紅の牙と黒提灯   作:雅音かぐや

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第6話

「ねぇねぇ、今のもしかして法力か何かで瞬間移動したの?」

 閻魔大王は童のように目を輝かせながら下を覗いた。

「大げさな。鬼と同じく、特別な力を持っているわけじゃないんですよ。昔の癖で、ついつい忍び足になってしまうんです」

「昔の癖って?」

「それは・・・」

 雅が何か言いかけたとき、鬼灯が話を割った。

「余談をしている場合ですか」

「ご、ごめんごめん…!つい気になっちゃって…」

「手厳しいお言葉。とりあえずこの話はなかったことにして、楽しいお仕事を始めましょうか、鬼灯殿?」

 にっと口元を釣り上げて笑う彼女に、目はほぼ笑っていなかった。胡散臭い表情に鬼灯は顔をしかめるばかりであった。

 

 

 

「いや~、難なく滞ったねぇ!」

 何事もなく、一通りの作業を終えてほっと息をつく閻魔大王。

「そうですね。予定より早く終わりました」

「ふー、デスクワークは、身体がこる…!」

 そういうと雅は肩を揉んで背伸びをすると。身体からいびつな音が鳴り響いた。

「ち、ちょっと…聞き慣れない音が聞こえてくるんだけど…」

「私結構外で動くことが多くて、少しでも動かなかったらこうなるんですよ」

 首を左右に動かし、机から離れつつ準備運動の容量で身体を動かす。

「確か武芸に長けているんでしたっけ。昨日の件で目処はついていますが」

「守護職だからな、鍛えているのは当然」

 少し自慢げに話す中、彼女の腹の虫が鳴った。

「あ、お腹鳴った」

(羅刹天の補佐役の肩書きで、どこか可愛げにうつるのは黙っておこうっと…)

 と、閻魔大王は和やかに悟った。

「食堂にでもいきますか」

「そうしようよ。今日の食堂、日替わり定食が豪華らしいよ」

「へぇ、食堂なんてあるんだ」

「天部ではありませんでしたか」

「在るには在るんだが、大方皆供え物で満たしているから、早々利用するのが少なくてね。ほぼ私しか行ってなかったな。食堂の全メニューをコンプリートしたことがあるし」

「天部、ヒマなんですか」

「んなわけないだろう。中流企業並みに忙しい」

「天部を中流企業みたいに例えちゃっていいの?」

 他愛も無い会話をしつつ食堂へ赴く三人。すると背後から呼び止める、二人の獄卒が駆け寄ってきた。

「あ、鬼灯様~!」

「閻魔大王もご一緒ですか?」

 唐瓜と茄子、いつも二人で行動している。今回も食堂のトレイをお互いもち並んでいた。

「予定より早く終わったからね、本当に補佐官を増やしてよかったよ」

「まだ正式じゃないですけどね」

 すると、鬼灯の隣に居る雅に気づいた二人は、自己紹介を兼ねて挨拶を交わした。

「あの、はじめまして雅さま。俺唐瓜って言います。こっちは茄子です」

「はじめまして~」

「ん、ああ。確か新卒の二人組みだっけ?新卒といっても、私も人の

こといえないけど」

「そんなことないですよ!天部に仕えている方と比べるなんて…」

 そして何を思ったのか、ほけっとしていた茄子がこう切り出した。

「あの~、『羅刹』って鬼とどう違うんですか?」

 いきなりの問いに、雅はぱちくりと瞬きを見せた。

「茄子お前、また突然言い出して…!」

「…面白い。ここで話すのはなんだ、そこで一緒に食事しながら話すか、かまわないよな?」

「私はかまいませんよ」

「大勢で食事するほうが楽しいしね」

 茄子と唐瓜と合流し、五人はメニューの注文を終えてテーブル席に着いた。鬼灯の目の前に雅。唐瓜と茄子は二人並んで、大王はその端に座った。

 

 

「元々は地獄の鬼だったそうですよ」

「え?それってどういう…?」

「簡単に言えば鬼の祖先、起源とも呼ばれてる」

 ダイオウグソクムシの海老天をほおばりながら話す雅。

「鬼の祖先!?そんなものあったんですか?」

「しかしそれはあくまで推測です。まだ黄泉と呼ばれていた時代の前世紀に、凶暴で冷酷な鬼がのさばっていた。としか残っていませんから」

「実際にはよくわかってなくてね」

「!貴女の話題ですよ、信憑性というものはないんですか?」

「信憑性、ないことはないけど」

「え、なんですか?」

 ニヤリと怪しげな笑みを浮かべ、海老天の尻尾を噛み砕き二人の子鬼にこう告げた。

 

 

「共食い、いわば鬼を喰う鬼…かな?」ククク…

 

 

 閻魔大王も含みビクッと身体を震わす二人だが、恐る恐る唐瓜は聞いてみた。

「そ、それって自己紹介で聞いてたんですけど、雅さまは本当に食べたり、するんです…か?!」

 その問いに対し、雅はふと目線を落とし静かに目を閉じる。

 

