そして遂に無印編決着です。とにかくスピード感重視、高速のクライマックスを楽しんでもらえれば幸いです!
「--という感じです。皆さん行けますか?」
「いや、ちょっと待って。いくらなんでも--ああ……どちらにせよこの状況じゃ信じるしかないわよね」
「大した自信ですわね。余程のものだという自負がおありなのでしょうが」
「……? 私は大丈夫だけどなんで凛さんとルヴィアさんはぴりぴりしてるの?」
「あまり気にしない方がいい」
大体の内容を伝えるとその反応は四者四様だった。
イリヤスフィールくらい純粋に聞いてくれると楽なのですが……まあそういうわけにもいかないのでしょう。
バーサーカーもそろそろ完全に復活して登ってくるはず。
それまでに少ないとは言え準備をしておかなければならない。
「それじゃあ行きましょうか。とにかく広いところの方が良いのよね」
一番悩んでいた凛が真っ先に腹を決めたと先陣をきる。
相変わらず肝が座っている。
「美遊、少し--」
「セイバーさん?」
3人が上に上がって行ったのを見送ってから美遊を呼び止める。
彼女こそがこの作戦を成功させる最後の鍵となるのだから。
「--いけますね」
「剣であるなら問題ありません……それよりもセイバーさん、まさか貴女は……」
核心に触れる内容を話したからか美遊は信じられないながらも私の事を察したようだ。
「それについてはまた後ほど。今はこの場を何とかしないといけないですから」
敢えて背中を向けて崩落しかかっている階段に足をかける。
出来ることならば不用意に自分の正体をバラしたくはなかったがこうなってしまった以上仕方がない。この戦いが終われば全てを話すことになるだろう。
しかしその前にここを乗りきらねればなにも始まらないのだ。
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「あれ……ここってさっき私たちが離脱したところよね。確かここはビルの中ほどだったと思うけどここから空が見えるってどんだけ激しくやりあったのよ貴女達」
「バーサーカーの攻撃は一撃ごとに建物を壊していったので……倒壊するとこちらが危ないと思い上全部を吹き飛ばすことにしました」
「まあこの方が好都合ですわね。ミスターコトミネも離脱させましたし気にするものはなにもないですわ」
いつの間にか屋上となっていたフロアにたどり着くと凛が呆れたようにその惨状に驚く。
そこがかつては屋上でなく次へと進むことが出来るフロアだったことを示すのは端っこにある中途半端なところで折れてさきがなくなっている屋外階段だけだ。
元々あったのであろう備品やら何やらは全て吹っ飛び、砕けたコンクリート、ガラス片がそこら中に転がっているが他に形あるものは何もない。
「ルビー、相手は」
「つい先ほど生体反応が戻りました。そろそろくると思いますよ」
上空で構えるイリヤとルビーの言葉で5人の間に張り詰めた空気が流れる。
私を一番奥にして左右両端に凛とルヴィア、そして上にはイリヤと美遊、これだけの手練れが揃ってもなお勝てる保証がないと言う事実がその緊張をより強くする。
「うわ……すごい地響き」
「無駄口はなしですわトオサカ……来ますわ」
ビル全体がテンポよく揺れる。
バーサーカーが登ってきているのだろう。その揺れの大きさに地に転がった残骸が跳ねる。最早地震、その揺れが立っていることすら困難になるまで強くなったとき。
怪物は再び姿を現した。
「---■■■!!!」
「--なっ!?」
「なんですのこいつは……!」
猛る。
その姿はいままでの黒い岩山ではない。
大剣を持ち、所々赤く染まっているバーサーカーのそれは燃え盛る熔岩流を私に想起させた。
「戦闘力が桁違い! 恐らくこれが本気狂化です!」
ルビーが全員に向けて警告する。
バーサーカーには狂化にランクがありそれを最後まで解けば正に本能のみで向かってくる野獣と化す。
その代わりその能力は今までを遥かに上回り、十分に難敵だった相手が更に厄介になる。ルビーの警告はその可能性を示唆していた。
「ごちゃごちゃ言ってもしょうがない! 行くわよルヴィア!」
「言われずとも!」
挟み込むように凛とルヴィアが走り出す。
それから1テンポ遅れるようにして上から美遊とイリヤが。
その姿はまるで熊に挑む猟犬のごとく。
「--っ!」
一度深く呼吸を入れてからそれに続き飛び込む。
こちらの限界は最後も考えれば凡そ1分、それまでに詰める、そしてそこまでは耐える。
「--■■!!」
「はぁぁ!!」
バーサーカーの大剣と真っ向からぶつかり合う。
やはり力では叶わない。しかし防ぐだけならばしばらくはもつ!
