Fate/kaleid saber   作:faker00

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fateが終わってしまった……もはや抜け殻
だがこう考えよう。アニメが終わった以上カッコカワイイセイバーさんをリアルタイム進行で見れるのはこの小説だけなんだと……!(暴論)




第21話 聖杯

「まさか……」

 

「ありえませんわ! クラスカードの英霊が、まさか――」

 

 ――現実世界へと飛び出してきてしまうなんて

 

 驚愕と困惑の入り混じる声が私達の間を飛び交う。

 彼女質からしてみれば想定外も良いところだろう。

 

 その色が黄金であるか、それとも黒に染まっているか、それだけの違い。

 

 ジェット機やヘリコプターとはあまりにも違う。

 なんとも形容しがたく、どこか神々しさすら感じさせるそれは何かを待っているかのように空中に留まっている。

 かつて一度だけ見た事があるがその時はここまで近くではなかったはずだ。

 

「ヴィマーナ……」

 

 これだけ珍しいものだ。記憶の奥から引っ張り出すのはそう難しいことではない。

 驚愕に固まる皆を置いて私は至って冷静だった。

 

 確かインド神話に登場するはずだ。

 国から国を、世界から世界をかける伝説の乗り物。

 言うならば、航空機の原典とも言うべき存在。

 物によっては大気圏外への航空も可能にするというとんでもない代物なのだが……あの持ち主の事だ。

 それすらも造作もない最上の機体であることは間違いない。どんな機能があり、どれだけの機動性を誇るのかは考えるまでもないだろう。

 

「撃ち落とす……!!」

 

「っ!? やめなさい美遊! 迂闊に手を出しては!!」

 

 下手に手を出すのは得策ではない。

 かと言って傍観している訳にもいかないと次の策を考えながら上に浮かぶ舟を睨んでいると、突然青い影が飛び出した。

 それに気付いて止めようとするももう遅い。サファイアを手にした美遊は一直線に頭上のヴィマーナへと向かっていく。

 

「シュート!!」

 

 一点突破を狙ったのか、ある程度近づいた所で美遊が放った円型数十cmの狭い範囲に収束した魔力砲はヴィマーナのど真ん中を撃ち抜かんと進んでいく。

 その威力は充分。普通の航空機程度ならば問題なく貫通できるであろう。

 

「――っ!!」

 

 だがそれは、相手が普通であればの話だ。

 

「――――間に合えっ!」

 

 単純な魔力障壁どころではない。

 即興で込められる限界まで魔力を聖剣に注ぎ込む。

 

 結果から言ってしまうと彼女の一撃は目標には届かなかった。それどころか一瞬にして攻守そのものが逆転してしまっている。

 特に何があったと言うわけではない。ただ空中を飛ぶ相手が当たり前のように下からの攻撃に対する防御手段を備えていて、それが普通より少しだけ高度なものであり反射機能を備えていた。本当にそれだけ。

 混乱している状態のイリヤならどうなるか分からないが、そうでもない限りここにいるメンバーなら少し考えれば思い当たるはずの単純な流れ。

 一体どうしてしまったのか、今の美遊はそんなこと思いもしなかったというように跳ね返る自らの攻撃に空中で動きを失ってしまっている。

 

「はああ!!」

 

 そして、その程度の事だったからこそ私の対応も間に合ったのかもしれない。

  

 出来る限り最短の動作で聖剣を解き放つ。もちろん全開には程遠い威力、そもそも聖剣の一撃と呼ぶのには少し違う代物なのだが……まあそれはいいだろう。

 とにかく、私の放った一撃はぎりぎりの所で美遊へと跳ね返る魔力砲と彼女の間へと割り込み、そして互いに相殺した。

 

「あうっ――!」

 

「美遊!」

 

 その際に巻き起こった爆風に巻き込まれた美遊が地面へと叩きつけられるように落下するがそれをすんでの所でルヴィアゼリッタが受け止める。

 見たところ外傷はないように見えた。

 

「なんかあるとは思ってたけど、そう簡単にはやれないか」

 

 一連の流れを見て凛は悔しそうに舌打ちすると手に持っていた宝石を引っ込める。

 美遊の攻撃の効き次第では掩護を考えていたが、想定以上の防御能力を前に無駄打ちになりかねないということなのだろう。

 

