Fate/kaleid saber   作:faker00

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第22話 英雄王ギルガメッシュ

 生暖かい風が吹く。昼間の気温が30度を超えるような日になると、夜になって涼しくなってもそこまで温度が下がらないのだ。

 只でさえ冬木は温暖な気候である。この土地が夏を迎えればこうなるのは当たり前だ。

 

「――っ…」

 

「大丈夫? おねーちゃん」

 

「ええ、大丈夫です。クロ」

 

 だが、今かいている汗の原因はそれではないだろう。

 およそ10数kmあまりを一気に駆け抜け、目的地の手前まで辿り着いた所で一度足を止めた。

 うっそうと生い茂っていた木々が減り始めたその向こう、ここから先が異界であると言うことは直ぐに分かった。

   

 クロやイリヤが止まったのは恐らくそのためだろう。

 こんな異常だらけの空間になんの躊躇もなく飛び込める人間は愚者だ。大概この手の質問だと愚者なのか、それとも大物なのか、という2択になるのが常だがこれは違う。愚者1択であり、それが通用しない存在はヒトではなく神の領域に踏み込んでいるはずだ。

 

 私とて例外ではないの否定しないが――けれど、本当の理由は他にある。

 

「――っ」

 

 腕が、そして全身が、カタカタと小刻みに震える。それは自力では止められそうもない。

 

「だが……」

 

 ここで止まる理由にはならない。

 心のうちを誰にも見透かされないように、無理やりに1歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 久しぶりに思い出した――忘れていたフリをしていただけかも知れない

 頭の底から爆発するように湧き出て、身体を蝕んでいく感情――これはなんなのか

 厳密には違うはずの目の前の光景がある1つの記憶と交差する――やめろ

 ここを私は知っている――違う、私は知らない

 暗い暗い闇の底と今にも壊れそうで悲しげな彼――これ以上思い出させるな!!

 

「エクス……」

 

「だめ!! おねーちゃん!!」

 

「――えっ……」

 

 その声で、ぎりぎりの所で引き戻される。

 自分の身体に意識が戻るといつの間にか私は剣を上段に構えていた。振り上げられた剣は今にもその真の力を見せつけんとばかりに輝きを放つ。

 

「ぐっ――」

 

 それを必死に押し留めた。

 こともあろうに目の前には決死の表情を浮かべて立ちはだかるクロが、少し離れたところには怯えたように立ち尽くすイリヤがいた。もしも止められなかったら二人とも跡形も無く消し飛んでいたところだった。

 

「私は――」

 

「おねーちゃん、覚えてないの?――茂みを抜けた瞬間に真っ青な顔して立ち止まって、私達の声も聞こえないみたいに突然剣を――」

 

 思い出しながら恐怖にかられたのか、徐々に小さくなる声と一緒にクロが俯く。

 

 小さな身体の向こう、地面が崩壊し崖になっているその下の景色を見て、何があったのかを思い出した。

 何か爆発でも起こったのか洞窟が消え剥き出しになった大空洞、そしてその中心にいる英雄王。

 

 聖杯は厳密に言えば2つある。小聖杯と大聖杯、聖杯戦争で争われる万能の願望機。表向きの商品として争われるのが小聖杯、これが一般的に聖杯として知られるものだ。というよりも参戦者でも普通はそれしか知らない。

 しかし、もう1つある。表には出てこないが裏で聖杯戦争を支えている屋台骨とも言える存在が。

 サーヴァントの召喚という荒業、マスターの選定から令呪の付与、それには莫大な魔力が必要となる。そして何もその魔力は何処からか自然に湧いてくるものではない。きちんとした供給源がある。

 それが大聖杯。この冬木の地脈である柳洞に設置された魔法陣である。

 地脈から数十年かけてマナを吸い取ることにより七騎のサーヴァントを召喚する魔力を蓄え、それと同時に聖杯の降臨にふさわしい土地に組み立ていく。

 聖杯戦争の舞台装置を一手に引き受ける巨大なエンジンとでも言えば良いだろうか。

 

 かつて、桜に取り込まれた私はそれを見た。どこまでも禍々しいその孔も

 そしてそこが私の死地となった。私に手を下した彼の顔。

 情けない話なのだがこの土地に足を踏み入れたことで思い出したくないものが全てフラッシュバックし、一瞬にして我を失ったのだ。

 

「あそこがなんなのか知ってるのね――それも私よりも正確に」

 

