Fate/kaleid saber   作:faker00

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最近作者の文体というか作風が悪い意味で変わってしまっているんじゃないかと不安になる……大丈夫なのだろうか……


第10話 仮初の日常

「はい――ええ、今日本に到着しました。冬木までは数時間かかると思います」

 

 使い慣れないタブレット式端末の向こう側にいる上司の問いに答える。

 原理はどうだが知らないし、使い心地に違和感こそあるが何千kmと離れた所にいる相手とリアルタイムに会話できるというこの機械じかけの能力は素晴らしいと言えるだろう。

 自分自身はそうでもないが、古い権威に凝り固まったお偉方の中にも使用する人がいるというのが何よりの証拠だ。

 

「無茶言わないで下さいよ……ゼルレッチ爺の動きが気になるのはわかりますが私に求められているのは確実な任務の遂行、それだけです」

 

 電話をかける直前に目的地までの最短ルートを割り出していた。

 画面をタップ、スワイプするだけでこれだけの知恵が視覚化されるのだ。魔力の消費も時間もかからない。

 それによると冬木までは片道ですら数時間かかるのだ。

 例え命令されようとも日帰りでロンドンに戻るなどできるわけがない。

 そう日本という魔術後進国に無知な上司を説き伏せる。

 

「分かっています――コンディションは万全。今日中に片をつけて明日には帰国の途につけるように尽力します――ええ、それでは」

 

 何とか説得には成功したようだ。

 通話を切ると同時に電源も落とす。ここまで来た以上後は自分の領分だ、文句や横槍を入れさせるつもりはない。

 人使いの荒い上司に溜め息をついて彼女は人でごった返す空港ロビーへ向けて歩き始める。

 

 道行く人が何人か振り返るが彼女はそんなことを意に介さない。と言うよりも気付いてすらいない。

 

 身長は170cmを超え、女性としてはかなり長身の領域に入る。そこから伸びる手足は長く、プロポーションはそこらへんのアイドルやモデル程度は遥かに凌ぐ。

 欧米人特有の肌の白さ、整った顔立ち、更にスタイルの良さを強調するスーツという服装も相まって彼女は充分美人と形容されるに相応しい容姿を持っていた。

 

 しかし人は気付かないだろう、そんな彼女のしなやかな手足から放たれる一撃は自らの骨などたやすくへし折る、いや砕け散らすだけの威力を持っていることを。

 その綺麗な手で何人もの命をなんの感慨もなく奪ってきたことを。

 そして……彼女が魔術師だということを。

 

 彼女が背負うは現代に残る神代の傑物。それこそが彼女を超一流の執行者たらしめる。

 

 

 空港を出てバスに乗り込む。

 緊縮財政だか何だか知らないがあまり金銭的余裕はない。なるべく移動手段に無駄金は使えないのだ。

 

「はい、予約はしてあります。バゼット・フラガ・マクレミッツです」

 

 数分するとバスが走り出す。

 バゼットは窓を開けて風を取り入れた。

 冷房も効いてはいるがこちらのほうが心地良い。

 

「あ――そう言えばあの人に連絡するのを忘れていました」

 

 1人ポンと手を叩く。

 先程の上司への対応が面倒で頭から抜け落ちていたが、連絡するべき人がもう一人いたはずだ。

 

「――――」

 

 辺りを見渡す。

 幸い発車直後、これから向かう先が都会でも無ければ観光地でもないこと、などが重なったおかげが人影はまばら。

 それも大体の人が夢の世界に落ちているかイヤホンを付け音の奔流に身を委ねているかのどちらかだ。

 これなら軽く会話する程度なら問題ないはずだ。

 

 そう判断しバゼットはポケットに放り込んだ携帯に手を伸ばし、その番号を打ち込み耳に当てた。

 

「――――」

 

 鳴り響くコール音。

 それが10秒ほど続いた。

 

 やはりあの人物が携帯なんてものを日常的に使用していると考えるほうが間違いだったか。

 バゼットはそう嘆息して携帯を戻すべく耳から離し――ぎりぎりでやめた。

 

「ーー携帯に出るタイミングさえ性格が悪いとは驚きですね……お久しぶりです」

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

「凛の様子はどうですか? ルヴィアゼリッタ」

 