「正解ですね。あれ、多分私達じゃ壊せません」

 

「私も無理ね」

 

 ルビー、そしてクロも同調するようにそう言う。

 サファイアの出力とルビーの出力とでは今までそう大差があるとは思えない。故にサファイアが全く通用しなかった以上彼女も無理というのは自然な結論と言えた。

 諦めたように両手を挙げるクロは……勘だろうか。

 

「残念ながら私とバゼット、それに衛宮士郎は空中戦闘に関しては無力としか言いようがない。こちらは只の人間なので」

 

 これもまた当然の結論……いや、もしかしたらと一瞬期待したことは否定しないが、流石に人間の領域は逸脱していない。

 

 

 

 

 

 

「まずい――っ!」

 

 そして手詰まった所で上から轟音が響いた。

 人工的に作り出された風が渦を巻き鉄骨が軋むように音をたてる。その元がどこかは考えるまでもない。

 

 

「くっ!」

 

「だめよ、セイバー! エクスカリバーは使わないで!――left!」

 

 逃さない手段があるとしたら一つしかない。

 だがその唯一の手段はキッパリと凛に否定された。

 

「なにをするのです凛!?」

 

 それも言葉のみならず物理的にだ。

 私の動きに呼応するように彼女が幾つか宝石を放り投げる。私の頭上に広がったそれはその言葉と共に弾け、この場の重力を何倍にも増幅させた。

 聖剣を開放するには尋常ではない集中を必要とする。いくら対魔力に優れると言っても流石に平行してまさか味方からの不意討ちへの対処など出来るはずがない。

 反応が遅れた私はそのまま巻き込まれ、ほんの一瞬だが立っているのがやっとという状況に突如追い込まれた。

 

「あいつは素のスペックで私達を圧倒する戦闘力を持ってる。倒すにはどうやっても貴女の力が必要不可欠……けど消耗してる今ここでエクスカリバーを使ってしまったらもう次はない。

 仮に戦闘する体力を残したとしても万全の状態は望めない。そうなったらそこで詰みよ。も一撃であいつごとやれる保証があるなら構わないけど、決め切れない可能性が1%でもあるならやめて」

 

 その一瞬でヴィマーナは急上昇し、雲の隙間へと消える。

 

 即座に結界を弾き飛ばし再び剣を構えた私に凛はそう冷静に告げた。

 聖剣を使うのなら一撃必殺。確実に仕留めなければそこでこちらの敗北が決まるのだと。

 

「――――」

 

 私は自分の宝具に絶対の自信を持っている。しかし、相手があの英雄王と考えると一体どんな奥の手を持っているかは分からない。

 そして凛の言う事も勿論理解できる。

 

 雲の隙間からついに敵の姿が消える。数秒の逡巡の後、諦めて私は剣を下ろした。

 

「ですがどうするのですか凛、このままでは一般人にどれだけの危害が出るか分からないではないですか」

 

 だが、ただ黙って引き下がる訳にもいかない。

 幸いにしてこの辺りには民家がないから今は大丈夫だが、あんなものが市街地に出れば大変なことになるのは目に見えている。

 

「分かってる。だからこそ焦らないでって言ってるの。あれだけの化物、私達が出来なかったらそれこそ冬木は壊滅する。

 それに気づいてる? どういうつもりか知らないけど、あいつからは一度も仕掛けてきてないのよ。今だってそう。またあの剣の雨がくるものだと思ってたけど結局何もしてこなかった。こんな風にお喋りしてる余裕もあるわ」

 

「では――」

 

「そう、闇雲じゃダメ。もう一度策を考える、そんでもってあいつが何をしたいのか考える必要がある……セイバー、貴女、あいつの事知ってるんでしょ。

 私達を庇うときにあれには勝てないって言ってたけど。あんなむちゃくちゃな攻撃してくるなんて事前に知ってなきゃ読めないわ」

 

「っ――」

 

 知っていること全てを話すしかないだろう。 

 場合によってはここにいる皆に絶望を与えかねないが、それでも何も知らずにまた挑むよりは遥かにましなはずだから。

 

「分かりました。手短にですが私の知っている8枚目についてすべてを話しましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うげ……何よそれ。最悪の怪物じゃない……」

 

