Fate/kaleid saber   作:faker00

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あと3話か4話か……それよりも少ないか。

あっという間にここまできました。


第11話 それぞれの決断

 かの槍は、貫けば30の棘となり心臓を破壊する。かの槍は、どんな守りも貫通する。かの槍に付けられた傷は治らない。

 これはゲイボルクの逸話のほんの一部分だ。

 他にも様々な逸話が存在するがそれらを全て要約すれば簡単な結論がでる。

 そう、【ゲイボルクに貫かれた相手は死ぬ】

 それは例え相手が神話の世界の人間だろうと変わることはない。

 美遊の言葉とともにその実力を遺憾なく発揮したその槍は、鍛え抜かれたバーサーカーの身体、そしてその奥の心臓を容易く貫いた。

 

「--■■」

 

 狂戦士が膝から崩れ落ちる。

 胸から鮮血を迸らせ、口からも滝のように大量の血が零れる。

 その背中に乗り槍を突き立てる美遊の姿は正に神代の英雄そのものであった。

 

「サファイア……」

 

「心臓、及び生体活動の停止を確認。お疲れ様です美遊様。私達の勝利です」

 

 サファイアの言葉に大きく息を吐く。

 とんでもない怪物だったがこれで全てが終わった。

 これで……イリヤが戦う必要はもうない

 

 喜ぶ凛とルヴィアの姿が下に見える。

 それで終わりを実感した。 

 

 --さて、そろそろ降りないと……!?

 

 気がついた。

 何かがおかしいと。

 なら何がおかしいのか? そうだ、サファイアは確かにこの狂戦士が死んだと言わなかったか。それならば、なぜこの黒山のような身体は実体を保っている?

 

「……!」

 

 その顔が見える。光を失っていたはずの瞳は再び赤い狂気を取り戻していた。

 

「グッ……!」

 

 気付けば身体が横へと空中をスライドしている。

 何をされたのかわからなかったが視界の隅にバーサーカーを捉えたことで合点が言った。

 ただ闇雲に、背中にある異物を嫌がって後ろに腕を振るっただけ。

 だというのにその威力は今まで戦ってきたどの英霊をも越える。

 

「まずい……!」

 

 目をなんとか逆に動かすとよりによって向かっているのは屋上の入り口、必然的にこの屋上で唯一クッションがないところへと向かっていた。

 

 --死ぬ--!

 

 このままではそうなる。物理保護が間に合うかどうか、いや、そもそも間に合ったとして相殺がどうなのか--違う、希望などない。

 

「--!」

 

 本能的な防御反応か、美遊はとにかく手で頭を覆う。

 身体は緩やかに回転している。

 頭を守れても左半身が潰れるか、それとも背骨が吹き飛ぶか、その2択しかなかったがもう身体を自分の意識で動かす余裕はないし、他にやりようもない。

 

「……あれ?」

 

 目をつむった。

 しかしいつになっても予想していた鋭い痛みは襲ってこない。

 

 --止まってる?

 

 恐る恐る目を開ける

 止まっていた。視界に先ほどまでのぶれはなくしっかりと見える。

 そこでようやく感覚が元に戻ったのか自分の身体が誰かによって支えられていることに気がついた。

 

「綺礼さん……? --!?」

 

 礼もそこそこに顔を真っ赤にした美遊は暴れ始めた。

 それもそのはず、いつの間にか移動してきた綺礼が美遊の身体を受け止めた……まではいい。のだが問題はその姿勢だ。

 

「だから油断するなと言ったの--どうした? そんなに降りたいのか?」

 

「当たり前です……! これは--」

 

 --お姫様抱っこなんてされたことない!

 

 お年頃の女子の憧れを一心に集めるあれだった。

 

「はあ……そんなことを意識していたのか。ほれ、立てるか?」

 

「あ、ありがとう……」

 

 これ見よがしにため息をつく綺礼から身体を隠すように丸まり後ずさる。

 確かに憧れとは言ったがそれはあくまで一般的な話だ。少なくともかなり精神的に大人びている美遊にとってそれは羞恥の対象であった。

 

「--」

 

 相手も問題だ。感謝はしているがそういう意味は全くない。

 

「まあいい。しかしこれはかなり苦しいぞ」

 

「え……?」

 

