Fate/kaleid saber   作:faker00

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第15話 復活の騎士王

「――っあ! ……ここは?」

 

 私が目覚めたのは暗く狭いどこかだった。

 頭がふらつくような感覚と共にこの暗さに目が慣れていないのも重なって何も分からない。

 

「私は確か……」

 

 なにか大切な事を忘れているような気がするのだが……一時的に記憶があやふやになっている。

 よほど強い衝撃を受けたのだろうか。

 

 一度頭を振る。

 それでほんの少しだけましになった。

 

 冷たい手触りとともに全体の輪郭がぼやけながらだがおぼろげに見え始める。 

 ざらつく感覚は恐らく土だろう。そして見える空間は狭い。手を伸ばせば上に手が届きそうな高さに人2人分くらいの横幅。

 となるとここは洞窟か何かか?

 

「それにしてもこれは、っ……!」

 

 注意を払って四つん這いになって辺りを探る。

 そして、それに触れてしまった。

 

「美遊!?」

 

 明らかにそれは人肌だった。

 自覚すると同時に一気に感覚が覚醒する。

 視覚が広がったことによって眠っている少女の顔から全体が鮮明に映る。

 触覚が鋭敏になったことで触れているのが彼女の足であることに気づく。

 そして……頭がハッキリとしたことであやふやだった記憶が戻りここに至るまでの過程を思い出す。

 

「シロウ達は!」

 守りを失った彼らがどうなったのか。

 顔を上げて辺りを見渡す。

 しかし平常時とほとんど変わらないまで回復した視野を持ってしても彼らの姿は確認できない。

 

「まずい……!」

 

 あの3人では綺礼に勝てない。

 それは間違いない。

 

 急いで出口を探すがあいにくそんなものはどこにも見当たらなかった。

 否、あることはあるのだ。悔しさと共に後ろを向く。

 真後ろ数mに不自然に積まれた残骸がある。そしてそこからは風が流れている。感知する限りこの空間での空気の出入りはそこでのみ行われていることからもあそこが出口のはずだ。

 だが問題がある。それは、明らかにそこを塞ぐ残骸が素手では取り除くのは無理と一目で分かる量だということだ。

 

「――く……」

 

 美遊を見るが目覚める様子は無い。

 

 本来なら、素手で無理でも剣を持って吹き飛ばすのみだ。

 しかしそれには、かなりの風と魔力を必要とする。これだけ狭い空間で実行すれば私はともかく意識を失っている美遊がどうなるかわからない。

 

 強行突破はそうおいそれと選択できない。

 

「だが――」

 

 あまり時間がないのも確かだ。

 いや、もしかしたら既に手遅れになっている可能性すらある。

 

 苛立ちはやる気持ちを抑えて残骸の山と美遊を交互に見る。

 

 どれだけの時間がたっているのかは分からないが、昏倒していたのは事実だ。

 それが例え数分……それどころか1分足らずの出来事だったとしてもあの綺礼を相手にすれば致命的だ。

 

「仕方ないか」

 

 判断にかけた時間はおそらく数秒だっただろう。

 私が下した決断は魔力放出による強行突破。放っておけば確実に3人は死ぬ。

 これから私のする事で美遊が怪我を負う可能性は否定しないが……それでもどちらかを取らなければいけないのなら他にどうしようもない。

 

「行くぞ」

 

 残骸を正面にとらえ、それでいて美遊をこの先巻き起こるであろう疾風から覆い隠せる位置に立つ。

 どれだけの効果が期待できるか保証はないがしないよりはましというものだろう。

 

 左足を一歩踏み出す。

 どことなく身体がいつもより軽い気がした。

 ――情けない話だが昏倒した際に睡眠と同じような効果が出たのだろうか。

 

 右に構えた剣を前へ。 

 巻き付いた紐をするすると解くように風を解放し始める。

 これだけ狭い空間だ。行き場を失った風達はすぐに辺り構わず反射し、ここだけまるで台風の最中のようになっていた。

 

 

 

「思ったよりも――ん?」

 

 予想以上の反発に美遊をチラッと見る。

 幸いまだ吹き飛んではいないが全力で開放したらどうなるか、そう思ったところで足下に違和感を感じた。

 

「まさか――」

 

