Fate/kaleid saber   作:faker00

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第7話 決別

「舞夜、そっちの状況はどうだい?」

 

『――ケイネス・エルメロイが御息女達に接触しました。しかし……』

 

 トランシーバーの向こうの声が詰まる。

 その声の主である久宇舞夜が困惑しているのは顔は見えずとも切嗣に感じ取れた。

 ブランクがあるとは言え彼女はプロフェッショナル……それも幾つもの死地を彼と共にくぐり抜けた強者である。異常事態が起こっていることは明白だった。

 

「どうした?」

 

『御息女が……2人……』

 

「――そうか」

 

 躊躇うように告げられた舞夜の言葉は想定内ではある。だがそれは最悪の方面でだ。

 切嗣はタバコを捨て、そのまま深い緑の茂みと木々に覆われた無き道を進む。

 

 舞夜の言葉通りなら、イリヤに封印していた彼女の魔術師としての人格が形を持ったと言う事だろう。

 もちろんそんなことにならないほうが良かったのは間違いないのだが、カレイドステッキなんて規格外の魔術礼装と出会って魔術の道へ足を踏み入れてしまった以上こういう事態も想像できたことだ。

 

「――」

 

 一歩歩くごとにスーツケースが揺れる。

 その重みも感じるのは10年来だ。

 

「あと数分で着くか」

 

 GPSでの探知が間違っていなければ舞夜の所までおよそ数百mという距離にまで近づいていた。

 彼女にはイリヤ達を視認出来るところに陣取るように伝えている。

 正確な位置関係はまだ把握出来ていないがそこまで行けば狙撃するのは容易い。

 

『――っ! 切嗣、彼女達が交戦を開始しました』

 

「ちっ――! 思ったよりも早かったな。分かった、そろそろ僕もそっちに行くから待っていてくれ。手は出すな」

 

『それは――御息女が危険に晒されてもですか?』

 

「――」

 

 試すような、それでいて何処か心配するような舞夜の声。

 かつての衛宮切嗣ならばその問いに答えるのに時間などいらなかっただろうし、迷う事もなかっただろう。

 だが、それに答えるまで事実として切嗣は数瞬の猶予を必要とした。

 

「いや、最悪の場合君の裁量で動いても構わない。だけど絶対に無茶はしないでくれ。それだけは約束だ」

 

『了解です――安心しました、切嗣』

 

 トランシーバーの電波受信を示す赤いランプの点滅が消える。

 

 それとほぼ同時に切嗣は駆け出した。

 

 今のような問いはかつて何度もしてきたし、されて来た。その度に出る結論はいつも同じ。目標の為に手段は選ばない。

 そういう意味では自分はかつての自分を取り戻しつつあるのかもしれない。と切嗣は思った。

 

 魔術師という人種は例外こそあれど基本的に近代科学というものを嫌う、というよりも侮蔑している。特に歴史のある名門ではその傾向が強く、アーチボルト等その最たる家系の1つだ。

 そんな相手が銃器で任務を妨害されでもしたら一体どうなる? 答えは明白だ。

 

「はっはっ――!」

 

 例え他の目標を全て無視しようとも必ずその相手を殺すだろう。

 

 結局のところ、それを分かっていて自分はイリヤを守る為に最悪死んでくれと舞夜に頼んだのだ。

 それを聞いて舞夜が安心したと漏らした理由は定かでは無い。

 しかし彼女ならば。一見娘を思いやるようでその実自分を捨てごまにしただけである切嗣の指示をその意図を汲み取った上で実行するだろう。

 

 それを、受け入れたくないと感じたのが1番変わった所なのかもしれない。

 

 

 

 

 

―――――

 

「――っ! こちらです切嗣」

 

 その願いは届いたのか、3分後未だ舞夜は健在だった。

 腰程度の高さの茂みの影に片膝をついて隠れその奥を観察している。

 切嗣の到着に気付き振り向いた彼女は右手で口を抑え、左手で低く、というジェスチャーを彼に向けた。

 

「どうやら間に合ったみたいだね」

 

 半ば滑り込む様に舞夜の横に入るとギリギリまで音量を落として安堵する。

 そんな切嗣に舞夜は頷いた。

 