 何もなかったようにそう言う綺礼の視線の方向を見る。

 その先でバーサーカーが猛り、凛とルヴィアが跳ね回っている。

 その狂戦士は無傷

 

「どうして……!」

 

「お前の槍は確実に息の根を止めていた。奴は蘇ったのだ」

 

「まさか--」

 

 困惑する頭に一つの答えが浮かぶ。

 ヘラクレスの逸話、それを辿れば簡単に行き着く最悪の答え。

 

「確証はないがまず間違いないだろう。ヘラクレスは生前12の試練を乗り越えた。 それもどれも命懸けのものを。それが奴の宝具、蘇生魔術の重ねがけ。恐らく奴は12ど殺さねば死なん」

 

 絶望的な答えが神父から紡がれる。

 いくら狂化しているからといって宝具を使わなかったのを可笑しいとは思っていた。

 しかしそんなことはなかった。バーサーカーの宝具は12の命なのだから

 

「撤退だな」

 

「そんな!?」

 

「私達の戦力であれをあと11回打倒すると言うのは無理な話だ。私の身体も持たぬし、

凛も宝石が足りまい。現状は間違いなく詰んでいる」

 

 2,3秒思案すると綺礼は冷静にそう判断を下した。

 美遊は反論しようとするが完全な正論に黙るしかなかった。

 綺礼の分析はどうしようもないほどに正しい。

 

「またやるなら戦力を補強してだ。一度は打倒出来たのだしどの程度かは分かった。 それからでも悪くはあるまい」

 

「戦力を補強--」

 

 

 そのまま綺礼は冷静に判断を下した。

 その時、美遊の頭に浮かんだのはイリヤだった。

 

「だめです!」

 

「……どうした? それがわからないほど君は子供ではあるまい」

 

「けど……!」

 

 突然の大声に綺礼も驚く。

 しかし美遊とてここで退くわけにはいかないのだ。

 

 --ここで撤退したら今度はイリヤが呼ばれる……それはだめ!

 

 そんなことになればイリヤがまた傷ついてしまう。

 それは今の美遊にとって最も恐れるべき事態であり、許せないことだった。

 

「……だめだ。なんの理由があるのか知らんがそれ以外に道はない。 私とて関わってしまった以上見殺しにするわけにはいかん」

 

 しかし綺礼は美遊の叫びにも首を縦に振らなかった。

 その判断が正しいものだと分かっているからこそ美遊はそれ以上なにも言えなかった。

 

「凛、撤退だ!」

 

「……! 仕方ないか……!」

 

 いつも負けん気が異様に強く、退くことなど知らないという体の凛とルヴィアが悔しそうに唇を噛んでいるとはいえ文句の一つも言わず大人しくその声に従っていることがその何よりの証明していた。

 

「食らいなさい!」

 

 階段へと駆け込む直前、これで最後とルヴィアが宝石を数個投げ込む。

 バーサーカーに直撃する前に砕けたそれは屋上に幾つもの火柱を上げバーサーカーを飲み込む。

 

「走りますわよ! これで少しは時間を作れるはずです!」

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

「ここらへんで、大丈夫よね……」

 

「あの巨体ではここまで入るのは難しいはず、ビルを壊しながらと考えるとそれなりに時間はあるはずですわ」

 

 階段を駆け下り廊下をビルの中心まで一息で駆け抜けた。

 少し大きめの会議室とおぼしき部屋に辿り着いた4人はそこでようやく一息ついた。

 

「そうだとしてもあまりのんびりとはしていられん。あの怪物ならばこのコンクリートの塊も雑木林をかきわけるような勢いで進んでくるだろう」

 

 普段ならジョークにもならないような綺礼の言葉は紛れもない真実

 それがより一層場の空気を重くしていた。

 

「これはもうセイバーもイリヤも動員しなきゃ無理ね……どうやっても火力が足りない」

 

「ですわね……特にイリヤスフィールを引っぱり出すのは気が進まないですがこれではもう致し方ないですわ」

 

「……!」

 

「美遊様……」

 

 サファイアを握る手に力がこもる。

 反論ができない。ここで我を貫けば間違いなく4人全員が死ぬ。

 それはもう分かっている。

 

 --けど!

