Fate/kaleid saber   作:faker00

27 / 56
Dancing nightの続きを考えてたはずなのに食戟のソーマとアーチャーのクロス、「食戟のエミヤ」なる作品の構想が頭の中で止まらない……
1話書いてみてもいいですかね?


第12話 窮地

「え――」

 

 凛とした背中がぐらりと揺れた、かと思うと力無く崩れ落ちる。

 それを見た士郎は一瞬なにが起こったのか理解できなかった。

 

「美遊!?」

 

「――」

 

 妹の叫ぶ声が聞こえる。見てみれば、美遊も倒れている――それでようやく理解した。

 緊急事態において人の脳のは現実的に起こりうる限りで一番楽観的な――場合によっては非現実なものも――可能性を即座に導き出し、可能性の大小問わずそれを真実と思い込むようにする自己防衛本能が働くらしい。

 事実士郎は、有り得ない、そんな偶然が突然起こるわけ無いと分かっていながらも、どこか頭の片隅でセイバーが倒れたのを認めた瞬間も急病か何かではないか? とそんな可能性で一瞬自分を納得させようとしたものだ。

 

 しかし美遊を見てそんな希望的観測は吹き飛んだ。

 一人なら、一つなら、どんな偶然だって起こりうるし、それは現実的な可能性である。

 だがそれは、複数になった途端に非現実的な願望へと切り替わる。

 

 そうして逃げ場を失った思考は次に現実的な可能性を、願望を抜きに士郎に突きつけた。

 

「こと――みね――?」

 

 もうそれしかない。

 彼女達に何かできる可能性があるとすれば、それは目の前で顔色一つ変えない神父にしか有り得まい。

 なんとかして否定しようとするが、それは無理なことだった。

 

「どうした衛宮士郎? この光景はそんなにも奇怪かね?」

 

「あ、当たり前だろ! なんでお前がセイバーを!? だって――」

 

 ――あんたは仲間のはずだろ 

 

 そう続けるはずだった言葉は、途中で途切れた。

 それ以上無駄な事を言うようなら殺す。綺礼の放ってきた殺気は嘘偽りのないものだったから。

 

「仲間だとでも? ――これはまたおかしなことを言う。一体私がいつ君達の仲間になったと言うのかね」

 

「当たり前だろ! あんたはセイバーやイリヤ達を助けてくれた! 俺の事だって真剣に教えてくれたじゃないか!」

 

 この数ヶ月は一体何だったと言うのか――そんな思いを込めた士郎の叫びも届かない。

 

 綺礼は呆れたように首を降る。

 

「現代の人間というのは総じて心が荒んでいると思っていたが――純粋すぎるのも考えものだな」

 

「なんだと……?」

 

「言葉の通りだ、衛宮士郎。そんな事だから直ぐに自分の都合の良いように物事を解釈し、いつの間にか墓穴を掘るのだ――そう、今のようにな」

 

「――――」

 

 それを言われてしまえばたとえどんな理屈であろうとも士郎には返す言葉がなかった。

 実際の所綺礼の言っている言葉の意味が分かったわけではないし、当たりがついたわけでもない。

 しかし、彼の足下に倒れる少女二人と言う現実を見ればそう受け止めるしかない。

 

 士郎は悔しさから唇を噛み締めた。

 

「私がお前達に協力したのはあくまで利害が一致したからだ。忘れたか? 私は教会の人間だ。クラスカードなんてものを放置しておける訳がない。かといってあのバーサーカーを単独でどうにかするのは不可能に近い、だからこそ凛の提案に乗ったのだ。

 そしてクラスカードは全て揃った……が、一つ問題がある。そう、ここで転がっているセイバーだ。理性を失わぬ英霊などイレギュラーも良い所だ。彼女も真っ向から倒せというのはかなり難しい。だから時が来るまで待っていた。

 そら、言葉にしてみれば随分と簡単だろう? 少しでも警戒していれば防げた自体だろうに」

 

 だから墓穴を掘ると言ったのだ。

 

 淡々と神父は語った。

 

 そしてそれに対して返す言葉など士郎には思いつかなかった。

 単純かつ明快、言われて見ればそうなるのが必然としか思えない。それだけ綺礼の答えは当たり前のものだったのだ。

 

「だから――」

 

「がたがた御託並べてんじゃないわよ。このクソ神父」

 

 尚も綺礼が続けようとしたが、その後は少女とは思えないドスの利いた低い声に遮られる。

 

「クロ……――っ!?」

 

 その声に驚き士郎が後ろを向くと、憤怒の感情を身体全体から放っているクロがこちら、その向こうの綺礼を睨みつけていた。

 

