Fate/kaleid saber   作:faker00

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遂にツヴァイ編完結。


Epirogue Restart of Fate staynight

「固有結界……だと?」

 

 明け方の紅い丘。無数の剣が大地に突き刺さり、朝焼けの太陽が眩しく照らす。空には巨大な歯車が2つ浮かんでいる。回る歯車は微妙に食い違っていて、互いに噛み合うことはない。

 感じられたのは不器用なまでに真っ直ぐで。それでいて今にも折れそうなのを必死にこらえるような信念。

 そんな不揃いな風景の中心にいるイリヤを見て察した。これは彼女の持つ世界なのだと。

 

 固有結界、自らの心象世界で現実世界を侵食する大禁術。

 私が現実に体験したのは今までに一度だけ……これで2度目になるそれが英霊と化したイリヤの切り札だったのか。

 

「ええ、私に残ってるのはこの世界と、彼への思いだけ。本当は反面教師としてこの娘達にも見せてあげたかったんだけど……」

 

 イリヤは一度手で胸を抑え、目を瞑って何か思案したと思うとしょうがないなあとため息をついた。

 

「こんなに気持ち良さそうに眠ってる女の子を叩き起こすのも、グロいの見せるのも趣味じゃないしね――シロウ! リン!」

 

 彼女は振り向かない。後ろにいる彼らにその顔を見せることはなく言葉を続ける。

 

「今はなんのことか、私がなんなのか分からないと思う……それでいい、それでいいから見ておいて。

 必ず彼はどんな道を通ったとしてもここに至る。けどそこから先、独りになるかはまだ確定していない。だから覚えておいて。この光景を、この哀しい世界を。そして……私という存在を! 二度と間違えたりしないように!」

 

 途中からは独白と言うか心からの叫びだった。まだ未来がある者に対する警鐘と、過去の己に対する叱責がない混ぜになったような。そんな叫び。

 

 さあて、スッキリした。なんて言ってイリヤは一歩を踏み出す。そして私はその横に並ぶ。

 

「イリヤ……」

 

「なに? 王様」

 

「私の胸で良かったら貸しますよ?」

 

「……バカ。王様の奥ゆかしい胸じゃ同情しちゃって他の涙出ちゃうじゃない。気持ちは嬉しいけど遠慮しとくわ」

 

 それが彼女に出来る精一杯の強がりだったのだろう。

 

 

 

 

「はっはっは!! いや、こりゃ傑作だね!!」

 

「……英雄王!」

 

 くぐもった笑い声が響く。ここにきて沈黙を守っていたギルがとてもおかしいものを見たと言わんばかりに高笑いを始める。

 

贋作者(フェイカー)の元になるお兄さんだけでも滑稽だって言うのにその道を示そうとするのは更にその贋作(フェイク)だなんてさ! 全く……つくづく憐れな存在だね」

 

「貴様――!!」

 

「やめて、王様。冷静にならなきゃ勝てるもんも勝てない」

 

 前に出ようとした私の腕を掴みイリヤが俯き気味に首を横に振る。

 

「まあ事実は事実だしね……確かに私は何も救えたことのないただの贋作よ。けどね英雄王――」

 

 彼女は顔を上げてキッと前にいる異形と化したギルを見据える。その顔には一瞬浮かんだ悲しげな表情はなく、覚悟を決めた強い決意だけが残っていた。

 

「今まで何も救えなかったからって今回も救えないなんて決まりはない。ここであんたぶっ倒して、シロウもリンも救って正義の味方に私はなる!!」

 

 バッと両手を広げるとその動きに呼応して大地から無数の剣が浮かび上がり、まるで意思を持っているかのように彼女の後ろに隊を為す。

 

「―――っ!」

 

 

 

「行くよ英雄王――武器の貯蔵は十分かしら?」

 

 その顔には、いつか、どこか昔に見たような自信たっぷりの笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

――――― 

 

「思い上がらないでくださいよ……贋作風情がぁ!!」

 

「はんっ! そっちこそただ持ってるだけのコレクター程度で調子に乗らないでよね!」

 

 それは正しく戦争だった。

 無数に飛び交う剣戟は絶え間なく、全ての空間が戦禍の渦に呑み込まれている。

 ただ一つ違うことがあるとすればそれは、その担い手がことごとく存在しないという事だろうか。

 

「いっけえ!!」

 

 イリヤはその中を縦横無尽に駆け、飛び回り隙を見ては宝具と化した一撃を叩き込む。

 しかし剣のカーテンを潜り抜けたその一撃でさえも彼を覆う聖杯の泥からなるモヤに阻まれて届かない。

 

