Fate/kaleid saber   作:faker00

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FGO必死のレベリング作業でAP80突破。そろそろイベントなりオケアノス解禁なりしてくれないかな……こんな小説書いてるのにアルトリアさんもイリヤちゃんも持ってないんだよ、エミヤさんもいないんだよ……


Prologue2 衛宮切嗣

 ロンドンの夏は日本に比べると遥かに過ごしやすい。

 気温が35度を超えるような事はほとんど無い、というよりも30度を超えるようないわゆる真夏日と呼ばれるような日もごくごく僅かだ。

 

 加えて時刻は夜。どんよりとした雲の隙間からほそぼそと降り注いでいた陽の光もなく、むしろ肌寒いと言ったほうが適当だろうか。

 

 だが、今ここにおいては随分と様子が違うようである。

 魔術師の総本山であるロンドン時計塔、世界の魔術の叡智の集うこの地だが、いつもの荘限さは見る影もなく、辺りを見渡してみれば至る所から火の手、そして多くの人の叫ぶ声が上がっていた。

 

 無論、ただの火事などと言うわけがない。

 そんなものにこれほどの侵食を許すほどこの時計塔は脆くはないのだから――

 

 

「く、食い止めろ! 魔導元帥の部屋には近づかせるな!」

 

「無理だ! もう止まらん! 防衛線がみるみる突破されていく……!」

 

「くっ……こんな時に限って執行者連中が出払っているなんて……!」

 

「魔術師殺し、衛宮切嗣とナタリア・カミンスキー……大分前に一線を退いた筈の奴らがなぜ今になっ――」

 

「邪魔だぁ!!」

 

 怒号に遮られた言葉が続くことはない。

 

 別段名門の出というわけでもない、だが歴史が無い家系の出自というわけでもない。

 凡庸であるもののセンスが無いわけではない。努力を積み重ねることでここにいる権利を得ることが出来た。

 言うならば中の上の魔術師、決して悪くはない。そんな彼が外敵と相対することが出来たのは僅か数秒のことだった。

 

 次の瞬間には彼の意識は根こそぎ刈り取られ、隣にいた同僚とともに目覚めるのは翌朝になってからの事であったのだから。

 

 そしてその時の記憶を元に後の彼はこう語ることになる。

 

 ――今後の魔術師には護身術も必修科目にするべきだ……と。

 

 

 

 

「はぁ――」

 

 発泡音と共に銀色の髪を靡かせた鬼が舞う。

 

 ありふれた比喩表現ではない。少なくともその後ろを走る切嗣には彼女――ナタリアの姿は正しく鬼にしか見えなかった。

 

 もはや手綱を取ろうとすることさえ諦め溜め息をつく切嗣、そんなタイミングで彼が自ら右耳に仕込んでいたイヤホンに音声が入る。

 

『どうかしましたか、切嗣』

 

「いや、なんでもない――そっちはどうだい舞夜?」

 

『問題ありません。むしろ思ったよりも雁夜が使えたので順調すぎるくらいです』

 

「雁夜君が……」

 

 いつもと変わらず冷静で抑揚すらほとんど感じ取れ無い声が淡々と告げる、陽動として別行動を取っている舞夜からの連絡に切嗣は目を細めた。

 

『舞夜さん! 爆薬のセットも終わったしそろそろ出ないと……追っ手がきます!』

 

『分かりました。では切嗣、また後ほど――』

 

「ああ、ちょっと待った舞夜――雁夜君に伝えておいてくれ。元々君はこっち側の人間じゃない、凛ちゃんのことで力むのも分かるけど無理はしないように、と」

 

『――了解です。そちらも気を抜かぬように』

 

 首尾は上々、それだけ聞ければ十分だとスイッチを切ると再び前を向きバーサーカーと化しているナタリアの後を全力で追う。

 前に立ちはだかる敵を薙ぎ払いながら進む彼女と、その後ろをなんの障害もなく走る自分とでなぜスピードが変わらない、むしろ離されかかっているのかは切嗣にとって大きな疑問であったがそれは考えるだけ時間の無駄だろうと諦める。

