Fate/kaleid saber   作:faker00

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皆さんGWいかがお過ごしでしたか?



第11話 奇襲

「……あれ?」

 

 目に写ったのは真っ白い天井。

 イリヤはすぐには自分がどうなっているのか分からなかった。

 

「えーと……」

 

 ふよふよと浮かんでいる意識の中で理解した。

 はっきりとしてきたここに至るまでの記憶、横に倒れて力が抜けている身体、かけられたどことなくいつも使っているものと比べ厚い布団、鼻をつーんと刺す消毒液の匂い、これだけ揃えばもう分かる。

 

「ここ……保健室だ」

 

 そう呟きながらイリヤは上体を起こした。

 自分の服装を眺めてみれば倒れた時と同じく体操服のままである。

 それをみとめると共に一気に覚醒する。

 

「あ! そう言えばクロのやつ!――あいた!? 頭! 頭が割れるように痛いし身体全体が痛いよ!?」

 

「も〜う、怪我してても喧しいんですねイリヤさんは〜 少しは静かにしてろってやつですよ〜」

 

「ルビー?」

 

 こうなるまでに何があったのかを思い出してイリヤはベットを飛び降りようとし――横に向いた瞬間激痛に襲われ、その上を体を丸め転げ回った。

 他に見ている人がいるならば、その相手は間違いなく同情と共に失笑しただろう。

 現にどこからともかく現れたルビーは呆れきっていた。

 

「はい〜呼ばれて飛び出てマジカル☆ルビーちゃん! ですよ〜!」

 

「いや。別に呼んでないからね――?」

 

 直ぐにいつものハイテンションに戻ったルビーにイリヤは力無く返す。

 実際の所彼女にはまともに対応するだけの余力すら残っていなかったのだ。

 外見上の異変がなかったため本人も気付くのが遅れたが、全身の筋肉はバッキバキであり、頭痛も中々に酷い。

 これが学校に行く前の朝ならば、教育熱心尚且つ不正を絶対に許さないセラに自信を持って休みを要求ほどに。

 要するに彼女の中では非常事態宣言を出すレベルの辛さだということだ。そんな状態で一気に動こうとすれば今の状態はある意味必然と言えた。

 

「酷いこと言いますね〜私はずっとイリヤさんの看病をしていたというのに〜」

 

「――嘘だよねそれ。どうせ私がこうなるの見越してからかいにきたんでしょ」

 

「あら? バレちゃいました? イリヤさんも鋭くなりましたね〜 その通り、あんなに物理に魔力回したらフィードバックは当たり前ですし〜 あ、またイリヤちゃんフォルダが潤ったので感謝です」

 

「もうどうでもいいや――」

 

 どっと襲ってきた疲労感と共にうつ伏せにベットに倒れ込む。

 本来なら聞き逃せない単語がいくつも混じっていたルビーの言葉だがそれに反応するのも億劫である。どうせ口車に乗せられるのがオチと結果的にいつもよりも冷静な判断をイリヤは下していた。

 

「あ〜んもう! つまらないですね〜今日のイリヤさんは〜――――まあそれはいいです。単純な痛み以外は大丈夫ですか?」

 

「痛いけど他は大丈夫……頭はボールが当たったときのだろうし――クロのやつ、ほんとに手加減なしなんだから」

 

 異常がないことを確認するように頭に手を当てる。

 ボールが当たった時の痛みときたらもう二度と経験したいと思うものではなく、本当にお星様が見えたような錯覚がしたほどだ。

 そしてイリヤの中に忘れかけていた怒りが再び燃えがあり――

 

「それは仕方ありません。そもそも初っ端から魔力戦挑んだのはイリヤさんのほうじゃないですか」

 

「う……反省してます……」

 

 直ぐにしぼんだ。

 窘めるような口調のルビーにイリヤはビッと3本の羽根で額を指差される。

 冷静に考えれて見ると元はと言えば――更にその元凶を作ったのはクロなのは確かなのだが――ルビーの力を使って反則じみたドッヂボールを行ったのは自分が先だ。ここまでの仕打ちを受ける謂れはないが、無条件にクロを責めることも彼女には出来なかった。

 

「心配はいらないみたいですね――それじゃあ私はそろそろ失礼します」

 

「え? ルビーどっか行っちゃうの?」

 

 それでは。と敬礼するとふよふよと開いている窓へと飛んでいくルビーを呼び止めた。

 こんな時に彼女が何処かへ行ってしまうのはイリヤにとってかなり珍しいことであったのだ。

 

「はい〜今日はアイリさんとお茶会なんですよ〜――主にイリヤさんの学校での生活とそのブラコンぶりについて語るのがメインですが」

 

