近くから話し声が聞こえる。
「ん・・・誰?」
どこか懐かしい声に飛龍はゆっくりと起き上った。すぐ横で士官服を着た男が二人、夜空を煌々と照らす月を眺めて、酒を酌み交わして語り合っている。
「あ、起きたかい?」
二人のうち一人が飛龍に声をかけた。
「あ、はい。たった今起きました・・・・・・」
「それは良かった。ちょうど君の話をしていたんだ。よかったら、どうかね?」
男は笑いながら、飛龍に酒瓶を振って見せた。半分ほどに減った酒が瓶の中で一度、ポチャンと物寂し気な音をたてた。
「えっと・・・・・・私の話、ですか?」
「あぁ。飛龍、君の話だ」
男の言葉に飛龍は困惑した。なぜこの男は自分の名前を知っているのか。そもそもここは何処なのか。そして、二人は誰なのか。たくさんの疑問が頭の中を回った。男はそんな飛龍の心情を見透かしたように、笑った。
「困惑するのも無理はない。私だって、君の立場なら困惑するだろう。ま、順に説明するから、とりあえず、こっちへ来るといい」
「はあ・・・それじゃあ遠慮なく・・・」
男に言われるまま、飛龍は二人の前に腰を下ろした。
(やっぱりこの人たち、どこかで・・・・・・)
先程の話し声が無性に懐かしかったのも然り、飛龍は確かに二人をどこかで見たことがあるような気がした。だが、もう少し、というところで靄のようなものがかかっていて思い出せなかった。
「そういえば飛龍、君はお酒は大丈夫かな?」
もう一人の男が訪ねた。
「あ、はい、なんとか」
「それは良かった」
男は軽く笑って飛龍に御猪口を渡すと、酒を注いだ。
「あの・・・それで・・・・・・」
「あぁ、分かっているとも。私たちが誰なのか、そしてなぜ君の名を知っているのかということだろう?
男は御猪口に注がれた酒を一口飲んでから口を開いた。
「私の名は加来。加来止男海軍大佐だ。そしてこちらが・・・」
「山口。山口多聞海軍中将だ・・・・・・いや、正確には、だった、者とでもいうかな。なぁ、加来君。」
「えぇ、まぁそうでありますな」
「え~っと・・・・・・」
飛龍には、山口中将の最後の言葉が引っかかった。『だった者』とはいったいどういうことなのだろうか。
「そして、なぜ君の名前を知っていたかということだが・・・・・・」
そこまで言って、加来大佐は山口中将に目くばせした。
「どうして知っているのか。それは私たちが以前、といってももう何十年も昔の話になるが・・・・・・君に、『第二航空戦隊正規空母飛龍』に乗艦し、戦闘を行っていたからだ」
「!?」
「もちろん、今の君にじゃあない、まぁある意味では君に乗艦していたという表現は間違ってはいまいが・・・・・・正確には君と私たちが座っているこの空母に乗艦していたんだよ」
「もしかして・・・・・・この船が『飛龍』なんですか?」
「あぁ、その通り。この船も私たちも、そしてあの月も、何一つ変わってはいないのだ。あの日、一九四二年六月六日から」
「・・・・・・」
飛龍は何も言えず、ただただ山口の話にじっと耳を傾けていた。
「一九四二年六月五日、あれはまだ我々が米国と、要は人間同士で戦争をしていた時の話だ。私はこの『飛龍』に二航戦司令官として、加来君は艦長として乗艦し、『赤城』『加賀』『蒼龍』含め、四隻の空母で出撃した。そして、赤城も加賀も蒼龍も米軍機から直撃弾を受けた。我々の乗った飛龍は何とか攻撃を受けずに済んだが、結局、その後、同じように飛行甲板おやられ、雷撃処分されたよ・・・。ほとんどの乗員は退艦させたが、私たちを含め、わずかな士官は残り、この艦と共に沈んだのだよ。」
「その海戦って・・・・・・」
飛龍の頭の中に、MI作戦の様子が鮮明に浮かんだ。
「その通り、君もついさっき体験したはずだ。『MI作戦』という名のミッドウェー海戦を・・・」
今度は山口が加来に目くばせをした。
「そして、この場所は、あの日沈んだ私たちの魂の記憶であり、飛龍、君の魂でもあるのだよ。」
どうも、かなり遅くなりました。お待たせしました。
今回はほんの少し長めになりましたが、いかがだったでしょうか。
途中の史実が話されるあたりとかは、いろいろ調べたのですが、もし間違い等ありましたら、ご指摘お願いします(優しくしてね!)
それでは、また間が空くかもしれませんが、次回をお楽しみに!