 

 それでも割り切ることは出来なかった。イリヤスフィールが巻き込まれるのは何としても……

 

「やってみよう……」

 

「美遊様?」

 

「サファイア、静かに……」

 

「……」

 

 美遊はここで覚悟を決めた。 

 

 

 

「しかしそんなこと!」

 

「騒がないで……! 例えあなたがいなかろうが私は一人でも残る。 サファイア、後はあなた次第」    

 

「……」

 

 

 

 

「サファイア、お願い」

 

「分かりました。 皆様、私の近くへ」

 

 4人がサファイアを中心に集まる

 

「限定次元反射廊形成--鏡界回廊を一部反転--虚数軸を計測変数から排除--中心座標固定半径2mで反射廊を形成」

 

 サファイアの詠唱により床に魔法陣が形成される。

 バーサーカーの気配は未だない。

 そこでようやく空気が弛緩する。後は動かなければとりあえずこの場はなんとかなる。それが分かったから。

 

 その中で美遊は1人そこから外へ出た。

 

離界(ジャンプ)--」

 

「美--!」

 

 いち早く気付いたルヴィアが立ち上がろうするも既に遅い。

 その伸ばす手は届かず美遊以外は元の世界へと送り返された。

 

 

 

 

 

 

「……なんでですか、綺礼さん?」

 

「なに、みすみす死のうという人間を見殺しにするのはポリシーに反するのでな。 何せこの身は神に仕えるのも兼ねている」

 

 はずだった。

 気配を感じ振り向くといつの間にか魔法陣から出ていた綺礼が彼女の5m後ろに立っていた。

 

「それに全くの無策と言うわけでもないのだろう? 内緒話はもっと慎重に行うがいい」

 

「今後の参考にさせてもらいます」

 

「凛に比べれば物分かりが言いようでなによりだ。そのままその手段とやらも教えてほしいが……」

 

 またよく響く足音を立てて綺礼が美遊の横に並ぶ

 

「生憎そんな時間は無さそうだな。美遊、何秒いる? そう長くは保たんぞ」

 

「--■■!!」

 

 それと時を同じくして20m先の壁の向こうが壊れる。自らが暴れる場所を確保しバーサーカーが再びその姿を表そうとしていた。

 

「……いいんですか?」

 

「無論だ。 元々私の仕事は時間稼ぎなのだからな。 その役目を果たそう」

 

 最後の問いにも綺礼は顔色一つ変えない。

 それで巻き込むことに僅かながら残っていた罪悪感や躊躇いが美遊の中から消えた

 

「45秒……長くても60秒。後はどうにかします」

 

「ほう、随分と短いのだな。分かった、任されよう--ああ、最後に一つだけ聞いておくことがあった」

 

「……? なんですか?」

 

 この期に及んで彼からの言葉があると思っていなかった美遊は聞き返す

 

 

 

 

「いやな、時間を稼ぐのは構わんが--あれを倒してしまっても文句はないのだろう?」

 

 

 

 

 

 ボロボロの祭服に至る所から出血、加えて疲労の色は隠せないがその立ち姿には揺らぎなし。

 綺礼は半分だけ振り返るとそう言ってのけた

 

「え--」

 

 美遊は思わず言葉を失う、と同時に笑ってしまった

 まさかこの男がそんなことを言えるとは思いもしなかったのだ

 

「……はい! よろしくお願いします。綺礼さん」

 

 何も言わずに綺礼が駆け出す。

 それと同時に美遊は片膝を付き目を閉じて集中する。

 ここから既に彼の命を懸けた時間稼ぎのカウントダウンは始まっている。一秒たりとも無駄にはできない。

 

「--美遊様……」

 

 出来るかどうかはわからない。だがやるしかないし自信もある。

 

 美遊は3日前の事を思い出していた。

 

 セイバーとランサーと化したイリヤの死闘の後、凛、ルヴィアと共に闘った黒い弓兵のことを 

 

 その高い戦闘技術は愚直に鍛えあげられた末のもの、セイバーやランサーのように華やかな才のあるものではない。

 そしてその心はさざ波一つ立たぬ水面のごとく平面。

 しかしそれがどうした、その程度の技術を持つ英雄はいくらでもいる。

 目に思い浮かべるべきはそんなものではない。

 

「--」

 

 今考えて見ればあの時から気に掛かっていたのだ

 ルヴィアと凛の宝石によって弾かれた剣が何度も何度もいつの間にかその手に握られていること。

 そして……必中の槍に貫かれ消えるその瞬間、最後に黒いもやが晴れて見えたその瞳

 