「ええ、私はあれを直に見たことがある。少しばかり形は違いますが」

 

 クロの言葉に頷く。

 まだ本格的には動いていないが大聖杯の基本的なシステムは私の知っているそれと同じだろう。

 

「あれが動きはじめたら厄介です。とにかく急いであれから英雄王を引き離さないと――」

 

「――――ha ha ――ha !!」

 

 そこまで言いかけた所で、ドンッという鈍い音と共に大地が大きく揺れた。

 

「あれって……」

 

「起動しただと――!」

 

 3人で崖の端まで駆け寄る。

 洞窟が剥き出しになった奥の景色は先ほどまでも充分に異様なものだったが、今は更に凄まじいものに変貌を遂げていた。

 

「ルビー! あれって!?」

 

「大聖杯のものでしょう。これだけの術式を地脈に組み込むなんてこれを作った人は神域の天才としか言いようがないですよ!」

 

 大空洞全体が何か形容し難い色に発光している。そのもとになっているのは無数に敷き詰められている魔法陣だ。

 怪しく光る一つ一つが極大の魔力の渦を巻き、外界と隔絶された世界を構成する。

 放出されるその魔力はこうしている間にも広がり、ドーム状の結界に近い物を作り出し始めていた。

 そしてその中心にいるのは紛れもない英雄王。

 

「ん――?」

 

 だがそれに、何故か違和感を覚えた。

 

 ――その原因は敷き詰められた術式……いや、確かにあれは聖杯のそれであることに間違いはないはずだ。以前桜の中で見たそれとほぼ同じはず……なのだが……

 

「そんなバカなことが……」

 

 突然全く関係のない点と点が結ばれた。

 この聖杯と、そして私。

 

「止めなきゃ――」

 

「イリヤ?」

 

「あれを……止めないと!!」

 

「っ! 待ちなさい!」

 

 ありえない仮説にたどり着こうとした。

 考えが纏まり切る前に隣にいたイリヤが空中へと舞い上がり、そのまま中心部の英雄王へと特攻していく。

 何か考えがあるのなら話は別なのだが……そんなことあるわけ無いのが問題なのだ。最後にチラッと見えた横顔。彼女は確実に恐怖と危機回避という本能だけで最悪の選択肢を選んでしまっている。

 

「美遊! クロ!」

 

「分かりました……!」

 

「りょーかい!」

 

 こうなってしまった以上は仕方が無い。

 クロと美遊に目配せし、イリヤを追ってほぼ垂直の崖を急加速しながら一気に下る。

 必然的にドームの中へと踏み込むことになるのだが、その中は台風よろしい爆風が吹き荒れていた。

 

「ローアイアス!」

 

「風よ!!」

 

 風王結界を解き風を風で相殺しながら中心へと駆ける。

 上ではクロが盾を展開する声が聞こえた。

 

「まだか……!」

 

 思った以上に視界が悪い。

 奥へと進めば進むほどに目の前に白い靄がかかる。それは大気中に満ちるマナだ。魔術行使には絶対に必要なものだがここまで濃くなるともはや毒の領域である。

 事実、私は一歩ごとにきつくなる息苦しさを覚えていた。

 

 

 

 

「――――」

 

 おかしい。

 数秒後、足を止めた。

 いつの間にか目の前をうめていた靄が随分薄くなっている。それも突然に、まるで潮がひくようにスーっとだ。

 

「へっ……?」

 

 そして完全に視界が晴れた時。思わず変な声が出てしまった。

 そこに見えたのは英雄王と激闘を繰り広げるイリヤでもなければ、無残に倒れる彼女の姿でもない。

 見えたのは……

 

「イリヤ……そんな破廉恥な娘に育ってしまって私はアイリスフィールと切嗣になんと謝れば良いのか……」

 

「はわ!? ち、ちが!」

 

 信じたくはない、と言うよりも直視したくない光景。

 

「あはは……ギャラリー増えちゃったね……しかもよりによってまた懐かしい人が――あとそろそろ"そこ"から手を離してくれないかな?」

 

 倒れる金髪全裸の少年と

 

「ん―― っっ○✗△▼!!??」

 

 彼に覆い被さり、それだけならまだしもその股間をしっかりと握っているイリヤの姿だった。

 

 

 

 

 

―――――

 

「あああ……何か大切な物が汚された気がする……」

 

「イリヤ……大丈夫。貴女は清らかだから。あんなやつには汚されない!!」

 

「随分と酷い言い草だね」

 