「ちいっ!!」

 

 届かなかったことを確認すると彼女は空中で身体を捻り鎖付きの剣を取り出す。そしてそれを私のそばにある巨大な岩にぶん投げて突き刺すと、強引に起動転換し無謀備な身体へと迫る剣の山を回避した。

 

「ほんっとうに無茶苦茶な……」

 

「イリヤ!」

 

 そのまま岩陰に滑り込み息を整える彼女に駆け寄る。時間に直せば短いのだろうがこれだけの極限状態の中での全力だ。疲労の色は隠しきれていない。

 致命傷こそ回避しているものの身体中至るところボロボロで、もう赤いのが外套なのか、それとも血なのかすらわからない。

 

「このままでは保たない。私も……」

 

「だからダメだって言ってるでしょ? 王様じゃあれは突破出来ないし、逆に決められるのも王様だけなんだから。あのモヤは責任持ってなんとかするからそれまでは温存……それよりも――」

 

 私の提案を最後まで聞きもせずバツを出して否定する。そして額から流れる血を拭くと心配そうにチラッと私の後ろを見た。

 

「シロウ達ならだいじょうぶです。あのステッキはバカかも知れませんが能力は確かだ」

 

「そう、それ聞いて安心したわ。あの人たちに死なれたら一体何かしたいのか分からなくなっちゃうから」

 

 本当に安心したのか彼女はフーッと大きく息をひとつ吐くと立ち上がった。

 

「もう一踏ん張りしてみますかね。良い? 王様は絶対に出てこない事、これ約束だから」

 

 パンパンと背中と尻についた土を払うとイリヤは私にもう一度念を押して溢れる剣戟の中へ飛び出した。

 

 

 

「さて――」

 

 私も少し遅れて立ち上がる。いろいろと考えなければ行けないことはあるのだが――

 

「どう謝れば良いのかが問題ですね」

 

 これから私がすることについてどうイリヤに謝罪するか、だ。

 

 気持ちは分かるのだが、これ以上黙って見ているというわけにもいかない。と言うよりももう我慢出来ない。

 ここから見える戦闘は傍目から見れば五分五分だ。しかし実際の所イリヤにとって圧倒的に不利なのは明らかである。

 

 その最たる原因はやはりあのモヤだろう。戦力的には五分、それどころかイリヤの方が上回っているようにも見えるのだがモヤに対してのが決め手がない。

 それに対してギルからすれば一撃直撃させればそれで終わりだ。この差はどこまでも大きくなる。

 

「まあ勝てば官軍と言う事で」

 

 結局うまい考えが浮かばなかったのでそれ以上はもうやめた。

 

 根はイリヤなのだしあまり下手に策を弄するよりもその方がよっぽど良い筈だ。

 

 

「にしても……」

 

 相変わらず燦々たる光景である。

 岩の上に立ってみれば、その向こうは戦場だ。それを形づくっているのがたった二人と考えると背筋に何か冷たいものが走るのも致し方ないというものだろう。

 

「ちょ……! バカセイバー! 何やってるのよ!」

 

 いち早く気付いたイリヤから怒鳴り声が聞こえる。

 こんなシーンにも関わらず私は思わず苦笑した。何だかんだ言って彼女も相当なお人好しなようだ。

 あと王様なんて他人行儀な呼び方よりも彼女にはセイバーと呼ばれる方があっている。

 

「――ああもう分かったわよ! 勝手にしなさい! それでやられちゃっても知らないんだから!」

 

 私が引く気がないというのを察したのか、イリヤはそう一度だけ言うとそれ以上は何も言わなかった。

 ならそれをお許しが出たということで受け取られせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

「へえ――流石はセイバーさん……これは僕も本気にならざるを得ないかな」

 

 数分後、息も絶え絶えな私達を見てギルがそう笑う。

 結果から言うと押し切ることは出来なかった。どれだけ撃ち込もうともモヤはビクともしない。

 膠着した戦局を覆すことは出来ず、次第に防御に不安の残るこちらが押され始めていた。

 

 対峙するギルの姿は戦いの最中にも徐々に変貌していて、今や巨人となったそれは酷く醜悪だった。

 

「なに? 私じゃあ前座にもならないって?」

 

 隣に立つイリヤが、皮肉げに返す。

 しかしその顔には明らかな憤怒の表情が浮かんでいた。

 

「いやいや、まさか贋作の贋作がここまでやるなんて思いもしなかったよ。さすがは聖杯の器だ」

 