力づくで押しつぶそうとする相手を受け流すのではなく敢えて正面から押し返す。
こういう手合いには小細工をかけるだけ無駄だ。そのままに流されてしまう。
まるで子供の喧嘩、最悪の手段に見えるこれこそが今だけは最良のものとなる。
「--■!!」
体格差のある私をしとめきれないことに苛ついているのか
次第にその攻撃が荒く、大きなものへと変わっていく。
僅かながらも回していた他への警戒がなくなりその赤い双眸に捉えるのは私だけへと変わるのを感じる。
--ここ!
次の一撃はかわさない。
そう言うと語弊があるかもしれないが要は相手が手応えを感じ満足する、という状況をつくれば良いのだ。
迫る横殴りの大剣、それを敢えて勢いを相殺しきれない距離まで引きつけてから受ける--そして同時に跳ぶ。
「ウァ--ッ!」
間に剣を挟みおまけに自ら飛んだにも関わらず襲い来る横腹を抉り取られるような感覚。
はっきり言ってとんでもなく痛い。
--でもこれで!
「--■■!!!」
吹き飛ぶ私を見て勝利の咆哮を上げる狂戦士。
この瞬間、その意識、そして身体は完全に無防備。
ようやく狙っていた状況を作り出すことが出来た。
「っ--!」
横に横にと滑る身体を膝ごと地面に付け床を削り煙をあげながらなんとか踏ん張って止める。
そして息をつく間も忘れて叫んだ
「凛! ルヴィア! お願いします!」
「「りょーかい(ですわ)!!」」
横からクロスするようにルヴィアと凛が走り込む。
そうして円を描くように駆け抜けると同時に彼女達の通った道に光り輝く宝石が散らばり、その事実にバーサーカーが気づく前に炸裂した。
「--■■!?!?」
ダメージはない。いや、それでいいのだ。
狙いはバーサーカーではない、その足場を支える床だ。
「--■■!!」
宝石によって綺麗に円形に床が抜け困惑しながら落下するバーサーカー、ここにくるまでに下の階の床は全て崩してある。
ここは7階、実に30mの自由落下は避けられない。
「いくよルビー!」
「りょーかい! いきますよー!!」
それを確認して皆下へと下りるがその中でも真っ先に飛び出す影。
イリヤスフィールとルビーは崩落を始めるのと同時かそれよりも早く弾丸のように飛び出すと落下するバーサーカーが地面にたどり着く頃には既にそこにいた。
そうして構えるルビーは極大の魔力を帯びていた。
「イリヤさん、ちょーっと限界越えますよ~!」
「おっけー! 思いっきりやっちゃって!」
「出力限界突破、供給者からの強制供給開始--いけます!」
「全力全開--フォイヤー!!」
反動でイリヤスフィールが後ろへとすっ飛んでいくだけの威力。
落ちてくるバーサーカーの懐、0距離で放たれる圧縮された極大の魔力砲はその巨体を地面につけることなく真横へと弾き飛ばす。
「--■■!!」
されどもそこは最強の大英雄。
物理法則に従って飛んで行きこそしているものBランク,もしくはAランクにすら手が届きそうな大魔術砲を受けなおダメージは通っていない。
一度に大量の魔力消費をしたことでその場に崩れたイリヤスフィールに直ぐにでも襲いかからんと手足を開き壁をこすり減速しようとする。
「「グレイプリル!!」」
凛とルヴィアの声に合わせてその四肢を絡め取る拘束具。
魔力を帯びた経典は引きちぎろうと暴れるバーサーカーの筋力さえも抑え込みその身体を完全に術式により束縛する!
「流石にこれならとおるわよね……って嘘でしょ!?」
イリヤスフィールに続き全てを出し尽くしガス欠から座り込んだ凛、そしてルヴィアが驚いたようにその目を見開く。
バーサーカーは狂っている上にそもそもが根っからの戦士だ、魔術に対する対処、解呪のやり方など知っているはずがない。
だというのにも関わらず今し方その中に抑え込んだはずの菱形の結界には僅か3秒と経たないうちに既にひびが入り、その体の動きを直接封じている経典はところどころちぎれかかっている。
圧倒的な力を持つはずの封印術式をそれをさらに上回る筋力だけで怪物は打ち破ろうとしていた。
「まさかこんな所で……!」
ルヴィアが悔しげに叫ぶ。
それはそうだろう。作戦はここで終わっていたのだから。
この術式で動きを封じ、後は美遊と私の最大火力で蹴りをつける。
しかし当然ながらこんなに早く結界が崩れてしまってはそれは叶わない。
その上全員がガス欠、もしくは限界スレスレ。
もう次はないのだ。
「美遊!」
「分かりました……!