「待って!! 最後は聞き捨てならないよ!? ちょっとルビー!!」

 

 そうして静止も虚しくルビーが見えなくなっていくのをイリヤは真っ白になりながら見送った。

 あのステッキと母親が仲良くなっているのは薄々気付いていたが今回は最悪である。お互いある事ないこと好き勝手に吹き込み合って狂喜し、そして後日被害を受ける自分の姿が彼女の脳裏に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「もういい――寝よう」

 

 手を伸ばした姿勢で固まること数秒。イリヤが選んだのは睡眠という名の無自覚の世界への逃避という、結局逃げの一手だった。

 

「どうせ何をした所で私がおもちゃにされるのは目に見えてるし……なにしたって一緒だし……」

 

 人がいないからなのか、彼女のいじけモードに拍車がかかる。

 もしもここにセイバーがいたならば確実にお説教に突入していたことだろう。

 

「あれ? 誰か来る――って校舎の中ヒールで歩く先生なんてあの人しかいないか」

 

 布団を頭から被っていても大きくコツコツと廊下に響く音が聞こえる。

 それを聞いてイリヤは顔だけ出した。無視するのも良いのだが彼女相手にそれをするのは得とは言えない。

 

 

 

「ほんとに毎日退屈――あら? なんだ、起きてしまったの」

 

「お、おはようございます……あのー……起きてしまった、とは」

 

「もしも診断違いで命の危機に訪れてたらゾクゾクしたのに勿体無い、という事ですがなにか?」

 

「いえ、なんでもないです……カレン先生」

 

 冗談でもこんなこと言う保健教師がいるとは思えないが、この人に関しては本気も本気である。

 雑に開け放たれたドアと共にお互いから嘆息が漏れる。

 イリヤと同じ銀色の髪、短いスーツに不釣り合いな10代とも見れるような幼気でそれでいて達観した雰囲気、つまらさなそうな瞳、この学校の何故この人が教師なのかわからないランキングをダントツで独走する折手死亜華憐(カレン・オルテンシア)はいつも通りだった。

 

「で、もう治ったのですか?」

 

「え――まあ一応……」

 

「そうですか……」

 

「なんですかこれ!? 教師としては喜ばしいことじゃないの!? 私間違ってないよね!?」

 

 どう考えてもおかしい。

 つまらげな空気を全開に椅子に座り込んだカレンにイリヤは頭痛の悪化を感じた。

 

「あー――それじゃあ私そろそろ帰りますね……」

 

 ベットから降りてスカートのシワを伸ばすとイリヤはふらつく足にたたらを踏みながらも体勢を立て直す。

 正直身体はまだまだきついというのが本音だったがここにいては悪化する一途だ。

 

 

 

「ちょっと待ちなさい」 

 

「はい?――!?」

 

 フラフラと保健室を横切り廊下へ出ようとしたところで呼び止められる。

 振り向くと、イリヤの目前にいつの間にかカレンが迫っていた。

 

「あの……一体――」

 

「学校におもちゃ、それも喋るおもちゃなんて論外」

 

「はえ――?」

 

 突然のことに後頭部が殴られたような衝撃がイリヤに走る。

 

 それには確かに思い当たるふしがあるのだ。

 

「さ、さっぱりなんの事やら私には〜」

 

 しどろもどろになりながらそう返す。しかしそんな彼女の目は遠くから見ても分かるほど泳いでいた。

 

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。ふむ、クロ・フォン・アインツベルンもそうでしたが……色々と面白い家族構成だとは思っていましたが本人も悪くない」

 

「え、ちょっ!?」

 

 いつの間にか壁際にまで追い詰められる。

 迫りくるカレンの目は猟奇的な何かに満ちていた。

 

「ゼルレッチ爺の魔術礼装、聖杯の器、クラスカード――面白いですがこのままあの人の思い通りというのも気に食わない」

 

「あ――れ――?」

 

 イリヤの視界に霞がかかる。

 聞こえてくる声は遠く、どこか反響しているかのように響く。

 

「間に合うかどうかは知りませんが……気がついたらエーデルフェルト邸へ向かいなさい。ま、間に合えば少しは驚いた顔も見れるというものでしょう。ええ、その方が私には好ましい――ダメならダメでなんの問題もないですし」

 

 最後の方は聞こえていたのかも定かではない。

 確実に言えるのは、この一連の流れの中で彼女が覚えていたのはほんの一部ということだけ。

 そのままイリヤは意識を闇に手放した。

 

 

 

 

 

―――――

 

「セイバーさん!」

 

「――? どうかしたのですか、イリヤ?」

 

