孤独のプレイヤー   作:ベリアル

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前兆

「いつもの」

 

「あんたはおっさんか……。はい、”メラン”ね」

 

真夜中に関わらず、お祭りのように人が賑わう広場でそばかすのある少女から真っ黒い投擲ナイフを百本単位で受け取る。広げられた布の上には、上等な武器が並べられているようで、出会ったときに比べたら客足が増えている。彼女1人ならば、ここまで揃えることは不可能であるが、俺との契約でここまでにすることが出来た。

 

契約とはもちろん、俺の武器に関すること。なにぶん消費が激しいし、金も馬鹿にならない。故に、彼女の求める素材を集める代わりに、俺のナイフを制作してくれるわけである。しかし、この女人使いが荒いこと荒いこと。元気に下請けの社畜に励んでいるわけであります。

 

「悪いわね、いつも」

 

「そう思うなら、もっと腕磨いてくれ」

 

リズベットの後ろで胡座を掻いて、文句一つを吐き出す。あれから月日も経ち、アインクラッドの攻略も予想を上回る早さで進んでいく。その間、俺のレベルも上がり、武器と防具も相応のモノにしなくてはならない。

 

「うるさいわね。明日、必要な材料取りに行かなきゃなんだから手伝ってよね」

 

唐突に言われた約束にもない話を予定に組み込まれてしまう。拒否してもよかったが、装備のリスクも考えれば安いものだ。

 

「お前のお守りでいいんだよな?」

 

「鼻に突く言い方しか出来ないのか、あんたは………」

否定はしなかった。油断するつもりはないが、彼女も自分の身は自分で守れる。そこまで危険な場所ではないだろう。

 

「そう思っていた時期が俺にもありました」

 

山岳地帯の層にて、後ろを歩く桃色の髪をした女に聞こえないように、ぼそりと刃牙の名言をぼやく。手持ち無沙汰で、昨夜リズベットから貰った光に反射する艶やかな黒いナイフを回していると、岩肌のサイが出現。

 

「おらよ」

 

【睡蓮】を連続投擲。そこに【薔薇】を併用して一挙にHPを削る。デカブツは激昂し、砂埃を上げて突進してくるが、右上に跳躍し躱す。視線だけを動かし相方の安否を伺う。幸いリズベットも躱したようで、デカブツに向き直りナイフを構える。

 

「【朝顔】」

 

朝顔のような蔦が何十本のナイフによって形成され、絡んで傷つく様は朝顔よりも茨される。そこに止めと言わんばかりに、手にした槍で幾度も貫く。そうすることで存在自体が砕け散った。

 

「お見事。えげつない腕前♪」

 

「褒めてないよね、それ」

 

白い歯を見せ歩み寄るリズベットのにひひと笑う姿が妹をフラッシュバックさせ、明後日の方向を向いてしまう。

 

 

「んで、お目当てのもんはどこにあんだよ」

 

わざわざ駆り出されたのだ。いい加減理由を教えてもらいたい。いや、確かに上の人間に理由を求めるなとは聞いたことがあるんですけどね。

 

「言わなかったけ?ほら、″岩石の宝玉″っていうレア素材。ここの層のモンスター倒すとランダムで手に入るらしいんだ」

 

「………らしいってなんだ。それ噂だろ」

 

呆れ半分で言うとリズベットはよくわかったねと返す。

 

「女は噂が好きだからな」

 

「はいはい。でも、実際にあるって話聞いたことあるから」

 

だから噂だろ。そうツッコミたい気持ちを堪え、さっさと終わらせようと先に進む。

 

「鼠には聞いたのかよ?」

 

「聞いたけど、確かではないっぽいのよ。それならそれでここで手に入る材料を売ったり出来るんだから損はないでしょ?」

「倒すの俺なんだけど……」

 

「細かいこと気にしないの。ほら、消費した分のナイフ。いい防具作れたら優先してあげるから。私も手に入ったらいいなぐらいだから」

 

「そうかよ」

 

ナイフの補充を行い、歩を進める。幾度となくモンスターと遭遇するが、お目当てのモノは入手できなかった。陽も沈み仮想空間の世界に月が顔を出す。今夜は三日月。まるで俺達をあざけ笑っているようだ。

 

今夜は仕方なく、茂みにで夜を明かすことになった。転移結晶はなく、近くに村があるわけでもないし、リズベットの体力に限界が訪れる。

 

「おやすみ~。手ぇ出さないでよ、エイト。こんな美少女に無理はないかもだけど」

 

「zzz」

 

「うんごめんなさい調子乗った見張りお願いします」

 

「おお、おやすみ」

 

薄い毛布を掛け、眠りにつくリズベット。俺は木に背中を預け、本を取り出す。一応、SAO内には娯楽として紙ベースの本が売られている。眠気ざましには丁度いいし、一徹くらいなら平気である。

 

だから一徹ぐらいで眠いアピールする奴はやめてほしい。大袈裟に眠眠打破を飲むなよ。

 

そう思いながら、本を開く。

 

 

 

──────リズベットside

 

「zzz」

 

「うんごめんなさい調子乗った見張りお願いします」

 

「おお、おやすみ」

 

虫の鳴く声も聞こえない夜に紙の擦れる音が微かに聞こえてくる。この場にはエイトとあたししかいない。彼との付き合いもそこそこ長く、意外にも読書家であることに驚いたのが懐かしい。その影響かどうかは不明ではあるものの、一緒にいると落ち着いてしまう。

