Fate/kaleid saber   作:faker00

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UA6桁とか見えてくるとか一月前には想像もしませんでした(正直)


第6話 過去

「むむむ……」

 

 授業が終わり人が少なくなり始めた教室、机に積まれた大量のチラシと睨み合う。

 正直なところどうしたらいいものなのかわからない。

 袋小路に陥った思考が手詰まっていくのを感じる。これはある意味、自らの側近となる騎士を選定したとき以上に慎重になる必要があるのかもしれない……!

 私、アルトリア・ペンドラゴンは迷っていた。

 

「どうしたんだセイバー? 難しい顔して……うわ、すごいなこれ」

 

「あ、シロウではないですか。ええ、学校とはかくも大変なものなのですね」

 

 これはもう一度吟味しなければなるまい。

 そう思い、いつの間にかやってきていたシロウを一瞥すると再び紙の山に意識を投じる。どうにもこうにも選択肢が多すぎるのだ。

 おまけにほとんど私からすれば未知のものばかり。この中から一つを選択しろと言うのは実際問題かなり難しいものがある。

 

「部活かあ……うちの学校は強制だもんな」

 

「はい……正直私は何が何だか分からないので……」

 

 その正体を理解したシロウ苦笑いを浮かべる。

 部活、という単語は今の私を一番陰鬱な気持ちにさせる言葉と言っても過言ではないのだ。

 生徒達がそれぞれの趣味嗜好に合わせてグループを作り、各自目的に向かって邁進する。それは構わないしむしろ尊い事だと思うのだがそこのどこかに自分も入れと言われればまた話は別だ。厄介この上ない。

 

「だよなあ、むしろ1000年以上前の王様があっさり部活に適応したらそのほうが不自然だ」

 

 俺も手伝うよ、とシロウが前の席の椅子に逆向きに座り私に向かい合うとチラシを何枚か無造作に取る。

 それに合わせて顔を上げると何時の間にか教室にいるのは私とシロウの2人だけになっていた。

 

「学生生活の基盤ともなる……ですか」

 

 机に頬杖をつき、少し力を抜いてだらーっとチラシに書かれた文字や絵を眺める。

 そうしているとこのチラシの山を持ってきた時の葛木の言葉がなんとなく思い出された。

 

 手に抱えきれないほど大量のチラシを抱えてきた彼を見たときは最初どうしたものかと思ったものだ……まさかそれが全て自分に当てられたものだとは思いもしなかったが。

 

「うーん……とりあえず運動部か文化部か、どっちにするか決めようか。それだけで半分くらいには絞れる」

 

「運動部と文化部?」

 

「ああ、部活動って言うのは大まかにこの二つのどちらかに別れる--ほら、外でいろいろやってるのが見えるだろ? あれは大概運動部だ」

 

 窓の外を指差すシロウにつられるように外を見る。

 普段は登下校時を除いて精々一クラス分の人数しかいない校庭、しかしその様相は様変わりしていた。授業中は皆同じ制服で過ごしている生徒達が各々幾つかのグループに別れ、それに合わせた服装で何やら集団で行動しているのが目に入る。

 あちらこちらから聞こえる活気に溢れる声が何だか眩しく感じた。

 

「で、文化部は室内で料理をしてたり編み物をしてたり校内新聞を作ってたり……まあ色々とあるんだけどセイバーはどちらかというと運動部、それもプレーヤーのが合ってると思うんだがどうかな?」

 

「シロウが勧めるなら私は構いませんが……ところでマネージャーとプレーヤーとはどう言う意味なのでしょうか?」

 

「あ--」

 

 そうか、それも分かるわけないじゃないか。と言うかのごとくまるで虚を疲れたようにシロウが一瞬固まる。

 

 これは……割と罪悪感がきますね。

 

「ち、違うんだセイバー!?別に悪いとかそう言うんじゃ --そうだ! あれ見てあれ! あれがマネージャーだ」

 

「いえ、そこまで焦らなくとも……由紀香ではないですか」

 

 そんな私の内面を見透かしたのかシロウがしどろもどろになりながら謝罪すると同時に弾かれたように立ち上がり、窓際に顔を押しつけるように外を見て必死に何かを探す。

 そうしてお目当ての人物を見つけたのかちょいちょいと私を手招きした。

 

 そんなシロウのあまりの狼狽ぶりに少しおかしくて笑いたくなるような、それでいて呆れながらも立ち上がり、彼の指し示す方向を見ると私も知っている茶色い髪の少女があくせくと動き回っているのが確認できた。

