湯気が上がり中で食欲を誘う香りが漂い、厚切りのチャーシュー、黄金色の黄身を持つ卵、シャキシャキの葱、噛み応えのあるメンマ。
一口のスープを舌でじっくり楽しみながら、喉を通るしつこくない味。
箸で数本の麺を口に運んで啜れば、耳障りのいい音が響き、スープの味が染み込んだ麺が口内で刻まれていく、
「チュルルルル♪」
筈だった。
「美味しい!」
「どうも………」
余ったメンマをかじりながら、向かいに座ってご満悦な様子で本来俺が食べる筈のラーメンをペロリと平らげる女を観察する。
栗色の長い髪を揺らして、紙で口元を拭くフェンサーさん。
「ん。ラーメンなんて久しぶりに食べたけど、良いものね。また作ってね、エイトくん」
あっさりした醤油ラーメンを作ったのは俺。なんというこでしょう、食べたのフェンサーさん。
そもそも、肉を調達しに20層に行ったのが間違いだった。
24層の攻略をバックレたことに対し、鼠から得た情報で待ち伏せしていた鬼の形相をしたフェンサーさんに捕まってしまった。
そこで許してもらう代償にラーメンを食べさせることになってしまったのだ。
「私の家、こういうの食べさせてくれなかったから新鮮ね」
金持ちのお嬢様か。触らぬ神に祟りなし。
下手に反応せん方がいいだろ。
「でね、25層の攻略なんだけど」
「どうしていきなりそうなったの?脈絡なさすぎない?帰らないのかい?ほら、帰りなさい?」
この子、小町と同い年と思えねえわ。主にマウント・フジの辺りとか頭に詰まってる出来の違いとか。
「すぐに返そうとしないでよ………。25層の攻略が近いの。だから、エイトくんに会いに来たんだから」
「いいぞ」
「…………条件は?」
いい勘してるじゃないか。
「……フィールドボス、攻略手伝ってくれんなら」
「フィールドボス?」
「ああ、これの性能をじっくり試したいからな。雑魚じゃいまいちピンとこなくて。かといってソロでフィールドボスに行くにしてはリスキー。フェンサーさんがいたら心強い」
直後、装着した汚れ一つない″アモンの篭手″
「ん、んん。エイトくんが攻略に参加するなら仕方ないわね」
煽てられたのが嬉しかったのか、眉をひそめているものの頬をゆるませている。
「場所は私決めていいかな。丁度やってみたかったダンジョンがあったから」
「特に指定はしねえよ。何層?」
「24層」
現在の開いている一番上の層じゃねえかよ。
「キリト、呼んだ方がいいか?24層じゃキツいんだろうし、フィールドボスも厄介過ぎる」
「うーん。キリトくんには悪いからいいかな。最近忙しいみたいだし、ボス戦に来る頻度も少ないの」
なら、俺も行かなくていいじゃないすか………。キリトに甘くない?