 

これが恋かと言われれば答えに迷ってしまう。では、友情かとも言われれば違うだろう。普通に軽口を叩いたり叩かれたり、今日のように日をまたいで素材を探すのだってあった。最初の頃は渋っていたが、慣れたのかなにも言わなくなった。彼は救いようがないくらいにクズで、瞳も性根も芯まで腐っている。短い人生でこんな人種に出会うとは思いもよらなかった。

 

それでも一緒にいて楽しくて力強いと感じるのは、兄がいたらこんな感じなんだろうなとどこかで思っているからだろうか?自分のことのなのに分からないのがもどかしい。それでいて、追求する気にはなれない。

 

一定の速度で紙がめくれていく。そこに喉を鳴らす音とくぐもった水の音が加わる。彼の愛するマックスコーヒー

に違いない。が、ふとした瞬間に紙と水の音がピタリと止まると、なんとなく雰囲気が鋭くなった。

 

「……おい」

 

「なに?」

 

独特の低いが私を呼ぶ。たった2文字の雰囲気から連想させる危険な状況。耳を澄ませると、遠くから小枝が折れる音がだんだんと着実にこちらへ近づく脅威が迫りつつあるのはあたしにも察せる。

「離れてろ。多分、やばい」

 

月の光をも反射させず、呑み込んでしまう夜にも負けない暗い瞳の方角は音のする方に向いていた。構えていたのは漆黒のナイフじゃあない。両手に握りしめているのは、1本の槍。

 

茂みから飛び出たのは黒い体毛に鋭い10本の爪。獣に似た口。狼男がモデルだろうか。

 

「【一突きの槍】」

 

タイミングばっちり。一直線に狼男の額に鋭い一撃が直撃。エイトは曇った顔つきをすると、そのまま弾き飛ばされる。瞬時に受け身をとって爪による追撃を槍で防ぐ。エイトの実力はアインクラッドにおいて上位に位置する。そんなエイトが防戦一方と化していた。

 

木々を利用した跳躍に速さが相まって、人の裏をかくのが得意なエイトも苦戦している。地の利は向こうにあった。そして、背後から襲いかかった。

 

「ハァッ!」

 

頑丈な胴体にメイスを叩き込む。宙を回転しながら舞う狼男。

 

エイトは驚いたような表情であたしを見る。

 

「あたしだって戦えないわけじゃないんだけど」

 

「そりゃ頼もしい」

 

槍を突き出し、あたしの顔スレスレに通り過ぎると、生暖かい息遣いを感じ、「けど、油断はするなよ」と槍の柄で狼男を押し返す。手首を掴まれ、山中を駆け巡る。言わずもがな、狼男が唸り声を上げて、あたし達を追ってきている。

 

「逃げるのぉ!?」

 

激しい移動の中、周りがうるさく聞こえ、つい大声を出してしまう。

 

「いや、倒す。ただ場所が悪い。というか、このままじゃ追いつかれる」

 

よく通る低い声があたしの耳に届く。槍と投げナイフ。確かにこの状況はエイトにとって好ましくはない。いきなり手を放されると、彼は狼男と再び相対していた。

 

「なにやってんの?」

 

「逃げろ。足止めしといてやる」

 

「なら、あたしも「お前のレベルじゃ無理だ。俺もあとで追いつくから行け」」

 

あたしの言葉を被せて、遮蔽物を上手く潜り抜けながら激闘を繰り広げるエイトの姿に数秒判断の迷いを生じさせながら走り出した。

 

 

──────エイトside

 

行ったか…………。

 

爪と牙の攻撃を回避しつつ、攻撃当てに行くが、移動速度が速く当たらない。当たっても防御力が高く大きなダメージにはならない。

 

「【睡蓮】」

 

駄目元で放つが虚空を舞うだけで終わる。ったく、動きが読みづらいッたらねえ。

 

「【五連突き】」

 

青いエフェクトが線を描き、相手の攻撃とぶつかり合い、足を地面につけたまま滑る。スピードはほぼ同等、パワーは向こうが上。俺が一瞬無防備になった状態をやっこさん見逃す訳もなく、鋭い牙が並ぶ大きな口開いて跳躍する。

 

「っくぉ………!」

 

なんとか間に合った防御も虚しく、耐久値が限界を迎え、へし折れる。HPもヤバい。走馬灯がくるわけでもなく、速さに変化のない狼男。どうやら、俺の人生はここまで。特に思うことなく、強いて言うなら小町愛してる。まぁ、事故ったときもなにも感じなかったのだ。案外、こんなもんだろ。

 

「こんばんは。エイトくん」

 

「は?フェンサーさん……?」

 

狼男の脇から鋭い連撃が飛んできたと思ったら、聞き覚えのある声がした。手にはレイピア。白を基調とした装備。美しい立ち振る舞いに反して、堂々とした人物は今現在俺が最も会いたくない存在。彼女はレイピアを機関銃の如き速度で狼男に突き出す。その攻撃速度には目を見張る。しかし、狼男は一瞬退け反るだけで、ごり押しで進みだした。

 

「ダァッ!」

 

掛け声と共にメイスを振り下ろしたのは、逃がしたハズのリズベット。いまいち状況は呑み込めないが、攻撃を叩き込むチャンスであるのは、把握している。ホルダーからナイフを取り出すと、腕を休めることなく振り続ける。

 

「終わりよ!」

 

閃光の筋を残して、狼男を打ち倒した。

 

 

 

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