「いや、何でも良いから服来なさいよこの露出狂」

 

「――――」

 

 何と言えばよいのか分からない。

 

「貴方があの英雄王……ギルガメッシュの子供時代と言うのは信じられませんね……」

 

「ですよねー。僕もなんであんな大人になっちゃうのか理解できませんよほんとに。僕が迷惑をかけましたねセイバーさん。改めて謝罪を……あ、僕の事はギルとでも呼んでください」

 

 ペコリと頭を下げる英雄王、もといギルに目眩のような感覚を覚えたのは気のせいではあるまい。

 

 ――いくらなんでも別人にもほどがある。大人のこいつは唯我独尊を人の形にしたような奴だったのだが……少年時代はこんなにも純真な子供だったのか

 

 イリヤとギルを見つけた後、クロと美遊と合流して私達はすぐに場を離脱した。

 理由は1つしかない。イリヤの特攻によってギルは術式の中心から押し出され一度その結界の威力を弱めたが、制御を失った怪物はすぐに暴れ狂う。

 ギルという楔を失った大聖杯は暴走し、さっきまでいたあの場はサーヴァントも人間も、一歩足を踏み入れれば全てを殺す死地へと成り変わった。靄はかつて見た総てを灼き尽くす泥へと変貌を遂げ、風は触れるものを尽く切り裂く凶刃とかした。

 空を飛べる者がいなければあそこで全滅は免れなかっただろう。

 そして膨張を続ける聖杯から少し離れた所へと降りたのだが……そこからは今見ている通りだ。

 

 

 

「はいはいわかった……分かったから! 服を着ればいいんでしょ。ったく……けど今の状態でちゃんと繋がるかは分からないからね?」

 

 堂々としすぎているギルと過剰反応を起こすイリヤ。

 どっちもどっちだと思うのだがギルが服を着るという至極当然の結論で決着を迎えた。

 

「えーと……」

 

「あれって――!」

 

王の財宝(ゲートオブ・バビロン)……彼の宝具です。あの中は一体どうなっていることやら」

 

 ギルが手を伸ばすとなんの前触れもなくその手の先の空間が黄金に歪む。それに気付いたクロがギョッとして一歩後ずさるがまあそれも無理のないことだ。

 今のギル本人にこちらに危害を加える気はないだろうが、あれは大量の剣を射出したものと全く同じだ。何も反応しないほうがむしろおかしい。

 

「よし、まあ良いかな! これでやっとお話できるよね♪」

 

「むむむ……それならまあ……」

 

 ギルが服を着終わると今までずっと一定の距離を保ちルビーを構えていたイリヤが恐る恐るといった様子ながら近づいてくる。そして横についていた美遊も。

 

「いくつか聞きたいことはあるが……ギル、あれは一体なんだ?」

 

「相変わらず単刀直入ですね、セイバーさんは――貴女も知っていると思いますけど。と言うよりも自分で言ってるじゃないですか。その通り、あれは聖杯ですよ」

 

「私が聞いているのはそう言うことではない。貴様なら分かっているのだろう」

 

 ――この目は嫌いだ。

 

 全て何もかもお見通しと言うふうに見透かしてくる目。前言撤回。やはりこいつは純真でも何でもない。いや、子供らしい無垢さ、嫌味のなさはあるし多少は丸いのかもしれないが本質的には変わらないらしい。

 私は思わず口調が荒くなるのを感じた。

 

「はあ……なら最初からそう言ってくれればいいのに。セイバーさんも意地悪だなあ……うん、そうだよ。 

 あれは"貴女の知ってる"聖杯じゃない」

 

「やはりそうですか……」

 

「どう言うことおねーちゃん?」

 

 私の中での違和感がするすると紐解かれていくのと反対に、話がわからないとクロが私達の間に割って入る。

 

「確かに聖杯は起動している。しかし本来ならそれはありえないのです。なぜなら今聖杯戦争は行われていないのだから……だが聖杯が起動する条件はそれしかない。

 となるとその理由も、荒唐無稽ですが1つしか考えられない」

 

「まさか……」

 

 それだけで察したのかクロの表情がサッと切り替わる。彼女は聖杯戦争について知っている。それならば気付いてもおかしくはない。

 

「ええ。その通りです。そもそも私がここにいるのがイレギュラーなのですからどんな事があろうとおかしくない」

 