「あれは……」

 

 美遊は夢でその瞳を思い出すたびに何度も跳び起きたものだ。

 それは彼女が何度もなく助けられてきた人の目に似ているから、それそのものだったから。

 

 そのカードを取り出しサファイアを突き立てる。

 やり方はだいたいだがわかる。イリヤのその姿を見たことで理論的には何をしたのか掴んでいる。

 しかし……リスクは大きい。何があったのかは定かではないがイリヤは完全に我を忘れ暴走したのだ。自分がそうならない保証はどこにもない。

 

 --でも、やるしかない

 

「美遊様!? これは……!」

 

「クラスカードの本当の力、それは英霊の武器を具現化することではなくその姿、能力、全てをこの世に呼び起こすこと。そんなこと普通は出来ないけどサファイアの魔力があればいける……!」

 

 巻き起こる風は濃密な魔力に満ちている。

 これだけの魔力を一心に集めるなど身体が保つわけもない。

 

「告げる--汝の身は我が元に。我が命運は汝の剣に--」

 

 これが他のクラスカードなら、どんな状況であろうともこんなリスクは背負わないだろう。

 だが、このカード、アーチャーならば試す価値がある

 

「美遊様いけません! これは!」

 

 察知したのかサファイアが制止の言葉を叫ぶ。

 でも聞けない。それが正解だと分かっていてもそんなことは関係ない。

 

 美遊の目の前で綺礼も踏ん張っていたがそれも限界に近いのは目に見えていた。

 

「聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うなら答えよ--」

 

 イリヤを守る。

 そのためにはもうこれしかない。

 

「誓いをここに--我は常世全ての善となるもの、我は常世全ての悪を敷くもの--」

 

 飲みのまれそうになる。

 私の中が染められる。それに流されてはいけない。

 思い出せ、彼の最後に見せた瞳を、安心したように笑った口元を

 

「汝、三大の言霊を纏う七天--抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!夢幻召喚(インストール)!アーチャー!!」

 

 頭の中を飲み込もうとしていたアーチャーの黒いもやが解けていく。

 

 ーー……さん!

 

 ……笑った彼の顔が最後に見えた気がした

 

「美遊様……これは……」

 

「……喋れるの?」

 

「ええ」

 

 手に持つ双刀、どんな原理かは分からないがその両方からサファイアの声が聞こえる。

 その刀はアーチャーのものだ。

 

「この魔力は……」

 

「時間がない、急いで決めるよ。サファイア」

 

 飛ぶ。力など入れていないのに今までより速く、軽く。

 ギリギリの所で踏ん張る綺礼とバーサーカーの間に割り込みその肉体を切り裂く。

 

「--■■!?」

 

「バカな!? 英霊の能力を外見とともに完全にトレースしただと!?」

 

 驚愕と困惑の声はどちらからもあげられたもの。

 

「綺礼さん、ありがとうございます。 ちょうど45秒です……後は任せてください」

 

「……まあ良いだろう。お陰で首の皮一枚繋がったようだ。任せ--」

 

 精根尽き果てたのか綺礼は最後まで喋りきることなく気を失い倒れる。

 

 --ここからは、私の仕事だ

 

 バーサーカーが美遊を睨み付ける。

 獲物を完全に切り換えたその殺意が美遊へと叩きつけられる。

 

 だがそんなものはもう怖くない。

 

「--ふうっ」

 

 頭の中で引き金を引く感覚。

 彼も同じような感覚を持ってスイッチを入れていたのかもしれない

 

 そして、懐かしい響きと共に初めて自分がその言葉を口にした。

 

「--投影……開始(トレース・オン)

 

 赤い外套が風に揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

「セイバーさん」

 

「イリヤスフィール……どうしたのですか?」

 

「……行こう」

 

「……宜しいのですか? また傷つくかもしれませんよ?」

 

「いい。 それよりも大切なものがあるから」

 

「大切なものとは」

 

「私と美遊は--友達だから」

 

「分かりました。 参りましょう、イリヤスフィール」

 

「ありがとう、セイバーさん」

 

 

 

 

 




反省はしてますが後悔はしてません。

麻婆祭りが連続してしまいました笑

無印編は本当に詰めの段階ですね。

それではまた!

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