 人間執着したモノに異様な力を発揮するのは理屈ではないのだ。

 

「ぼうや!」

 

 切嗣がそんな事を思っていると突如としてナタリアが顔だけ振り向き叫ぶ。

 その顔は返り血に染まり紅く染まる……だけならまだ人間味があったものを完全に瞳孔が開き切り凡そ人とは思えない形相を呈していた。

 

「なんだい? 君の気持ちは分かるが殺しはなしだ! 僕達は別に協会に喧嘩を売りに来た訳じゃないし、そんな事をしたら今後やりにくくなる!」

 

「それぐらいは分かってるから心配すんな! 公然と追われる身になっちゃあイリヤちゃんとまだ見ぬ妹ちゃんを愛でる機会までなくなる……そうじゃなくて本題のほうさ! あの爺はちゃんといるんだろうね!?」

 

「ああ、それは間違いない! ちゃんと確認済みだ!」

 

 ゼルレッチが協会を訪れるのは稀である、がそれ故に一度現れれば大きな騒ぎになる。

 神出鬼没の魔法使いを捕まえるのはほぼ不可能に等しい、それが出来るとしたらこの時計塔にいる所にこちらから乗り込むことだけだ。

 

 これが切嗣の出した結論だった。

 

 そんな時にタイミング良く訪れたゼルレッチ来訪の報せ。

 この機会を逃すまいとわざわざ大量の封印指定者の情報を調べ上げ、このタイミングに合わせリークすることで警備の要となる彼らを出払わせることに成功したのだ。

 

 これで空振りなどありえない。

 

「ん――」

 

 廊下を曲がると景色が変わる。

 どちらかと言うときらびやかだった装飾はどこか骨董じみたものへと変わり、ここだけまるで中世やそれ以前の空間のような錯覚すら切嗣は覚えた。

 それと同時に頭に叩き込んだ見取り図を喚び起こす。この装飾はゼルレッチの趣味であり、ここからは彼のテリトリーであることを示す。

 そして彼のいる部屋はいつも決まっていて――

 

 

 

 

 

「――随分と騒々しい来客だな。こんな来客の予定はあったかな? ロードよ」

 

「知りません。とりあえず今回出た被害分の金は発つ前にきっちり支払ってもらいますよ。元帥」

 

「手厳しいな……」

 

「――――」

 

 まるでここに切嗣たちが来ることを分かっていたかのように出迎えた2人の男には動揺の色など欠片もない。

 否、呆れたようなしかめっ面と共に不機嫌さを全面に押し出して立つ若い男はともかくとして、その隣で足を組んで椅子に腰掛けているお目当ての人物はむしろこの状況を楽しんでいるかのような笑みを浮かべていた。

 

「なるほど――」

 

 その表情を一目見て、切嗣はその翁の真意を何となくだが理解した。

 

 こちらはなんの手掛かりもない状態から手探りで糸を見つけ、明かりを照らしここまで辿り着いたつもりでいたが、どうやらその糸は探していたはずの相手から吊るされていたものであり、こうなることが彼の望みであったのだと。

 

「お前の時計塔来訪の情報がかなり早い段階で流れてきたのも、そうなるように綿密に練ったとはいえタイミングが良すぎる封印指定者の情報で名のある執行者が一人残らず出払っているのも、全て計算のうちというわけか――魔導元帥(ゼルレッチ)

 

「フフッ――」

 

 そんなものが牽制になるはずも無いとは分かっているが、何もしないよりはましだと切嗣はフル装填したキャリコM950Aの刀身をゼルレッチに向ける。

 

 するとその対象であるゼルレッチは一瞬だけ眉をひそめ、切嗣の目を見据えたかと思うと両手を挙げ、今まで以上に破顔した。

 