 この下は地盤がゆるいのではないか

 最悪の予想がパッと浮かび上がる。ここが崩落すれば命が危ないのは目に見えている。もしも読み通りならばこれは一大事だ。

 

 咄嗟に風を緩めると下に意識を集中させる。

 そんな専門知識はないが硬いか柔らかいかどうかくらいはわかるはずだ。

 

「そんなにやわな感じには思えませんが――と言うよりも」

 

 明らかに天然物じゃない何かが下にある気がする。

 それが何なのか地面に耳を当て思案し始めた時、聞こえる筈のない声が聞こえた。

 

 

 

「ええい! この上にいるのは分かってるってのに! こうなったら……」

 

 久し振りに聞くその声は、私の知る限り最大級に物騒な彼女のものだった。

 

「え、いやちょっと……!」

 

 まずい。

 咄嗟に立ち上がり美遊を抱き上げる。

 なぜ彼女の声が聞こえたのかは分からないが今は良いだろう。それよりも重視しなければならないのは、その声の主が相当イライラしているだろうということだ。世界を跨いでも大元は変わらなかったのだ、それならこれからやることも変わらないはずだ。

 

 なるべく端によって来たるべき衝撃に備える。

 私の予想が正しければ彼女は私ほど躊躇しない。無理だと思ったら即座に強攻策に切り替えるはずだ。

 彼女の流儀通りど真ん中からドッカーン、と。

 

「仕方ないわね……この分はルヴィアにきっちり払ってもらうんだから――フォイア!!」

 

 待つこと少し。

 かくして私の予想通り、この空間の中心付近の地面が吹き飛んだ。

 

「あー……」

 

 言葉が出ない。

 噴水のように飛び散る土やら岩やら。 

 よくもまあここまで派手に吹っ飛ばしたものだと逆に感心した――特に上に私達がいると分かっているのにやったあたりが。

 

 

「うー、なんなのよこのここ……ほんと汚いわね」

 

 噴煙の中からよいしょ、なんて言いながら登ってくる人影。

 煤を払いながらこちらへと歩いてくる。

 その姿に何だか乾いた笑いが出てしまった。

 あれだけ心配したというのに、これはいつもと全く変わらぬ姿ではないか。 

 

「あら、起きてたのセイバー。ならさっさと行けばいいのに。上、大変なことなってるわよ」

 

 久し振りに見る遠坂凛は、相変わらず壮健であった。

 

 

 

「凛、貴女どうして」

 

「なんで元気なのかーって? ごめんね。色々と心配かけちゃって。色々と落ち込んだりもしたのはホントだし、疑問があるのもホント。

 けど転んだまま立ち上がらない、立ち上がるにしてもただでってのは癪じゃない? 立ち直ってから実は結構経ってたんだけどこんな事もあろうかと準備してたのよ」

 

「準備とは――」

 

 綺礼の裏切りのことですか? 

 そう問い掛けると凛はあっけらかんと頷き肯定した。

 

「そうよ、あのエセ神父は仕事だけは熱心なの。なのに同じ教会からケイネスが来たってのに加勢もしなきゃその後の対処もしなかった。

 それでなんかあるなーって感じたわけよ。教会が動くなら、協会が動かない道理がないってね」 

 

「ですがそれは……妹弟子である貴女に手を下すのは心苦しいなどという理由と言うことも考えられるのでは?」

 

 私としては当然考えられる意見を言ったつもりだったのだが、当の凛は何を言っているのか分からないと言う風にキョトンとする。

 そして数瞬固まった後、ようやく理解したように目をぱちくりさせると思い切り笑った。

 

「アハハ! ないない。あいつに限ってそんなんあるわけないじゃないセイバー。

 そんな殊勝なやつなら私もこんな性格に育ってないわよ」

 

 まあ、まさかバゼット・ブラガ・マクレミッツなんて大物を連れてくるとは思わなかったけどね。

 そう言うと凛は真剣な顔に戻る。

 

「正直なところ協会に知られたら面倒な事しかこっちにはないわ。ルビーとサファイアの所有者が変わってるのから始まり、明らかに異質なクロに衛宮君、綺礼はともかくバゼットみたいな執行者からしたらある意味宝の山よ」

 

 そして凛は苦い表情で指を折ったと思うとゴソゴソとスカートの裾から何か丸めた羊皮紙を取り出した。

 

「凛、それは……?」

 