「ケイネスは礼装を放っています。御息女達も攻撃はしているのですが――」

 

月礼髄液(ヴォールメンハイドラグラム)か――厄介だな」

 

 自由自在に舞う銀色と、その間隙をくぐり抜ける少女達。

 その光景を見て切嗣は舌打ちした。

 

「この中に飛び込むのは――無理だ、下手をすればイリヤ達にまで攻撃対象にされかねない」

 

 1番シンプルな方法は考える時間が無駄なだけだった。

 前提として彼女達は自分が来るとはつゆほども思ってはいないのだ。それどころか、自分が戦えるとも思ってはいない。そんな状況で飛び込めば悪戯に場を混乱させるだけになるのは火を見るよりも明らかだ。

 

「狙撃は――?」

 

「――無理だろうな。ケイネスめ、あんな狂ったような顔をして周りへの警戒も怠っちゃいない」

 

 スーツケースからライフルを取り出しスコープに獲物(ケイネス)を捉える。

 相当精度が増したその視界から見るとケイネスが目の前の相手のみに没頭しているわけではないのが見て取れた。

 

「その上あいつはまだ遊んでいる。これでは起源弾も充分な効果は望めない」

 

 ポケットの中のコンテンダーが揺れる。

 これを使うときは必殺の機会でなければならないのは切嗣自身重々承知していた。

 

「二手に別れよう、舞夜。現状固まることでのメリットは殆ど無い」

 

 戦闘が激化、もしくは沈静化して一瞬弛緩したところでの双方向からの銃撃。

 なんの捻りもない策だが現状1番ベターなのはそれだった。

 

「わかりました――切嗣、これを」

 

「盗聴器か」

 

「ええ、通常会話程度の声量でもあちらの様子を把握できるくらいの精度はあります」

 

 ケイネスの真正面と真裏、そこへ向かって別れる直前に舞夜が耳に付けていた小型盗聴器を外し切嗣に差し出す。

 

「ありがとう――もう一度だけ、絶対に無茶はするな」

 

 それを装着し念を押す。

 舞夜はそれに一度手を挙げてそのまま木立の中へと消えていった。

 

 

 

 

「宝石魔術か……相変わらず派手に使う」

 

 切嗣は舌を巻いた。

 ほふく前進で移動している最中にも爆風が横から轟音と共に切嗣を襲う。

 その威力は確実にランク付けされるだけのものだ。

 そんな大魔術を自分の半分も生きていない少女が使っている、それも連発しているとなれば彼の驚きも必然だった。

 

「それでも全くのノーダメージ、時計塔の神童も未だ健在と行ったところか」

 

 ケイネスの正面30m、同時にイリヤ達の背後15mにあたる位置に転がり込む。

 先程より幾分か視界が悪いが……その分見つかるリスクも少ないと考えればプラスマイナスゼロと言えるだろう。

 

「チッ――」

 

 銃器類を確認するが起死回生の一手になりそうなものはない。

 グレネード型の物ならケイネスを屠る事も充分可能だ。一撃でダメでも爆炎に紛れて接近してその心臓に銃弾を叩き込むことも出来る。だがそれでは確実にイリヤ達を巻き込んでしまう。

 

「――傍観するしかないか」

 

 様子見、そう簡単に事が進む事などない。

 こんなことは今まで何度も経験してきた筈だ。幾重に策を張り巡らそうとも上手く行かない、予想を上回られるなんてことはザラだ。

 そんな時は、とにかく待つしかない。狩りをする動物と同じだ。いつか必ず出来る一瞬の勝機を信じて待ち続ける。

 そしてその時が来たら――

 

『――っ!!』

 

「ん――」

 

 雑音が入り集中が解ける。

 いつの間にか炸裂する光も音も止んでいた。

 

 切嗣は手を当て接触を直し盗聴器に耳を済ます。

 

『聖杯……戦争……ですって?』

 

「な――に――?」

 

 そこから聞こえてきた声に切嗣は言葉を失った。

 

 声の主は遠坂凛で間違いないだろう。それは良い。彼女もそこにいるのだから。

 しかし発した言葉は、彼女の口から出るわけのないものだ。

 一体なぜこんな事になっているのか――

 