「あんたの事情もおにーちゃんの人の良さも今はどうでもいい。答えろ。おねーちゃんをどうするつもりだ」

 

 彼女にはセイバーしか見えていないようだ。

 しかしそんな今までに見たことの無い威圧感を醸し出すクロにも動じることなく神父は応える。

 

「決まっている。教会に連れ帰った後意地でもそのメカニズム、クラスカードについて解明するだろうな」

 

「え――?」

 

 それは違う。

 

 士郎はその言葉を呑み込んだ。

 クラスカードを持っているのは自分だ、彼女では無い。

 しかしそれを知らないのなら後々こちらに何か有利に傾くかもしれないのだ。

 

 

 

「へぇ……なら、殺す――!!」

 

 赤い外套の残像のみをはためかせてクロが飛び上がる。

 

 満天の月明かりを背に構えるは魔力で編まれた武骨なる弓。

 

「クロだめ!! その人には!」

 

「大丈夫よ! 死んでもおねーちゃんと美遊には当てないから――爆ぜろ!!」

 

 その姿を見てイリヤが静止の声を上げるがクロは耳を傾けることなくそのまま弓を放つ。

 音速を軽々と飛び越える速度まで一気に加速した矢は綺礼の目前に迫ったかと思うと突如輝きを放ち、轟音と共に炸裂した。

 

「おにーちゃん!」

 

「のわっ――!?」

 

 巻き込まれる直前、イリヤによってその範囲外へと弾き飛ばされた。

 そのままゴロゴロと瓦礫の中を転がり立ち上がる。

 

「すまないイリヤ――」

 

 起き上がると横にいたはずのイリヤがどこにも見えない。

 彼女の姿を探すが、見つけるより先に響いたのは剣戟だった。

 

「噓でしょ!?」

 

「だから言ったじゃない! この人はそんな簡単に行くような相手じゃないんだって!」

 

 残骸混じりの土煙に妨害されながらも音のする方向に視線を向ける。

 目が慣れるのにはそこまでの時間を擁さない。そうして見えたのは、あれだけの爆発の直撃を受けたにも関わらず無傷のまま襲いかかる綺礼、後ろを取られ驚愕の表情を浮かべるクロ、そしてその間にルビーと共に割り込むイリヤ

 

「早く行かないと――あれ?」

 

 掩護に向かわなかければ。

 

 そう判断したまでは良い。

 だが、頭は理解していたはずなのに身体は動かなかった。

 

「まさか――」

 

 背中に括りつけた木刀を取ろうとして手足の震えを理解する。

 話に聞いたことはあるが実際に体験するのは初めてだ。

 士郎は自分の不甲斐なさに拳を握り締める。自分の想像を超えた事態に完全にビビってしまっている事を自覚したのだ。 

 

「くそっ! なんでこんな時に!」

 

 今までの鍛練はこの時の為じゃないのか!? その筈だ。だけど身体が動かない。

 

 立ち尽くしたまま頭のみが無意味な問答に加速する。

 

 その内にも戦況は刻一刻と変化していた。

 

 

 

「ちぃ!! 何なのよこの化け物!! そもそもさっきのが効いてないってどういうことよ!?」

 

 縦横無尽に駆け回りながら時に弓、時に剣で迫るクロ

 

「効いてないってないって言うよりも当たってないのよ!」

 

 無尽蔵の魔力供給を誇るルビーの援助を受けて辺り一体を焦土と変えていくイリヤ

 

「はあ!? そんなん英霊でも無理に決まって――こんの!」

 

「どうした? 私が戦えることが意外かね?」

 

 そんな一部の隙も無いように見える彼女達の攻撃を受けても汗一つかかずに応戦、寧ろ互角以上の戦いを見せる綺礼

 

 この迫力は、模擬戦では見たことがない。

 

「戦えるってレベルじゃないでしょうがこの化け物め!! イリヤ! 援護!」

 

「りょーかい! ルビー!!」

 

「わっかりましたー!! 魔力砲に供給していた全魔力を物理攻撃、保護に変換、形状をランスに変更。イリヤさん、凛さんが以前使ってたあれです! 泥臭いのは嫌いですが仕方ありません! 思いっきりやっちゃってくださーい!」 

 

 近接戦闘中の援護は難しいと踏んだのかルビーを変形させてイリヤが斬り込む。

 二人がかり、それでようやく拮抗する。

 

「――これがゼルレッチ翁の魔術礼装か。只の少女をここまで強化するとは流石本物の魔法使いと言うべきか」

 

