さて、試合後。
ピットに戻ると姉貴に頭を撫でられたり、愚弟に酷いと言われたりいろいろあったが、
とりあえず着替えを済ませる。
愚弟は篠ノ之と帰るらしいので放ってきた。
寮へと歩き出すがその前にさっきからついてきてるあいつを何とかしなくちゃな。
「おい。出て来い」
反応なし、か。仕方ない。これを使おう。
《Flash On》
《Freeze On》
フラシェキーとソフトーニャを稼動させ、近くの物陰に抛る。
強烈な閃光と、吹雪が見える。
「えっ?きゃっ!ちょっ!?」
相手は人間ではなく機械が来たことに驚いているらしい。
声が聞こえてきた方へ歩いていく。
そこには水色のくせっ毛の少女が居た。
フラシェキーとソフトーニャは俺の手元へ戻って来るとフードモードになる。
ふたつを懐に入れると、目の前の女がジト目でこちらを向いた。
「ちょっと、レディーに向かっていきなり攻撃を仕掛けるのは酷いんじゃない?」
「はっ。レディーがこそこそ人を尾行するかボケ」
「誰がボケよ!」
と、食って掛かってくる。
___昔から変わらないな、こいつは。
「ここにゃ俺とお前しか居ないんだからお前に決まってるだろう、
「失礼ね!私は更識楯無よ!___って・・・え?」
きょとんとした顔をするカナ嬢。
口元に笑みを浮かべ、カナ嬢の頭に手を置く。
「昔から変わらないな、カナ嬢。いや、楯無と呼んだほうがよさそうか」
「えっ?えっ?ちょ、ちょっと待って!」
両手を前に出し、手に持つ扇子を開くカナ嬢。
達筆な字で「ストップ!」と書いてある。
「あ、あなたもしかして・・・千秋くん・・・?」
おそるおそる聞いてくるカナ嬢。
「ああ、俺は千秋。正確には「織斑秋二」改めてよろしく頼むぜ?カナ嬢」
「千秋くん!久しぶり!」
俺に抱きついてくるカナ嬢。
そう、俺は小学4年まで更識家で一部の時間帯やイベントの時に護衛として働いていた。
しかし、暗部である更識の家で本名はいろいろ不味いということで姉貴の千の字と
俺の秋で、「千秋」という偽名を使っていたのだ。
そしてそこそこ仲良くなったカナ嬢が、俺の護衛任務最終日に、
名前を呼んでくれる?と聞いてきたので、
『カナ嬢が楯無の名を継いだら、な』
『ほんと?そうしたらまた、会ってくれる?』
『ああ、約束だ』
『絶対だよ!絶対楯無の名前を継いだら名前呼んでね!』
『楽しみにしとくよ』
というやり取りになったのである。
回想はここまでにして話を聞かなきゃな。
「カナ嬢・・・失礼、楯無」
「なに?千秋くん・・・じゃなかった、秋二くん」
「なぜ俺をつけてきた」
「えっと・・・」
目を逸らす楯無の頭を掴みぐりんっ、とこちらを向かせる。
やがて、観念したのかひとつ息を吐く。
「・・・怒らないでね?」
「善処する」
「代表候補生すら手玉にとる男性操縦者に興味があって、
情報によれば入学前から専用機を持ってるってあったから・・・」
「気になって後をつけた、と」
「はい・・・。あと、これも返しに・・・」
おそるおそるポケットから取り出して俺に差し出したのは
___「6」のアストロスイッチ、「カメラスイッチ」だった。
「・・・」
「あ、あのね?最初から専用機持ってるって言う男子の武装が知りたいなー、
なんて思ってたら丁度本音ちゃんが同じ部屋だからっていうから・・・」
「話を聞き出し、あわよくば武装もかっぱらって来い、って?」