「ダメですわね。私もあれ以来姿を見ていませんわ」

 

 頭を振るルヴィアゼリッタの答えは芳しいものでは無い。

 授業も終わり時間は夕方、未だ部活動で人影の多い校庭を邪魔にならぬ様ルヴィアゼリッタと並んで歩く。

 因みにシロウは今日は先に帰っている。夕食の支度と言峰綺礼の格闘鍛錬の時間が被りとにかく急がなければならない、と言って授業が終了すると同時に駆け抜けていったのだ。

 

「心配……ですね」

 

「心配という感情かは知りませんがこのままでは張り合いがないのは事実ですわ――全く、早く立ち直れと言うものです」

 

 ルヴィアゼリッタの言葉は表向きこそいつも通りのトゲトゲしいものであるものの、その実凛の事を心配しているのは明らかだった。

 なんというかこう……雰囲気が違うのだ。

 

「セイバー、聞きたいことがあるのですが」

 

「なんでしょうか」

 

 ルヴィアゼリッタが一歩前に出ると私に向かい合うように振り返る。

 先程までの友を心配していた姿はなく、毅然とした魔術師のそれになっていた。

 

「私もあれから調べて見たのですわ。聖杯戦争というものについて」

 

「――」

 

 やはりそう来たか。

 いつかはくると思っていた質問に納得する。

 彼女達がどれだけのことを聞いたのかは定かではない。しかし聖杯戦争という言葉を聞いたことは間違いない以上私に辿り着くのは道理なのだ。

 

「しかし幾ら調べてもまともな情報は出て来ませんでしたわ……ええ、個人だけではなくエーデルフェルト家の力を持って捜索したのにも関わらず、ですわ」

 

 ギリっと悔しそうに歯噛みする。

 彼女が名家の出身だということは分かる。魔導の世界は狭い。それは権力さえあればその世界の大体の事情を把握しようとすれば把握出来るということと同義だ。

 なのに一つも情報を得られない。それが彼女にとってエーデルフェルト家の跡取りとしてのプライドを傷付けるものであったことは容易に想像がつく。

 

 しかし、ある意味それは当然のことだ。

 私はそう冷静に見ていた。

 運命の分岐点が何処にあったのかは分からない。

 だがこの世界の衛宮切嗣も、かつて私の主として戦った冷徹な衛宮切嗣だった時期があるのだ。

 その彼が聖杯戦争を集結に導いたというのなら、情報なんてものが残っているわけがない。

 全てを消し去り闇に葬ったに違いない。

 

「だからこそ貴女に聞きたいのです。聖杯戦争とは一体何なのか。そして何がトオサカリンをあそこまで追い詰めたのか」

 

「――――」

 

 彼女の期待に応え切ることは私には出来ない。

 残念ながらそれが現実だ。私の知っている聖杯戦争と、ここで行われたそれは別物だ。

 そもそも私の知っている凛はトラウマなんて抱えていなかったし、ケイネスに至ってはその戦いで死んでいる。

 何が彼女を狂わせたのか、それを知るのは本人、そして切嗣のみだろう。

 

「後者については私は何とも言えない。しかし――聖杯戦争のことならば私の知る限りの事を話しましょう」

 

 だがそれでも完全に力になれないと言う訳でもない。

 そんな思いを持って私は自分の知り得る聖杯戦争についての全て、そして私が知る遠坂家、そして遠坂凛という人間についてをルヴィアゼリッタに語った。

 

 

 

 

 

 

 

「――こんなことならばあの時にもっと細かく聞いておくべきでしたわね……」

 

「それは仕方のないことだ――私も聖杯そのものはともかく聖杯戦争が絡んでいるとは思わなかったしそこには思い至らなかった――これは私のミスでもある」

 

 悔しそうに顔を歪めるルヴィアゼリッタ。

 私も慰めているものの同じような表情を浮かべているに違いない。

 

 彼女の言うあの時と言うのは私達が初めて会った時のことだろう。

 この世界に聖杯戦争がないと聞いた私は多くのことを語りはしなかった。今思うと、幸せな世界に安堵すると同時に無意識の内にその事を避けていたのかもしれない。

 

