「わ、私の魂・・・・・・つまりこの場所は私自身の中ってことですか・・・?」
飛龍はおそるおそる尋ねた。鎮守府の他の皆から、こんなことを体験したという話は聞いたことがなかった。むしろ自分自身が初めての経験者なのだろうか。
「うむ、そういうことだ。ここは正真正銘、君の魂であり、我らの記憶の世界だ。」
「でも、それならなぜ私は今回突然ここで目覚めたんですか・・・? 今までだって戦闘で轟沈しそうになったことは数回あったけど、ここに来たことはなかったのに・・・」
自分でもよくわからい問いかけを、飛龍は二人にぶつけた。
「おそらく、我々の中に眠る昔の記憶と、君が戦場で見た光景が重なり、共鳴したのだろうな。先程話した通り、一九四二年のミッドウェー海戦の状況と、君が戦ったMI作戦は、敵こそ違えど、その内容に大差はなかったはずだ。」
山口は静かに言った。
「やはり・・・・・・そういうことなんですね・・・」
山口からの答えに、飛龍は俯いた。
「どうかしたのかい?」
加来が心配そうな面持で尋ねた。
「やっとわかったんです。あの戦いの直前に赤城さんが言っていたことが。」
飛龍の記憶の中で、移動中に赤城が不安な表情で言った言葉が繰り返し繰り返し、鮮明に再生された。
「『私達は、なにか巨大な運命の渦に囚われているような気がします』と、彼女は言っていました。あれはこういうことだったんですね・・・・・・飛行場姫が再生し続けたのも、赤城さん達が沈んでしまったのも、全部その運命によるもの・・・・・・そして私も・・・」
「いや、それは少し違う。」
山口が飛龍の言葉を遮った。
「え?」
「かのミッドウェー海戦で、私たちは『飛龍』と共に最後の反撃にでた。刺し違えてでも敵空母を撃滅する覚悟で戦った。しかしそれでも、我々だけでは敵空母は沈めることはできなかった・・・・・・。だが、君は違う。飛龍、君は君自身の力で敵を撃破した。それは、その運命とやらに大きな影響を与えたに違いない。」
山口は言葉を切ると、夜空に浮かぶ月を見上げた。
「もう君は、いや君達はそんな運命に負けやしない。君が新たな可能性を開いたのだから。」
甲板を燃やす炎の色を目に映し、山口に代わって加来が言った。
「・・・・・・」
飛龍は何も言えなかった。ただただ理由のわからない悔しさが込み上げ、胸いっぱいに広がった。やがてそれは一筋の水となってその瞳からこぼれ落ち、飛行甲板を濡らし始めた。
「・・・・・・ありがとう。」
飛龍の方に向き直った山口はそれだけ言うと、彼女に背を向け、歩き出した。加来もそれを追い、同じように背を向ける。
「これで・・・これでいいんだ。我々はもう君の前には現れることはないだろう。だが、もう君は過去にも運命にも囚われない。そんな強さを自分で手に入れ、気付いたはずだ。もうここに用はあるまい。これからは・・・・・」
不意に風向きが変わった。先程までの涼しげな夜風など無かったかのように、気を抜けば飛ばされそうな勢いの風が吹き付け、加来の言葉をかき消す。
「待ってください!!!!私は・・・・・・っ!」
突如、風で勢いを増した炎が山口達の後ろ姿を隠した。と、同時に、今まで力強く浮いていたはずの船体が、轟音を立てて飛龍の足元から崩れ始めた。
「うわ・・・・・・っ、落ち・・・」
ガラリと音を立てて、飛龍の身体は崩れ落ちる残骸と共に、真っ暗な海へと落下していく。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ・・・・・」
その叫び声すらかき消し、『飛龍』は凄まじい勢いで崩壊していく。
「あぐぅ・・・・・・っ」
降り注ぐ残骸と共に海面へ叩きつけられた飛龍はそのまま意識を失い、再び深い海の底へとその身を沈めていった。
どうも、前回からまたかなり経ちましたが・・・・・・やっと後編はおしまいです!!!(そして後日譚へ!)
今回、ミッドウェー海戦についてのことを登場させるにあたって、いろいろ(嘘つけ!)調べたんですが、調べながらなんとも言えない気分になってました。みなさんはどうでしょうか。この話を通じて、ほんのすこしでも感動のようなものが伝わってもらえたら幸いです。
それでは次回、新章にはいるかと思いますが、どうか気長にお待ちください!