「うん・・・」
俯く楯無。
しかしそれは予想の範囲内だ。
「・・・え?」
突然乗せられた俺の手に驚いたのかキョトン、とする楯無。
「そんな気はしていた。だから気にすることはない」
「で、でも・・・」
「それに俺の手にきちんと戻ってきたしな」
「秋二くん・・・」
実際問題この学園に裏の奴の気配がいくつかあったからそのうち誰かが来ると思っていた。
そして事前情報でこの学園の生徒会長が楯無だということも知っていた。
つまり、俺は誰かが俺の専用機か武装を盗りに、もしくは話を聞き出しに来ると思っていた。
しかし、布仏はおそらくそのせいで朝から傷ついている。
なのでここで俺が取る行動はひとつ。
「でもな」
「?」
そこで手の力を強めて楯無の頭を握る。
「だからって他の誰か、俺の気に入ってる布仏を傷つけていい理由にはならない」
「いたたたたたっ!!いたい!いたい!ごめんなさい!許して!」
涙目になって俺の手を剥がそうと掴んでくる。
「じゃ、あと10秒」
「~~~ッ!」
両手で必死に×字をつくる楯無。
しかしそこでやめては罰の意味がないのだ。
そして10秒耐え切った楯無は頭を抑えながらこちらを涙目で睨みつける。
お、かわいい。とゆーか今回は完全にお前が悪いかんな。
そして楯無をやさしく撫でる。
「これに反省して次からは気をつけるように」
「・・・はい」
最後に2、3度ポンポン、と軽く叩き再び歩みを進める。
「そうそう」
「?」
立ち止まり、上半身を後ろに向かせる。
「俺のことは「シュウ」でいいぞ」
「シュウくん?」
「おお。あと、これはフォーゼの機体データをまとめたやつな」
「いいの?結構重要なんじゃ・・・」
「『データくらい見られたって私やちーちゃんやあっくんくらい凄い奴なんていないからおっけー!』だとよ」
「ふふっ。じゃあ、またねシュウくん!」
満面の笑みで大きく手を振ってくる楯無にひらひら振り返しながら歩く。
さて、布仏は部屋に居ると良いが・・・
~★~
結論から言えば、布仏は居た。
居はしたが、別室にこもったきり出て来ない。
ちなみに別室は俺が勝手に作った俺の私物や、アストロスイッチなんかを置いてある。
(いちおう姉貴に許可を取ったし、楯無に渡した資料にも書いといたから大丈夫だろ)
話がそれたが布仏はいつになっても出てこない。
部屋に気配はするし、起きている気配もするので寝てはいない。
仕方ない、このままでいいか。
「布仏」
「・・・」
返事が返ってこないが気配が少し変わったので聞こえてはいる。
「さっき楯無にカメラスイッチ返してもらってきたぞ」
「・・・!」
さっきよりも気配の揺れが大きいので同様が感じ取れた。
「ったく、あの馬鹿。人のスイッチ盗りやがって」
「・・・怒ら、ないの?」
か細く、弱々しいが布仏の声だ。
「もう楯無は怒ってきた」
「そうじゃ、なくて。わたし、は?」
「なんで布仏に怒らなきゃならん」
「だって!私があっきーのスイッチを盗ってったんだよ?」
「知ってる」
「だったら・・・」
再び黙り込んだ布仏。
対して俺はポケットからリモコンスイッチを取り出し、ボタンを押す。
ガシャッ、と音をたて扉が開く。
こちらを向いていた布仏は驚いている。
ゆっくりと歩いていく。
「それは、「楯無」の望みであって「布仏」の望みではなかっただろう?
