さて、クラス対抗戦を来週に控えた日曜日。
俺は校門の前にバイクをを停め、寄りかかって人を待っている。
ここにいるのには理由がある。
それは鈴が転校して来た次の日のことだ。
俺の元にフードロイドたちが戻ってくる。
その後ろからはご立腹の生徒会長殿が歩いてくる。
「よ、楯無」
「よ、楯無、じゃない!なんで私が襲撃されなきゃならないのよ!」
「自分の胸に手を当ててよーく考えろ」
「うっ!・・・で、でもこれはやりすぎよ!」
完全に自業自得だが、鈴と同じ部屋になれたのは少し嬉しかったのでまあいいだろ。
「で?何をして欲しい?」
「!え・・・っと・・・そのぅ・・・」
「んー?」
「こ、今度一緒に買物に行きましょう!」
「いいぞ」
「そ、そうよね、行ってくれないわよね、冗談冗談・・・って、え?」
キョトンとして固まる楯無。
デジャヴ。
「い、いいの?」
「良いっつってんだろ?大抵の頼みなら聞いてやるって」
「やったっ!」
そもそも俺が楯無の頼みを断るわけないだろ。
と、こんな感じで買い物という名のデートに行くことになった。
ちなみに部屋では楽しくやらせていただいている。
朝飯か、弁当のどちらかを当番制で作ることになっている。
本音の飯も地味に美味かった。若干甘めなのがまた良いんだよな。
でもまだ鈴の酢豚を食えてないんだよな。
あいつ代表になっちまったから忙しいみたいだし。
と、学園の方から歩いてくる人の気配。
気付かないフリでもしておこう。
後ろからの唐突な抱きつき。目も隠される。
背中にも当たっているが気にしないで置こう。
「だ~れだ?」
猫なで声で聞いてくる少女。
さてまあ分かってはいるがそのまま当てたらつまらんな。
「んあ?んー、この猫のような声は楯無かなぁ?」
「せーいかい!」
そういうと楯無は目隠しを外し、俺の肩から顔を覗かせる。
「待った?」
「いんや、待ってない。で?本日はどちらまで?」
「そうね・・・レゾナンスまで連れて行きなさい!」
「かしこまりました」
擬似的に執事の真似事をする。
そんな楯無は俺から離れると俺の前に立ち、一回転。
「どう?」
「似合ってるぞ。やっぱ水色が映えるな」
「ありがと!」
少し頬を染めた楯無は嬉しそうに笑うと後ろに乗る。
水色の薄手のパーカーとスカートといういかにも楯無らしい格好だ。
ちなみに俺の格好は黒いスカジャンにジーパンで動きやすいものだ。
ヘルメットを渡し、エンジンをかける。
「んじゃ行くぞ。しっかり掴まれよ」
「うん!」
腰に手を回す楯無。
・・・うん、分かってはいたけどこんな密着するとなんか・・・うん。
まあいいや。楽しんでいくぜ!