「それに私、エイトくんと一緒に戦ったことあんまりないから、どんな戦い方するのか興味あるな」
「結構戦ってるだろ。エクストラスキル見せただろ」
「一回だけじゃん。それに取り巻き相手してたから余裕なかったし」
「はぁ……。行くなら早く行こうぜ」
椅子から立ち上がり、準備に取りかかる。ナイフを持てるだけ持ち、そこそこ使える槍を装備した。
「はあああっ!」
刺突を目にも止まらぬ速度で動植物モンスターを消滅させていく、彼女のレベルは相当高い。キリトに追い付けるのはフェンサーさんくらいであろう。
「おらよ」
俺もぼちぼち槍スキルで近付く敵を葬っていき、槍スキルの熟練度が上がっていく。
「ちょっと!どうして投剣スキル使わないのよ!」
すると、フェンサーさんはカンカンな様子で抗議する。
「ボス戦までナイフ温存すんだよ。エクストラスキル使うと消費が馬鹿にならねえ。ほれ、着いたぞ」
ボス部屋前に着くと、茨の絵柄で彫られた扉を緊張した顔で力強くゆっくりと押し開く。
フェンサーさんの後に続き、広々した空間の中心には一輪の薔薇が咲き誇っている。
大きさは4mを越え、茎の棘は蜷局を巻いている。
「行くわよ。エイトくん!」
「落ち着けよ」
突っ走ろうとするフェンサーさんの襟を掴んで、引き寄せると上目使いで睨まれるが、気にしない方向で。
「″ローズ・クイーン″だったか?あからさま過ぎるだろ。近寄んないで先手必勝」
ホルダーから一直線にナイフが飛んでいくと、花と茎の間に当たり、眠りから覚めたように″ローズ・クイーン″が動き出す。
その際、鞭のような幾本の触手で周囲を振り回している。フェンサーさんがあのまま進んでいたら、あれの餌食になっていた。
「………ありがと」
ぼそりと一言。俺の耳には届いていた。
「来るぞ」
真紅の花弁が此方に俺達の方角を見ると、脳内で警鐘が鳴り響き、背筋が凍る。
花弁の中心には黄ばんだ歯と生々しい赤い唇が大口を開けている。
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!!」
「B級ホラーかよ………」
女王とは思えない品のない笑い声がこの空間に響かせ、隣のフェンサーさんは青ざめた顔で震えている。
「フェンサーさん?まさか…………」
「わたし……こういうの………だめ……」
「…………………」
冗談だろ?
「いやいや生死に関わるんですよ。言ってる場合ですか?可愛さアピールしなくていいから」
「……し、してないわよぉ…………!」
本格的に泣き出したフェンサーさん。
今回は役立たず決定である。
「もったいねえけど転移結晶使うか………無理っぽいわ」
「うぇええそんなー!」
泣きながら俺にしがみつくフェンサーさんの姿は妹の幼い頃を連想させられてしまい、内心溜め息を尽きながら額にデコピンをくらわす。
妹には頭を撫でていたが、妹じゃないから無理。
「あうっ!」
落ち着きを少し取り戻した隙を見逃さず、泣き出した妹と話すように膝を折る。
「アスナ。泣かなくていい」
「ふぇ?」
「俺がやっとくから、見とけ」
「………うん」
額を両手で抑える彼女はうずくまって涙目で俺を見つめる。やめろ。男は勘違いしちゃうんだ。
気を取り直して″ローズ・クイーン″に向き直り、棘付きの触手をうねらせながら相対する。
まず攻撃はせずに″ローズ・クイーン″の周りを駆け出すと、伸びてくる触手が通り過ぎた道を叩きつける。
しかも、まだ本数はあるから足を止められない。手数が多いから、シールド持ってる奴が有利だな。
攻撃してきた触手と根を張る茎にナイフを投げてみるが、HPが減る気配はない。
となりゃ、花の部分。
「斬華スキル【睡蓮】」
何十本ものナイフ収束された一本のナイフを素直に、花弁に投げると炸裂する前に触手が側面を弾き、明後日の方向に放たれるナイフ。
舌打ちをして、もう一度【睡蓮】を放つが結果は同じ。
「斬華スキル【朝顔】」
曲線を描きながら防御に入った触手をすり抜け、花弁にヒットしてHPが僅かに削られた。
持久戦……。
相性はいいと言えないが、勝てなくはないし観察し続ければいけなくはない。
決意を決め、走るだけでなく、反対側に咄嗟に半身で躱し、横に振られた触手は上体を逸らして回避と【朝顔】を同時に行う。
最小限の回避行動では手数の多い″ローズ・クイーン″の攻撃を受けてしまう。