 左右3本ずつ持った黒鍵でイリヤとクロの剣戟を捌くと綺礼は後ろへと飛ぶ。

 しかしそれは後退ではない。余裕を持った上での仕切り直しだ。

 

「やっばいわねこれは――」

 

「分かってはいたけど――強い……!」

 

 対してイリヤとクロは息も上がり、疲労の色が濃く見える。

 今はまだジリ貧と言う訳でもないがこの先どうなるかは分からない。

 

 

 

「士郎様」

 

「サファイア―― そう言えば美遊とセイバーは!?」

 

「ご安心を、爆発の直前私の魔力放出で穴を掘ってその中です。障壁を張っておいたので二人とも無事です」 

 

「そうか……良かった」

 

 どこからやって来たのか、立ち尽くしている士郎の目前にサファイアが飛んでくる。

 一度意識から離れていた2人の安全の確保に士郎は安堵した。

 

「いいえ、安心されても困ります。現状は絶望的です、士郎様の力も借りてなお足りないかもしれませんが、なんとしてでも隙を見つけ出し離脱しなければ全滅は回避出来ません」

 

「えぇ――?」

 

 そんな彼の心の中を見抜いてかサファイアは冷ややかに告げる。

 

 それには違和感があった――士郎は彼女と自分の現状把握の差に疑問を覚えた。

 確かにこちらが有利ということはないだろう。今の戦いを見れば4,6で相手側有利、良くても五分五分と言ったところのはずだ。

 しかしそれにしても全滅不可避というのは些か行き過ぎてやしないだろうか。少なくとも士郎にはそう思えた。

 それに加えて――

 

「待ってくれサファイア、俺が加わってもそれでも足りないって、そんなにあいつは手をぬいてるのか?」

 

 今震えてしまっている自分自身を戦力にしても離脱が精一杯とはどういう事なのか。

 

 そんな事を言えた立場ではないのは重々承知だが、それでも言うなら士郎にとってこの戦いは確かにとてつもなく高いレベルでの争いなのは間違いないが、完全についていけないかどうかと言われればそう言う訳でもないと見ていた。

 

 他ならぬ綺礼、そしてセイバーを相手に鍛えた戦闘技術もまあ不格好ながら使えないわけではない。

 遠坂とルヴィアに鍛えられた魔術も、あいも変わらず最初からある程度形になっていた投影と強化以外はからきしだがその2つはかなり伸びた。あの黒鍵程度のものならいつでも作り出せるだろう。

 そして魔力そのものも、自分の中で撃鉄を下ろすイメージというものを確立することで常に魔力回路を回せるように――それでも遠坂に言わせると全体の3分の1程度らしいが――なった。

 

 戦えているならば、戦力になれる自信はあった。

 

「いいえ、カレイドの魔法少女とそれと同等の力を持つ少女。その2人を一気に相手取って手を抜ける人物などいません」

 

「なら――」

 

 俺が入れるなら形勢は変えられるのではないか

 

「違います。士郎さん。何も私は貴方の実力を過小評価しているのではありません。ただ――そもそも美遊様を倒した相手はあの人ではないのです」

 

「え――」

 

 サファイアの言葉に背筋に何か冷たいものが落ちるのを感じた。

 これをやったのが言峰でないのなら一体この光景を作り出したのは――

 

「おにーちゃん!!」

 

「――やばっ!?」

 

 遠くから聞こえるイリヤのひっ迫した声で意識が戻る。

 ここが既に戦場になっているという事を一瞬ながら失念し――それが致命的な間を作り出した。

 目前には弾丸のごとく迫る綺礼。

 

「抜かったな――お前はそこそこ優秀な教え子だと思っていたのだが、この程度とは残念だ」

 

 腹を串刺しにせんと突き出される黒鍵。

 目で追えないと言う事はない、しかし動かない。金縛りに合ったように止まってしまった身体。スローモーションのようにゆっくりと近づく死の瞬間。

 

「士郎様!!」

 

 どういう理屈なのかは分からない。本来入り込む隙のない筈の刹那、しかし確かにそこだけ早送りになった様にステッキが間に割り込んだ。

 

「ば――!」

 

「物理保護展開!!」

 

 目が眩む。

 サファイアが作り出した見えない障壁と黒鍵がぶつかり合い雷のように激しい光を放つ。

 あまりにも急造だったせいなのか、それとも相手の力量が単純に上だったのかは定かではない。その拮抗は時間に直すとほんの2秒弱。

 綺礼の奇襲からサファイアの介入、展開、そして砕け散るまで、士郎にとっては一瞬の出来事だった。

 