 

「……由紀香一人だけ格好が違いますね。それに加えて行動も異質だ」

 

「ちょっとその言葉が適当かどうかは微妙だが……そう、それがマネージャーの仕事だ。プレーヤー、選手のサポートをする。水出しとか、洗濯とか、三枝のいる陸上部ならタイム取りとか」

 

 シロウの説明を聞きながら由紀香の様子を観察する。

 言われて見れば確かにそうだ。他の人は自分の目的の為に動いているのに対して、由紀香の行動は全て人の為のそれである。

 私の時代に合わせるならば、前線で兵士が戦っているときにその後ろで働く救護兵、若しくは伝令兵辺りが適当なように思えた。

 

「救護兵ってまた凄い表現を……いや、あながち間違ってないような気も」

 

 それを伝えるとシロウは最初微妙な顔をした後なにか感心したように頷く。

 

「まあとりあえずそんな感じだ。けどセイバーはあんまりそう言うのは合わないだろ? セイバーは思いっきり前線で戦ってるんだから」

 

「それはまあ--」

 

 その通りだ。

 窓を閉め、再び私の正面の机に座ったシロウに同意する。

 そう言う存在に今も昔も感謝と尊敬の念を忘れたことはないが自らがその立場になりたいと思ったかどうか問われると答えはNoだ。どうも性に合いそうにない。

 どちらかと言うなら勝負の最中にいる方が好みだ。

 

「と言うわけで絞るならプレーヤーなんだが、セイバーが分かるスポーツなんてほとんどない……よな?」

 

「ないですね。やれば分かる物なのでしょうが」

 

 シロウが腕を組んでうーんと唸る。

 実際外を見ても何をしているのか分かったものはほとんどなかった。

 

「イギリスにルーツがあるスポーツだとサッカーとかテニスになるんだろうけど、サッカーは男子しかないしテニスは無駄に強いしでどちらもあまりお勧め出来ないのがまたなんとも」

 

「ルーツがあると言ってもブリテン時代にはスポーツなんてありませんでしたからあまり参考には……」

 

 何秒か考えた後に出た明らかに苦し紛れなアイデアは考えるに値せず。

 2人顔を見合わせて同時にため息をつく。

 

 結局の所、私の知識量ではどうにもならないというのが結論になるのだろう。

 なにもかもが初めてな以上傾向やら合う合わないの経験則もない。

 そんな状態で何か勧めるという方が元々無理な話だったのだ。

 

「--仕方ないですね。多少面倒なのは否めないですが何かしら選ばなければいけない以上片っ端から巡って少しでも理解を深めるしかないでしょう」

 

 やるしかあるまい。

 今一度掻き集めた紙の山に頭が重くなる感覚がしたが、そうも言ってはいられないと立ち上がりシロウに頭を下げ謝意を示す。

 

 葛木によって与えられた猶予は1週間。だがそれはこれだけの数を見て回る必要があると考えると決して多いと言えるものではない。

 かと言って適当に決めるのもそれはそれで失礼な事だしそんなことをするつもりはさらさらない、となれば今すぐにでも動かないといけないのだ。

 

「待てセイバー、お前もしかして全部回る気か?」

 

 結論が出ないまま再び両手一杯にチラシを抱えて立ち上がった私が何をしようとしているのか察したのかシロウがそう声をかけて呼び止めてくる。

 

「いくらなんでもそりゃ無理ってもんだろ。まだ勝手が分からないこともたくさんあるだろうし--」

 

 その問いをドアを開けたところで振り向いて頷き肯定した私にそう続ける。

 

 そのなんとも言えぬ表情からは“それが無理なのは確かだがいったいどう引き留めようか”という内心の葛藤が読み取れる。

 そしてその末に出た答えは私の興味を引くに十分なものだった。

 

「--あんますごすぎるか、イメージに合わなすぎるのもどうかと思ったから言わなかったけど……うちの部活来てみるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった?」

 

「そうですね、なかなかに新鮮な体験でした。私は今まで剣しか触れたことがなかったので」

 

 沈みかけた夕暮れの強い光を後ろから受けながら家路を歩く。

 

 今のは本当だ。今日の体験は今までに自分が経験したことのないものでありそれは、少なくとも悪い物ではなかった。

 

 その言葉に隣を歩くシロウはよかったと笑う。

 