「ちっ――やっぱりあんた嫌いだわ」

 

「ただもう時間切れだよ。不完全も良い所だけど聖杯は僕の支配下に入る……ほら、見てみなよ」

 

 ギルがそう言うと、今まで彼の周りを覆っていた黒い泥とモヤが黄金に輝き始めた。

 

「これは……!」

 

 この色は知っている。確か英雄王の宝具は全て……

 

「そう。もうこれは僕の財の1つさ。美遊ちゃんはまだ取り込めてないけどまあこれでも十分だよね。

 なにせ聖杯だ。英雄がいくら束になっても叶うはずがないでしょ」

 

「――――」

 

 万事休すか。私は思わず息を呑んだ。

 

 聖杯を相手取る、と言うのはかなり無謀な話である。

 どんな形であれそれが聖杯である以上は願望器であり、その影響を受けないものなど無い。

 やつが私達を消そうとすればその瞬間に勝敗は決する。 

 

「――へえ」

 

「イリヤ……?」

 

 だと言うのに、こんな状況でイリヤはここ1番の笑顔を見せた。

 まるで勝利を確信したように。

 

「――ん? 何がおかしいのかな?」

 

 それに気付かないギルではない。始めて余裕からではない言葉を吐く。そこに込められていたこは純粋な疑問だ。

 

「ええ、笑っちゃうわ。だってあなた――自分で勝てる勝負をわざわざ落とすなんて宣言したのもおんなじなんだから」

 

「は――?」

 

 何を馬鹿な、そう思ったのは私だけではないのだろう。

 ギルも間抜けな声を上げたかと思うと半ば困惑したような表情を見せる。

 

「――えーっと……贋作者さん? あまり変な駆け引きはお勧めしないよ? 僕としてもそんなことに時間は割きたくないし……壊れちゃったって言うならすぐに殺してあげるけど」

 

「駆け引きも何もないし壊れてもいないわ。ただ事実を述べただけよ。あなた言ったわよね? あれはもう自分の財だって」

 

「――それがどうかした?」

 

「じゃ、それはバビロンの一部、てことは宝具ってわけだ」

 

 ならやっぱり私達の勝ちよ。

 

 そう嘯くとイリヤは無防備なままギルへと近づいて行く。

 

「イリヤ! 何を――」

 

「ほんとは自分でここまで漕ぎ着けるはずだったんだけど……こんなにセイバーに対する執着が強かったなら最初からやっとけば良かったわ。全く、怪我損よほんとに」

 

 彼女はぶつくさ文句を言いながらモヤに触れる直前で立ち止まる。

 虚をつかれた形になったのか、それとも何も脅威に感じていないのか、ギルも特に動くことはない。

 

「英雄王? せっかく手に入れたところ悪いんだけどあなたの聖杯――食べさせてもらうわ」

 

「何を――!」

 

 彼女の周りの雰囲気が、空気が変わった。

 それに危機感を覚えたのかギルも彼女を押し潰さんと足を振り上げる。だが……もう遅い。

 

「今更気付くなんてほんとに慢心なんだから……刻印弓(フェイルノート)、第二開放」

  

 イリヤが右腕をあげ、袖を託しあげる。するとその腕につけた何かから刺青のようなものが浮かび上がると弓の形をなす。

 

夢幻凍結(ファントム・キャンセラー)!!」

 

 

 

―――――

 

 これが私が彼から貰った最初で最後のプレゼント。相変わらず空気の読めないあんぽんたんだから、サイズが合うまで何年もかかっちゃったし、それどころかこれをつけてる姿を見てもらうこともなかったけど……まあ良いか。

 

 彼の代名詞である弓でありながら私を守る盾でもある宝具。攻撃では下手くそな私の弓の技術を補い支え、守備では相手の宝具の効果そのものを無効化してしまう。

 なんでこんな桁違いなものを作れたのかは知らないけれど。現に今これのお陰で助かっているんだから。

 

 ありがとう……

 

――――

 

 

「宝具を……喰った?」

 

 言葉を失った。

 イリヤが彼女の宝具の真名を開放した。と思うとモヤが影も形もなく霧散した。

 一瞬の出来事だったが間違いない。確かにあの弓が――

 

「あっつー! 流石にこりゃキャパオーバーよねえ……あーあ、魔力もほとんどすっからかんよ」

 

 モヤを全て呑み込んだのだ。

 