 焦った様子でイリヤが駆け込んできたのは夜も8時を過ぎた頃だろうか。

 夕食も終わりアイリスフィールは風呂に、セラは洗濯に、リズは……お菓子を求め外に出て、リビングに残っているのは私と士郎だけだった。

 

「いや――あの、その、」

 

「どうしたイリヤ? 俺が居ると邪魔か?」

 

 勢い良く意気込んだイリヤだが私の横にシロウが居るのを見ると突然言い淀む。

 シロウもそれに気付いたのか心配そうにそう問い掛けた。

 

「そういう訳じゃないんだけど――えーと――」

 

「はっきり言っちゃいなさいよ。ルヴィア達が危ないから今すぐ行こうって」

 

「クロ!?」

 

 呆れたような顔を浮かべたクロがいつの間にか開け放たれたままになっているドアに寄りかかって私達を見ていた。

 その目はとても冷ややかで、初めてあった時の冷徹さを感じさせた。

 

「なんで――」

 

「貴女ねえ……寝言とんでもなく煩いの自覚した方がいいわよ? まさか起きてまで続くなんて思ってなかったけど」

 

 なんだがずっと煩いとは思っていましたがイリヤの寝言だとは気付かなかった。

 

「え、私そんなこと言ってた?」

 

「この2,3時間ひたすら休みなしでね。きょうかいがどうとか言ってたからこないだの夢でも見てうなされてるんだと思ったけど――」

 

「ちょっと待てクロ! ルヴィア達が危ないってどういうことだ!?」

 

「言葉通りよおにーちゃん、まあ詳しい事は知らないけど」

 

 クロが焦ったようなシロウの言葉を受け流すと全員の視線がイリヤに集中する。

 

 注目が集まったことにたじろいだ彼女だが一度深呼吸をすると

 

「うん――私もよく分からないんだけど――」 

 

 

 

 

 

「――何もなさそうだけど……」

 

「違います。シロウ、この屋敷には中の様子が確認できないように結界がはられている。例え中で何が起ころうと外には静かな姿の屋敷としか映らない」

 

 門の目の前で不思議そうにするシロウの勘違いを訂正する。

 彼には分からなかったようだが、むしろ私は中で何か異常が起きていることを確信した。

 普段からこの屋敷には結界が張られているのだが、いつもはここまでの強度ではない。

 あくまで自然に溶け込むようなものなのだが今日は明らかに外界と隔絶したものになっていた。

 

「ここから先は何が起きてもおかしくはない、単独行動は避けるように――」

 

「ねえねえ」

 

「――? どうしたのですクロ」

 

 いざ飛び込もうとしたその時、二人に気付かれないようにちょいちょいとクロが袖を引っ張った。

 

「本当にいいの、おねーちゃん?」

 

 心配そうにそう言う。その声色だけで何が言いたいかは大体理解できた。

 

「シロウの事ですね――まあ仕方ないでしょう。あれだけ話を聞いてしまった以上彼を置いてくると言うのは難しい」

 

「けど――!」

 

 それなら力づくでもどうにかするべきではなかったのか。

 彼女はそんな風な抗議の目を私に向ける。

 

 それは普通なら正解だし正しい判断だ。しかし――

 

「クロ、シロウとて貴女やイリヤを守りたいがために修錬を積んできた。私も今の彼ならば戦力になると思ったからこそ同行を許したのです」

 

 この言葉に嘘はない。

 元の世界ではライダーの掩護というハンデ付きながらも私を倒すという領域に僅か2週間足らずで飛び込んだのだ。

 正確に言えば別人とはいえそんな彼が月単位で修錬に励んでいるのだ。その伸び方は常人のそへではない。

 

「それはそうだけど――」

 

「それにですね」

 

 なおも不服そうな表情を浮かべるクロの言葉を遮る。

 

「クロ、覚えておいてください。エミヤシロウという人間はあっさりと常識を超えてしまう。良い方向にも、そしてその逆にも。彼は強い、だがそれ故に誰よりも危ういのです――どれだけの時が経とうとも、この言葉をどうか忘れぬように」

 

「ちょっと、それってどういう――」

 

「行きましょう。中でルヴィアゼリッタや美遊が待っている」

 

 表向き平穏なその門を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

「これは――」

 

「予想以上、ですね」

 

「屋敷も全壊してる――ルヴィア達が生きてるのかどうかも――」

 

 一歩踏み出せば別世界。この言葉が一番よく似合う。

 私達は皆一様に言葉を失った。

 

 いつもは緑に溢れ、その家の壮大さを表していた中庭には幾つもの火柱が上がる。オブジェや人工物の類は例外なく崩壊し、戦地の廃墟を彷彿とさせた。

 そして――何より目を引いていた豪華絢爛な屋敷、その屋敷に至っては場に存在すらしていなかった。

 