しかし焦ることはない。
本当にやるとは思っていなかったが私とてその状況に陥る可能性は想定していたのだ。
保険があると知って万が一でも気が緩み全力を出しきれないなんてことになればここまでたどり着くのすら無理なので狙ってその事実を告げることはなかったが……
まだ作戦は続いている。
「--!」
美遊の手に剣が形づくられていく。
その姿に思わず頼んでおきながらなんなのだが息を呑む。この剣の姿を見るのは一体いつ以来になるのだろうか?
私が最後の切り札として美遊に投影を要請したのは私本来の剣、私が選定の石から引き抜き私を王とし、戦乱のさなかに折れるまでこの身をブリテンを守る最強の者とした伝説の剣。
「ーーっ! すいませんセイバーさん。 今の私ではこれが限界です。 外見こそそのまま複製しましたが恐らく中身は半分程度しか……」
「それだけあれば十分です! 後は私に任せて!」
魔力を限界まで尽くし転身まで解けた美遊からその剣を受け取る。
剣はまるで持ち主である私を探していたかのようにこの手に馴染む。
美遊は半分だと言っていたが本当に十分過ぎるだけの出来と言えた。
そうして時間軸としてはおよそ数百年振りに手にしたその剣の切っ先をバーサーカーへと向ける。
「--■■!!」
束縛を引きちぎったバーサーカーが脅威を感じたのか一直線に向かってくる。
だが……もう遅い。
刀身に光が宿る。
「
煌びやかな装飾に、王を選定する剣、私を不老にするなどの逸話から武器というよりも儀礼的な側面の方が目立って後生に伝えられているがその威力は私の宝具に勝るとも劣らない。
その輝きがバーサーカーを包み込む。
「--■■!!」
「ええ、貴方ならそうくると思っていました」
直撃、間違いなく命を複数吹き飛ばした手応えがあった。
しかしそれでもなおバーサーカーは蘇生した。
光を抱え込むように数m後ろへと地を削る。
その体は更に赤く揺らめきその咆哮は天を貫かんとばかりに高く響く。
「ですが……本命は此方です」
手にしていた剣が消える。
やはり良くできていたとはいえ投影は本来の品には及ばない。
それ故にあの光を受けてもまだバーサーカーは立ち上がれるのだろう
それならば……本物の聖剣の威力を持って打倒するのみ。
「風よ--」
迷いは既にない。もう一度、その封を解く。
しかし今回は今まで見せなかった奥深くまでだ。
完全に渦巻く風を取り払う。
その奥に見えたのは黄金の輝き。
「うそ……」
「まさかあれは--」
「やはりセイバーさんは--」
「きれい……」
吹き荒れる風の中その姿を目の当たりにした四人が同じように感嘆の声をあげる。同時にそこにはいったい何故?という困惑も入っている。
この剣は、あまりにも有名すぎる。信じることは簡単ではないが私が何者であるかを察するには充分すぎるほどに。
「手向けだ、大英雄。貴方は私の全力を持って葬ろう」
それでも使うと決めたのだ。そうでなければ勝てないと。
それは目の前で荒れ狂うこの最強の敵への賛辞の意味もこもっている。
狂いながらなおその武練は生前の偉功を感じさせるもの。敬意を持って最善を尽くす必要がある。
振り上げた聖剣が輝く。先程のカリバーンをも遥かに上回るそれは私の視界をも光のみに染めていく。
そして奔流が加速し収束する。その密度はこの世のどんなものをも上回る絶対のもの。
この聖剣は星によって鍛えられたもの。人の願い、幻想が現実のものとして降臨した人々の夢の結晶でもある。
ならばここ輝きを手にした者に敗北の二文字は有り得ず勝利は約束される。
そうしてその真名を口にした。
「--
光に、包まれた。
どうもです!
いよいよエピローグを残すのみとは……こんなに早いとは思ってなかったです(笑)
エピローグは日常編、もちろんセイバーさん視点でしめようかなと思ってます。
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