「デートしゅっぱーつ!」
「~~!おーっ!」
~★~
さて、レゾナンス到着。
バイクは停め、歩き出す。
「ねぇ、シュウくん」
「あん?」
「いまだけでいいから、刀奈って呼んでくれる?」
腕を絡ませながら上目遣いで聞いてくる楯無。
ったく、さっきも言ったろ。
「いいぞ」
「ホント?」
「お前がそうしたいなら、な」
首をコクコクと動かす楯無。
小動物みたいでかわいかったので頭を撫でる。
「じゃ行こうぜ、刀奈」
「!うんっ!」
さっきよりも密着度が上がった。
変わりに周りの視線が生温くなった。
ま、気にしないんですけどねー。
ところ変わって洋服屋。
現在刀奈の服を選んでいるんだが・・・
「どう?」
「いいじゃん」
「どう?」
「似合ってるぞ」
「どう?」
「可愛いじゃん」
決まらないのである。
刀奈はどんな服でも大抵は着こなせちゃうから試着の意味がないんですよー。
「もー、さっきから真面目に見てる?」
「見てるっての。事実どれでも似合うんだからしゃーねーだろ」
「~~!じゃ、じゃあどれが良いかな?」
「んー?」
んなもん決まってんだろ。
「全部」
「へ?」
またもキョトンと固まる刀奈。
デ・ジャ・ヴ。
「あ、ちょっといいすか?これください」
「はい、かしこまりました」
近場にいた店員にさっきから試着していた服を手渡すとレジに進む。
と、刀奈が俺の肩を叩いてきた。
「ちょっと!?シュウくんなにやってるの!?」
「あー金ならあるから心配すんな」
「そーじゃなくて!」
「ったく・・・」
どことなく怒っているお嬢さんの頭に手を乗せる。
「金は使うもんなんだよ。特にお前みたいなお気に入りにな」
「~!もう!・・・ありがと」
「気にすんなー」
と、店員が微笑みを浮かべながら服を差し出してきた。
「ふふっ、仲良しカップルですね」
「あ、そう見えます?ありがとさん」
「いえいえ、ありがとうございました!」
にこやかな笑顔を浮かべてきた店員に感謝しながら刀奈を引っ張る。
刀奈はしばらくフリーズすると、顔を真っ赤にした。
「なに恥ずかしがってんだよ」
「~~!だ、だって・・・」
真っ赤な顔をした刀奈は俺の胸に顔を押し付けてきた。
頭を軽く撫でてやると落ち着いたのか離れた。
「ああ、恥ずかしかった!」
「ククッ、んじゃ行くぞ」
「え?ど、どこ行くの?」
口に弧を描き言った。
「腹、減ったろ?飯にしようぜ」
~★~
さて、飯のために刀奈を連れ、レゾナンスを出たすぐの小道に入る。
その店には長蛇の列。
が、俺は気にせずに店内に入る。
「ちょ、ちょっとシュウくん!」
「いいから、ついて来い」
看板には「宇宙喫茶」と達筆な字で書いてあった。
店内に入り、声をかける。
「どもっす」
「おう!いらっしゃい・・・ってえぇーっ!」
声をかけた相手は俺の顔を見るなり絶叫した。
「しゅ、秋二!なんでここに・・・」
「休みですから遊びにだって来ますよ。学生だもの」
「あ、そりゃそうか」
「あのー・・・」
「おう!初めましてか?俺は如月弦太郎!この世界全員と友達になる男だ!」
胸を2回叩いて自己紹介をした弦さん。
この人は俺の友人であり、恩人だ。
姉貴の中学時代の友人で、姉貴と束と弦さんと8人で「宇宙研究部」を設立していた。
ま、昔俺が塞ぎこんでたときに励ましてくれた人の1人だ。
「と、そうだ。流星!賢吾!ユウキ!」
「なんだ、弦太郎・・・ん?秋二か!」
「おお、秋二久しぶりだな」
「秋二くん久しぶりー!」
厨房から出てきたのは流さん、賢さん、ユウさん。
この人たちこそ、宇宙研究部の部員。
流さんは厨房。賢さんは土日限定の厨房。ユウさんは土日限定の接客。
定休日は水曜で、平日は日替わりで接客が1人。
毎日弦さんが接客で、流さんが厨房。
喫茶店とは思えないほど凝らされた料理と、
店員全員が美男美女で、価格もリーズナブル。非の打ち所がない店で毎日行列が出来るほどだ。
が、俺は話が違う。
「じゃ、行くぜ秋二!」
「うぃっす。ほれ、か・・・楯無、行くぞ」
「う、うん」
いちおう楯無と呼んでおく。
弦さんに連れられて店の奥に進む。
そこにあった扉を開くと、中は宇宙空間のようなインテリアがたくさんおいてある。
「ここは・・・?」
「ここは「ラビットハッチ」秋二や千冬なんかのダチだけ専用の部屋だぜ!」
「弦さんがわざわざ作ってくれたんだよ。ちなみに束がISの構想を練っていたのもここさ」
「へぇ~。すごいところなのね」
刀奈は部屋の中を見渡し感嘆の声を上げている。
と、流さんが俺の肩を叩く。
「秋二。俺たちは自己紹介だけして店に戻る」
「あいっす。楯無、自己紹介!」
「うん。IS学園生徒会長、更識楯無です。よろしくお願いします」
「朔田流星。この喫茶の料理全般を受け持っている。秋二の彼女・・・ああ、お気に入りだったか?