「クロ、この聖杯は私や貴女の知っているそれではない。どこのものか知らないが、どこか"別の世界"の聖杯。そして私は……本来そちらへ参戦するはずの英霊だったのでしょう」

 

 これしか、ない。

 切嗣は確かに聖杯戦争を止めたのだろう。しかしそれはあくまでこの世界のものだけであり、他の世界の事柄には手を出せない。

 無限に広がると平行世界ならば聖杯は唯一無二とは限らないはずだ。突拍子な話に聞こえるかもしれないがまるっきり出任せと言うわけではない。 

 ヒントはあった。何体もの英霊が巣食った鏡面界、あれはこの世界と平行世界の次元の狭間とも言える空間だ。

 第二魔法を応用できるルビーやサファイアならともかく、本来英霊がどうこうできるものではない。それでも出来る理由を探すなら……そう、クラスカードだ。

 あれが次元に干渉出来る力があるなら話は別だ。そしてクラスカードが英霊を呼び出すのなら、呼び出す為の大元になる存在が必要となる……

 

「さすがセイバーさん。当たりだよ」

 

 パチパチと拍手の音が聞こえる。

 そちらに目を向けるとギルが心底愉快そうに笑いながら手を叩いている。

 

「僕は特殊な英霊でね。聖杯戦争の記憶が英霊の座に行っても無くならないんだ。だから僕には色んな記憶があるんだけど……」

 

 そこで彼は私から目を離す。

 

「このカードには見覚えがある。そしてもう一人、ね」

 

「誰を見ている――っ!?」

 

「ね、美遊ちゃん。平行世界のお姫様」

 

 

 

 

 

―――――

 

「美遊! 美遊ー!!」

 

「さっさとひく!! 何度やればわかるのよ!? あれにはまともな攻撃は効かないわ!」

 

 ――美遊ちゃんは生まれながらにして完全な聖杯だ

 

 ――そして彼女はこの世界の人間じゃない

 

「けどクロ! あれに美遊が!」

 

 ――諦めなよ。これも君のfate(運命)だってさ

 ――ごめんね、イリヤ……

 

「だからってどうしようもないでしょ!」

 

 巨大な異形の塊が立ちはだかる。

 一番近いのは昔聖杯戦争で見たキャスターの大海魔あたりになるだろうか。

 最初はイリヤとクロも攻撃していたが効く様子がない。私の攻撃も届きこそするもののすぐに再生してしまいイタチごっこだ。

 

「美遊ごと取り込むとは……!」

 

 本体であるギルの姿は辛うじて見ることができる、が

 美遊の姿は見ることが出来ない。

 

「グッ!!」

 

 吹き出される泥を除けて横へ飛ぶ。

 そして私がいた場所を見てみれば、完全に溶解していた。

 

「触れたらアウトですね……あれに関しては私が誰よりも知っていますが」

 

 二度とあんなものを喰らう訳にはいかない。

 

「おねーちゃん!」

 

「――? どうしたのですクロ」

 

 上空から応戦していたクロが隣に降り立つ。

 

「エクスカリバーであれ消し飛ばせないの?」

 

「……微妙ですね。本体だけならともかくあの結界が障害になる」

 

 よく見積もって五分五分と行った所だろうか。

 本体の耐久力はそこが見えている。だが問題は周りを覆う聖杯の魔力だ。

 

「そっか……うん、私もそう思う。けどこのままじゃジリ貧よ。おねーちゃんはともかく私とイリヤじゃ火力が足りなすぎる」

 

「ですが凛達を待つ時間はないでしょう。あの結界がこれ以上広がれば……」

 

「暴発して大変な事になるわよね……あんまやりたくないけどこれしかないか……イリヤ! こっち来て!」

 

 大体分かっていたと苦笑するとクロがイリヤを呼ぶ。

 そうして降りてきたイリヤに真顔でこう提案した。

 

「イリヤ、このままじゃどうしようもないのはわかるわよね?」

 

「う……まあ……」

 

「原因は火力不足。せめて私達が倍の力を出せればいいんだけど」

 

「そんなこと言ったってしょうがないじゃない! 実際そんなに出ないんだから!」

 

「ええ、だからそれを解決しようと思って――二人に別れて力が半分ならもう一度一人になっちゃえばいいと思わない?」

 

 

 

 




駆け足気味ですが。

ギルパート説明多すぎてきつい、んや! 
セイバーさんの勘が良すぎる? セイバーさんはクールビューティーだから良いんです。(断言)メガネも似合ってたでしょ?(ubw並感)

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