ならお前に怒りをぶつけるのはお門違いだ」
「で、でも私が自分でやったことかも知れないんだよ?」
「いや、おまえはそんなことは考えない」
「・・・どうして?」
「何日も昼夜問わずほぼ一緒にいれば少しはお前のことも分かるさ。
お前はのほほんとしながらもオン、オフの区別をしっかりつけている。
なにより・・・」
「・・・なにより?」
暗い顔をしている布仏に微笑む。
「お前は軽いいたずらはすれど、人が嫌がるいたずらは絶対にしない。そうだろう?」
「っ!」
「だからこそ俺はお前を信じた。誰かに言われてやったんじゃないかってな」
大きく目を見開く布仏。
その目から雫が流れ落ちる。
そして少しづつこちらへ近づいてくる。
こちらから歩みより、その華奢な体を抱きとめる。
「わぁぁ~~ん!怖かったよ~!あっきーに嫌われるんじゃないかって思った~!」
「よしよし、俺はお前のことは嫌わないからな」
「ふぇぇ~~ん!ほんとに~?ほんとに嫌わない~?」
「当たり前だろう。俺はお前を気に入ってるからな」
「気に、入ってる?」
少し泣き止んだ布仏が不安そうに見上げてくる。
俺は笑みを浮かべる。
「ああ。暗部に生きてるからには親しい者を騙す事もある。
それでも、裏切りたくない、という優しさを気に入った。
だからもう泣くな、
「っ!ふぇぇ~~ん!」
再び泣き出してしまった布仏、否、本音を泣き止ませるのに小一時間かかった。
~★~
「ったく、泣きすぎだ。本音」
「う~、ごめんあっきー」
俺の服は丁度本音の顔の高さ辺りが大雨の中を走ったかのようにずぶ濡れになっていた。
そーいえば、と本音が声を上げる。
「どした?」
「あっきーってたっちゃん会長のこと知ってたのー?」
「ああ」
先ほどの話を本音にする。
「えー!?あっきーが千秋だったの!?」
「あ、ああ」
すごいオーバーリアクションに感じるが・・・
つーか、
「俺、一応本音とも虚とも会ってるぞ?」
「え!?」
覚えてねーのかよ!、ってか俺がガチ変装してたのが悪いか。
サングラス、帽子、襟が超長くて立ってる服という怪しさ満点の格好だったし。
「千秋ってそんな有名か?」
「うんー。小学生ながら1人で100人の魔の手からたっちゃんとかんちゃんを守ったって」
「・・・事実だけどさ」
「さっすがーあっきーかっくいいー!」
にまにました顔をして肘で小突いてくる。
「うるせーやい。っつーか本音、飯食った?」
「ううんー。まだー」
「だろうな、好きなもん作ってやるよ。なにがいい?」
「じゃあー、あんかけチャーハン!」
「あいよー」
キッチンに向かおうとすると、本音が一際大きな声で一言。
「あとー、ケーキ!」
「へーへー」
さて、久しぶりに真面目に作ってみるか。
~★~
「おいしいー!」
「そりゃどーも」
かにあんかけチャーハンを作った。割と手軽に出来るし美味いのが特徴だ。
好評のようだし、よかったよかった。
デザートのケーキはフルーツをふんだんに使った。
ちょっとタルトっぽい見た目になったが本音が喜んでいるから良いだろう。
「あっきーってさー」
「ん?」
ケーキを頬張りながら喋るので口からこぼれそうになったのを取って食べる。
「威圧的に見えるけどそうでもないんだねー」
「・・・よく言われる」
「やっぱりー?」
「ああ。別に気にしてるわけじゃないけどな」
「ふーん。ごちそうさまー、おいしかったよー」
「おそまつさま。そうだ、本音」
「んー?」
差し出した俺の手を見て首をかしげる本音。
ずい、と前に差し出すと理解したようで俺の手を握る本音。
握手。と共に互いの拳を数回打ち合わせる。
「なーに、これー?」
「友情のシルシってヤツだ。俺が気に入った証拠っつーか、まぁ気に入った奴とやる一種の儀式ってヤツかな」
「わたしがーあっきーのお気に入りかー。えへへー」
満面の笑みを浮かべる本音。撫で付けると、より一層笑顔になる。
「んじゃ寝るか」
「うん!隣良いー?」
「今更聞くか?別に良い、ほら」
自分の布団に横になり布団の一部をめくり手招きをする。
「しつれーしまーす」
「どーぞ」
布団にもぐりこんだ本音は俺に引っ付いてきた。
「おい、本音」
「ダメー?」
かわいらしく首をかしげる本音。
ったく。そんなことされたら断る気をなくすだろ。
「好きにしろ」
「うん!」
こうして今日はくっ付いて寝ることになった。