「本当に、これが・・・この船が私?」
目の前の空母を見上げて、飛龍はポツリと漏らした。
ありえない、と自分でも思う。しかし、それならば目の前のこの船から感じる懐かしさは何なのだろう。答えの見えない問いかけが頭の中でグルグルと回った。
「こんな船、初めて見たけど・・・」
(でも、どこかで・・・・・・)
無意識に飛龍は『飛龍』の焼け焦げた飛行甲板に手を触れた。
その直後、飛龍は猛烈な頭痛を感じた。立っていることもままならず、そのまま海底に倒れこむ。
「うぅ・・・・・・痛ぁ・・・」
横になっても、頭痛は収まるどころか、いっそう激しさを増していった。徐々に飛龍は意識が朦朧としてくるのを感じた。
「なんで・・・こん・・・な時・・・・・・・・・」
最後まで言い切る前に、彼女の意識は再び深く落ちていった。
(・・・波の音?)
聞きなれた海の音で飛龍は目を覚ました。
「ここは・・・飛行甲板の上?・・・でもあの時私は海底で意識を・・・」
直前の記憶を思い出しながら体を起こし、周囲を見回す。
潮の香りを含んだ夜風が心地いい。夜空には数多の星々が溢れ、満月を少し過ぎたくらいだろうか、大きな月が煌々と黒く、のっぺりとした海を照らしている。
その一方で、飛行甲板といえば、あちこち焼け焦げている場所もあれば、今だに炎が激しく揺れているところもあった。
「この船・・・やっぱり・・・」
全身に涼しい夜風を受けながら、飛龍はゆっくりと飛行甲板を歩き始めた。
ところどころに空いた大穴を覗いて確信した。
「やっぱりあの沈んでた空母だ・・・」
そう呟くと、なぜか自分の胸にズキズキと痛みが走る気がした。ただ単に『沈んだ』という単語に反応しているだけかもしれない。が、
「やっぱりこの船は私と繋がっているんだ・・・」
飛龍にはそう思えた。いったいこの船は何なのか。それは飛龍自身にもわからない。別世界での私なのか、それともこの船こそが本来の私の姿なのか。そんなおよそありえない予測が頭の中を飛び交った。
「・・・って何考えているんだろ。」
自分の馬鹿げた思考に苦笑して、飛龍は飛行甲板に大の字で仰向けに寝っ転がった。
「それにしても・・・きれいな月だなぁ・・・・・・」
不意に、夜空に浮かぶ月が滲んだ。
「あれ・・・私、どうして・・・こんな・・・泣くところじゃ・・・ないのに・・・」
いくら拭っても、後から後から涙が溢れた。涙を止めようと目を閉じると、瞼の裏に空母の三人の顔が映った。
「・・・・・赤城さん・・・・・・加賀さん・・・それに・・・・・・蒼龍姉・・・」
悔しさ、淋しさ、虚しさ。いままで抑えていた感情が一気に爆発し、溢れ、嗚咽とともにこぼれていく。
「どうしたんだい? そんなに涙を流して・・・」
突然、見知らぬ声が頭上から降った。優しそうな男の声だった。
「・・・どうして・・・どうしてこんなに・・・涙が溢れるのか・・・わた・・・私には分からないんです・・・・・・」
嗚咽に交じって震える声でそう答えた飛龍を、男は唐突に抱きしめた。
「泣いていい・・・・・・今は思い切り、気の済むまで泣けばいい・・・・・・よく頑張った、本当によく頑張ってくれた・・・感謝するよ、飛龍・・・・・・」
その言葉に、飛龍の目から、いっそう激しく涙が溢れた。
「・・・・・・・・・」
男は何も言わず、やがて飛龍が泣き疲れて眠るまで、優しく彼女の背中をさすり続けていた。
今回、書くにあたって、動画やwikiで調べたりしました。ついでに結構感動しました。何にって?史実の飛龍とその乗り組み員に。
そんなこともあって、今回は「艦娘と史実の調和」的なものを目的として書きましたが、どうだったでしょうか。まぁ、かなり中途半端な終わり方のような気もしますが。
たぶん、その手に詳しい人なら、今回登場した男が誰なのか、ある程度予測はつくんじゃないでしょうか。
それではまた次回に。