こいつをよろしく頼む。ゆっくりしていけ」
「歌星賢吾だ。この店では土日に厨房にいる。平日は近くの会社で研究をしている。
ISのことなら束までとは言わないが詳しいつもりだ。何かあったら来てくれ」
「城島ユウキです!ここでは土日に接客をしてるよ。秋二くんとだけじゃなく私とも仲良くしてね!
平日は賢吾くんたちと研究してるからね!」
そういうと流さんたちは店の中に戻っていく。
真ん中にあるテーブルに座り、刀奈を引き寄せる。
「え、あ、ちょっと!」
「いーからいーから」
「へへっ。青春、してるじゃねーか秋二!」
「これも弦さんのおかげっすよ」
弦さんは茶化しながらメニューを取り出す。
俺は特に見ることもなく。
「おススメで」
「秋二ならそういうと思ってたよ。ちょっと待っててくれよ!」
「うぃーす」
走っていく弦さんを見送ると刀奈はこちらを小突く。
「ねぇ、シュウくん。ここ、ものすごい有名な店だよね!」
「あーそうらしいな」
「ISの製作、研究機関の精鋭8人が経営する店で評判だよ!知り合いだったの?」
「ん。姉貴が学生のころから知り合いでな。仲良くさせてもらってる」
「へぇー!すごいねぇ!」
「んー。ってか弦さんたちは暗部のことも知ってっから刀奈でも良いんじゃね?」
「ううん。シュウくんにだけ呼んで欲しいからいい!」
「そーですかー」
上目遣いでそう言った刀奈の頭を撫で付けた。
と、弦さんがワゴンに料理を乗せ、来た。
「っしゃ!今日のおススメ、「ロケットチャーハン」だ!」
「よっしゃ!あざっす!」
運ばれてきたのはフォーゼを模ったチャーハン。
これはある意味、裏メニュー。
基本的には俺や姉貴なんかの知り合いにしかださない。
刀奈と手を合わせ、合掌。
「「いただきます」」
「おう!」
一口とって、口に含む。
絶妙なパラパラ具合に、しっかりと味付けされた具材の数々。
これこそ俺の求める最高のチャーハンだ!
