紅の牙と黒提灯   作:雅音かぐや

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三つ巴の魂

「すっごいのどかだな」

 一変して桃源郷に訪れた鬼灯と雅。

 白澤という神獣が経営している、漢方薬局に注文していた薬を取りに行くためだ。

「天部に所属している身でありながら、まさか聞いたこともないなんて世も末です」

「それぐらい仕事熱心だってこと」

「自分でいいますか…」

 景観をみつつ仙桃(せんとう)農園を抜けていき、肩を並べて歩く二人。

「今更だけど、別に二人で行く必要はなかったんじゃないのか?場所さえ教えてくれれば一人で行けるのに」

「言ったはずですよ、貴女は私の補佐です。正式な補佐官になりたかったら、私の言うとおりに行動してください」

「何その下僕扱い。酷い上司についたな…」

「それもありますが、別の問題があります」

「別の?」

「つきましたよ」

「ん?」

 ふと視線を前に戻すと、青く茂った草原に頭巾を被ったウサギがあちこちいる。その中で畑を耕し、同じく頭巾を被る人間が一人こちらに気付いた。

「あ、鬼灯様」

「こんにちは、桃太郎さん。注文していた品物を取りに来ました」

「あはい、わざわざご苦労様です。あの、あちらの方は…?」

 少し離れたところでウサギを撫でている鬼女を発見した。ついさっきまで隣にいたのに、茄子さんと変わらない自由奔放ですね。

「ウサギ・・・」

「あれは私の補佐です」

「え?補佐?」

「話が長くなります」

 少し驚いた様子で雅を見ると、

「久しぶりに食べてないなぁ・・・」

 ぼそりとつぶやく不吉な言葉に、ウサギはびくりと身をこわばらせた。

「雅さん、また涎が出てますよ。というか貴女、金魚草といい動物構わず食べようとしないでください」

「金魚草食べようとしたんだ…」

 なんて偏食家なんだろうと思った桃太郎であった。

「ごめんごめん、ついね」

 すっと立ち上がりこちらに戻ってきた。

「あ、えっと初めまして。俺はここの極楽満月で働いている…」

「桃太郎」

「え」

「知っているんですか?」

「いや、頭巾に桃のマークがあれば一目瞭然だ」

「はは、そりゃそうですよね」

「私は雅だ。閻魔大王の第二補佐官」

「だ、第二補佐官!?」

「まだ、補佐官ではありません。今は私の補佐役です」

「ふん、変わりないだろう」

「それはまた、大変ですね…」

 おもに大王が。桃太郎は初めて会った雅に対して、鬼灯と同じ匂いがすることを瞬時に見極めた。

「まぁそれは置いといて。さっさと注文していた品物をもらいたいんだけど。それに、白澤っていう人にも挨拶がてら会ってみたいし」

「別に、挨拶しなくてもいいんですがね。あのゲス獣に対しては」

「・・・なぁ、ここに来る前からあんな調子なんだが、その白澤ってやつに何か恨みでもあるのか?」

 桃太郎に近づき、ひっそりと聞いてみる。

「まぁ、犬猿の仲というか…一つ上げるとしたら、お二人は似ているというか」

「似ている?」

「白澤さんは、お店にいらっしゃらないんですか・・・?」

 殺気混じりに問いかけると、桃太郎はヒッと体を震わせた。

「い、今呼んできます…!」

 いそいで店内に戻る桃太郎であった。その様子をみて雅はちらりと鬼灯を見て、

「似てるって聞いたけど、あ、もしかして兄弟?」

 と、わざと憎たらしい笑みを浮かべると、それをかわきりに金棒が目の前に振ってきた。気を抜いていたと思いきや、雅は瞬時に鬼灯の真後ろに移動した。そのまま金棒は鈍い音とともに、地面にめり込んだ。

「あっぶな・・・むやみに振るなよそんなもの。短気ははげるぞ」

「はげません。これ以上話すと拉致があきませんので、後にしましょう」

 するとお店の玄関口が開き、

「おい、何外で暴れてんだよ!」

 給食当番のような頭巾に、割烹着に似た白衣をまとう、目が切れ長の男が現れた。桃太郎が話していたことがわかったような気がした。容姿はともかく、身長も鬼灯とかわりなく瓜二つなのだ。

「あなたがさっさと出てこないから、腹いせに店の周りを掘り起こしてやろうと思いまして」

「なんだよ、今度は店ごと奈落の底に落とそうっての!?この朴念仁!」

 鬼灯の背後から見ていた雅は、ぽつりと口にした。

「似てるな、やっぱり」

「え、なんかお前の後ろで声がしたんだけど」

 雅の身長は男二人の肩まで、すっぽりと背中に隠れているようになっていた。

「あぁ、別にあなたに紹介しなくてもよかったんですが…」

 鬼灯はくるりと雅の方へ振り向き、

「え、なに・・・ってイタタタタタ!」

 一瞬で頬をつままれ、強く引っ張られた。

「何すんだよ!」

「余計なことは言わないでください。いい加減にしないと、天部に送り返しますよ」

 白澤は不思議そうに思い、鬼灯の背後に隠れる人物をのぞいた。

「いたた・・このパワハラ上司め、ん?」

つねられた頬をさすり、涙目ながらも白澤に気づいた雅。

 鮮やかな赤い髪に印象的な赤い目、スタイルも抜群で一気に白澤の興味を惹いた。

「……え、彼女もしかして羅刹女?」

「そうですよ、よくわかりましたね」

「へぇー、本物の羅刹女に会えるなんて。やっぱり史実通り美人だねぇ!」

 すると、へらへらと笑いながら雅に近づく白澤に対し、雅は少し身を引いた。

「な、なにいきなり…?」

「君名前は?羅刹女ってことは天部に所属してるんだよね?」

「・・・雅だ。あんたが白澤?」

「そうだよ。雅ちゃんかぁ、いい名前だね」

 にっこりと笑うごとに、雅は不愉快な気持ちが募っていった。確かに鬼灯に似てるけど、本人が嫌うのもなんとなくわかる気がする…。それになんで私が羅刹であることを当てたんだ?

「これぐらいでいいでしょう。注文していた薬は…」

「え?こいつの補佐!?なんで?君みたいな可愛い子があんな鬼神の下に働くだなんて!」

「しつこい、だから正式な補佐官になるためだな…」

「もったいないなぁ、君のような子がこいつと釣り合うわけがない。よかったら僕の元で働いてみない?漢方もそうだけど、もっといろんなことを教えてあげるから…」

 鬼灯を無視し、さりげなく雅の手をとるスケコマシの神獣。

 

ブチッ!

 

二人の中の何かが切れると、

「おげふっ!?」

 雅の渾身のボディブローと鬼灯の一蹴りが前後に遅い、白澤の身体は地面に撃沈した。

(あの二人を敵にしたら、命があぶねぇ…!)

 影でみていた桃太郎はガタガタと恐怖で震えていた。

「三十秒以内に薬を用意しなさい。さもないと金魚草の堆肥にしてやりますよ」

 パシパシと金棒片手に取る鬼灯。

「万物を知る神獣と聞いていたが、とんだカス野朗だな。次やったら綺麗に捌いて毛皮にしてやる」

 太刀を肩に背負い、トントンとやる雅。

 まさに鬼神の如く、こういうところだけ釣り合う二人であった。

「あ、あの~・・・これが注文していた薬です…」

鬼神が一人増えたところで、桃太郎はどうこうなる問題に触れてはいけないと必死に押し殺し、風呂敷を二人の鬼神に渡した。

 

 

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