「――うあぁ!」

 

 真後ろへと吹き飛ばされる。

 確認すると幸いにして外傷はない。

 

「そうだサファ――」 

 

 自分の身を呈して守ってくれたサファイアを探す。

 見つけるのにはそこまで苦労しなかった。未だ燃え盛る屋敷、そちらへ飛ばされた彼女から長い影が伸びている。

 

 それはいい、良いのだが

 

「お前は――」

 

 なぜ、彼女以外に人影が見えるのか。

 先程の衝撃で綺礼は逆方向に飛ばされ、自分を庇いに来たイリヤと再び戦闘に突入し、クロも加勢している。

 そして自分はここにいる。ならあそこに立って彼女を掴んでいるのは――

 

 

 

「バゼット・フラガ・マクレミッツ――!」

 

「騒がしいと思い出てみれば……なるほど、どうりでクラスカードがいくら探しても出てこないはずだ」

 

 燃えあがる炎が逆光になり顔が確認出来ない。

 しかし声から察するに女性だろう。そしてサファイアの呼んだ名を聞くに外国人のはずだ。

 

「もう一振りのカレイドステッキも一般人が持っているのは予測外でした。しかしこれで全て解決です。問いましょう、貴女が残りのクラスカードを持っているのですね?」

 

 コツコツと革靴の音を響かせて近づいてきたことでようやくその姿を確認できた。 

 

「な――」

 

 思わず口から漏れたのは驚きの感情か。

 今この場においてそんな感情を持ったことに士郎はまた驚いた。しかしそれが事実なのだ。

 

 陽炎の中から見えたのは予想通り女性、そこまでは良い。だが士郎の予想の埒外だったのは――あまりにも彼女が美人だったことだ。

 

 細みのスーツに包まれたその肢体はしなやかの一言、精巧なまでに鍛え上げられそれでいて女性本来の柔らかさも失っていない。

 赤み――というよりも朱にピンクを混ぜたような色のショートヘアは目を引くだろう。

 そして白い肌端正な顔立ち、場が場ならどこぞのモデルかと思ったはずだ。  

 この惨状を作り出した張本人、バゼット・ブラガ・マクレミッツはどう考えても場違いな女性にしか見えなかった。

 

「はん! そんなもん知ってたって言うわけないでしょ!」

 

「クロ!?」

 

「集中しておにーちゃん。この状況はちょっと不味すぎる」

 

 干将漠那、見慣れた中華刀を構えたクロが何時の間にか隣に立っていた。

 そして僅かに遅れてイリヤも隣に並び立つ。

 

「バカめ。そんな殊勝な心掛けができる相手とでも思っていたのか? バゼット」

 

「私の任務はあくまでクラスカードの回収のみです。障害となるなら排除するまでですが労せずにこなせるならそれに越したことはない」

 

 綺礼もバゼットの横へと並ぶ。

 

 見下した様になじる綺礼だがバゼットはそれを意に介さずそっぽを向いて受け流す。

 

「息もぴったり……綺礼さん。最初からあの人と――」

 

 悔しそうにイリヤが呟く。

 先程の彼の言葉に加えてこの状況。恐らく、それが正解なのだろう。

 言峰とバゼットはどう見ても初対面には見えない。どちらかと言えば親密な仲……相棒、もしくは凸凹コンビと言う表現が適切だろうか。

 そんな彼等を見れば出てくる答えは必然。

 

「とんでもないレベルの達人が2人相手、こっちは3人だけど経験、火力、地力、どれをとっても上回れる要素はなし、と。絶体絶命ってやつねこりゃ」

 

 こんな悪魔のような組み合わせを相手にしなければならないということだ。

 

「クロ、作戦なんかある?」

 

 イリヤが不安そうにそう問いかける。

 彼女にもこの場の趨勢は見て取れるのだろう。

 

「ないわ。はっきり言って勝ち目なし」

 

 しかし一番落ち着いているはずのクロが出した答えはあまりに無慈悲なものだった。

 

 あっさりとそう言う。戦意を喪失したという訳ではなさそうだがそれはある種の開き直りのようなものだ。

 

「ちょっとクロ!?」

 

「あーもう煩いな。別に諦めた訳じゃないわよ」

 

 講義の声を挙げるイリヤをクロが制す。

 

「おにーちゃんもよく聞いて。現状は最悪。どうやっても私達にどうにか出来る相手じゃないわ――けど、おねーちゃんならどうにかできるかもしれない」

 

「セイバーがか?いや、けど……」

 