『――!!』

 

『切嗣――』

 

「分かっている。くそ、あの異常者め。余計な事をべらべらと」

 

 その訳はすぐに理解できた。

 もう盗聴器を使う必要も無い程の大声。

 何があったのかは知らないがケイネスは興奮していた。その拍子に聖杯戦争と言う言葉を漏らしたのだろう。

 クラスカードがサーヴァントと結びつく以上そこからそこにたどり着くのは別段おかしくない。

 

「チャンスと見るべきかピンチと見るべきか」

 

 どちらにも取れる状況に切嗣はため息をついた。

 今のケイネスは冷静さを欠いている。この分なら弾丸一発分の隙くらいは直ぐに出来るだろう。だが……このままケイネスを放置して置いて良いものか。

 

 ――答えはNOだ。

 

 コンテンダーに起源弾を詰めてセーフティを外す。

 

 遠坂凛の存在が切嗣の心に影を落とす。彼女には知られたくないこともある。只でさえ複雑な事情が更に絡まるのは彼女達にとっても良いことではない。

 堰の破れたのと同じような状態のケイネスを見れば早めに動いたほうが良い。

 

「だがしかし――」

 

 確実に来るであろう勝機を逸する可能性もある勝負を仕掛けても良いものか。

 

 二兎を取りに行くべきか、それとも確実に一兎を狙うか、非情と常識の間を殺しきれず一瞬固まる。

 

 その迷いが命取りになった。

 

『10年前……? お父様……?』

 

「しま――!!」

 

 切嗣は思わず顔を出しそうになる。

 聞こえてきた声は虚ろ。

 その声に、彼はつい最近聞き覚えがあった。

 

 それはあの日の喫茶店、息子である士郎の封印を解いたときだ。

 

「封印が解けただと――」

 

 導き出された答えは否定しようがない。

 だが切嗣には分からなかった。

 確かに彼女のそれは士郎のものよりも古いものだ。

 しかし元々その術式自体長期的なものを目的として作られたもの。士郎のそれは切嗣が干渉するまで充分その効力を保っていた。その時期がたかだか1年ズレた程度でそう大差がつくはずがないのだが……

 

「レジストか――! 元来士郎と凛ちゃんではどうしようもない差がある。それが裏目に出たと言うのなら」

 

 切嗣は納得し苛立ちに左拳を握りしめた。

 顕在化している力量の差、それを図りきれなかった自分に憤りを隠せない。

 

 もうこうなってしまった以上仕方が無いだろう。

 切嗣は息を吐き集中を高め数秒後に見える光景イメージした。

  

 強引な切開は多大な負担を強いる。一刻も早くケイネスを止めなければ彼女の心が壊れることになりかねないのだ。

 

「いける――!」

 

 スコープ越しに見ればケイネスの顔は既に常人のそれではなくなっていた。

 

 勝てる、そう踏んで切嗣は勢い良く立ち上がり――

 

「そこまでだ、狂人」

 

 引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最期の瞬間まで何をされたのか気付かなかっただろうな。

 そんな事を思いながら切嗣は蜂の巣にされ横たわるケイネス・エルメロイ・アーチボルトに歩み寄りその息を確認する。

 

 完全に事切れていた。

 

 切嗣の銃弾が額を貫通、即死だろう。それに加えて一瞬遅れて舞夜が放ったものも的確に肺、心臓を撃ち抜いている。これで生き延びるのは例え死徒でも無理なはずだ。

 

 そう結論付けると切嗣は立ち上がり振り向いた。

 

「おとーさん……? なんで――」

 

「貴方は――」

 

「シェロのお父様!? いや、しかし――!」

 

 困惑する少女達が目に入る。彼女達の瞳は怯えも孕んでいた。

 出来ることならば見たくなかったそれを見るとこで、改めて切嗣は自らが引き返せない所まで来ていた事を痛感した。

 

「貴方は……」

 

「やあ、凛ちゃん」

 

 意識が飛んでいたのか、焦点の合わない目でこちらを見る凛の額に切嗣は手を置く――そして後ろ向きに倒れた彼女を受け止めた。

 