「さすがの度胸だな。衛宮切嗣よ――顔色ひとつ変えずこの私に殺意を向けてきた者など一体いつぶりだろうか――だがその銃を私に向けることに意味はないぞ? 少なくとも今回私はお前に仇なすものではない。

 ああ、出来れば隣で野生の獣と化している彼女もなんとかしてくれるとありがたい。なに、これだけ剥き出しの圧をかけられては"うっかり"手が出かねない」

 

「――ナタリア」

 

 余裕の態度を崩さずに両手をひらひらと振るゼルレッチの言葉に切嗣は軽く舌打ちすると銃を下げ、隣で今にも飛び掛からんとしているナタリアの肩に手をかける。

 

「ああっ? 誰がこんな狸の言うこと聞くかってんだ。私の可愛い可愛いイリヤちゃんの情報吐くまでは一歩足りとも退く気はないよ」

 

「……と、言う訳なんだが」

 

 切嗣としては予想出来ていた反応なのだが、イリヤの失踪によっていつもに比べて悪い意味でハイになっているナタリアを諌めることは彼には出来そうにもなかった。

 

「ふむ――インキュバスとの混血が子に執着を持つとこうなるのか。なるほど、実に面白い」

 

 そんな切嗣の諦めにも似た焦燥が真実であるということを分かったのかゼルレッチもそれ以上の追及はなく矛を収める。

 その証としてなのかゼルレッチは両手を下げると真剣な表情に変わり切嗣に尋ねた。

 

「では本題に入ると――いや、1つだけ確認だが……どこで気づいた?」

 

「何処からがお前の手の上なのか知らないが……始まりはケイネスだ。まともな教会の人間ならばあんな狂人を表立った舞台に派遣したりはしないだろうからな。神秘の秘匿もあったもんじゃない。

 いや、そもそもなぜクラスカードの情報が外に漏れたのか? そこからになるな。僕はたまたま娘が関わっていたから知ることが出来たが、それを抜きにして1から調べて見ても全く情報が出てきやしない。完全なトップシークレットだ」

 

 試すようなゼルレッチの目線を真正面から受け止め切嗣は語る。

 

「それも考えて見れば当然だ。英霊を擬似的にとはいえ再現するなんて魔術の域は遥かに飛び越えている――半分以上魔法の代物だ。

 そんなものを手に入れれば最高機密になるのは当たり前……更に凛ちゃんとエーデルフェルトの娘を派遣したのはお前だ。

 ゼルレッチの目を掻い潜って情報を外に、それもよりによって教会に流せる人間などいるわけがない」

 

「――続けろ」

 

「なら誰ができるのか? 決まっている。ゼルレッチその人だけだ。

 そしてそうだとしたらその理由は? 彼女達の力量を疑ったというならば単純にバゼットブラガマクレミッツに戻して彼女らを撤退させればいい。事実彼女は再び冬木に舞い戻っているのだからな。

 だがそうじゃない。彼女達は何も知らないまま命の危機に晒されたんだからな。

 これだけ見ると遠坂とエーデルフェルトを消そうとしているように見えなくもない。だが――」

 

「メリットがないな。彼女達は今の所他の凡人に比べ少し見込みがある魔術師だ」

 

「そこに関しては主観になるから言及しないが――大まかに言うとそうだ。

 それは違うんだ。こうなると一旦今までの情報はなかったこととして考え直さなければいけないわけだが――正直な所これ以上は分かっていなかったんだ。

 その後僕がしたとはとにかくお前がこの一連の流れを裏で糸を引いているという確証を掴むことだけだった」

 

「分かって"いなかった"? そう言ったか?」

 

 ゼルレッチの顔が変わる。

 顎鬚を触る手は忙しなく動き何か面白いものを見ているかのように目が輝き始めた。

 

「ああ、ここに来てからの態度で分かった……お前が引きずり出したかったのは――僕だろう?