「世界最古の王に……神秘の中の神秘ですわね。ならあの戦闘力も納得ですわ」

 

「クーフーリンにメドゥーサ、アーサー王と来てギルガメッシュですか。つくづく今回の事態は人智を逸している」

 

「セイバーの話通りならそれに加えて更に人格まで常識では図れないと見える。まあ黒化している以上そこについては考慮しないでいいだろうが」

 

「嫌な感じはすると思ったけど……」

 

「ギル……なに? 美遊?」

 

「ギルガメッシュ。古代メソポタミア文明、ウルク第1王朝の王。人と神の混血と言い伝えられている伝説の王。世界を一つに統一してその財の全てを蔵に収めたとも言われてる」

 

 案の定分からず首を傾げるイリヤに美遊が簡潔な補足を加える。

 大体彼女の言った通りだ。

 

 かつて聖杯戦争で相まみえたアーチャーのサーヴァント。

 その宝具はまさに規格外を誇り、同じように桁違いの宝具を誇るサーヴァントである征服王をも無傷で下し、私自身致命傷を受け勝ち切ることが出来なかった傑物。

 なんの因果かは知らぬが10年間現世に留まり最後は桜に呑まれたが……その実力は今まで対峙した英霊達の中でも断トツと言えた。

 

 そんな相手が今、私達の倒さなければならない相手なのだ。

 

 

「具体策と言われても正直な話、先が見えないのが実情です」

 

「話を聞けば何か思いつくかと思ったけど……まさか逆になっちゃうとは思わなかったわ」

 

 片手で頭を抑えて凛が苦々しい表情に変わる。

 弱点もなにもありはしない。私だって同じように頭を抱えてしまいたい。

 

「結局のところとにかく全力を持って対処する、しかないということですわね。

 全く……これならあそこでセイバーにぶっ放してもらっても大差なかったのではなくて?」

 

「う、うるさいわね! 私だってこんなことなるとは思わなかったのよ!!」

 

「あわわわ……こんな時まで喧嘩はやめよーよー」

 

 睨み合う凛とルヴィアの間にイリヤが割って入る。と言うよりかは偶然巻き込まれたという方が正しいのかもしれないが。

 

 しかしそれが功を奏したのか、二人ともイリヤを一瞥したと思うと互いにフンッと逆の方向へ顔を背けた。

 

「……そんなことをしている場合ではないでしょう。一応とは言え方針が定まってしまった以上、この場にいる価値はない。一刻も早く奴を追うのが先決だと思うのですが」

 

 溜め息を付くとバゼットがこちらを見る。

 

「問題の敵は雲の中だ。とにかく目星をつけないとどうしようもならない」

 

「――」

 

 思い当たる所がないわけではない。 

 しかしそこが関係していると信じたくない自分がいた。もしもそれを認めてしまったら、ある夫婦の努力が無駄だったということを否応無しにはっきりとさせてしまうから。

 

「それは――」

 

「気づいているのでしょう、セイバー」

 

 躊躇っていると、突然後ろから鈴の音ような細い声が聞こえた。

 

「円蔵山の横っ腹……あの英霊が求めているものはあそこにあります」

 

「な――っ!?」

 

 振り向く。

 するとそこにいたのは聖女だった。神服に身を包み、首からは十字架をぶら下げている。

 年は20前後だろうか、人のものとは思えない整った容姿に肩まで流れるような銀髪が風に揺れていた。

 そして彼女は、私の考えていた答えをあっさりと口にした。

 

「貴様は……一体――」

 

「カ、カカカ……」

 

 驚いたような表情を浮かべる中でイリヤだけが妙な反応を示した。

 まるで幽霊を見たかのように目を見開く。そして震えながら手を挙げると、彼女を指差してとんでもない言葉を口にした。

 

「カレン"先生"………!?」

 

「先生……?」

 

「こんばんわ。アインツベルン。そして……久しぶりね、お父さん」

 

 

 

 

―――――

 

「あんたみたいなのに子供がいたなんて信じられないわ」

 

「言ってなかったかね?」

 

「言ってない。頭にくるくらい言ってない」

 

 何事もなかったかのように表情を変えない綺礼に凛は苛立ちに似たなんとも言えない感情とともに乗り出していた上体を引き、身体をソファーに預けた。

 