「分かってる。おねーちゃんが目を覚ます保証は無い。だけどもしも私達が生き残れる可能性があるとしたらそれはおねーちゃんの回復まで粘り続けること。さっきは不意打ちでやられたけどあんなんでどうにかなるほどおねーちゃんはやわじゃないんだから」

 

「――――」

 

 言われてみればそれしかないのかもしれない。

 セイバーの実力は頭一つ抜けているどころの騒ぎではないのだ。遠坂やルヴィア含めた全員でかかったところで自分達が勝てるかと言われれば微妙、と言うよりかなり厳しい。

 この劣勢を覆す起死回生の一手があるならそれは彼女の回復以外に有り得ない。

 

「じゃあそれまでは――」

 

「……見た感じになるけど多分あの二人だと綺礼のほうが上。私とイリヤで綺礼をどうにかするわ。と言うか2人がかりじゃないと無理。と言う訳でおにーちゃんはあのバゼットってやつをお願い」

 

 文句ある? ときっぱり今後の方針を断定する。

 それは愚策のようでいて、ここで考えうる最良の選択だと言う事は直ぐに合点がいった。

 

「おにーちゃんに1人任せるなんて正気なの……?」

 

 納得せざるを得ないのはわかっているがそう簡単に受け入れられない。

 そんな風に苦い表情を浮かべるイリヤ。

 その気持ちは痛いほどわかるし、心配してくれるのは嬉しい。だが――

 

「いや、いいんだイリヤ。確かにこれしかないだろう。言峰が単独で止められないのは目に見えてる。ならクロの見立てにかけるしかない」

 

 これしか、ない。

 

「――っ」

 

 目を合わせるが彼女はすぐにそっぽを向く。

 

「とりあえず納得はしてくれたみたいね――おにーちゃん。ちょっと」

 

「ん? どーし!?!?」

 

 クロに腕を引っ張られる。

 それに身を任せて彼女と同じところまで視線を落とすと突然視界が急速に狭くなる。

 そして額に何か当たる感触。クロの額と自分の額がくっついている事に気づき士郎は思わず赤面した。

 

「ちょ!! クロ!?」 

 

「イリヤは黙って! おにーちゃん、一度深呼吸して――そう、私と呼吸を合わせて――やっぱり、これだけ心が乱れてちゃ何も出来ない」

 

「あ――」

 

 ――何となくだが落ち着いた気がする。クロに委ねるとここに来てから上がりまくっていた心拍数が下がり、そして空回りを続けていた身体と魔術回路が自分の中に戻ってきたような感覚を士郎は覚えた。

 

「クロ――これは?」

 

「ちょっとした暗示よ。今この状態がおにーちゃんのニュートラル。つまり平常時、これでいつも通り身体も回路も動かせるはず」

 

 直接届いているかのように彼女の言葉が芯に響く。

 中を確かめる。確かにこれはいつも通りだ。

 

「ありがとうこれなら――」 

 

「ええ、私に出来るのはこれくらいだから――頑張って」

 

 柔らかに笑うクロから離れる。

 今なら、戦える。

 軽くなった身体と魔術回路はいつでも臨戦態勢と言わんばかりにその開放を待っている。

 

 

「ほう……中々面白いな。実力が分かっている私をなんとかして防ぐというのは理解できる。しかし衛宮士郎一人にバゼットを任せるとは大した信用だな」

 

「抜かしてなさい。おにーちゃんはあんたが思ってるよりもずーっと強いんだから」

 

 お互いの敵の前に立つ。

 愉快そうに笑う綺礼に対して士郎の相手となるバゼットは相手が士郎だけとなってもなんの感慨もみせなかった。

 

 

「降伏する気は?」

 

「ないな」

 

「では――力づくで!!」

 

 かわされた会話は僅か。

 弾かれたように飛び出してくるバゼット、そのスピードは先程の綺礼にも劣らない。

 しかし、違うことがある。それは――

 

「強化……開始」

 

 頭の中のスイッチが切り替わる。

 身体の中が迫る危機に対処すべく高速で回り始める。 

 

 手に持つ木刀を強化する。イメージするのは鋼の如く鍛え抜かれた真剣。

 この行程は何度となく来なしてきた、出来ないはずがない。

 

「うぉおおお!!」

 

 迎え撃て

 

 

 

 

 




どうもです!

今回の話はなんの為かと思われる方も多いと思うのでちょっとだけ補足を。
今話の目的は、プリヤ士郎とSN士郎の差異をはっきりさせると言うことです。

これがこんがらがると後々面倒なので。

それではまた!投票、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております!
特に感想、投票、作者のモチベーションの為にも是非ご一考頂ければ笑

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。