 だからカレイドステッキが一般人である僕の娘に渡っても見てみぬふりをした、僕の関心がそっちに行くように10年前の聖杯戦争のマスターとして選ばれていたケイネスを送り込み、間接的に言峰も。

 そう考えれば全ての辻褄が合う」

 

 随分と自意識過剰な考えだがな、と切嗣は付け足した。

 しかしそれしか思いつかなかったし、それ以外にここに来ることを歓迎するかのような態度を生み出す要因がなかったのも事実だった。

 

「どう思う? 時計塔の誇る最高講師ことロード・エルメロイ二世から見て今の解答は」

 

 楽しげな表情を崩さずにゼルレッチは脇に立つ男――ロードエルメロイ二世に問う。

 

「――知りませんよ。私はなにも。どちらかと言うとケイネスを送り込んだのが貴方だという事実について小一時間問い詰めたいところですが」

 

「……相変わらずつれないな」

 

「採点という意味ならあなたの顔を見れば分かる。彼の言っていることで大方正解なのでしょう」

 

 そう溜息をついたエルメロイの顔に薄く血管が浮かんでいたのは触れてはいけないところなのだろうか。

 

「我らが講師がそう言っている通りだ。

 その通り、パーフェクト。そう、私は何としてでも魔術師殺しを引っ張りたかった」

 

「――ならなぜこんな回りくどい真似をした」

 

「君とアインツベルンの"元"聖杯が聖杯戦争の根絶の為に動いているのは知っている。

 そんな状況下で依頼をしたところでどうせ無視するだろう?

 だからカレイドステッキの動向を見てチャンスと思い待ったのだ」

 

「――――」

 

 言われてみればその通りであると切嗣は納得した。

 彼は自らとアイリスフィールの仕事……聖杯戦争の根絶を何よりも重きを置いている。

 それ以外の事は二の次三の次だと言うのが実情であり、例え誰からであろうとも他からの依頼を受けるとは彼自身思わなかった。 

 

 しかし、何事もにも例外はある。

 切嗣にとってそれ以上に大事なもの――家族――がメイド兼ボディーガードであるセラやリーゼリットが対処できないレベルの魔術的脅威に晒される、という場合だ。

 大抵の問題ならばホムンクルスである彼女らからすれば造作もない。それであるがゆえに切嗣は安心して仕事に集中できる。

 逆に言えば2人ですら対応出来ない事態に直面するということは必然的に彼が出張らざるを得なくなるということだ。

 

 そしていまイリヤと士郎が失踪というその例外的事態が起きている――

 

「依頼はなんだ? もちろんイリヤと士郎を救い出せるものなんだろうな」

 

「物分りが良いと助かる。うむ、実はな、これは繊細な問題であるが故に私は介入できないのだ――平行世界、の原理は知っているな? そして互いに介入することがどれだけの問題を引き起こすか」

 

「一般的知識程度ならな」

 

「なら話は早い……そんな世界の大原則すら理解せぬ鼠が暴れているようでな、イリヤスフィール・フォン、そして衛宮士郎もそこに巻き込まれた。

 ナタリア・カミンスキー、衛宮切嗣、改めて両名に依頼したい。その内容は――エインズワースによる強引な世界介入の終結。そして彼らの抹殺だ。

 これ以上世界の秩序を壊す輩を傍観することはできぬ」

 

 

 

 

 

 

 




これも全部ゼルレッチってやつが悪いんだ。

どうもです! 

こんだけ時間かけてセイバーさん出てこないとは何事だゴラァ!という読者の皆さん。全くその通りでございます(土下座)

いやこんなに長くなるとは……予定外。次こそはちゃんとセイバーさんと凛ちゃんの出番を用意するのでなにとぞ。

それではまた! 評価、感想、お気に入り登録じゃんじゃんお待ちしています!
そろそろお気に入りが2000に迫ってきてドキドキしております(現金)
面白かったし投票もしてやろうという方がいましたら無言歓迎なのでぜひぜひ 

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