「最終兵器ってところかしら。セイバー、自己強制証明(セルフギアススクロール)って知ってる?」

 

 バッと紙を開く。

 一瞬なんなのかわからなかったが、よくよく見てみるとその紙にはどこか見覚えがあるような気がし――随分と昔の記憶に行き着いた。

 確かあれは、切嗣と戦った聖杯戦争の――

 

「呪術契約――魔術刻印の機能を使った取り引き。その機能上、絶対に解呪は不可能。死後の魂までも束縛するなんて代物ですね」

 

「あら、知ってたんだ。意外ねこんな細かい知識まであるんだ」

 

「以前色々とありまして……それにしても凛、貴女は一体どんな取引をしようと言うのですか」

 

 へえー、なんて感心している凛だが私が気になっているのはそこではない。

 かつて並行世界のケイネスはその契約によってランサーを自害させた。サーヴァントを自害させるなんて事まで強制させる契約なのだ。

 彼女が何を条件にしようとしているかは定かではないが、それ次第では止める必要がある。

 

「まあ気になるわよねそりゃ。ええ、安心して。最小限の妥協で最大の結果を引き出すから」

 

 

 

 

 

 

 

 

「確かにこれなら……」

 

「納得した? と言う訳で急ぐわよ。あの3人がやられちゃったら元も子もないんだから」

 

 美遊は私が連れて行くわ。と凛は美遊を背負って自分が這い出てきた穴へ飛び降りた。

 彼女の話によるとこの下にはちょうどエーデルフェルト家の隠し通路があるらしく、そちらの方が安全だと言うことだ。

 

「さてと――」

 

 しかしこちらにはあまり余裕がない。

 と言うことで私は当初の予定通り強行突破ということに落ち着いた。

 

 

 今一度風が巻き起こる。

 

「しかしこれはどう言うことだろうか」

 

 突き刺すような目を細めながら考える。

 さっきも感じたことなのがどうも身体が軽い。

 それだけならともかく、魔力量まで上がっている気がする。

 

 私は久し振りに力が漲る感覚のする身体に逆に違和感を覚えた。

 未だ5割程度しか出していないはずのだが、体感的には8〜9割程度は威力として出ていると思う。

 全力でもここを突破出来るかどうかという危惧をしていたはずなのに、いつの間にかそれはどの程度に抑えれば上にいるであろう士郎達を傷つけずに出来るかというものに変わっていた。

 

「いざ!」

 

 踏み込み、一撃を振るう。それと同時に魔力を一気に放出する。

 そして私の周りの風景が瞬時に変化していくのが見えた。

 

 竜巻に巻き込まれたように今まで私を包んでいたものがすべて空中を回る。

 そのうちに上が明るくなり、久し振りに星が見えた。

 

「いっ……けえ!!」

 

 跳び上がる。自分でもここまで跳べたのかとびっくりするほどの跳躍、そして自らが吹き飛ばした物の上に降り立った私を見て、3人が凍りついたように固まったのが見えた。

 

「おねーちゃん!」

 

「まさか……!?」

 

「セイバーさん……?」

 

 驚愕の表情で固まる綺礼と、ボロボロになって倒れ伏すイリヤとクロ。

 ちょうど決着したところだったのだろうか。

 どこもかしこもひどい惨状だが……彼らの周りは一段とひどいことになっていた。

 そして3人とも目を当てられないほど傷だらけだ。

 

「なるほど、私の可愛い妹達に随分と手荒な真似をしてくれたものですね。綺礼?」

 

 綺礼へ向かって一歩を踏み出す。

 あのバーサーカーに対峙した時ですら飄々とした態度を崩さなかったという綺礼だが……私を見ると恐怖に近い表情を浮かべて後退る。

 その理由は、私が1番よくわかっている。

 

「バカな……これだけ早く回復しているのが既に異常だというのにこの魔力量は……!」

 

 驚いている。

 恐らく彼には私が回復したところで、防御に徹すれば抑える自信があったのだろう。

 しかし今の私にそんなものは通用しないと悟ったからこその驚愕だ。

 

「向こうで何が起きているのかは知らないですが……ええ、察しの通りです。綺礼。

 今の私は先程までとは別人です。まだまだですが、相当にサーヴァントとしての力を取り戻している」

 