 理屈がどういうことかは分からない。だがそうとしか言えない。

 疲労困憊になりへたり込むイリヤの右腕からは抑えきれなかった分なのか白煙が上がっている。

 

「まさか……こんな奥の手を持ってるなんてね――」

 

「しま――」

 

 あまりの衝撃にイリヤ以外は完全に止まっていた時間が動き出す。

 

 いち早く動いたギルがなんの抑揚もない無機質な声で倒れるイリヤを掴み上げた。

 

「ぐ――」

 

「君には最高の栄誉をあげる。まさか贋作者に僕の友を使う事になるなんて思わなかったけどそのくらいの報酬は与えるべきだからね……天の鎖よ!!」

 

 空間が歪み幾つもの鎖が飛び出す。 

 その鎖はイリヤの四肢を絡め取り宙に磔にする。

 

「イリヤ!!」

 

「だい……じょうぶよ……助けてくれるならさっさと……」

 

 こいつをぶっ飛ばしてよ

 

 かすれる言葉に最後のスイッチが入るのを感じた。

 

「ええ、イリヤ。貴女の渾身の一撃、絶対に無駄にはしない……!!」

 

 風を開放する。

 魔力は十分。体力も十分。これで最高の輝きを見せられないのなら人類最高の聖剣を名乗る資格などない……!!

 

「無駄だよ! 僕の剣には敵わない!」

 

 私の動きに合わせてギルも剣を取り出す。

 刀身が螺旋状になっている不可思議な剣。見たことはない。だが直感的に察した。あれがギル本来の宝具なのだと。

 

「はあぁぁぁ……!」

 

「出番だよ……エア!」

 

 聖剣は世界から光を集め、螺旋は世界を捻る。

 

 対極に位置する2つの力は互いに極限まで集い、そして……

 

「エクス……」

 

「エヌマ……」

 

「カリバー!!!(エリシュ)!!!」

 

 激突し、世界を裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

「グウっ――!!」

 

 紅い丘が消えていく。

 元に戻っていく世界を横目に激突は終わらない。

 大勢は……まさの少し不利。

 

「そんなことが……!」

 

 聖剣が押し負けるなんて

 

 今まで無敵を誇った聖剣で押しきれない相手に底しれない恐怖に近い感情を覚えた。

 星の危機に対応するため星に鍛えられた神造兵器、それがエクスカリバーだ。ならそれと五分、それ以上に対峙する相手は一体何なのか。

 

「――――」

 

 じりじりと、身体が引きずられるように後ろへ下がっていく。

 今までに感じたことのない感触。今まで私と向かい合い、散っていった英雄達も同じような気持ちを味わったのだろうか。

 

 このままでは――

 

「セイバー!」

 

「馬鹿! 飛び出したら死ぬわよ!」

 

「だけど見てるだけってわけにもいかないだろ!」

 

 絶望の淵に立ったその時。

 声が聞こえた。こんな状況でさえも私を助けようとするものの声。それを聞いて、ぎりぎりの所で踏み止まった。

 

 

「あ、あぁぁぁ!!」

 

 全てを込める。

 押しつぶされそうな圧力に一歩を踏み出し押し返す。

 それによって傾いた天秤がようやく戻る。だが戻っただけだ。こちらには傾いていない。

 

「――!? 僕の半身が執着するわけだ!! これだけ強い人は見たことが無い!」

 

 向けられる賛辞。それは半分本心で半分は余裕だ。絶対的に有利な状況から持ち直されたことによる驚愕、そしてそれでも傾かなかった自身の有利。

 その2つが混ざったのが今の言葉だ。

 

「この後ろには絶対に……!」

 

「でもエアには勝てない! この均衡を誇りに思いな「あーあ、あんた本当に詰めが甘いのね」がら――!?」

 

 勝ち誇るギルに突然冷静な声が混じる。

 引きちぎれそうな身体を抑えながらその方向へ視線を向ける。するとそこにはがんじがらめになりながらも指だけを上げギルに向けニヤリと笑うイリヤがいた。

 そしてその指に光が浮かび――

 

「やるなら徹底的にやりなさいよ――ガンド」

 

 ポーン、とホントに軽くギルの眉間を直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

「まさかあんな初等魔術が決め手になるなんてね……いや、侮れないもんだね」

 

「随分と余裕ですね」

 

「ま、中途半端ですけど受肉できましたし……何よりこれだけやって負けたんだから文句なし、むしろすっきりですよ」

 

 黒い残骸に倒れるギルはどこか清々しくさえあった。

 

 随分と傍迷惑な話なのだが、もう敵意は感じない。

 