「美味い!」「美味しい!」
ほぼ同時に叫んだのは刀奈。
顔を見合わせると、どうにも可笑しくなり笑い出す。
合わせるかのように弦さんも笑い出す。
「ハハハッ!仲良いなお前ら!」
「そりゃま、ね」
「~!はい、ありがとうございます・・・」
照れた刀奈を見てまた笑い出す。
と、そんなことをしながら飯を食っているとすぐに無くなった。
食後のコーヒーを飲みながら談笑中。
俺の過去の話が多い。
「んでな、そのとき秋二が「姉貴は俺が守る!」っつってな。千冬1人で倒せた相手をわざわざ秋二が倒したんだよな」
「へぇ~!やっぱシュウくんは昔から変わらないのね。シスコンのところとか!」
「・・・うるせーやい」
「ハハッ!確かに昔から秋二はシスコンだったからな!」
「弦さんまで・・・」
酷いなこの人たち。
っと、時間がやばいな。
「楯無。時間、もうほとんどないぞ」
「え?・・・あっ、ホント!まだ行きたいとこあったのに~」
「ハハッ!忙しい奴らだな。代金はまけとくよ。ワンコインでいいぜ!」
「ども、じゃお代です」
財布から500円玉を取り出し机に置く。
「如月さん。ありがとうございました!またシュウくんのお話聞かせてください!」
「おう!いつでも来い!楯無のダチも連れて来ていいからな!」
なんかまた来る約束してるし。
刀奈を連れてラビットハッチを出る。
きちんと流さんたちにも挨拶を忘れない。
「「ごちそうさまでした!」」
店の外に停めて置いたバイクに乗る。
「刀奈、時間的に行けるのはあと1軒だぞ」
「私はもういいんだけど、シュウくんはどこか行きたいとこある?」
「あん?・・・っし、決めた。行くぜ」
「おーっ!」
~★~
バイクを走らせ、着いたのはアクセサリーの店。
店内に入れば人当たりのよさそうな店員の声を聞く。
「何買うの?」
「んあ?いや、なんか良いのあっかなーと思った」
「なにそれ?」
ジト目の刀奈を放ってチェーンのコーナーで品定めをしていると刀奈が固まった。
近づいてみると、穴を開けないタイプのピアスを見ていた。
目線を追えば、それは水色の星型で稲妻が真ん中に走っている。
「それ、欲しいのか?」
「え?あ、うん。でもちょっと高いかなぁ・・・」
たしかに稲妻のど真ん中に宝石が埋め込まれているので値段が高めだ。
まあ俺には関係ないけどね。
「すいません。これ、見せてもらえます?」
「はい!いいですよ!」
店員に頼み、出してもらう。
それを手に取り、
「刀奈、動くなよ」
「う、うん」
左側の髪をかきあげ耳を出させる。
そのまま付け、髪をもとに戻す。
くせっ毛のおかげで少し見えている耳に輝くピアスは本人の可愛さも相まって似合っていた。
「ん、いいじゃん。これ、もらいますね」
「あ、ありがと。って待ってシュウくん!」
「あん?」
待ってっつってももう会計は終わったよ?
別によくね?
「お客様。右耳用はどうしますか?」
ああ、そーいや右も付けなきゃな。
と思っていたら刀奈が取って俺の右髪をかきあげてきた。
「ほ、ほら、ちょっとしゃがんで!」
「あいあい」
言われるように腰を折り、刀奈の高さに合わせると右耳にピアスを付けられた。
「うん!シュウくんも似合ってるよ!」
「サンキュ。ってかこれ、片方ずつでいいのか?」
刀奈は顔を紅く染めながら、
「そのほうが一緒って感じ、するでしょ?」
と言ってきた。
ったく、そういう事言われたらそうせざるを得ないだろ?
「あいあい。りょ-かい!」
ちなみに、店員が生暖かい視線を送ってきたのは気付かなかったことにしておく。
~★~
帰宅中。
バイクを走らせていると刀奈がメットを軽く叩くので、意識を向ける。
「どった、刀奈?」
「今日はありがと!」
「気にすんな」
「それと、そのピアス、出来ればずっと付けててね!」
少し恥ずかしそうな刀奈に軽く微笑みつつ答える。
「りょーかい」
この日、俺はピアスを外さないことを誓った。
~★~
ふふっ、今日は楽しかった。
まさかほんとにシュウくんとデートできるとは思ってなかった。
しかもおそろいのピアスまで買ってもらっちゃったし。
「んじゃな、刀奈」
「あ、うん。バイバイ」
右手を軽く上げて去っていくシュウくん。
あれ?なんか落としたんじゃない?
シュウくんの右ポケットから落ちた黒い影を見る。
それはフォーゼの武装、アストロスイッチだった。
番号は書いてないし、真っ黒だけど形がそれだった。
シュウくんはもう行っちゃったみたいだし。
取り合えず預かっとこうかな。