 パスなし、供給源の不能による魔力の不足。

 これまで私を苦しめてきた最大の難関だ。

 サーヴァントが魔力で構成されている以上まともな供給がない限りそれは当たり前のことだ。

 しかし原因はともあれその問題は大分克服されたのだ。先程からの感覚が気のせいではないということは地上に舞い戻った時に直感した。

 確実に力が戻っている。

 

「士郎から供給が始まっている。何故かは知らないが――」

 

 もう生身の人間に遅れを取ることはないはずだ。

 

 身体から溢れる魔力が渦を巻き、青い色で視認できるほどの密度にまで濃くなる。

 風が唸り、我が剣はその開放をいまかいまかと待ち震える。

 そのどれもが懐かしい感覚と言えた。

 

「ち――!」

 

 覚悟を決めたのか、綺礼は黒鍵を幾つか投擲する。

 目くらましにすら温く見えるそれを剣で叩き落とす。

 

「はぁ!!」

 

 自らの投擲物とほぼ同等のスピードで走ると言う常人離れした瞬発力。

 私の側面から迫る正拳。

 本来ならば、前に意識を集中している相手の外側から迫るその攻撃は回避不可避の一撃だろう。

 だが、それはあくまで常識レベルの話であり、私には通用しない。

 

「グウっ――!!」

 

 剣を持ち替えると左手一本で振るい、面で叩き落とす。

 ぶつかり、その骨が軋む感覚で察した。

 なるほど、強化も何もなくこの威力とスピードとはこの神父はとことん人間離れしている。

 

「ちい!」

 

 苦痛に顔を歪めながら即座に破壊された右腕を引き、健在な左手で私の首元を狙った手刀を繰り出す。

 更に速度が上がる。加えて狙いも正確。しかし

 

「当たると思ったか?」

 

 私には見えている。

 今度は下から上にその軌道を逸らすと上体が無防備になる。

 殺す気はない。

 剣を逆向きに、そしてつき出す。

 峰打ちでのような形で正中を撃ち抜くと綺礼の身体は面白いほど軽く飛んでいく。

 

「カハッ――」

 

 血を吹きながら身体を九の字に丸め飛ぶ綺礼。

 そしてその飛行は大きな木に背中から直撃することで終わりを告げる。

 

「グッ――!!」

 

 一際大量に血を吐く。

 しかしそれでもなお目から力は消えていない。なにより意識を保っていることが私には驚きだった。

 

「驚いた……まだ意識を保っているとは。貴方は下手な英雄よりもよほど強い」

 

 その賞賛は紛れも無く本心。

 しかしさすがの綺礼もそれに反応するほどの余裕はないのか動こうとはしない。

 

「さて――」

 

 これで妹達の脅威は潰した。

 あとはもう一人。

 

 身体を反対に向ける。

 燃える屋敷を背に戦う二人の姿が見える……と時を同じくして迂回を選択した凛の姿も確認できた。

 美遊はどこか安全なところに置いて来たのだろう。

 

 1歩ずつ近づく。

 私の接近に気付いたのか2人の視線が私に集中する。

 

「そうでしたか――」

 

 シロウの手に握られた双剣に、なんとなく事の事情が分かった気がした。

 その剣は、かつて彼ではない彼が私にとどめを刺したあの剣。

 この世界に来て数ヶ月、彼とシロウの姿が重なったことはなかった。

 だが今はじめて、その姿がダブって見えた。

 

「「そこまで(よ)!!」」

 

 奇しくも凛と声が重なる。

 シロウと戦っている女性も只者ではないだろうが私の脅威にはなり得ない。

 今の彼を見ればこれは確信だ。

 

 聖剣を突き付ける。

 ブリテン国王、アルトリア・ペンドラゴンに敗北の二文字はあり得ない。

 

 

 




どうもです!

あっさりしすぎと思われるかもしれませんがこれにてバゼット編終了になります。

バゼットさんあんま活躍してない?それはその通りなんですがまともになったセイバーさんに勝てる道理もないですし……(ホロウのは何度となくリセットしてる上に特例なんでノーカン)

ここから日常回挟んでいよいよツヴァイ編もラストへと向かっていきます。残念ながら原作が終わるまでにドライ編行きそうなのでオリ展全開になる予感。

途中出てきたギアスの内容は次回説明。凛ちゃん?引っ張りますよこれは。

こんな感じです!

それではまた!評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております!!

 

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