 そんな自分の甘さを私は恥じた。

 

 

「とりあえずトオサカについては保留するしかないという事でしょうか――」

 

「残念ながらそういう事になりますね。切嗣がいればなんとでもなったのでしょうが今の彼はアイリスフィールでさえも行方が掴めていない。探すのが現実的でない以上真実を知るのは彼女だけだ」

 

 本質的にはあまり進んでいないのだろうがルヴィアゼリッタもとりあえずとしての結論を自分の中で出したようだ。

  

「まあ貴女の話通り何処までも無駄に強い人間なのも確かですからね。時間が経てばひょっこりといつものように戻るでしょう」

 

 そう言うと再び前を向いて歩き始める。が、数秒と経たずその足が止まる。

 

「あら――」

 

「――? どうかしたのですか? ルヴィアゼリッタ」

 

 突然止まった彼女の横に並ぶ。

 その目が見ていたのは、校門の先。

 

「いえ――ここからだとよく見えないのですが……あれ、美遊達ではなくて?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

「――なぜ貴女達はこう……いえ、そもそもドッヂボールで数時間気絶とはどう言うことなのですか!」

 

「だっておねーちゃん……」

 

「だってもへったくれもありません!」

 

「はーい……」

 

 クロはしょぼくれているがこれくらいはまあ躾としてしっかりと言わなければならないだろう。

 姉として見られている以上妹を教育するのも義務なのである。

 

「で、これは一体どう言う――」

 

「クロがイリヤや私の友達に見境なしにキスしまくった結果です。それをイリヤを止めようとしたのですがちょっとヒートアップしてしまって……」

 

「キス!?」

 

「ちょっ!? 待ってよ美遊! そんな言い方しなくても……確かに間違っちゃいないけどさ……」

 

 

 未だ目の覚めないイリヤを背負う美遊が淡々と理由を告げ、クロは反論しようとするもののその声はどんどんとか細くなり最後には殆ど聞こえなくなっていた。

 要するに信じがたい内容ではあるが美遊の言葉が真実であるということだ。

 

「クロ? どういう事かきちんと説明してもらいますよ……?」

 

「お、おねーちゃん……なんだか顔が凄く怖いよ……?」

 

 顔を引き攣らせながらジリジリとクロが後退る。

 

 おかしいですね?私が浮かべているのはそれはそれは素敵な笑顔のはずなのですが……チラッと視界の端で美遊が笑ったように見えたが気のせいだろう。

 

「ち、違うの! これは……」

 

「ええ、話ならじっくり聞きますよ? 貴女がそんな痴女まがいの趣味を持っているのならそれはそれで……全力で矯正してあげますから。姉として可愛い妹を正しい道に導かないといけませんし」

 

「か、可愛い……! 嬉し……じゃない! 今喜ぶのは違うぞ私! このままじゃ大変な事に……!」

 

 顔を赤らめたかと思うとブンブンと手を振り再び青ざめる。

 そんなクロを見ているのは割りと楽しいことではあるがそんなことに興じている暇がないのも確かだ。

 

「さあ、あまり焦らさないでください。お姉ちゃんは妹が心配で心配で堪え性がなくなってしまいそうです」

 

「わ、わかった! わかったから!」

 

 何に怯えているのか分からないが焦った様子でクロが弁解する。

 そして踏ん切りを付けたように大きく息を吸い込んだ。

 

「魔力供給よ魔力供給!! 私は自前の魔力で肉体を保ってるから時々そういうことして補給しないとやっていけないの!!」

 

「――――」

 

「――――」

 

「――――」

 

 その言葉に、空気が凍り付いた。

 

「美遊、こちらへ。倫理観が歪みかねない相手と一緒にいるのは保護者として承諾しかねます」

 

「――分かりました。ルヴィアさん」

 

「セイバー……後はお任せしますわ」

 

「ええ、私がなんとかして彼女を正常な道へ戻しますのでご安心を」

 

 すーっとルヴィアと美遊が退いていく。

 それも当たり前のことだろう。自分の欲望を満たすために魔力供給なんて理由を持ち出すとは言語道断である。

 これから思春期を迎えるお年頃の美遊を引き離そうとするルヴィアも普通だし、そんな悪い子にはお仕置きが必要だと思う私の感覚は至極当然のもののはずだ。 

 