「ただ美綴もお前には教えるときに緊張してたみたいだけどな、後から言われたよ。どっからどうみても素人なのに雰囲気は一流のそれで私なんかが教えてよかったのかー、って。やっぱり分かる人には分かるもんなんだな」

 

「そんなことは--綾子の指導は適切だったし分かりやすかった。私としても満足しているのですが」 

 その時の事を想い出しているのかクスクスと笑うシロウに手を振って否定する。

 

 私が弓を持つなどこれが初めてのことだった。

 シロウに連れて来られたのは弓道部、一応剣道も含め武道全般を一つの部として統一していてその中の弓道部門にあたると言うことだったが。

 あまりイメージに合わない云々と言うのは私の外見とその武道における正装があまりにも場違いだったと言う意味だったのか。その場の全員が何かしらの違和感を感じたのようで周りから遠巻きに見られたのは印象に残っている。

 

 そんな中でも主将……大将を務めるという美綴綾子は別だった。

 胴着の着方から弓の持ち方まで今日1日、自分の時間も全てかけて教えてくれた彼女がいなければ私にとってもこの日は無駄になっていたに違いない。

 そんな彼女に感謝こそすれ文句などあるはずがない。

 

「分かってる、分かってる。ちゃんと伝えてあるから……ああ、間違ってたら申し訳ないんだけど--」

 

 安心してくれと頭をポンポンと叩かれる。

 そのままにこやかに言葉を続けていた彼だがそこで初めて表情を曇らせたかと思うと一旦言葉を区切った。

 

「なんでしょう」

 

「セイバー、桜のこと苦手なのか? 他の人が気付いてたかは知らないけど、桜を見た瞬間すごい顔が引き攣ってたぞ」

 

「----」

 

 言葉が出て来ない。それは真実だ。

 道場で彼女を見た途端、私の心臓は早鐘を打つように早く大きく音を立て、周りに聞こえるんじゃないかと思ったものだ。

 背筋には悪寒と共に嫌な汗が流れ、その瞳に見つめられた時には体全体が締め付けられたような錯覚を覚えた。

 

 全く違う存在だと分かってはいても、私にとってマトウサクラという少女は鬼門になっていた。

 

「それは--っ!?」

 

 何とか答えようとしたところで感じた殺気、こんな場所で感じるはずがないそれに身構え全方位を見回す。

 間違いない。これはこちら、それも私だけに向けられたものだ。

 

「--? どうしたセイバー?」

 

 隣にいるシロウが全く気付いていないのがその証拠だ。 

 彼も未熟ではあるがあからさまな殺気を感じとるくらいのことは出来るくらいの成長はしている。だというのにこれだけあからさまなのにも関わらず全く気付かないのは、それが彼には向いていないということ。

 

「--いえ、何でもありません」

 

 逡巡の後誤魔化すことにする。

 何となくだが直感的に分かる。この殺気の主はシロウに危害を加える気がない。こいつがようがあるのは私だけだ。

 しかしこの事実をシロウに告げれば彼は確実に私についてくることを望むだろう。それでは無駄な危険に巻き込みかねない。

 

「少し忘れ物を思い出しました。申し訳ないのですが先に帰っていてください」

 

「ちょ--」

 

 突然の豹変に困惑するシロウを一人その場に置き、そこへ向かって駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----

 

「ここか」 

 

 繁華街の中でも人影の少ない空き地、周りをビルに囲まれて人気のないそこが指定された場所だった。

 どこから奇襲があるか分からない。

 死角の山が出来ている上を見上げて目をこらし感覚を研ぎ澄ます。

 

「きてくれたか、セイバー」

 

 だが、そんなことはなかった。

 その声は私にも聞こえるように、姿を隠すつもりもなく後ろから聞こえてくる。

 

「貴方は……なぜこんなめんど--っ!?」

 

 安心して振り向く。

 なぜわざわざ殺気を使って呼び出したのかは定かではないが味方であることは明白だったからだ。

 そうしてその姿を認め緊張を解き問いかけ--そこで異変に気がついた。

 

「答えろ。貴方は“この世界の“キリツグか? それとも他の世界の彼なのか」

 

 問いかける声が低くなる。

 その目には、見覚えがある。しかしそれは最近ではない。もっと前のことだ。

 

「安心してくれセイバー、僕はこの世界の僕だ。ただ昔の自分を思い出した。それだけのことだ」

 

 そうだ、この目を知っている。

 空虚で何処を見ているのか分からない、それでいて鋼のごとく頑強な意思を感じさせる。

 それは、自らを殺し、全ての情を捨て、この世の全てを引き受けてでも世界を救おうと決めてでも正義の味方になろうとした悲しい男のものだった。

 