「っと」
故に大袈裟に避けることもある。
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!!」
こえぇわ………。フェンサーさん怯えきってるよ。
行くか………。
一定のラインを越えぬよう回避してきたが、槍を握ってラインの先を踏み込んで走り出す。
当然、近ければ近いほど攻撃速度は増している。しかし、先程までのモーションから次の動きを予測すれば当たらない。
時間を与えすぎたな。
触手が同時に当てきた瞬間、攻撃に合わせて跳躍し、触手を足場に槍スキルを発動。
「【五連撃】」
ナイフに比べて大幅にダメージを与える。
刹那、″ローズ・クイーン″の口から野球ボール程の球体が吐き出され、直撃してしまう。
ここにきて初のダメージ。
5つの球体の正体は薔薇の種。大きな種が地面に根付くと真紅の花弁を咲かす″リトル・ローズ・クイーン″が生まれる。
近寄ったらああなるのか、なるほど。
「ケラケラケラケラ!」
″ローズ・クイーン″を小さくしただけ存在。それでも6対1はキツいな。
先に雑魚を倒すのは基本。
「斬華スキル【睡蓮】」
一体の″リトル・ローズ″に投げたナイフは【睡蓮】に直撃して、半分以上も削られたHP。
が、その時、意識をそらしていた″ローズ・クイーン″からの攻撃が俺を捉える。
「チッ……」
流れに合わせて受け身をとり、冷えた頭で薔薇達を観察する。
パーティーで接近戦のが楽という認識は改めた方がいいな、こりゃ。
アイテムから回復道具を使用し、HPを満タンにする。
フェンサーさんが動ければと考えるがすぐにやめた。
「人に縋らないのが俺だ」
俺らしくもない。
斬華スキル、
「【桜吹雪】」
ナイフを″ローズ・クイーン″の頭上に放つと、ナイフの残弾は0と化し、フェンサーさんのいる壁際に移動する。
「エエエエエエエイトくん!にゃにを!?」
フェンサーさんの動揺。
「後で説明する」
原因は俺がフェンサーさんを覆い被さるように抱き締めているからだ。無論、やるからには相応の理由があるからで、こんなもんリア充にやらせればいい。
飛んでいた切っ先が上向きから、重力に従って下を向いた瞬間に彼女を抱き締める力を強める。
一本の銀に輝くナイフから【睡蓮】と同様に散りばめられていく同じ型のナイフ。
が、【睡蓮】を上回る切れ味を持つ弾丸が雨のように降り注ぐ。ナイフからナイフが飛散し、飛散されたナイフから更に飛散のエンドレス。
強力な全体攻撃。
フレシェット弾を思い浮かべてくれたらいい。
″フクロウズ″戦では飛んでいた故、あまり大したダメージにはならないと踏んだからだ。
【桜吹雪】には弱点が大きく分類すると3つ存在する。
一つ目が範囲が広すぎて自分にも被害が及んでしまう点。
「グッ………!」
ゴリゴリ削られていくHP。フェンサーさんを抱き締めたのは俺がオレンジプレイヤーにならない為。
ようは敵味方の無差別攻撃。
二つ目が全てのナイフを使い切ってしまうという点である。よっぽどじゃない限り使おうとは思わない。
三つ目は真上に投げなければならない。
使いどころに悩むスキルである。
斬雨が止むと取り巻きの″リトル・ローズ″は消え失せ、触手では防ぎきれなかった″ローズ・クイーン″のHPバーは最後の一本を表示。
俺も減ってはいるが、″ローズ・クイーン″は面積が広い分、余計にダメージを受けたに違いない。
「ポーションも切れたか…………」
フェンサーさんから距離を置いてアイテム欄をいじるが、ナイフを受けながらもポーションを摂取していたので空欄と化す。
やれやれ。
なけなしのHPが生命線。
慎重に、臆病に、逃げ腰に、一定のリズムで槍を片手に空を切る茨の触手を回避しながら高く跳躍。
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!!」
「【五連撃】」
真上からの連続刺突。
なにがおかしいのか。命尽きるまで滑稽に笑い続けていた″ローズ・クイーン″はエフェクトとして砕け散る。
やはりボスとのサシは自殺と同義である。
文章が雑になってすいません。
続けると長くなってしまうので、切らせていただきました。
それとクラインのステータス割り振りやスキル知っていたら、教えていただけたら嬉しいです。
クラインのストーリーもやるかもしれません。