「で、一体どうなったのよルビー? 起きたら全部終わってたんだけど?」

 

「いやあ……ちょっと色々あって……」

 

「――――」

 

 ルビーと追いかけっこをするクロに彼女の面影を見た。

 本当に限界だったようであれから1分と経たないうちに消えてしまった彼女だが、その直前に残した

 

 ――シロウとリン、そして私をお願いね。貴女がいるならきっと運命も変えられるはずだから

 

 この言葉と、最後の最後まで浮かべていた爽やかな笑顔は忘れることはないだろう。 

 

「ええ、任せてください。イリヤ」

 

「え? なにか言った? セイバーさん」

 

「いえ、独り言です」

 

 シロウと共に美遊に肩を貸すイリヤに微笑みかける。

 もう二度と合うことも無いだろう名も無き英雄。彼女の願いがこの少女ならそれを叶えるのは私の役割のはずだ。

 

「じゃ、帰りましょうか! 色々あったけどこれで全部おしまいよ!」

 

「長かったようです短かったような……とりあえずゆっくりしたいですわ」

 

 凛とルヴィアの言葉でぞろぞろと皆が家路に着くべく動き始める。

 

「さて、私も行きますが貴方はどうしま……ギル?」

 

 どうするのか、とギルを見る。

 すると横たわっているギルは上を見たままカッと目を見開き途轍もない形相を浮かべていた。

 

「どうかしま――逃げろ――え――?」

 

 震える声で呟いた。

 そしてバッと立ち上がるとギルは叫んだ。

 

「みんな逃げろ! ここにいたら――」

 

 

 

 

 

 比喩でも誇張でもない。その瞬間、確かに世界は真っ白になった。

 

 

 

 

「あーあ、ギャラリー多すぎんだろこれ」

 

「うだうだ言うな。我々の任務は聖杯の器と特異点の回収だ」

 

「まさか……エアで出来た世界の裂け目から……!」

 

 落雷のような衝撃が走り続ける。

 地面に這いつくばる、と言うよりも立てない。なんとか顔だけを上げてみれば空が真っ二つに裂け、その中心から二人の女性が舞い降りてきていた。

 

「いや――」

 

「ほーう、言うようになったね、み・ゆ・さ・ま♪」

 

「み――ゆ――」

 

 その内の一人が美遊を蹴り上げると担ぎあげた。

 イリヤは意識はあるようだが身体は動かないようで、悔しそうに涙を流すことしかできないでいる。

 

「――! バカ者! 器に傷がついたらどうするつもりだ! ベアトリス!」

 

「あー、はいはい。分かってるよアンジェリカ。あんたもさっさと連れてきなさいよね」

 

 美遊を担ぐベアトリスと呼ばれた女性はアンジェリカというらしい相方に叱責されるがつまらなそうに受け流す。

 アンジェリカはそれを見てため息をつくとベアトリスとは別方向に行き一人を肩に担いだ。

 

「え――」

 

 その人物を見て、頭の中が真っ白になった。

 

「シロウ――」

 

「これがこの世界の特異点か……ほんとに似てるもんだね」

 

「根本的には同じだからな――では帰るぞ。ダリウス様の時間を取らせるわけにはいかん」

 

「なーんであんなおっさんに……私はジュリアン様の方が良いんだけどなー」

 

 何故かはわからない。だが分かるのは、このままではエミヤシロウが連れて行かれるということだけ。

 

「――――」

 

 そんなこと、許せるわけがない。

 

「ふざ――けるなぁぁ!!!」

 

 答えが出た瞬間、全神経をフルに動員して立ち上がる。身体は悲鳴を上げているがそんなことは知った事ではない。

 

「へぇ……」

 

 凶悪そうな笑みを浮かべたベアトリスが振り返る。

 

「アンジェリカ、こいつ頼んだ。オリジナルの英霊……せっかくだから相手してやるよ」

 

 アンジェリカに美遊を渡すとベアトリスは1歩前へ出て構える。アンジェリカは傍観を決め込むようで良いとも悪いとも言わない。

 

 

「まさかこんだけダメージあっても立ち上がれるなんてなあ、やっぱり本当の英雄は格が違うってか……けど、うざいんだよ。そう言うの」

 

「――――クラスカード!」

 

「少しくらいは楽しませてよね――夢幻召喚!!」

 

 クラスカードを取り出すとそう叫ぶ。

 そして再び雷鳴が轟き――

 

「さあ、始めようじゃない……」

 

 雷を纏う巨大な槌を取り出した。

 