「トオサカ!?」

 

「心配する必要はない。ちょっと鎖を外しただけだから直ぐに目が覚めるだろう」

 

 駆け寄ってくるルヴィアゼリッタに凛を渡す。

 

「鎖……?」

 

「詳しくは目が覚めた後彼女に聞いてくれ。僕は――」

 

 訝しげに反芻するルヴィアゼリッタに背を向ける。

 必要な事を伝えた以上、最後くらいは自分の為に使う時間を切嗣は求めた。

 

「おとーさん……」

 

「ごめんなイリヤ、こんなお父さんの姿見たくはなかっただろ?」

 

 目の前で最愛の愛娘が怯えていた。

 それも当たり前の事だろう。そう切嗣は自嘲した。

 

 今の自分は父親ではない、殺人鬼の目をしている。

 そんな自分に怯えているのならそれは彼女が真っ当に育ったという事であり、ある意味喜ばしい事ではないのだろうか?

 

 そんな普段なら絶対に思わないような皮肉を心の中で呟きながら。

 

「違う……けど……」

 

「イリヤ――」

 

「――!!」

 

 もう、しばらくこんな事をする機会はこないだろう。下手をすれば一生かもしれない。

 

 そんな思いを込めて切嗣はイリヤを抱き締めた。

 

「今は分からなくてもいい。いつか……いや、そう遠くない内にイリヤには試練が訪れると思う」

 

 彼女はそんな切嗣の言葉を黙って聞いていた。

 

「まずはその時に僕が、お父さんが側にいてやれないことを許してほしい」

 

 油断すると涙が零れそうになる。

 随分と脆くなった自分に驚きながら切嗣は言葉を続けた。

 

 その声が震えていたことは、彼以外の誰もが気付いていた。

 

「だけど……それは全てイリヤの為だってことを知っていてほしいんだ……」

 

「それなら……それならこれからも一緒に――」

 

「それは――できない」

 

 子供ながらに何となく事情を察したのだろう。

 そう懇願するイリヤに思わず決意がにぶりそうになる。

 

 だが、ここでそれを受け入れるわけにはいかない。ここで流されてしまえば只でさえ過酷な道の広がる彼女の運命が更に険しくなることを切嗣自身が1番よく分かっていたから。

 

 そして。その願いを拒絶した。

 

「けど……私にはおとーさんが――!」

 

「イリヤの味方は僕だけじゃない。ママ――アイリもいる、凛ちゃんもいる、美遊ちゃんも、ルヴィアちゃんも、セラもリズも、そして……セイバーと士郎もいる。皆が味方だ」

 

「――」

 

 イリヤの顔は涙に濡れていた。

 

 片膝をつきそんな彼女に視線を合わせてその顔を優しく手で包む。

 

「おとーさん――」

 

「しばらくお別れだ、イリヤ――お父さんはいつでもイリヤのことを想ってるし、愛しているから」

 

「おとーさん!!」

 

 もう振り返れない。

 後ろ髪を引かれる……引きちぎられるような気持ちに耐えながら切嗣は歩を進める。

 そして、1人離れた所で気を失っている少女に気が付いた。

 

「参ったな……この娘も大切な僕の娘だっていうのに」

 

 彼女を抱き上げると方向を変え、側にあった大きな木に彼女を持たれかかるように寝かせる。その顔を隠す前髪を掻き上げて見れば、正にイリヤと瓜二つだった。

 

「イリヤ!」

 

「――!? なに!」

 

「この娘のこと、頼んだよ。何を言ってるか分からないかもしれないけど、イリヤにとって姉であり、妹のような存在だ。姉妹、そして家族皆仲良くすること、それがお父さんからイリヤへのお願いだ」

 

 後ろの少女が頷いたのが何となく分かった。

 それでもう憂いはない。

 

 今度こそ。

 切嗣は迷いを捨て1人闇の中へ踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




イリヤの切嗣への呼び方はパパで良いのだろうか。そもそも切嗣の頭良い戦闘書けない……
そればかり考えながらの更新。

どうもfaker00です。

しばらくケリィさん出せないと思うと寂しいなあ……これでツヴァイ編第1章終了ってところですね。 

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