 目的地の円蔵山までは車でも少し時間がかかる。現在ルヴィアの執事であるオーギュストが道路交通法も真っ青なドライビングテクニックを披露している真っ最中だがそれでも後数分はかかるはずだ。

 出来ることならそれまでの間に突然湧いてきた新事実について追求したかったのだが……この様子を無理だろうと諦めざるを得なかった。

 

「言えるわけがないでしょう。母を捨て私を捨てたこのゲスが」

 

「あんたもあんたで顔に似合わずむちゃくちゃ厳しいわね!?」

 

 綺礼の隣に座りながらニッコリと笑い毒を吐く姿にどこか既視感を覚えた凛だったが、それについて深く考えることはやめた。

 多分何か開いてはいけないものを開いてしまいそうな気がしたから。

 

 隣を見てみればルヴィアもカレンの外見に似合わぬ言動っぷりに苦い表情を浮かべている。

 

 残るはバゼットだけだが、彼女は少し離れた位置に座り我関せずと言うふうに窓の外を眺めていた。

 

「……まあいいわ。で、貴女は教会の……」

 

「監視役。で合ってるわ遠坂。冬木に降りた聖杯の流れを見ているのが私の役目」

 

「聖杯の監視役……それじゃあ……」

 

「10年前、4回目を数える闘争に於いて聖杯は願いを叶えることなく破壊された。しかしその破壊自体も不完全なもので聖杯は非常に不安定なものになった。

 衛宮切嗣、そしてアイリスフィール・フォン・アインツベルンの尽力によって暴走こそしなかったもののその脅威を重く見た教会は念のために監視役を置いた。説明はこれくらいでいいんじゃないかしら」

 

 言峰綺礼の娘を名乗るカレン・オルテンシアの言い分はこうだ。

 

 かつてこの地に降臨した冬木の聖杯が何かのきっかけで人間の手に渡り暴走することのないように監視し続ける。

 その為に自分がいるのだが、今回明らかに異常を感知したのでその元を探ってみたところここに行き着いたのだと。

 

「聖杯戦争とは……信じ難い事ですが現状、そして貴女の存在を見れば信じざるをえませんわね……」

 

 聖杯戦争の概要を聞いてからというものルヴィアはずっと顔を顰めている。

 その争い自体に驚いたというのもあるが、仮にも名門であるエーデルフェルトの跡継ぎである自分がそんな大規模な儀式のことを欠片も知らなかったという事にショックを受けたという方が大きいのだろう。

 

「この事を知る人間は今や驚くほど少ない。恐らく……そうですね。私達を除けば両手で数えれば足りるでしょう」

 

「たったそれだけ!?」

 

「それほどの傑物だったのです。衛宮切嗣という魔術師は。噂以上の情報を持つ人間を片っ端から消去していき、この儀式を都市伝説レベル以下の存在に引き下げた」

 

 カレンの語る衛宮切嗣という人間に凛は背筋に震えを覚えた。

 あの優しそうな男がそんな過去を背負っているとは夢にも思わなかったのだ。しかし、同時にどこか納得する自分もいることを感じていた。

 

「原因は分からないですがあの黒いのが聖杯を起動させれば世界はどうなるか……まっ別に私は構いませんが」

 

「はっ? あんた何言って――」

 

 凛の言葉はそこで途切れた。

 突然急ブレーキとともに自動でドアが開く。

 

「ここからは道がありません故……お嬢様。お気をつけて」

 

「お疲れ様オーギュスト。ここからは私達に任せない」

 

 いつの間にか風景が様変わりしている。

 凛達の目の前に広がっているのは木々の獣道だ。確かに車では進めそうもない。

 

「ミスオルテンシア、後は……」

 

「ええ、私が案内しましょう。聖杯の膝下まで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




速報 うっか凛ちゃんついに発動

どうもです!

アニメが終わりプリヤまでの3週間何をモチベーションにすれば良いんだ……

なんてぶつくさしながらの更新です。ようやくこのツヴァイ編も終わりが見えてきました……予定では恐らく後3〜4話程度の予定。

次回はいよいよfateファン待望?のあいつとあいつが登場!?(片方はまだ未定です)

皆さんの応援が最後の力になる!評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております!

それではまた!

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