。

「雇うとしても、貴女を雇うことに不問を感じます」

「天部の勝手さに?」

「それもありますが、貴女自身も含めてです」

 そのとき、雅の片方の眉がピクリとつりあがった。

「貴女は羅刹です。私達鬼と違って、扱いが異なります。天部に属している身でありながら、獄卒として勤まるとは到底思えません」

「確かに、最もな意見だ」

 すると懐から何かを取り出すと、鬼灯の方へ投げた。

「これは?」

「さっきの件、新聞記者の猫又からすったカメラのフィルムと、携帯のメモリーカード。後から困りだろうと思って」

 要するに、閻魔庁で起こった失態を証拠隠滅として手に入れていたのだ。見た目に反して抜け目のない女だ。

「ありがたいことですが、これと引き換えに容易く補佐官に就けると思ったら大間違いですよ」

 厳しい言葉に反して、彼女はクスリと微笑を浮かべた。

「アンタら鬼からしちゃ、私はのけ者だろう。いや、地獄全体から浮く存在。察しはつく、だが」

 一旦話をきると、赤い瞳を鬼灯に向けこう言い放った。

「いきなり補佐官になるというのが癪なら、まず使ってみてから遠慮なく捨てればいい。ここにきて、もう羅刹天の補佐としての立場はない。今の私は、ただの羅刹だ」

 鬼灯に対して臆することもなく目の前に立つ羅刹女。態度はぶしつけだが、物言いは強く芯が通っている。暫く睨みをきかせるなか、閻魔大王は堪らず口を開いた。

「えっと、二人とも・・・?」

 

「いいでしょう」

 

「え?」

「偏見で物事を決めるのは私らしくありませんでした。無礼を許してください」

「と、言うと?」

「貴女の言い分も兼ねて、いきなり補佐官の職に就くことしません。なので、暫くは私の手伝いをしてもらいます」

「補佐官の補佐か、悪くない。期間はどれくらいに?」

「そうですね…貴女が羅刹天の補佐だった力量を考えて、一週間。試させてもらいます」

「ちょ、ちょっと鬼灯君!これは補佐官の推薦できている話で、勝手に内容を決めてもらっちゃ・・・」

「わかりました」

 急に態度が改まった彼女に、驚きの表情を浮かべる閻魔大王。

「ちょっと雅ちゃん!?」

「閻魔大王、これはあなた方上司が招いたことです。けじめは、後の業務でつけてもらいます」

 鬼の形相の如く、閻魔大王に容赦なく圧をかける第一補佐官。

「けじめって…」

「ともかく明日から働いてもらいますよ、雅さん。一週間の激務に耐えられるか、見ものです」

「それはまた。では期待に応えるべく精進しませんと、鬼灯さま」

 後の大王はこう悟ったという、あのとき補佐官を増やさなければよかったと。

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