「クッ!!」

 

 あれは不味い。

 直感的に脅威を理解し後ろへと距離を取る。

 対抗するためには、たとえ魔力が足りなかろうが最大の一撃しかない。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

悉く打ち砕く雷神の鎚(ミルニョル)!!」

 

 迫る雷を聖剣で迎え打つ。

 無茶な行使でもう何もかもが限界寸前だが、止まるわけにはいかない。

 

「いっけえええ!!!」

 

「おいおいマジかよ……!」

 

 渾身の力を込める。

 少しずつ、ほんの少しずつだが徐々に聖剣の輝きが雷の嵐を押し始める。

 それを見て焦ったような表情を浮かべるベアトリス。

 

 ――いけるか

 

 そう、思ってしまったことが行けなかったのかもしれない。

 

冥府門(タルタロスゲート)

 

「そんな――」

 

 上空から舞い降りた絶望の門に真っ向から立ち向かうことになってしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「流石は最優の英霊だ……まさか万全の半分もいかない状態でベアトリスの一撃を凌ぐなんてね」

 

「――――」

 

 片腕で首を掴まれ持ち上げられる。

 なんとか抵抗したいのだが……魔力も、体力も、もう何も残っていない。

 

「だが少し度が過ぎるようだな」

 

「ウァァ――!」

 

 力が込められる。私を掴んでいるのはどこにそんな力があるのかも分からないような細みの男性。

 

「ダリウス様」

 

「ん? もう時間か――よし、行こうか」

 

「ウッ……」

 

 アンジェリカに声をかけられるとダリウスは興味なさげに私を放り投げる。

 抵抗どころか転がされた所から体勢を整えることすらもう出来ない。

 出来るのは地面に臥してダリウス達を睨みつけることだけ

 

「カハッ――ハァハァ――」

 

「いい目だ……また機会があれば会おうじゃないか。誇り高き騎士王よ」

 

「まっ――」

 

 シロウと美遊を含めた5人が空中へと浮かぶ。

 

「いや――だ――」

 

 遠くなる。霞んでいく視界に必死にその姿を捉える。

 

「シロウ――」

 

 手を伸ばす。でも、それでは届かない。

 

「シローーウ!!!」

 

 

 

 

――――――

 

 覚えているのはそこまで。次に気がついた時には周りには誰もおらず、雪の降りしきる街に一人倒れていた。

 そばにあったのは、剣だけ。

 

「シロウ……」

 

 剣を杖に必死に歩いてきたがもう身体が動かない。

 

「一体……どこに……」

 

 雪の中に倒れ込む。衰弱仕切った身体が芯から冷えていく。

 

「シロウ……」

 

 もう何も考えられない。口に出来るのも考えられるのもそれだけだ。

 

 

「――――」

 

 自然と涙が溢れてきた。

 また私は大切な人を守れず、無様に消えるのだろう。そう思うともう止まらなかった。

 

「私は――」

 

「セイバー!?」

 

「え――」

 

 どれだけの時間がたったのか。

 知っているような声が聞こえた気がした。

 目だけそちらに向けるが――霞みきった視界ではあまり見えない。

 

「そんなことが……――セイバー! わかる!? 私よ!」

 

「貴女は――っ!?」

 

 もう一度声を聞いて、驚愕と共に意識が覚醒した。

 それと一緒に目まではっきりする。そして心配そうに私を覗き込む彼女を認めて、あまりの驚きに心臓が飛びてるんじゃないかというくらいの衝撃が走った。

 

「凛……いや、リン!?」

 

「まさか記憶があるなんて……久しぶり、セイバー。一体何があったのか話してくれるわね?」

 

 

 

 

―――――

 

 

 ――開けない夜はない。運命の夜は再び周りはじめ、霞む星は輝きを取り戻す。

 

 

 




ツヴァイ編完結です。なんとかアニメ前に完結できて良かった。そしてドライはオリジナル展開を決意。(ただの別視点かも?)とにかく、いよいよ原作ドライとは違うドライへと……

本当のkaleid saberはここからです。(もろパクリ)



今後の予定なんですが取り敢えずしばらくの間休みをください……もう疲労が限界です。
その間にのんびりとdancing night更新したり、気が向いたら短編書いたりして本格復帰まで過ごそうかなと思っています。

皆さんたくさんの応援ありがとうございました。感想ついたりお気に入り増えたり評価ついたりとても励みになりました。

またドライ編でお会いしましょう。

最後はいつも通りに……それではまた! 評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしております!!

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