「魔術戦――にしても派手過ぎるわね。一個小隊でも攻め込んで来たっていうの」

 

 そんなクロの言っていることが正しいんじゃないかと思う惨状。

 

 聖杯と繋がった桜でもここまでの残骸を作り出すのには手間取る筈だ。

 となると、敵はかなり強大ということはその相手を見ずともわかる。

 

 

 

 

「美遊!?」

 

 周りに警戒を張り巡らせているとなにかに気付いたのか、イリヤが突如コンクリの山となった噴水へと走る。

 転身して強化された肉体を用いうず高く積もった瓦礫をどかしていくと――

 

「イリ――」

 

 その下から血塗れになっている美遊が現れた。

 

「血――!」

 

「大丈夫……最低限の治癒は済ませてあるから……」

 

 滴る真っ赤な血に叫びそうになったイリヤを美遊が立ち上がり制する。

 近づいて見れば確かにその言葉通り、至る所から出血し重症なのは間違いないが見た目ほどどうしようもない、もしくは命に関わるという風には見えなかった。

 

「ライダーの服……クラスカードを使っても尚届かない相手という事ですか」

 

「はい――完全な実力負けです。圧倒的身体能力もそうなのですが、何か得体の知れない武器を持っていて……私の宝具もそれに完封されました」

 

「ちょっと待って、ライダーの宝具って騎英の手綱(べルレフォーン)でしょ? あの大火力宝具に打ち勝つんじゃおねーちゃんの約束された勝利の剣(エクスカリバー)だってどうなるか……あ、気を悪くしたらごめんねおねーちゃん……」

 

「いえ、気にしないでください」

 

 ライダーの宝具には覚えがある。 

 誰に言われるでもあの洞窟のことを思い出していた。

 私の聖剣程ではないにしろ聖杯戦争でも最強クラスの破壊力を誇ったライダーのペガサス、それを真っ向からのぶつかり合いで制圧したとなればクロの懸念も当然のことだ。  

 

「ですがそれには発動条件があるみたいです。カウンター型の一撃必殺宝具……セイバーさんが聖剣を使わない限り――」

 

「あちらも使えない、と言うことですか。分かりました」

 

 それならば、聖剣なしでねじ伏せるのみである。

 

 

 

 

「ではとにかくルヴィアゼリッタと凛を――」

 

「ふむ――どうやら出遅れたようだな」

 

「コトミネ!? 貴方いつの間に?」

 

 ともかく敵の姿が見えない以上凛とルヴィアを見つけるのが先決。

 そう考えて動こうとした身体が慇懃な声に動きを止める。その声の方向を見てみれば、今日は友人と合うという理由で開けていたはずのコトミネがいつの間にか門をくぐって来ていた。

 

「今、だ。帰ってきてみれば明らかに空気が淀んでいたのでね。教会の人間として確認に来たのだが――何があった」

 

 コトミネは近付いてくると真剣にそう問い掛けた。

 私はジリっと一歩後ろへ下がる。

 

「詳しくは分かりません。ですが何者かに襲撃を受けた結果がこれだと言うことしか」

 

「なに、個人だとでもいうのか? バカな事を。これだけの損害、一人で起こせるわけがない」

 

 有り得ない、と両手を挙げる。

 彼に似合わぬかなりオーバーなリアクション。

 

「――っ! 本当です。コトミネさん――ここに来たのは一人、教会の封印指定執行者バゼット・ブラガ・マクレミッツだけです」

 

 私の横に来ていた美遊が本当だと付け足す。

 

 バゼット、その名を聞くとコトミネは何か意味ありげに、ほうっと頷く。

 

「コトミネ……何か知っているのではないか?」

 

「……なぜそう思うのかね?」

 

「勘です。コトミネ、何か知っているのなら勿体付けずに話してほしい。今は少しでも――!?」 

 

 理由は定かではないが私が持っていたのは味方としてではなく敵としての警戒、コトミネから他の皆を遠ざけるために一歩前に出て――突然、何かがブレた。

 

「おねーちゃん!?」

 

「美遊も!?」

 

「では教えよう、セイバー。私はバゼットをよく知っている。残念ながらお前達の味方ではなく、敵としてだがな」

 

 

 

 

 




速報 綺礼、やっぱり綺礼

どうもです!

やっぱり言峰さんはこうじゃないと……この流れはちょっとわかりやすかったですかね?
立場的に微妙なカレンさんがなんでイリヤに色々言ったかは……ご想像にお任せします。分かったら感想欄などどうぞ笑
次回からバゼットさん登場、そして満を持して士郎さん視点へ

それではまた!評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております!


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