 

「フフ・・・だとしたら、どうする?」

 

 

 フッと静かに見開き、ぺろりと下唇を舌なめずりしながら、小刻みに肩を震わす二人を見つめた。

「「ひいいいぃぃぃ・・・!!!」」

「雅さん」

「・・・ククッ!なんて、冗談だ。御伽噺に出てくるベタな鬼じゃあるまいし。噛み付くことはあるけど」

 もぐもぐと残りの海老天丼を食べ進める雅に、二人は冷や汗を流し呆然としていた。

「噛み付くことはあるんですか…てか噛み付くってなんですか」

「言葉より先に牙が出るというだろ」

「ありませんよそんな言葉。暴力で解決すると変わらないじゃないですか」

「えっとー…結局のところは鬼と変わらないってことですか?」

「そうだなー、自分でもよくわからん」

「そんなはずはないでしょう。容姿からして、その赤い髪は特に珍しいですし」

 鬼灯は目を釣り上げて、雅の鮮やかな赤い髪を見た。

「髪ねぇ、確かに珍しいと思うけど」

 毛先をいじる雅に対し、

「血の色を彷彿させるとは行きませんが、私は嫌いではないですよ」

 と、鬼灯の言葉にふと手先が止まる。

 

 なんだ、この感じ。前にもこんなことがあったような…。

 

 突然ボーっとする雅。

「雅さん?どうしました?」

「ん?ああ、ごめん。なんでもない」

 声をかけられ我に返る。気の抜けたところを見せてしまい、しっかりしなくてはと念じる。そんなことにはかまわず、閻魔大王は話を続けた。

「そうだねぇ、ワシも嫌いじゃないよ。それに、女性なのに刀を振るえるなんて格好いいじゃない!」

「昨日俺見てましたよ!まるで映画のバトルシーンみたいで、思わず見入っちゃいましたよ~」

「あのさ、畳み掛けるように褒めまくるのやめてくれないか」

「恥ずかしいんですか」

「当たり前だ。他人からこう、褒められるのはなれてないんだから」

「ほう。では私が罵る立場になれば問題は解決しますよ」

「なんでそうなる。アンタに罵られても全然嬉しくもないからな」

 口論を繰り返す二人をよそに、茄子は腕を組み首をかしげていた。

「う~ん・・・」

「どうした茄子?」

 垂れた目で眉をひそめていた茄子は、ぱっと顔を輝かせてこう言った。

「あ、そうか!なんかもやもやすると思ったら、雅様のここ。鬼灯様と少し似てるよ!」

 自分の目じりを子供のように無邪気におさえて、雅と鬼灯に目をやった。

「あ?この目じりの?」

 雅の目じりにの下には、紅がほんのりと浮き出ていた。頬に向かって二股に分かれた鋭い模様、鬼灯はほんのりと染まっているので似ているといえばそうかもしれない。

「あんまり意識したことはない。でも、アンタにもあるんだな」

「そういえばそうだね。なんだか兄妹みたいな感じで…」

 

 

「「あ・・・?」」

 

 

 閻魔大王の余計な言葉に、雅と鬼灯は躊躇なくメンチを切る。

「すいませんでした。もう二度と言いません・・・」

「二人同時のメンチ切り、殺気がすさまじ過ぎる…!」

「それに揃ったし」

「兄妹なんて、この人と血のつながりあると思ったらぞっとするね」

「その言葉、そっくりそのままお返ししますよ。貴女のような男女の身内がいるなんて御免ですよ」

「大体、歳は私より上だからな!そこは譲らないから!」

「どうでもいいでしょう」

「あの、何か雰囲気が思わしくない方向に向かってる…」

「余り言いたくないんだけど、やっぱり似たもの同士だから反発しちゃうのかな?」

 ヒソヒソと話す唐瓜と閻魔大王にまた、

 

 

「似てません!」

「似てない!」

 

 

 異口同音とまた揃ってしまった。

「また揃った・・・」

「あーもう!これじゃあ拉致があかない、先に戻って残りの作業を片付けるからな」

 席を立ち、食堂から立ち去ろうとしたそのとき、

 

「あ、今日雅ちゃんの歓迎会するから夜十時に居酒屋に集合ね!」

 

「・・・は?」

「歓迎会?」

「そうなんですか?行きます行きます!」

「俺も~!」

「閻魔大王、その話初耳なんですが?」

「同じく」

 さっきまで言い争っていた二人に、負のオーラが滲み出ていた。

「ご、ごめんよ…!言うつもりだったけど、君達の険悪なムードで切り出せなくて・・・でも大丈夫!主催はワシだし、もつから!」

「そう毎回言っていますが、結局は取り持つことになるんですよ」

「言っておきまが、私は一円たりとも出しませんから。歓迎される身なんで」

「うん、肝に銘じておきます・・・」

 今日の閻魔大王は哀れだ、と心の底から思う茄子と唐瓜であった。

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