「ち、ちが……ほんとにそうなんだってばー!!」

 

 夕方の住宅街に乙女の叫び声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

「まさか本当だったとは……」

 

「だからそう言ったじゃない……おねーちゃんのバカ……」

 

「も、申し訳ないクロ……」

 

「別に良いけど……」

 

 結論として、彼女は嘘などついていなかった。

 実験台になったのは私であったが確実に魔力を持っていかれた感覚があった。

 

「それではまた明日。美遊はイリヤスフィールを送るまでは帰らないと?」

 

「はい……イリヤを送り届けるまでは離れません」

 

 そうこうしているうちに家の目の前までたどり着く。

 いつとはそこでルヴィアと美遊とは別れるのだが今日は違うようだ。

 

「それにしても美遊はすごいですね。同じくらいの体躯のイリヤスフィールを背負って息1つ乱さないとは……あの、本当に身体は大丈夫なのですか?」

 

「お構いなく。イリヤは私が運びます」

 

 こう頑なだと美遊をイリヤから引き離すのは無理そうですし。

 

 相変わらず変な気配を感じますがそれについては触れないようにと勘が告げている。触れては行けない。

 

 そうしていつもと違い、ルヴィアゼリッタのみを一人にして私達は家に入ったのだ。

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

「お帰りなさい皆さん……あら? イリヤさんは一体どうしたのですか」

 

「少し遊び疲れて寝てしまったようで……」

 

 出迎えたセラが訝しげに私達を見る。

 そんな彼女に悟られないように口調をいつも通りにして愛想笑いを浮かべる。

 気絶しているなんてバレたら大事になるのは目に見えている。

 

「そうですか……それではベットで寝かせてあげておいてください。私は食事の用意、奥様とリズはリビングにいますから」

 

 何も気付かずにセラは引き返す。

 それに目配せして美遊とクロを部屋へと急がせた。

 

 

 

「お帰りなさいセイバー。今日は部活はなかったの?」

 

「おかえりー」

 

「ただいま、はい。今日はお休みだったので」

 

 一人でリビングに向かう。

 そこにはセラの言葉通りアイリスフィールとリズの姿があった。

 

「そうなのー。ああ、だから士郎も早かったのねー」

 

「はい。これから私もそちらへ向かおうと思っています」

 

 アイリスフィールはポンッと手を叩く。

 彼女は切嗣がいなくなった後もいつものように明るい――ように表面上は見えたが実際は違う。所々の所作が違うのを悟られないようにしているが元が天真爛漫な分嫌でも分かってしまうのだ。

 

「そっかー。士郎のことよろしくね、あの子ことビシバシ鍛えちゃっていいから!」

 

 しかしそれに子供達が気づいている様子がない以上見てみぬふりをするのが吉というものだ。

 私は知らないふりをしていた。

 

「あれ……誰か帰ってくる音がする」

 

 お菓子を食べる手を止め突然リズが呟いた。

 

 セラ含む3人がそれに ん? という表情を浮かべる。それはありえない事なのだ。

 

「誰かとは……もうこの家の住人は……」

 

 切嗣以外いないのだ。

 

 そう思い立った途端全員同時に立ち上がる。

 

「まさか!」

 

「旦那様!?」

 

「キリツグ!?」

 

「おー」

 

 そうだ、あと一人しかいない。

 

 それに気づき皆玄関へと走り寄り……

 

「あれ? どうしたんだ皆」

 

 そして同じように落胆した。

 

「あの……シロウ? 今日は言峰と鍛錬では?」

 

 あからさまに溜息をついて引き返していくセラとアイリスフィールに目をぱちくりさせるシロウに問いかける。

 彼がここにいるのもそもそもおかしなことだ。

 

「え。ああ……なんかあいつ用事が出来ちゃったんだってさ。びっくりだよな。あいつに友人がいるなんて」

 

 それを、当然のことと聞き流した。

 

 




どうもです。

クッション置くとか言っといて速攻バゼット編へ。

久々に戦闘書くとか大丈夫なのか不安になりますね……

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