「--っ!! なぜだキリツグ! 貴方は……!」

 

 言葉に詰まる。

 正直なところ私はこの世界の彼を見て安堵し、同時に喜びに近い感情を覚えていたのだ。

 一人の人間として生きる彼の方が、よっぽど似合っていたのだから。

 

「……すまないね。だがもう仕方がないんだ」

 

 タバコをに火を灯し煙を吐く。

 その姿も久しぶりに見た物だ。そして傍らに置かれたスーツケース、その中にあるものの察しがつく。

 嫌な予感が膨れ上がる中、キリツグは私の意図を読み取りそれを肯定した。

 

「キリツグ……貴方はシロウを、アイリスフィールを、そして……イリヤを捨てるというのか」

 

 それだけは阻止しなければいけない。そんなことをすれば、エミヤキリツグは壊れてしまうであろうことは考えずとも分かる。

 一歩前に出て聖剣を突きつける。それでも目の前のキリツグは眉一つ動かさなかった。

 

「いいや、それは違う。セイバー、僕は昔に戻ったんじゃない。家族を守るために立ち返ったんだ。それを間違えないで欲しい」

 

 そんな私の杞憂をキリツグははっきりとした口調で斬り捨てた。

 10年前とは違うのだと。

 

「色々な物が動き出している……今動かないと僕は一生後悔することになるだろう」

 

 淡々と告げる。

 しかしその姿にかつてみた悲壮感はなかった。

 

「--聖杯絡みのことですか」

 

「ああ、今はまだ気付かれていないが最悪イリヤも命を狙われることになる。魔術師というやつは一部を除いて冷酷だ」

 

 少し忘れかけていたのだがどうあろうとも私は聖杯を求め、それに導かれる者なのだ。

 そんなことを今更思い出した。

 

「貴方はこれからどうするつもりですか、キリツグ」

 

「協会と時計塔の目を引きつけながらこの事態をどうにかするために動くつもりだ……心配しなくても大丈夫さ。僕は一人じゃない」

 

 私が何を考えているのかはお見通しなのか。

 そう言って虚ろな瞳のままキリツグは笑った。

 

 私は、そんな彼に何も言うことができなかった。

 

「だから……イリヤ達を頼む、セイバー。僕がこうやって動くことを決意できたのは君が彼女達を守ってくれると信じているからだ。

 例えどの世界の僕でもこんなことを言えた立場じゃないのは分かっているが……頼む」

 

 タバコを地面に捨て、踏みつけて火を消すと私に頭を下げる。

 その姿は子供を思う一人の父親であり、それ以外の何者でもなかった。

 

「--分かりました。キリツグ。騎士の誇りにかけて、貴方の家族を守ると誓いましょう」

 

 その願いに、刀身を露わにした聖剣を地面に突き立て誓った。

 

 それを見るとキリツグはフッと息を一つつくと私に背を向ける。

 

「そろそろ教会の刺客がイリヤ達に接触するはず。彼女達でもどうにかなるかも知れないし、君が出れば簡単に片がつくことだけど僕が手を下す」

 

「それは--」

 

「敢えて痕跡は残す。そうすれば奴らは僕を狙うだろう。それでいいんだ。

 しかしセイバー、家族は誤魔化せない。僕が消えた後、必要なら真実を話してやってくれ。例え皆が僕を軽蔑しようともそれは本望だ」

 

「わかりました」

 

「それじゃあしばらくお別れだ。セイバー。皆を頼んだよ」

 

 革靴の音が遠ざかる、その姿を見えなくなるまで見つめた。

 そして私は、迷って迷って結局その逆方向に一歩を踏み出した。

 

「--御武運を、キリツグ」

 

 何度か歩いてから一度立ち止まり振り返る。そこにはもう彼の姿はない。

 呟いた言葉は誰に聞かれることもなく風に消えた。

 

 




 どうもです!

 結局こっちのが早く……あっちも今日明日にはなんとか(出来ればいいな)

 久しぶりにセイバーさん。やはりメインヒロインは違いますわ。
彼女の道着は皆様の想像にお任せします。

 次回は誰目線で行こうか……多少色々省いてセイバーさん続行か、凛ちゃんさんに戻るか

 もしかしたら完全な3人称に変える等色々とテコ入れするかもです。

 それではまた!評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております!(面白いと思われたら無言歓迎なんで投票欲しいです(小声))

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